トップインタビュー 松下電器産業竃員 牛丸俊三 氏
逆算のマーケティングで インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 プラズマの綺麗な画面を 逆算のマーケティングで ―― 先日発表したビエラの立ち上がりはいかがでしょうか。 牛丸 今回の薄型テレビ13機種は、松下電器の歴史になかったような立ち上がりを見せています。 ――マーケティング力の重要さがますます高まってきているということですね。 牛丸 かつて松下電器が非常に強かった時にも強い商品がありましたが、必ずしもきちんとした立ち上げや回転をさせられなかったこともあったように思います。売れるからということで物凄い量を事業部が生産してしまい、それを捌くためにせっかく強くて魅力的な商品を叩き売る羽目になったり、短命に終ったということがあったのではないでしょうか。そういう営業の人為的なミステイクをミニマムにしたいということが、逆算のマーケティングを唱えている理由です。 ――逆算のマーケティングのポイントは何でしょうか。 牛丸 まずはじめに出荷時期ありきで、マーケティング活動をプランニングするということです。販売店の皆様にお客様に対して付加価値の高い商品をきちんと説明していただくためには、流通の皆様に前もって情報をお渡しして勉強をしていただくことが必要です。また商品の良さをお客様に理解していただくための宣伝活動や広報活動の準備も必要です。 夢の壁掛けテレビの時代が ――薄型テレビやDVDレコーダーといった技術的に発展途上の商品で商品化のスケジュールを守るのは大変だったと思いますが。 牛丸 今回われわれは薄型テレビを13機種出しました。これは少し傲慢になるかもしれませんが、13機種を同時に立ち上げるということは、メーカーにとっては大変なことなのです。今回、それを事業部の開発や製造部門が真剣に受け取ってくれて、水も漏らさぬ体制でやってくれました。 ――その結果が店頭での非常に好調な出足につながっているということですね。 牛丸 今回のビエラは6月1日に全国の主要店すべての店頭に並び、大型のビエラを最初の3日間で2万台以上を出荷しました。これによって、流通の皆さんにも儲けていただけますし、消費者の方にも一番旬のもので見ていただくことができます。メーカーのエゴイズムではなくて、消費者、販売店さんと三位一体となったWIN・WIN・WINの関係を作ることが大切です。アテネオリンピックはハイビジョンで放送されます。消費者には美しい映像をハイビジョンの大画面で見ていただき、流通の皆様にはデフレ経済の中で大型の薄型テレビを売っていただくことで儲けていただきたいと思います。松下電器にとっても利益率の向上につなげたいということです。 業務用機器での最高水準の ――アテネオリンピックではパナソニックのAV機器が番組制作や配信用に使われるそうですね。 牛丸 今回のオリンピックはデジタルテクノロジーの祭典です。バルセロナ以降、オリンピックの番組を制作し全世界に流しているIBC(インターナショナルブロードキャスティングセンター)では、すべて最高の技術水準のパナソニックのAV機器が使われています。 ――アテネオリンピックではハイビジョン放送が数多く予定されています。これは一般の消費者に大変大きなインパクトを与えることになると思いますがいかがでしょうか。 牛丸 私は自宅で42V型のPX20を使っていますが。一度プラズマの画面の綺麗さを見てしまうと元に戻れません。世界中で、NHKほど綺麗な番組を作ろうというところはありません。DVDソフトが充実してきたことも追い風です。地上デジタル放送のサービスエリアも広がってきています。大画面で高精細なテレビやホームシアターを取り巻く環境は整ってきています。 ――アテネでは日本人の活躍が期待されます。ただほとんどの注目競技は日本時間の深夜から早朝の時間帯に行われますので、レコーダーの需要が爆発することは間違いありませんね。 牛丸 松下電器は単にIBCに対して放送用の機材を独占的に提供しているだけではなく、日本企業では唯一のオリンピックのトップ(The
Olympic Partner)スポンサーでもあります。そういったことも店頭でもきちんと演出していきたいと思っています。 誰にでも簡単に使える ――薄型大画面テレビへのDVDレコーダーの添付率についてはいかがでしょうか。 牛丸 42V型や50V型のプラズマを買われるような方には、DVDレコーダーも一緒に買っていただける方が多くいらっしゃいます。DIGAではスペックや機能よりも、使い勝手の簡単さを訴求しています。家電製品の中でVHSの録画設定ほど面倒なものはありませんでした。何時から録画スタートさせ、何時に録画を終らせるとか、ありとあらゆる不安を抱えて、挙句の果ては録画されていなかったということもありました。 ――ホームシアター製品の添付率も高めていきたいですね。 牛丸 薄型のテレビが普及している過程で、DVDレコーダーの普及も同時進行的に起きています。またテレビも単に薄型ではなくて大型の薄型です。これは、みんながシアターを楽しみたいということです。 地域店の活躍の場が高まる ――市場でのプラズマの成長に伴って、2桁成長されている系列店が相当出てきていると聞いています。