トップインタビュー 潟Pーズデンキ 加藤修一 氏
お客様が 必死になって新製品を メーカーと流通の関係は 大欲は無欲に通じるのと同じで ケーズデンキの基本は ―― ケーズデンキはユニークな経営哲学を持っていると言われています。最初にその経営哲学から伺わせてください。 加藤 ケーズデンキの基本は、お客様の側から見て物事を考えようということです。私も若い頃に販売のテクニックを一生懸命勉強しましたが、ずいぶん以前に忘れることにしました。時代に合わなくなってきたからです。ところが、その頃勉強したようなことをいまだに一生懸命やっている人が沢山います。 ―― お客様の利益を高めることが、販売店の利益を高めるということですね。 加藤 われわれが過去習ってきたことでは、荒利が取れる商品を売ることは正しいことでした。でもお客様が欲しいものがあるのに、別の商品を売った方が儲かるからそちらを売るということは間違っています。過去勉強したことのほとんどは客騙しのテクニックでしたが、そういう時代は終わったと思います。 大切なことは経営哲学に ―― 流通業に求められていることに、素直に応えていこうということですね。 加藤 流通業としてその役割は何かを考えて、それを極めようとしています。メーカーさんはいいものを作る。お客様は欲しい商品を買います。それをなるべくずれないようにしていくのが流通業です。こう考えると、仕事の仕方が非常に素直になっていきます。 ―― そのためには販売員の質の高さが大切になってきますね。 加藤 社員の質はいいに越したことはありませんが、一番大切なことは管理方法です。徹底的な業績主義にすると、社員は無理をしてでも業績を上げようとします。 ―― 目先の業績にこだわると、お客様の利益とは違う動きが出てくるということですね。 加藤 ケーズデンキでも成果主義を採り入れていますが、数字が悪いからといって叱られたり給料が下がるようなことはありません。ノルマや業績に対する様々な圧力が本部からあれば、お客様に対してそれが態度に出てしまいます。荒利を取れと言われれば、良くないと思っても荒利のとれる商品を薦めます。 ―― 加藤さんの話を聞くとほっとしますね。 加藤 私はこれが当たり前だと思っていますが、ほとんどの会社は違うやり方をされています。業績が悪くなると荒利を取らなければいけないということで、メーカーさんに対してさらに安くして欲しいという話を持ちかけます。ところがメーカーさんが安くする商品は余っている商品です。足りなくてあちらこちらの店から何とか回して欲しいと言われている商品を安くして持ってくるわけがありません。そうすると売り場は売れ残りの商品ばかりになってしまって、ますますその店は売れなくなってしまいます。 売り場を新鮮に保つために ―― お客様から支持していただくためには、魅力ある商品構成も重要です。ケーズデンキでは「新製品が安い」というキャッチフレーズでそこをアピールされていますね。 加藤 このキャッチフレーズは私が考えました。新製品が安いという意味は、いいものを安く売っていますという意味です。ただ単に安いというだけでは、安物を売っているというふうにもとられてしまいます。ただ、いいものをと言うとあまりにもつまらないので、新製品が安いという表現にしました。 ―― 新製品を表に出すことによって、商品に対する考え方がまるで変わってきますからね。 加藤 ほとんどの会社では商品部ができるだけ安く仕入れようとしていますが、これでは値段が決まるまではせっかくの新製品が入りません。 ―― 新製品の売れ筋をいかにして掴まえるかが重要ですね。 加藤 それは商品部がやっている仕事ですから私は良く分かりませんが、ケーズデンキでは常にメーカーさんとの約束を守ってきました。それがうまく回ってきているように思います。メーカーさんとしては安心して商品を作ることができますので、値段も決まっていないような早い段階でケーズデンキの商品部に情報が入ってきていると思います。 ―― 契約で納品したはずの商品が売れ残ったということで返品されることは、メーカーさんにとって頭の痛い問題ですからね。 加藤 これについてはメーカーさんはもっと毅然とした態度で商売すべきだと思います。次の商品を入れたいばかりに、契約で買い取ってもらっている商品を残ったから持って帰れといわれて言いなりになっています。こんなことを繰り返していてはいけません。 メーカーさんと流通の関係は ―― 私は販売店があまり横暴なことをすると、メーカーが売ってくれないということも起こってくるということを本誌に書いたことがあります。最近はメーカーが流通を選ぶという動きが出てきていますね。 加藤 メーカーさんと流通との関係は、戦いではなく役割分担です。お互いに協力して意味のない無駄を省くことが大切です。ところが、お前のところは損しろ、その分自分のところが儲けるということをやっているようではいけません。 ―― 協賛金などを計算するとメーカーが赤字になっているというケースもあるようですからね。 加藤 私はそれはメーカーさんの上層部の人が悪いと言っています。上が目先の数字に目くじらを立てるから、現場では良くないことはわかっていても買ってもらわなければいけないのでそういうことが起こるわけです。もう少しおおらかに一年とか二年のスパンでの数字を考えてやっていけば、もっと違ったことになっていると思います。上層部の人はもっと戦略的な仕事をしなければいけないのに、戦闘レベルの仕事をしてしまっているためにメーカーさんは苦しくなるわけです。 ―― ただ、圧倒的に強いところに対しては、メーカーは商品を出さざるを得ないという面もありますね。 加藤 だからそこに対する対抗馬として名乗りを挙げないと、メーカーさんも困ると思います。その時に対抗馬が同じ体質の会社ではどっちみち同じだということになってしまいます。メーカーさんから見て、こういう会社があって欲しいということをやっているのがケーズデンキかもしれません。 ―― メーカーでは流通と安心できるお付き合いしていきたいという願望があります。 