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(株)デノン
代表取締役社長

坂本光成 氏
Mitsushige Sakamoto

 

原点に帰った物作りと
強力な販売戦略の展開で
市場の拡大に邁進する



3年前の会社分割以来、坂本社長を中心に新たな体制のもとで経営とのバランスをとりながら攻めの準備を着々と進めてきたデノン。同社の大攻勢がいよいよ始まった。超弩級のハイエンドAVアンプなどホームシアターに強力な商品を続々と投入。さらに2チャンネルハイファイオーディオ分野にも本格的に復帰。D&Mグループの中核企業として意欲的な事業展開を進める坂本社長にデノンとD&Mセールス&マーケティングジャパンの戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

いくらメーカーが頑張っても
流通の皆様のご協力がないと
市場を創ることはできません

新本社ビルに移転
D&Mグループ企業を集結

―― 10月12日から新本社でのオペレーションが始まりました。まずその経緯から聞かせてください。

坂本 今まで使っていた湯島本社ビルは多階層構造で業務効率の悪かったのと、DENON今後の飛躍の一歩とし、心機一転本社の移転を検討しました。そこで次の4つの条件を満たせる場所ということで新しい本社を探しました。試聴室を社内に設置できること、秋葉原に近いこと、最新のOAインフラを含む業務環境がいいこと、ワンフロア化で情報の見通しをよくすること、この4つの条件をすべて満たしたのが今回の場所でした。
新本社にはD&Mグループのデノン、日本マランツ、リオジャパン、デノンラボ、D&Mプロも集結させました。これによってD&Mセールス&ジャパンのコントロール機能が集中しましたので、戦略面での意思決定の迅速化、各ブランドのコラボレーションの立案などで大きな成果が出てくることを期待しています。

―― 6月1日付けでブランドカンパニーとセールス&マーケティングを担当するリージョナルカンパニーという新体制を立ち上げました。その目的とそれによって何が変わるのでしょうか。

坂本 最大の目的は、モノ作りの会社と販売会社を分けることで、それぞれの部門の責任を明確にしていこうということです。これは活用の仕方で非常にいい結果を出せると思います。ただその時に縦(物創り)と横(販売)のリレーションが途切れないように気をつけなければいけません。担当者レベルでは常日頃打合わせを行っていますが、戦略的な判断事項に関しては月に一度、作る側と売る側の幹部が集まって議論し、全体にとって最適な結果を出せるようにしています。

―― 新体制ではマランツやリオなども含めて、国内のマーケティング体制が一本化されるということでしょうか。

坂本 日本国内でのD&M傘下のすべてのブランドのマーケティング活動は、D&Mセールス&マーケティングジャパンが担当します。具体的な施策としては、販売に関わるバックオフイスの統合と販売効率の向上を進めています。
販売会社の業務には、購買や受注・出荷・サービスなど直接販売に関わらない仕事があります。これを一本化することによって、会社としての効率を高めることができます。これについてはこの下期の終わりまでに統合できると思います。

―― 販売効率の向上ではどのような施策を考えられていますか。

坂本 例えばリオでは今まで販売委託業務を外部の会社にお願いしていました。デノンは全国のオーディオ専門店や量販店と非常に良好な関係にありますので、リオの販売業務を取り込むことによって、外部への資金の流出を防ぐことができます。この件に関しては既に話がまとまっています。今年の11月からデノンが販売することになりました。

厳しい市況環境の中で
上期売上は前年比104%

―― 上期が終わりました。結果はいかがでしたか。

坂本 デノン単独では前年並みの売上げを確保しました。また、デノン、マランツ、リオなどD&Mセールス&マーケティングジャパンが担当するD&M企業合計での国内売上は、リオの大幅な伸張などによって、前年比で104%でした。
国内市場におけるD&Mグループの売上げの中でデノンの構成比率は65%程度で、その業績はグループ全体の経営にとって非常に重要なポジションにあります。国内のオーディオ市場は総じて苦戦していて、デノンが展開しているクラスの市場は前年比約85%と落ち込んでいます。その中で、デノンは前年比90%程度で推移しています。

