AV REVIEW

AV REVIEW特選 製品批評

 

PANASONIC
DVD-RP91
DVDオーディオ/ビデオプレーヤー \79,800
文:貝山知弘
TEXT BY Tomohiro Kaiyama

54メガ機は1年以上前からすでに姿を現していた

昨年2月のことである。私の家に1台のDVDプレーヤーが持ち込まれた。これからヨーロッパで発売するというモデルで、ごくローコストの価格帯に入る製品である。しかし、そのプレーヤーが再生する映像を見て私は驚いた。目の前にあるモニターテレビBVM−2012には、実に鮮明で緻密な映像が映し出されていたからである。
これは、ローコスト製品の画でないのみか、ある次元では、当時の高級モデルを凌駕する映像だと私は見た。いぶかる私に、その機器の設計者は、新しい映像54MHz(メガヘルツ) サンプリングのDACを搭載したのだと教えてくれた。私は、この素晴らしい映像を映し出すローコスト機が出れば、間違いなくベストセラーになるだろうと予言した。この時試聴した機器は、後に、ヨーロッパで発売されたパナソニックRV70であった。この時点では、こうしたハイサンプリング値で映像処理を行っているDVDプレーヤーは、まだ、影すら見せていなかった。

夏近く、アメリカ、エアー社の高級DVDプレーヤーの映像を見た時、私は、瞬間的に、これは54MHzDACを搭載した機器であると見抜いた。パナソニックのヨーロッパモデルで見た映像は、それほど強い印象として私の網膜に焼きついていたのだ。私は早速、本誌92号(2000年8月) の巻頭言、「DVDビデオプレーヤーの映像DACをめぐる新しい動き」でこのことを書き、秋には各社から、54MHz映像DACを積んだ新製品が出るだろうと予言した。

絶好のタイミングを待って眠れる獅子が咆哮した

予言は的中し、初秋から暮れにかけて、各社から、54MHzで映像処理を行ったDVDプレーヤーが発売された。しかし、1社、松下のみは、沈黙していた。2月には完成していた技術を、何故国内モデルに搭載しないのか? こういう時の松下は、必ずなにかやっている。しかし、それが何であるかはまだ、予想の範疇でしかなかった。
そして、最近、とうとうその謎が解けた。松下は凄いものを作っていた。ヴェールを脱いだその製品は、私の予想をはるかに上回る、出来映えのDVD/オーディオ、ビデオの他、CD、CD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RAMの再生までができる、ユニバーサル・プレーヤーであった。
眠れる獅子が開眼した。しかし、実際には獅子は眠ってはいなかった。うっすらと目を開き、巷の競争を冷静に眺めていた。実はその蔭で、素晴らしい技術の開発が終わろうとしていた。そこには、プログレッシブ映像の練り揚げや、プログレッシブのモードを自動選択するための綿密な研究があった。そして、発売のタイミングの問題もあった。DVDビデオだけでなく、DVDオーディオのスタンダードモデルとしても開発された本機は、本格的なDVDオーディオディスクが、実際に発売され始めた時点で世に出てきたのだ。それは、獅子がわが子を送り出すために咆哮するには、まさに絶好のタイミングだったのだ。

共同開発DACだからその能力をフル活用できる

本機の映像回路の基本は、DVD−H1000で開発したプログレッシブ技術と、新しい54MHz映像DACを合体させたことである。DVDデジタル出力を525p(プログレッシブ)に変換するための、専用チップは、H1000開発時に、アメリカ、ジェネシス社と共同開発したgmVIX1A−X。今では、ソニー、東芝の54MHzモデルでも使用されているが、プログレッシブ映像の素材判別で、これを100%フルに活かして使っているのは、本機だけだ。チップを共同開発した利は、こんなところに表れている(後述)。プログレッシブ信号用の54MHzサンプリング映像DACは、12ビット精度。国産モデルとしては、現在最高の仕様である。インターレース用の54MHzDACは10ビット精度。私がいち早くみたRV70に搭載していたのは、この仕様のDACだった。
54MHz12ビットDACの威力は、どこに表れるのか? まず、従来機と比較して、折り返しノイズが圧倒的に少なくなる。折り返しノイズとはデジタル信号処理につきもののノイズで、画面に表れると、映像の鮮度を低下させる。DVDビデオの信号は、13.5MHz/8ビットの信号だが、いままでのDACでは、これを2倍に引き上げ、27MHz で処理していた。しかし、2倍のサンプリングでは、まだ、折り返しノイズを取り切るまではいかない。54MHzは、4倍のサンプリングで、それだけ、折り返しノイズの除去能力が高いと言える。
もう一つの効用は、デジタルからアナログ信号に変換する時の分解能が、H1000の8倍(周波数2倍、階調分解能4倍)もあるということである。このため、アナログフィルターの負担が軽くなり、映像の高域でのエネルギーが今まで以上に確保できることになった。高域のエネルギーがあればそれだけ、緻密で、ノイズの少ない、自然な映像が再現可能になる。