加藤 メーカーさんは流通に強く言われて安く商品を卸してしまうケースが見受けられるようですが、それは不公平です。仕入れた商品が売れ残った場合でも、ケーズデンキは自己責任で処理しています。メーカーさんが将来ケーズデンキに育って欲しいと思っていただけるのであれば、もう少し鮮明に応援していただければと思います。 ―― 長い目で見ると、メーカーさんや消費者に喜ばれるところがうまくいくということですね。 加藤 お客様に喜ばれるようになると商売は簡単です。お客様がたくさん集まってきますので、自然に生産性が上がります。そうすると荒利が低くても儲かります。サービスもそうです。今はサービスが良くて価格は安くなければいけない時代です。その時にサービスを良くするためには荒利が必要だという発想は間違っています。 戦略的な経営センスが ―― ケーズデンキでは、フランチャイズ(FC)の成長性が非常に高いですね。 加藤 以前はメーカーさんが地域別に販売会社を持ってきめ細かく商売していました。ところが今は全国の販売会社を統一して、全国一販社の時代になってきました。そうなると仕入窓口も全国に対して一箇所でいいということになります。 ―― FCの方には販売をきちんとやっていただこうということですね。 加藤 駄目になっている中堅の会社はみんな仕入を一生懸命やるからです。これはメーカーさんは商品を仕入れさせるために商品部の人間をおだてて駄目にしているからです。商品部の人が偉そうになってしまったという話はいっぱい聞きます。でも商品部がそんなふうになった途端に会社はおかしくなってしまいます。私は、ケーズの商品部にはそうなって欲しくないので、いつも「威張るな、奢るな、怒るな」と言っています。 ―― FCになりたいという申し入れが多いと思いますが。 加藤 FCになりたい人はたくさんいますが、それを実行できる人でないといけません。家電販売業界はスクラップ&ビルドの時代です。FCになりたいといってくる人たちを見ると、ほとんどの店をスクラップしなければいけないところばかりです。それを良しとできるかどうか、また、それをできるだけの体力があるかどうかという問題もあります。ですからケーズでは簡単にFCにしません。 買い手の立場で考えると ―― 本店のある水戸でも全店スクラップ&ビルドを実施されましたね。 加藤 以前は水戸に7店舗ありました。今の本店を作った時に4店舗残しましたが、それらの店の売上げが毎年七掛けに落ちて、三年で三分の一の売上になってしまいました。そこで4店とも閉めました。表現の仕方にはいろいろありますが、家電量販店ではびっくりするほど違う値段で実際に売れることはほとんどありません。そうなると品揃えが多い大型店に集約した方が有利です。 ―― 大型店という意味では千葉県の浦安に巨大な店を作られました。その背景はどういうことでしたか。 加藤 千葉県の浦安にものすごく大きな土地が手に入りました。ただ、周辺の人口はそれほど多くありません。通常だとそれに合わせたローコストの店を作ってしまいますが、それではせっかくの大きな土地が活きてきません。 ―― 浦安店では製造中止になってずいぶん時間がたった商品の消耗品まで、幅広い品揃えで展開されていますね。 加藤 水戸本店を作った時に起こった現象は、変わった商品が売れるようになったことです。 ―― 加藤さんの店名の付け方やキャッチフレーズを見ると、お客様の心理を非常に大切にされていますね。 加藤 お客様がどう考えるかいうことが、常に私の発想の原点です。売り手の立場ではなく、買い手の立場で考えると物事は単純です。 欲張らないことが ―― 先日ギガスとの事業統合を発表されました。家電量販業界は今後どういう展開になっていくと見ていますか。 加藤 ギガスの社長もシビアに仕事をする人ですから、スクラップ&ビルドを進めて、不良店舗のない会社になっていると思います。そういう会社であるから、将来のことを考えると、組んでいくのがいいだろうということで事業統合することにしました。 ―― いずれは全国展開を目指していくことになると思いますが、どのような計画を持たれていますか。 加藤 10年後には全国展開を進めていると思いますが、今はどこを狙いたいということはありません。全国の三分の一近い人口を占める関東にきちんと店を埋めていくだけでも相当大変です。今は遠いところにまで出て行く気はありません。ただケーズデンキと組んでいきたいという人がいて、可能な人であればその人と組んでいきます。 ―― 家電流通でカメラ系の販売店のシェアが高まってきましたが、加藤さんはカメラ系は競争相手ではないという見方をされていますね。 加藤 ヨドバシさんやビックカメラさんはデパート型の立地戦略をとっています。ターミナルに大型店舗を作って、遠くからお客様を集めるという考え方です。これに対して人が住んでいる場所のそばに駐車場付きの大きな店で営業しているわれわれのような家電量販店は、スーパー型の立地です。 ―― 家電流通業界にはいわゆる家電系列店や大手スーパーもあります。この点についてはいかがでしょうか。 加藤 いろいろなお客様がいらっしゃいますので、系列店的な人も残っていないと困ります。大病院があっても町医者が必要なことと同じです。 ―― 世の中が厳しくなると、業態間や企業間の差が顕著に出てきますね。 加藤 私は世の中は景気が悪い方がいいという主義です。ケーズデンキの基本は、能率で儲けようという意識です。能率は回転率です。お客様に気に入られることで儲けるのであって、利幅をとって儲けるということではありません。
◆PROFILE◆ Shuuichi katou 1946年4月7日生まれ。 69年3月東京電機大学工学部卒業。69年4月(有)加藤電機商会(ケーズデンキ前身)入社。73年9月(株)カトーデンキ(ケーズデンキ前身)代表取締役専務、82年3月同社代表取締役社長。91年7月(株)よつば電機(現(株)東北ケーズデンキ)代表取締役社長。01年4月日本電気大型店協会(NEBA)副会長。03年6月(株)デジックスケーズ代表取締役社長。 |