トップインタビュー

鹿野清氏

ソニーマーケティング
執行役員

鹿野 清
Kiyoshi Kano

提案の芽は山ほどある
それをどう拾い上げ
カタチにするかが重要だ

出遅れていた薄型大画面ディスプレイにも個性的な顔ぶれが揃い始めたSONY。今年度は、サムスンとの合弁で立ち上げたS−LCD社の液晶パネルを用いた新商品もいよいよ投入される。盟主の座を誇示する新世代のウォークマンなど、お客様の目線で応えた付加価値商品が出番を控え、市場創造へリーダーシップを発揮する。商品づくりにおいても大きな役割を担う、ソニーマーケティング・鹿野氏に意気込みを聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征


これからは、商品力に加え、製造面の
フレキシビリティやキャパシティが
メーカーの力の差となり現れてきます

楽しくないとお客様との一体感も
生まれません。厳しい市場環境下で
少し生真面目すぎたのかもしれません


テレビは付加価値提案と
裾野層の拡大を両立

―― 高画質で話題を集めるQUALIAは店頭でも大変目を引く存在です。この春にはハッピーベガで、さらに幅広い層へ薄型テレビやデジタル放送の魅力をアピールされています。ディスプレイのラインナップが充実してきましたね。

鹿野清氏 鹿野 ラインナップの充実に加えて、今年は当社独自のデバイスを用いた商品にも力を入れています。話題を集めている70V型のプロジェクションテレビ「QUALIA006」は、当社の高解像度ディスプレイデバイス「SXRD」を採用した商品です。ソニーの持つ映像技術を惜しみなく投入することで、お客様に最高の画質で映像を楽しんでいただけるものと確信しています。

―― 薄型テレビ市場においては売価の急激な低下という課題はありますが、需要そのものは順調に右肩上がりで推移しています。

鹿野 春商戦も順調に伸びています。中でも液晶テレビは、昨年がおよそ270万台の需要がありました。これが今年は450万台、あるいは倍増する可能性もあると予想しています。
やはり、地上デジタル放送普及の影響が大きいですよね。私どもではこの春商戦に「ハッピーベガ」のラインナップを新たに投入し、業界で初めて19X型にも地上デジタルチューナーを搭載しました。これからテレビをお買い上げいただくときに、地デジはもはや当たり前であるという啓蒙を行っていかなければいけないと思います。

―― QUALIA005も大変高い評価を集めていますね。売り場で足を止めて、まじまじと見入っているお客様の姿を目にすることがあります。

鹿野 画質面で大変高い評価をいただき、実売面でも期待以上の動きをみせています。
カムコーダーでも昨年、デジタルハイビジョンハンディカムHDR―FX1を発売し、ハイビジョンで撮る世界を訴えています。さらにバイオTypeRはハイビジョンの編集機能を備えていますから、これらの商品が全部つながっていきます。ハイビジョンクオリティでつながる商品をもっと増やしていくことが、今年は重要になってくる。
販売価格の競合が非常に厳しい環境下では、このような新しい感動をお客様に認めていただく努力が大切です。

―― 今年はいよいよ、サムスン電子との合弁会社「S―LCD」で生産される液晶パネルを使用した商品が登場します。発売時期やそのラインナップなど、市場における期待も大きいのではないでしょうか。

鹿野 S―LCD株式会社から供給されるのは、視野角や応答速度の性能をアップした第七世代と呼ばれる最新の技術のパネルになりますから、その技術を余すところなく使いこなせる製品を投入したいと思います。
S―LCDの液晶パネルを使って、大型でしかも付加価値のある商品づくりを行っていきます。

―― 値頃感という背景もあるのでしょうが、薄型テレビの浸透により、市場ではより大きな画面へとシフトする動きが出てきていますね。

鹿野 当社は32V型と40V型のラインナップを充実します。現在の主力サイズは32V型ですが、そこからどれだけ40V型へ移行していただけるかですね。奥様方からすれば、「えっ」と驚くような大きさですが、スペース的には結構納まるんですね。
ハイビジョンで画の密度が濃くなっている分、かなり近づいて見ることができます。ですから、ご自分では狭いと思っていらっしゃるリビングでも、40V型が大きすぎることはありません。


大型イベントで存在感を誇示
DAPの一層の飛躍を牽引

―― オーディオでは、ポータブルオーディオ市場が大変賑やかになってきましたが、御社の今年の取り組みをお聞かせください。

鹿野清氏 鹿野 アップルさんをはじめ数多くのメーカーの参入により、デジタルオーディオプレーヤー(DAP)が一気に花開いた感じです。皆さんからは、「ソニーがやるべき仕事だ」と、ハッパを掛けられています。技術的な遅れは何もありませんから、思い切ってアクセルを踏んでいかなければなりません。
日本では、音楽配信の普及はまだまだこれからといった段階です。我々は、国内音楽配信サービス1サイトの「Mora(モーラ)」さんと一緒になって認知アップと普及に取り組んでいます。昨年末には、バイオで音楽ダウンロードを手軽に楽しむキャンペーンを展開しましたが、Moraさんでのダウンロード数が急激に増え始め、その勢いが続いているとお聞きしています。
音楽ダウンロードというのは、やはりやってみないと良さや便利さがわかりません。メーカーも一緒になって、みなさんに体験していただく環境をつくることが大切だと思っています。