―― 海外市場ではいかがですか。

坂本 北米、アジア市場を中心に非常に好調です。特に米国では中級以上のAVレシーバー、ユニバーサルプレーヤーの市場でトップシェア(AV販売店、専門店市場)を獲得しています。好調さの要因はAVR―3805(日本仕様モデル名AVC―3890)を核にしたAVレシーバーの新製品群が音質面でも機能面でもさらにデザイン面で他社製品を上回っていること、量販志向の販売店を避けた良質な販売チャネル作りと販売店教育です。その結果、専門店や高級AVショップで特に高いシェアを持っています。

今後の成長が期待できる
本格的なホームシアター

―― 下期の経営戦略を聞かせてください。

坂本 当社の経営の柱はホームシアター市場で成功することです。先日横浜で開催されたA&Vフェスタの会場で高品位視聴をテーマに評論家の先生方の協力を得てリスニングルームを2部屋設けました。また、オーディオの協会の意向もあって生活提案型の展示を行いましたが、特に大手建築会社との共同展示と、スクリーンラックによるホームシアター提案が大変好評でした。
国内のAV市場全体は前年割れが続いていますが、その中で一部活性化されている市場もあります。特に薄型大画面テレビや、DVDレコーダーはオリンピック以降も好調な動きを見せています。これらの商品が今後さらに伸びていくことは間違いありません。ただ音質面ではいずれの製品も満足できるレベルにはないということで、あらためて音の重要性を認識しています。どれだけ素晴らしい映画でも音を消した画面だけでは楽しさが伝わってきません。ソフトを楽しむ上で映像と音の重要度は五分五分か、むしろ音の方が大切なように思います。

―― そうであるにもかかわらず、国内市場ではAVアンプやホームシアターの動きが芳しくありません。

坂本 今、ホームシアターが市場で市民権を得られるかどうか分岐点に立っているように思います。ホームシアターシステムの市場は一時期急速に成長しましたが、ここにきてかげりが出てきました。安価な商品で市場を拡大させていくという方法が市場から飽きられてきています。
大型のフラットパネルテレビだけでなく、カジュアルスクリーンシアターも今後さらに伸びていきます。そうなるとこれからの需要は、もっとグレードの高い本格的なホームシアターに移行していくと思われます。そこで当社では中高級機を中心とした単品コンポーネントの強化と、これらを組み合わせたインストーラー事業に力を入れています。
今年発売したAVアンプでは中高級機へのシフトを進めています。DVDでも映像だけでなく音質も吟味した物作りをしています。今後もハイクオリティーな製品を戦略的に展開していきます。

―― これから本格的にホームシアター市場が開いていくということですね。

坂本 今まではほんの入口でした。これからどういうふうにホームシアター市場を創り上げていくかということが大切です。この市場創りは流通さんにも協力していただかないとできません。薄利多売の売り方では、せっかくのホームシアターが市民権を得られなくなってしまいます。今こそ流通さんとメーカーが協力して市場を創り上げていくことが大事な時期だと思います。

物作りの原点としての
2チャンネル商品を強化

―― 一方で2チャンネルハイファイの取り組みを再度強化されています。

坂本 デノンの物作りの原点は2チャンネルハイファイオーディオです。市場で好評をいただいているAVアンプでもその思想が受け継がれています。この3年間、当社では会社分割や統合などで大変でしたが、販売店の皆様方のご協力や社員全員の頑張りでようやく利益体質を実現できるようになりました。
そこで、もう一度、原点に返ってわれわれの物作りを見直そうということで取り組んでいます。音の良さを大切にして、ユーザーの気持ちを刺激するような物作りをやっていきたいという考えで、今回の一連の商品を開発しています。社内では「コンポ・ルネッサンス」と言っていますが、今年の上期には、PMA―A11とDCD―SA1を発売しました。さらに期末に向けてPMA―S1とDCD―SA11を発売して、ハイエンドからミドルハイエンドクラスの商品を充実させます。来年にはこれを売れ筋価格帯にまで展開していこうと考えています。

―― かつて圧倒的な強さを誇ったハイファイオーディオの復活ですね。

坂本 デノンはもともと2チャンネルハイファイオーディオでは、世界的に強力なブランドでした。S1シリーズやS10シリーズなどハイエンドの世界でも数多くの銘機を送り出してきました。当社の2チャンネルアンプの中核機種である「PMA―2000シリーズ」は、今でもこの価格帯の市場の半分近いシェアを持っていますので、この商品分野では責任があります。

