デノン プロダクトレビュー
UHC-MOSを採用 明晰にして滑らかなクオリティ
プリメインアンプ
PMA-SX
¥787,500(税込)
レポート/福田雅光
UHC-MOSを採用 明晰にして滑らかなクオリティ
PMA-S1をバージョンアップ、完成度をさらに徹底強化したデノンの最高級モデルである。基本的な回路は継承、出力に変化はないが音質に大きな違いがあり、その魅力を高めている。
デノンのアンプは大電流増幅素子、UHC-MOSをシングルプッシュプルで構成する電力増幅回路に特徴がある。最小の素子数で出力電流を制御することが理想にあり、この実現に120Aという巨大な電流特性を持つUHC-MOSが採用されている。これは一般のMOS-FETの35個分、バイポーラトランジスター3個分の電流リニアリティを1個の素子で可能にするものだ。入力電圧に比例して大電流域まで直線的に伸びる出力電流特性を持ち、デノンはこれを重視している。余談だがこのUHC-MOSは、オリンピックで優勝したソフトボールチームの有名選手が在籍するメーカーで生産されている。
ただ、UHF素子は耐電圧が低いという特徴から、大出力を得るため採用している回路がBTL方式である。チャンネルあたり2系統のパワーアンプを使う方法で、セパレートアンプにはこの機能を装備していることが多い。理論的にはひとつのアンプの4倍の出力が得られるため電圧の低い条件では有利な方式だ。
本機はバランス回路となるBTL構成を生かす全段バランス増幅回路を構成し、スピーカーのマイナス経路がアンプのアース回路に接続されないため、シャーシ電位に影響しないスピーカーの駆動力を引き出せることもメリットになる。また、電圧が低いことは、音質に優れた低電圧用コンデンサーが使えることも設計には有利な条件となるだろう。
レベルコントローラーはアンプのキーパーツとして重要だ。各メーカー独自の方式を開発しているが、デノンは純アナログ式回転メカの大型高精度ボリュームをPMA-S1から採用している。抵抗体に低歪みカーボンインクを使う鏡面仕上げ、金メッキブラシ、真鍮削り出しケースを特徴にする4連型である。
さて、PMA-SXで改良されたポイントは、電源トランスの組み付け構造を強化、電源周波数による振動からの影響を低減。電源トランスのシールドを改善、漏れ磁束を3分の1に減らしノイズを少なくすることでSN比が改善された。なお、PMA-SXの終段電力増幅部は無帰還方式である。
また、電源コンデンサーの固定部に砂型鋳物構造のスタビライザーを加えるなど、ダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクション思想を徹底したことが主体である。内部構造を見ると電源回路部の固定構造は徹底した強化がみられる。アンプを設置する鋳鉄脚(インシュレーター)にできるだけダイレクトに振動を伝達させ、影響を抑えるのが「メカニカルグランド」思想である。
音は高S/N、明快で力のある高速レスポンス、高域の純度が高く繊細に伸びきる解像度。明晰にして滑らかなクオリティを備えている。低域は強力なダンピング、分解力の高い締まりの効いた明確な表現である。コントラストの高い陰影は音楽の立体感を引き出し、透明に音像感のしっかりした構成で筋が通った音が得られる。
PMA-S1に比べれば、より透明で瞬発力に優れ、明快かつストレートに立ち上がるインパクトに魅力を増している。エネルギーが豊かになったような力も感じる。UHC-MOSの真価は一層はっきり現れた印象だ。現代的なサウンドで洗練された真空管アンプに近似した傾向も感じた。
本機の背面端子部。大型金メッキスピーカーターミナルも搭載する
【SPEC】
<パワーアンプ部>●定格出力:両チャンネル駆動(CD→SP OUT)50W+50W(負荷8Ω、20Hz〜20kHz、T.H.D. 0.07%) ●実用最大出力:100W+100W(負荷4Ω、1kHz、T.H.D. 0.7%) ●全高調波歪率:0.007%(定格出力-3dB時、負荷8Ω、1kHz) ●出力端子:負荷4〜16Ω <プリアンプ部>●イコライザーアンプ出力:150mV ●入力感度/インピーダンス:PHONO MM 2.5mV/47kΩ、BALANCE 105mV/100kΩ、LINE 105mV/47kΩ ●RIAA偏差:PHONO MM 20Hz〜20kHz±0.3dB <総合特性部>●SN比:(Aネットワーク)PHONO MM/89dB(入力端子短絡時、入力信号5mV時)、BALANCED/105dB、LINE/105dB <全体>●消費電力:230W ●外形寸法:457W×181H×509Dmm ●質量:30.2kg ●問い合わせ先:デノン コンシューマー マーケティング TEL/044-670-6612