―― ウォークマンでこれまでこの市場を創り上げてきたソニーが、ソニーとしてのひとつのムーブメントをつくっていくわけですね。

鹿野 新商品のウォークマンスティック、ウォークマンスクエアを使って、新しいライフスタイルの提案を行っていきます。街頭で、これらの商品を実際に使っていただく大仕掛けのイベントを計画しています。
身につけて、いつでもどこでも聴けるというスタイルを提案するからには、ファッション性だけではなく、使い勝手、耐久性、電池寿命などの実用価値が高くなければなりません。ソニーの商品は、そうした点も違うことをきちんと理解していただくためのイベントです。若い方がどのように反応していただけるか楽しみにしています。

―― ウォークマンがデビューしたときに、山手線で大々的にイベントをやりましたね。各方面で大きく取り上げられたのを今でも覚えています。

鹿野 あれくらいの規模を考えています。DAPの市場はますます拡大していくわけですから、その勢いを加速するためにも、もっと使い勝手や便利さを伝えていかなければいけないと思います。もちろん、音はソニーの命ですから、音質のよさもきちんと訴えていきます。
音質へのこだわりという面では、最近脚光を浴びているのが密閉型のイヤーレシーバーQUALIA MDR―EXQ1です。筐体に真鍮を採用して音質を徹底追求し、価格も2万円以上しますが、発売以来ダントツの人気を集めています。今後、DAPの周辺商品についても、色々なものを用意していきますので、是非、ご期待ください。


商品の持つ楽しさこそが
お客様との一体感を生む

―― 今、業界では、価格が前面に出すぎて、本来大切な趣味商品としての楽しさのアピールが少し足りないように思いますね。

鹿野清氏  鹿野 今回のイベントもそうですが、やはり、そういう楽しいことをしていかないと、お客様との一体感が生まれてこないと思います。ソニーは、技術力を背景にした製品の性能やスペックを訴求していく傾向が強いのですが、これからは今まで以上に噛み砕いて、どのようなメリットや楽しみ方があるのかをお伝えし、お客様とのコミュニケーションを深めていきたいと思います。
この春のハッピーベガのテレビコマーシャルでは、お客様にもっと楽しんでもらうことにポイントを置きました。
昨年発売したデジタルハイビジョンハンディカムHDR―FX1についても、従来の運動会や入学式だけでない、ビデオカメラの新しい使い方を提案していきます。
FX1の提案でも大切なのは、お客様の生活シーンの中で訴えることだと思います。お客様のご自宅周辺の風景をFX1で撮影したものをご覧いただくと、普段目にしている景色が、ハイビジョンで撮るとこんなにもキレイなのかと皆さん感動されます。

―― FX1は大変高価な商品でもありますし、取扱店は、かなりセレクトされているのですか。

鹿野 ハイエンドのAV商品をたくさん販売されているお店が全国にありますが、そこがFX1の販売においてもひとつの中心になっています。
FX1については、QUALIA005のような高画質・高性能のテレビと一体となった展示も展開しています。「ソニーハイビジョンクオリティ」というコンセプトのもと、2つの商品をつなげることで、それぞれの商品の特長をより明確に伝えることができます。

―― 先にお話のあったデジタル放送も含め、「ハイビジョン」は市場拡大の取り組みにおいて2005年の重要なキーワードのひとつですね。

鹿野 ハイビジョンカムコーダーはこれからどんどん普及していくでしょう。カムコーダー売り場に、ハイビジョンカムコーダーが普通に並んでいるのが当たり前になっていくと思います。
かつて、当社のパスポートサイズのカムコーダーで、手軽に映像を撮る感動を初めて味わった方々に、もう一度、ハイビジョンカムコーダーの高画質で感動していただきたいのです。今年はさらに市場の拡大を目指して、色々な商品展開を行っていきたいと思います。

―― やはり、普通のカムコーダーとはまた違った、提案の上での切り口も出てくるのですか。

鹿野 ハイビジョンで撮影をすると、撮ったものを編集したいというニーズも自然と高くなります。そのときに改めて、バイオの存在がクローズアップされます。「AVの世界を取り込むパソコン」というオリジナルコンセプトをもう一歩先へ進め、バイオならどのモデルでもハイビジョンで撮った映像を気軽に編集できるようにしていきたい。それが私どもの使命です。
そうしてはじめて、ソニーハイビジョンクオリティの世界が、より具体的になってきます。ハイビジョン関連商品が増えるだけでなく、それがつながり、お客様に新しい感動や付加価値をご提案できる、それがソニーハイビジョンクオリティの世界です。


若年層の取り込みが
大きな課題のひとつ

―― これから数年後に続々とリタイアしてくる団塊世代が、消費の鍵を握る存在として色々な業界から注目されています。彼らは映像に対する関心も高く、若いときにはオーディオに親しんだ世代になります。

