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VICTOR
HA-MX10
¥OPEN(予想実売価格20,000円前後)
スタジオエンジニアと共同開発したモニターヘッドホン
【SPEC】●型式:ダイナミック型 ●出力音圧レベル:108dB/1mW ●再生周波数帯域:10Hz〜28,000Hz ●インピーダンス:56Ω ●最大許容入力:1,500mW(IEC) ●コード:約2.5mOFC、φ3.5mm ステレオミニプラグ付 ●質量(コード含まず):約260g ●付属品:変換プラグアダプター
※原則として製品発表時のデータを掲載していますので、内容・価格は変更されている場合があります。また、この製品データベースには生産・販売を休止したモデルの情報も含まれています。
ミュージシャンが狙った音楽をリスナーへダイレクトに届けるヘッドホン
本機は、国内屈指の設備と人材を誇るビクタースタジオとの共同開発による、第一義的にはスタジオモニターヘッドホンである。しかし実際にこのモデルは一般のオーディオファンにも、最上級の意味合いで「普通におすすめ」できるヘッドホンになっている。どのような背景と技術によって本機が完成されたのか、まずは説明していこう。
ビクター、およびビクタースタジオが本機を共同で開発する際に、そのコンセプトに2つの太い軸を設けた。それは抽象的には「スタジオ内でのモニタリング環境の統一感」をつくり出すことであり、具体的には「スタジオ備え付けのラージモニタースピーカーからの音と、モニターヘッドホンの間での音の違和感を解消する」ことであった。
ビクタースタジオの音質基準は、スタジオのリファレンスになっているラージモニタースピーカーだ。本機発表の際に開催された記者説明会の会場となったレコーディング・マスタリングスタジオには15インチ(38cm)ウーファーを2発搭載したGENELEC「1035B」が設置されていた。
一方ミュージシャンの録音時のモニター環境は、一般的にヘッドホンを使うという。ふたつの機器間で生じる違和感は、引いてはエンジニアとミュージシャンの間での違和感に直結してしまう。ラージモニターとヘッドホン。完全に同じ感覚を得ることは無論不可能だ。しかし音色の感触など要素を突き詰めれば、全体としての音質にも統一感を出すことはできるはず。それに挑戦し、実現したのが本機である。
つづいて本機を構成する技術的なポイントを見ていこう。
ドライバーユニットは、振動板のドームの高さやエッジの幅などを徹底的にシミュレーションし、試作とビクタースタジオエンジニアの実聴評価の繰り返しを経て完成されたものだ。振動板の素材は一般的なPET。しかし徹底的なチューニングによって、凡庸な素材から凡庸ならざる音を引き出している。
振動板前面には音波を拡散させるサウンドディフューザーを搭載。ここでもシミュレーションと試聴を繰り返し、その形状や孔の位置、大きさを追い込んでつくり上げている。これによって高域側可聴帯域の限界近く、10kHzから14kHzあたりの特性が向上し、高域の解像感や抜け、音圧の獲得につながっている。
低域側にもクリアバスポートという新しい構造を導入した。密閉型としての基本構造は維持しながら、空気を適切に抜くポートを設置したことで、低域の量感を維持しながら、“こもり”の排除を両立している。こちらも具体的なデータが示されており、100kHzから200kHzあたりの帯域が不用意に太らなくなることから、こもりの軽減を確認できる。
では実際の試聴感を述べていく。ヘルゲ・リエン・トリオ「Spiral Circle」はダイレクト感の強い音像が特徴。本機はその感触を存分に引き出してくれる。ドラムスの低音は確かに素直な抜けっぷり。密度感や重量感は、無理には押し出さないが、十分以上。ウッドベースもゴリッとしたアタックから、深い響きまでバランスが良い。右手によるダイナミクスやニュアンスの表現、音量と音色の変化にも気持ちよく追従して、フレーズの表情が豊かだ。シンバルのカツンという音色は金属質の粘りと抜けの両方を併せ持ち、高域の自然な特性を感じさせる。ピアノも角を適当に落とし、硬質ながらも滑らかな音色だ。
荒井由美「ひこうき雲」の冒頭は、低音の制御が甘い機材ではベースが膨らみすぎてボーカルをマスキングしてしまうのだが、本機はその点も問題ない。ベースはきっちりシェイプされた音楽的な太さで描写され、音場中央でボーカルと共存する。ボーカルの手触りの生成りさも好感触。クライマックスでの高音、その耳に痛くない突き抜けっぷりは爽快だ。
ヒラリー・ハーンの「バッハ:ヴァイオリン協奏曲」では、本機が音場再現性も十分に確保していることを特に確認できる。音像が耳にべたっと張り付くような感触にはならず、密閉型なりに、ふわっという広がりを生かしている。音域のバランスの整い方、音場全体の見通しの良さ、解像感も実感できる。低音側のキレの良さもまた印象的だ。チェロやコントラバスなどのスタッカートが決まっており、曲の推進力を強めている。
最後に実は、本機の開発においてはもうひとつ大きなポイントがあったと聞いた。それは「ミュージシャンがモニターしながら演奏しやすい音楽的表現力」である。
つまり本機は、ミュージシャンが心地よく演奏できるようにチューニングされているのだ。さて、ミュージシャンが心地よく感じる音と、僕たちリスナーが心地よく感じる音とは、別のものだろうか?実際に試聴を終えたいま筆者は、それはひとつのものであり得るということを、改めて確認できた。本機の音にはそれだけの説得力がある。
(text:高橋 敦)
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