より正確な素材判定ですべての映像をプログレ化

前記の「他社ではできぬ、プログレッシブの素材判定」とは何か? 現在、プログレッシブ機能を搭載しているDVDプレーヤーでは、再生している素材が、何か(フィルムかビデオか等)自動的に判定して、それぞれに適したプログレッシブ処理を行っている。最も、プログレッシブの効果が表れるのは、毎秒、24コマ/秒で撮影されたフィルム素材である (これは、24枚のスチル画の連続と考えていい) 。現在でも、ほとんどの劇場用映画は、この方法で撮影されている。一方、DVDは、映像を毎秒30コマのスチル画として記録している。ここに、映画の24コマの映像を規則的に割り振れば、最も理想的な形で、高画質の映像が再現できる。映画の24コマ/秒の映像と、ビデオ信号の毎秒60フィールドを整合するのが、〈2−3プルダウン〉というテレシネ時の変換方法だ。映画フィルム素材のプログレッシブ化は、24Pを60Pに変換する形で行われている(Pはプログレッシブの略)。

一方、ビデオ撮影された信号では、毎秒60フィールドの信号を、プログレッシブ化している。つまり、60i(インターレース)から、60Pの変換である。今後は、毎秒30フレーム、480本のプログレッシブ映像が、次世代のビデオ信号として採用されることになる。ここで行われるのは、2−2プルダウン。これは、30Pを60Pに変換する方法だ。

現在市販されているDVDプレーヤーの素材判定方法は、次のI、IIのいずれかである。
I〈フラグ〉による判定。
 DVDには、24コマのフィルム素材か、ビデオ素材か否かを判定するフラグ(印)が立てられ (記録され) ている。この方式は、フラグが正しければ、正確な判定が行えるが、インターレースで記録された映画素材には適合しない。この方法で検出を行っているのは、ビクターとパイオニアだ。
II 2−3プルダウンを行ったパターンを検出して判定。
 これは、ソニー、東芝が行っている方法だ。この方式はインターレース処理された映画素材も検出できるが、本当に24コマで記録されたものかどうかの判定が正確に行えないこともある。

DVD−RP91が採用しているのは、IとIIの併用である。そしてさらに、毎秒30コマ480本で記録された、次世代ビデオ映像に対応したモード(3P−60P)までも加え、完璧を期している。本機では、すべての信号をプログレッシブ化できることになる。
プログレッシブ再生に関連する新機能は、他にも、アスペクト変換がある。《4:3シュリンク》(4対3の時、水平方向に縮小、アニメに有効なことが多い)、《4:3LB》(ズームレターボックスの時垂直方向に拡大『タイタニック』『アルマゲドン』など)、《ズーム&シフト》ズームで字幕切れが起きないよう画面をシフトアップする)などがそれにあたる。

大画面で見るDVD映像はまさに「垂涎の的」

DVD−RP91の視聴は、3管式プロジェクター(バルコ、Cine7)で行った。この組み合わせで見た、DVDの映像はまさに「垂涎の的」という言葉がぴったりだ。一目でよいと感じ、所有欲をかき立てられる。そんな映像だ。
映画『グラディエーター』の冒頭、故郷に思いを馳せるローマ軍の将軍、マキシマスと、闘いに疲れた皇帝、アウレリュウスの肌の質感が、実に緻密に表現されている。それは、物理的に鮮明な映像であるばかりでなく、ドラマの核心となる情念を感じさせる見事な映像である。戦いの前、整然と流れるように武器の準備がすすむローマ軍の陣地の奥行きの深さが、見事に表出されている。手前から遠景までの距離が凄く長いことを、映像は端的に描いている。解像度が高く、細部の質感が緻密に描写されているから、ブルーを基調とした、冬の早朝の寒気が、画面から伝わってくるようだ。
 