今後もこの傾向は続くと見られますか。 牛丸 やる気のある専門店さんは、ここ数年なかったくらいの勢いで伸びています。私は常々いろいろな人に話していますが、テレビは他のAV機器と少し違ってアプライアンスです。家の中にドカンとある家具のようなもので、しかも家具と違って毎日見るものです。 ――新しいテレビが家庭に入る時には、家族がみんな集まってきます。 牛丸 これは欧米でも同じですが、電気屋さんはテレビを売るとその日一日が楽しくなるそうです。テレビを買い替える時は、今までよりもいいテレビにされる方が大半です。画面も大きくなって、画質も良くなったものにされるわけです。それにスイッチを入れた時に、お客様の家族みんなが幸せになります。そのお客様が喜ぶ姿を見ている電気屋さんはますますうれしくなってくるそうです。ましてやそれが42Vや50Vだと、地域専門店さんは気持ちがいいのではないでしょうか。それに加えてDIGAも一緒にという話になりますから、さらにうれしくなります。 ――巨大量販がより巨大になっていく中で、流通の再編が進んでいます。販売店が生き残っていくための条件としてどのようなことが必要でしょうか。 牛丸 ショップ店さんがしたたかに残られている大きな理由は借金をしていないことです。建物は自分のもの、従業員も家族です。量販店さんも然りだと思います。自社の能力以上に借金をすると苦しくなります。もうひとつは常にコストの合理化というか、生産性を上げていくための努力をされているかどうかということです。経営上はその2つが大きなポイントです。それからこれが最も大切なことですが、心の底からお客様のニーズにあったようなサービスの提供を考えているかどうかということです。消費者は、その販売店が本当に信頼に値するところかどうかを判断しています。この3つのポイントで決まっていくのではないでしょうか。 ――お客様第一主義の徹底と資金繰りや生産性を常に意識することが大切だということですね。 牛丸 パナソニックマーケティング本部は営業の集団ですが、松下電器のバランスシートやキャッシュフローがどういう状態になっているかとかいうことを従業員の人たちによく話します。 ――営業利益率の目標を聞かせてください。 牛丸 中村社長は2010年に営業利益率で10%を出したいといっています。できるだけ前倒ししてこれを実現していきたいと思っています。日本の電機業界はこれほど素晴らしい商品を作っているにもかかわらず利益率が低すぎます。 SDカードをブリッジに ――利益率という点では消耗品の貢献度が高いですね。 牛丸 われわれはSDのメモリーカードをもっと売っていきたいという思いがあります。幸いにして、日本のメモリーカードの中でSDはデファクト化しています。デジカメやパソコンではほとんどのメーカーが使っていますし、テレビやプリンターでもSDスロットを装備した製品が増えてきています。 ――デジタルデバイドを感じさせないブリッジメディアとして、SDカードの活用範囲をさらに広げていこうということですね。 牛丸 パナソニックの新しいプラズマではSDカード用の端子を装備しています。SDカードに動画を録画することもできますので、通勤途上で朝のニュースや連続ドラマをD―SNAPなどで見ることができます。また、デジカメで撮ってきた写真をスライドショーにして大画面のプラズマで楽しむこともできます。今回、当社から発売したプリンターでは、PCを通さずにテレビからプリンターに直接つないで印刷することができます。しかもそれをテレビのリモコンでできますから、操作も非常に簡単です。プリンターはインクジェットですから非常に綺麗です。 業界の高付加価値化に ――アフターオリンピックの市場をどのように予測しますか。 牛丸 オリンピックが終った後はテレビの販売台数が落ち込むのが従来のパターンでしたが、私は今回はそうならないと思います。なぜかというと地上デジタル放送のサービスエリアがどんどん拡大していくからです。 ――薄型大画面テレビやDVDレコーダーはまさにこれからが需要の爆発期に入っていくということですね。 牛丸 国内のテレビの年間総需要は900万台から1000万台です。その中で03年度の30V型以上の大画面薄型テレビの販売台数は、プラズマ25万台、液晶23万台ほどと微々たる台数です。薄型大型テレビの普及率はまだほんの数%です。お客様はお金の都合さえつけば欲しいと思われています。 ――そういう成長性の高い市場の中で、メーカーも販売店も付加価値の高いビジネス展開を心がけていただきたいですね。 牛丸 日本のコンシューマーマーケットは大変なパワーを持っています。テレビもレコーダーもムービーも平均単価が高くなってきています。AV機器ではデフレが止まり、販売店さんにとっては大変ありがたい時代になってきました。
◆PROFILE◆ Shunzou Ushimaru 1944年5月生まれ。長崎県出身。1968年入社後、海外経験が長く、国内事業部はじめカナダ、イギリスで現地法人の社長を歴任。2000年より国内営業担当。2003年4月より松下電器産業潟pナソニックマーケティング本部長 兼 松下コンシューマーエレクトロニクス且ミ長に就任。同年6月より同社役員に就任。趣味はオペラ鑑賞、映画鑑賞、スキューバダイビング他。 |