鹿野清氏 鹿野 団塊世代の方は、音楽や映像に対する興味が大変高いですからね。
また、この世代の方は、お子さんである団塊ジュニアとの関係が強いのも特徴のひとつです。
商品選択で迷われた時などには、息子さんや娘さんと相談されていますから、団塊世代にアプローチしていくと、自然に、そのメッセージが団塊ジュニアへも伝わっているようです。
課題は、団塊ジュニアよりもうひとつ下の若い世代です。この層のひとに、どうやってソニーに興味をもってもらうか。音楽配信を絡めて、次世代のウォークマンで精力的に働きかけていきたいと思います。やがてはAVマーケットを引っ張っていくひとたちですから。
また、若い世代の方が音楽に興味があるのは当たり前ですが、どうやって映像まで興味を広げてもらえるかも重要なポイントです。

―― 動画と静止画の融合という点では、各社、デジカメやビデオカメラなどで、いろいろなチャレンジをされていますが、これもこれからの大きなテーマのひとつですね。

鹿野 当社では昨年末、デジカメのサイバーショットでDSC―M1という動画と静止画の両方を撮れる商品を投入しました。動画も静止画も撮りたいというニーズにお応えするための先駆的な商品とも言えますが、こうした商品がこれから新しい需要を喚起していくのだと思います。

―― 携帯電話にいつのまにかカメラが付き、撮影した画像を添付して送ることがごく普通のことになりましたから、メールに動画を添付するのが当たり前のようになってくるのも時間の問題だと思います。

鹿野 今のように圧縮技術が発達してくると、動画ももっと手軽に扱えるようになるはずです。そこで大事なことは、画質を落としてはいけないということ。ハイビジョンに近いような画質の動画を、苦労なく送ることができるような環境になれば、動画を取り巻く状況も急速に変わっていくと思いますね。


技術とお客様を橋渡しする
ソニーマーケティング

―― 量販店がフランチャイズ展開を強化する方向を打ち出しています。御社ではこれまで、ハンディカムをはじめとする新しい商品を提案するにあたり、地域店が啓蒙活動の上で大きな役割を担ってきていると思います。

鹿野清氏 鹿野 ソニーショップさんにも新しい提案をどんどんしています。
例えば、「e―SONY SHOP」では、私どものeコマース「ソニースタイル」との連携を進めています。お客様の立場に立てば、バイオなどはバリエーション展示が本来必要ですが、地域店は量販店と違ってどうしても展示スペースが制約されて、それもできない。そこで、店頭の端末で「ソニースタイル」のサイトを開いていただき、お客様には、多様なラインナップから確認して商品を選んいただくという、新しい購入スタイルを導入しています。
今は、ブラウン管テレビから薄型大画面テレビへの買い替え需要期にありますが、テレビのビジネスにおいては、ソニーショップさんのパワーはすごい。地域店の持ち味を活かし、存在感を発揮されています。

―― 6月22日からの新体制が先頃発表されましたが、市場でも様々な課題に直面する中で、御社がどのようにリーダーシップを発揮されるのか、流通でも期待感がさらに高まっていると思います。

鹿野 新しく社長に就任する中鉢は、「お客様の目線で」と言っています。お客様の立場で、もう一度ソニーの商品を見直していかなければなりません。
エンジニアの持っている恍案のネタと芽揩ヘいっぱいあります。それをどのようにして拾いあげていくかは、私どもソニーマーケティングにとっても重要な仕事のひとつになります。
マーケティングに携わるものが、市場の動向をしっかりと掴み、エンジニアが持っているネタを商品にしていくことができるか。新しい体制の中で、改めて、私どもマーケティングの仕事の重要性を噛み締めています。

―― 4月1日から、マーケティングも新しい体制になりました。

鹿野 カンパニーとマーケティングが一緒になって動けるような体制を4月1日からスタートさせましたので、提案型の商品づくりやその導入の仕方についても、さらに追求して参ります。

―― ソニーが先頭に立って、21世紀のマーケットを創造していくということですね。

鹿野 独創的な商品というのは、市場調査からは出てきません。エンジニアの情熱と、世の中に出したいという、ある意味で強烈な「エゴ」から生まれてくるものです。気をつけなければいけないのは、それが一方的な独り善がりであってはならないということ。そのためには、我々ソニーマーケティングのものが、エンジニアの「エゴ」をお客様目線の言葉に置き換えればいいわけです。わかりやすく噛み砕く必要がある。
マーケティングで求められる重要なことはセンスです。そうしたセンスを持った人材を積極的に登用して、育て鍛えてあげていくことも、我々の重要な仕事となります。そして大切なのは、明るく陽気にやることですね。外の人が見たときに、明るい雰囲気作りが出来ていることが大切だと思います。

◆PROFILE◆

Kiyoshi Kano

1951年10月17日生まれ。1975年4月ソニー商事鞄社。日本、米国、欧州でディスプレイ、IT商品等の企画、マーケティングを担当。2003年4月ソニーマーケティング且キ行役員に就任。現在、AV商品のマーケティングを統括。趣味はスポーツ(バスケット)