―― 業界では2チャンネルオーディオへの回帰という見方がありますが。

坂本 現在の市場だけから判断すると、2チャンネルオーディオの市場は前年比を割っている傾向が続いています。ただ、市場には予備軍がたくさんいます。
A&Vフェスタと同時期に行われた今年の東京インターナショナルオーディオショウにD&Mグループからデノンラボとマランツが出展しましたが、会場にはお客様が入れないくらい詰め掛けていました。お客様の層も数年前は40〜50代の人がほとんどでしたが、若い人がたくさん来場されていました。
市場の成り行きにまかせるだけで、何もせずに市場の縮小を嘆いてもはじまりません。音の良いオーディオ製品に興味のある方は確実に育ってきています。われわれメーカーとしてはその人たちに対して商品を提供し、オーディオの楽しみ方を教えてあげれば、市場を再度活性化できるように思います。

―― 市場の活性化には店作りも含めたトータルな戦略が必要だと思いますが。

坂本 オーディオ専門店さんの経営は非常に厳しい環境にあります。しかしもしこの流通がなくなったら、日本のオーディオマーケットはおしまいです。そこでデノンとして日本を代表するピュアオーディオの販売チャネルの皆様方と一緒になって、市場の活性化を図っていきたいという思いでPMA(プレミアム・メンバーズ・アソシエーション)店の展開をスタートさせました。
当社では3年前にソフトと電機に会社を分割しました。その際に国内営業にレップ制度を導入しました。このレップ制度の導入自体は間違っていなかったと思っていますが、短時間で商談の決まる量販志向が優先され、専門店さんへのサポートが非常におろそかになってしまいました。その反省をもとにPMAという新しい組織を作りました。
これによってすぐに売上げを急激に伸ばせるとは思っていません。メーカーとしてこの販売チャネルをサポートすることで、オーディオマーケットを活性化していくための一助になればと思います。

流通との協力で
実りある市場作りに取り組む

―― 先ほどリオの話が出ましたが、市場ではDAP(デジタルオーディオプレーヤー)が急激に伸びていますね。

坂本 携帯オーディオ市場ではDAPの急激な伸びが目立っています。MDの市場規模は年間で300万台程度ありますが、来年にはDAPとクロスしそうな勢いです。
当社ではD&Mグループのリオジャパンでこの市場に参入しました。相当シビアに見ても、リオジャパンの下期の売上げは昨年の3倍はいきそうです。
ただこの分野は競合相手がどんどん出てきます。リオとデノンのスタッフが一緒になって、他社にはできないような形での周辺機器の充実やホームオーディオ機器との連携など常に一歩先んじたDAPのあり方を提案していきたいと思います。PCの周辺機器としての考え方をベースに作られている他社の製品に対して、リオのDAPは音楽再生という視点で作られています。この点がリオと他社のDAPとの最も大きな違いです。

―― 販売店の皆様方へのメッセージをどうぞ。

坂本 当社のコアコンピタンスは音です。これを核にしてハイクオリティーのホームシアター、オーディオ製品を送り出していきます。商品だけでなくカスタマーサービスや販売チャネルへのサポートでも、ハイクオリティーの商品にふさわしい施策を展開して、この市場を大切にしていきます。
ただ、これは流通の皆様方からのご協力なしにはできることではありません。メーカーだけがいくら頑張っても、流通さんが目先の利益だけを追いかけられるようでは、とても市場創りはできません。大変おこがましい言い方で流通さんには叱られるかもしれませんが、当社ではお互いに実りある商売ができることを望んでいます。デノンはメーカーとして必死になってやっていきます。ぜひ流通さんと協力し合ってマーケットを創っていきたいと思っています。

◆PROFILE◆

Mitsushige Sakamoto

1940年4月24日生まれ。64年中央大学商学部卒業。同年4月日本コロムビア入社。経理・財務部門勤務を経て、89年財務部長。91年より電機事業本部海外営業本部長。99年取締役就任。01年常務取締役。01年10月1日会社分割により潟fノン代表取締役社長。04年6月1日社内カンパニーとして新設されたD&Mセールス&マーケティングジャパン社長を兼務。現在に至る。趣味は音楽鑑賞とゴルフ。