階調表現も非常に自然である。『ヒマラヤ杉に降る雪』の冒頭、濃霧の中に人影が見えてくる長い描写は、映像機器にとって最も難しい類の映像だが、その微妙な明暗差を、本機は楽にクリアした。翌朝、湖から死体が上がる映像では、逆光となるロープのエッジ部分に、シュート(輪郭強調によって生じる二重ライン)が生じるが、そのシュートが、いままでよりずっと目立たなくなっている。本機が搭載した、新しい機能《アダプティブ・エッジ・コントロール》が上手く働いている証左である。この機能は、特に輝度差の激しい輪郭に出やすいシュートを抑制するのが目的だが、『ヒマラヤ杉…』でのシュート抑制効果は、まさにその好例であった。この機能の有効性は『サイコ』のモノクロ映像でも、十分に確認できた。

好ましい映像のたたずまいを感じさせる

本機は、MPEG信号によって発生するノイズを除去、抑制するための3種類の映像ノイズリダクションを搭載している。まず、《プロック・ノイズ・リダクション》は、滝や噴水、激流など、動きの早いシーンで出やすい、格子状のノイズを除去するためのものである。《モスキートノイズ・リダクション》は、輝度差の大きいエッジ部分に表れる点々としたノイズを除去するものである。《3次元ノイズリダクション》は、1フレーム前の映像と比較して、ソースに含まれたデジタル・ノイズを除去しようというものだ。

同じ試聴環境で、他機とのA:B比較をした訳ではないので、断定は避けるが、それでも、本機の映像が、高級機を含めた国産のDVDプレーヤーの中で、トップランクを争うものであることは間違いないだろう。感心したのは、本機の映像が単に物理的に優れているだけでなく、好ましい映像の佇まいを感じさせることである。表現に誇張がなく、ごく自然なニュアンスの中で、これだけの奥行き、これだけのディティールの描写を見せられるプレーヤーは、ざらにはない。
 
サウンドについては、比較的小音量で、しかも2チャンネルで再生していたので、その評価は後日に回したい。しかし、オーディオ回路においても、松下が考えている高音質へのアプローチが徹底しているから、期待はいやが上にも高まってくる。
 
最後になってしまったが、本機は世界初のDVD−RAM再生互換も持つ。ビデオレコーディング規格で録ったテレビ映画も最適なプログレシッブで視聴することができるユニバーサルプレーヤーとしても注目に値する。
 

DTS・ドルビーデジタルデコーダー内蔵なので、5.1ch音声出力端子を装備する。デジタル出力は96kHz/24ビットデジタル出力に対応。コンポーネント映像出力端子1系統のほか、D1/D2出力端子も装備する
DVD-RP91 SPEC
●再生可能メディア:DVD-RAM(DVD-VR規格対応のディスク)、DVD(SL/DL・8/12cm)、DVD-Audio、VCD(8/12cm)、CD-DA(8/12cm)、CD-R/RW(CD-DA、ビデオCDフォーマットのディスク) ●映像出力:コンポジット2系統、S端子2系統、コンポーネント(525p/525i)1系統、D1/D2端子1系統 ●映像出力特性:水平解像度500本以上、映像S/N比:65dB以上 ●音声出力:2系統 ●周波数特性DVD(リニア音声):4Hz〜22kHz(48kHzサンプリング)、4Hz〜44kHz(96kHzサンプリング)、4Hz〜88kHz(192kHzサンプリング)、CD 4Hz4〜20kHz(EIAJ) ●音声S/N比:CD115dB ●音声ダイナミックレンジ:DVD(リニア音声)103dB、CD99dB ●全高調波歪率:CD 0.002% ●デジタル音声出力:光デジタルTOS出力、同軸デジタル出力 ●消費電力:12W(スタンバイ時 約1.5W) ●外形寸法:430W×99H×265Dmm ●質量:約3.5kg