4月28日に全国の書店にて発売されたNet Audio vol.06。
今回も付録にはジャズ・ピアニストの山下洋輔さんによるPIT INN LIVEや、比石妃佐子さんのWAV&DSD音源など、ネットオーディオ誌でしか手に入らない音源をご用意しております。
これまでもネットオーディオ誌の付録音源は、本誌ならではの高品質音源をお届けして参りましたが、vol.05までに収録いたしました下記音源について、FETアナライザーで周波数スペクトラムを確認した際、192kHz/24bitのフォーマットであっても96kHz相当の地点で波形が切れているという現象が確認されております。
今回はこの経緯についてご解説いたします。
【周波数スペクトラムについて報告があった音源】
1・Net Audio vol.1 01kankawa_dear_my_self_24192.wav
2・Net Audio vol.1 04grand_trio_schubert1_allegro 192kHz/24bit.wav
3・Net Audio vol.2 But_not_for_me_192kHz/24bit.wav
4・Net Audio vol.2 The portion of Oct.28th_192kHz/24bit.wav
5・Net Audio vol.4 Harmonic Carrera 192kHz24bit.wav
6・Net Audio vol.4 White Intencion 192kHz24bit.wav
本来、音源の周波数スペクトラムは仕様上、音源フォーマットの1/2まで確保された波形が延びる必要があります。
例えば、192kHzフォーマットであれば96kHzまで、96kHzフォーマットでは48kHzまで伸びているというのが通常の仕様です。
上記音源は、全てスペック上192kHz/24bitとなっておりますが、周波数スペクトラムが48kHzまでしか伸びておらず、48kHz地点で特性が落ちているというものです。
なぜこのようなことが起こるのか、その理由は実はレコーディング環境で仕様されるエフェクト・プラグインや、エンジニア諸氏の音に対する主張が関係しております。
原則、ネットオーディオ誌の付録音源をレコーディングする際は192kHz/24bitで進めております(vol.04のみ、96kHz/24bitでのレコーディングとなりました。詳細は後述をご参照ください)。
●vol.01の音源について
vol.01で音源をご提供いただいたT-TOC RECORDS様の音源では、一部の曲にのみ周波数スペクトラムの欠落が見られておりますが、これは最終的に音源を処理した際に用いたエフェクト・プラグインが96kHz/24bit対応のものを使用したためです。
プラグインに96kHz/24bit対応のものを使用すると、録音そのものは192kHz/24bitで行っていても、ここで一度ダウンサンプリングされることになるため、周波数スペクトラムについても96kHzの上限である48kHzまでとなります。
ではなぜ、192kHz/24bitでレコーディングした音源をわざわざ96kHz対応のプラグインを使用して処理しているのか。その理由は”音”にあります。
T-TOC RECORDSのポリシーは、「音はスペックという器で決まるものではなく、レコーディング時にどれほど最新の注意を払って、また同時にこだわりを持って制作しているかが最も大事」というものです。
現状、192kHz/24bit対応のプラグインはまだ少ないこともあり、この最終的な”音”にこだわると96kHz/24bit対応のプラグインを使用せざるを得ないということが多くあるとのことです。
T-TOC RECORDSでは試聴に試聴を重ねた結果、192kHz対応のプラグインを使用するよりも96kHz対応のプラグインを使用した方が、聴感上最も良い結果がでることを優先して作業を行っております。
最終的にはネットオーディオ誌の企画として、192kHz/24bit、96kHz/24bit、44.1kHz/16bitの3つのバージョンをご用意しております。
また、今回3バージョンをご用意したことについてはもう一つ理由があります。
192kHzから一度96kHzにダウンコンバートした音源を再度192kHz/24bitにアップサンプリングした際は、仕様上の上限である48kHz以上の周波数スペクトラムは一度切り捨てられることになりますが、アップサンプリングしたことにより高域側で周波数成分が検出されております。この追加された高域側の成分の追加により、聴感上の音に効果を及ぼしているという結論にいたり、192kHz/24bitフォーマットの音源も収録しております。
いずれの楽曲にも共通しているのは、最終的には”音”という部分にこだわった上で、ネットオーディオの醍醐味であるハイスペック音源の魅力を堪能できる作品として、これらの音源をご用意させていただいております。
●vol.02の音源について
vol.02の付録音源は、ピアニストの秋田慎治氏の自宅スタジオにてレコーディングを行いました。
レコーディングの際はProToolsを使用して192kHz/24bitの音源をレコーディングいたしましたが、こちらも最終的なエフェクト・プラグインに96kHz対応のものを使用した後、192kHz/24bitにアップサンプリングいたしました。
秋田慎治氏も前述の T-TOC RECORDS同様、最終的には聴感上の音を重視されております。
vol.02の付録でも、「最も作品にマッチするプラグイン」ということで96kHz対応のものを採用し、アップサンプリングした際の聴感上の効果を加味した上で192kHz/24bitフォーマットの音源を収録いたしました。
その結果、周波数スペクトラムを計測した際、一度48kHz周辺で0に近い値となり、その後最高域付近で高い値が検出されるという結果となっております。
●vol.04の音源について
vol.04でご用意した音源は、96kHz/24bitにてレコーディング作業を行いました。
192kHz/24bitというサンプリングレートでの録音/ミックス作業が行われることは現在でもまだ特殊なケースであり、あくまでも”音”にこだわった結果、vol.04の付録音源収録でエンジニアを務めていただいた行方洋一氏が採用したのも96kHz/24bitでのレコーディング方式でした。
Net Audio誌では、実験的に192kHz/24bit、96kHz/24bit、44.1kHz/16bitの3パターンを読者に聴き比べていただきたいという意図があったため、行方氏にその旨を伝え、3パターンのスペックでご用意をいただきました。つまり192kHz/24bitについてはアップサンプリングをしていただいたことになります。
なお、vol.04の音源については、再生ソフトウェアにいれた際に「”アーティスト欄”にZOOMのハンディレコーダーH2nの名前が表示される」という報告もございました。
ZOOM H2nはレコーディング当日、実験的に並行して動作させておりましたが、予想以上に良い結果が得られため、音源にもドラムのカウント部のみ採用するなどしております。
その結果、H2nも使用機材のひとつとなり、その際に何らかの要因で楽曲のメタデータのアーティスト欄にH2nの名前が入ったことが考えられます。
ネットオーディオ誌にてご用意させていただいている音源は、サンプリングレートなどのスペックだけでなく、エンジニア諸氏が長年蓄積してきたノウハウや経験を元として、最良の結果となるように作業を進めております。
これまで実験的にスペック違いの音の聴き比べをしていただくための音源をご用意して参りましたが、今後はそこから一歩踏み込み、スタジオマスターとして、どのスペックを最高スペックとすべきかを判断した上で、音源をご提供していきたいと考えております。