加藤修一氏

やるべきことだけを
確実に行って成長する
(株)ケーズホールディングス
代表取締役社長
加藤修一氏
shuichi kato

困難な経済状況下で着実に成長しつづけるケーズデンキ。加藤社長が掲げるあまりにも有名な「頑張らない経営」とは、余計なことを排除し、やるべきことだけを確実に行うということ。従業員の働く環境を整え、明確な方針の上で自ら考えさせる、無理せずゆっくりと業績を伸ばす。経営者として「終わりのない駅伝競走」に臨む加藤氏のことばを、2010年新春のメッセージとしたい。

 

一番大切なのは従業員
働きやすい環境を整えれば
自然にお客様を大切にする

確実な成長を遂げるには
ゆっくりと伸びること

── 

―― 御社は、景気のいい時は慎重にすすめ、景気の悪い中でも成長するという考え方で、昨今の厳しい経済状況の中でも成長を続けています。

加藤加藤氏私は、会社を安定的に成長させようと考えているのです。商売を始めた頃は年商1億円ほどでしたが、当初年々25%ずつ成長させようと考えておりました。すると3年で2倍になり、6年で4倍になり、9年で8倍、10年で10倍になったのです。その後、それ以上のペースでは伸ばさないようやってきました。そして20年で100倍になって、店頭公開し、30年で売上1000億円になりました。
 
その後の10年は、安定成長のために年15%成長と設定しました。すると5年でだいたい2倍、10年で4倍と想定できますが、実際は5.7倍になりました。そして2008年からは10%成長のペースに落として7年で2倍になると想定しています。

こうして売上げを安定的に伸ばすと考えると、売りの調子が良いときは既存店が伸びていき、店を少しだけつくればその分の伸びで目標数字を達成できる。しかし既存店が落ちるような状況だと売上げが下がりますから、その分つくる店を多くします。すると不景気でも売上げは上がるのです。いつも数字は平らに上がっていくわけです。

景気が良いときはどこも調子が良いわけですから、皆、店を出そうとして物件の価格は上がり、場所の確保も困難になります。また社員を採用しようにも、売り手市場で人材不足となります。景気が悪いときは誰も店を出そうとしませんから、物件も人材も豊富にある。これが私どもの言う「好況充実・不況拡大」ということで、つまりは当たり前のことですね。ケーズデンキはこのように、当たり前のことしかやっていない会社です。難しいことをやる能力はもっていませんから。

確実に成長するためには、ゆっくり成長しなくてはいけないのです。伸びるときだけ伸びて、次の年は落ちるというようではだめです。ですから確実に伸びるためには、伸びるときに抑えておかなくてはいけないのですね。伸びるときには手を抜いておかなくてはいけないのです。
 
日本の高度成長期、業界も当社も成長させてもらいましたが、その後のバブル崩壊で日本の経済が下がり続けたときもケーズデンキは上がり続けました。当初は業界の中で何千番目というところだったのですが、今4位5位のあたりまで上がってきたわけです。

ケーズデンキの成長過程を振り返れば、景気の悪いときの方が伸びてきました。景気の良いときは世間並み、ということです。景気が悪い方が伸びるというと嫌われますね、要は景気が悪くても心配がないというところです。

―― 池袋に大型店ができるなど、昨今の電機業界ではそれぞれいろいろな動きが出ました。

加藤ケーズデンキでは、都会に店を作らないという主義です。人の住んでいるところのそば、東京ならベッドタウンである郊外、府中や多摩、立川、八王子、町田に出店しています。あまり人の住んでいない都会の真ん中に店をつくるのは、デパートのやり方です。大きな店で品揃えを豊富にして、遠いところからお客様を呼ぶという商売であり、近くのお客様を店に呼ぶケーズデンキのやり方とはスタイルが違うのです。

当社としては、幸いにしていろいろな子会社ができ、全国をエリアでカバーすることができました。あとはそれぞれの会社が、手薄なところに徐々に面を広げていけばいいという考え方です。

ケーズデンキでは、店から発信するチラシでカバーしているのはまだ全世帯の40%です。これが80%になるまで店をつくり続けます。これを年10%成長のペースでやっていきますと7年かかりますが、7年間のんびりやっていくだけです。やるべきことが決まっていますから。

全国をエリアでカバーし
地域毎に面を広げていく

―― 新しいパートナーと組む可能性はありますか。

加藤それはないのではないかと思います。ケーズデンキは幸いにして子会社がたくさんできました。100%子会社ですから同じ会社であるのと一緒なのですが、子会社として残すことでエリアをくくったということなのです。

こうしたのは社員のためです。こうすると働く地域が特定できて、九州の人に北海道へ行けと言わずにすみます。なにも電器屋をやるのにわざわざ北海道まで行かなくても、それは北海道の人がやればいいということです。社員はあまり遠いところへ行くと不安ですけど、それで安心できます。また給与水準が地域によっては少し違っており、エリアごとに満足する水準でやってもらえます。そういうことで会社を分けてあるわけです。

あとはそれぞれが各エリアで店を増やしていけば良いだけです。ですからこれ以上パートナーを増やす必要性はないのです。エリア同士の競争もありません。

―― 店舗数など、加藤社長が満足される状態はどの程度でしょうか。

加藤満足したら終わりです。経営というのは終わりのない駅伝競走と言っているように、ずっと続かなくてはいけませんから、いつでもやるべきことがあった方が良いのです。終点はありません。

―― エリアの出店を充実させるにあたって、郊外だけでなく都心部へ出店されるという方向はないのでしょうか。

加藤都心の店は、人の住んでいないところに巨大な店舗を出し、人をひきつけるような品揃えで遠くの人を呼び寄せる商売です。ケーズデンキは普通のご家庭で必要なものの品揃えを充実させていますから、都会に出す必要はないですし、都心の店はチェーンオペレーションにはなりづらいと思うのです。そして都心の店は、繁盛はしても成長はできないのではないでしょうか。何故かというと、そういう場所が無限にはないからです。何十店かつくったら、それ以上つくりようはありません。そこで止まってしまう商売ではないでしょうか。

デパートも、銀座で上手く行っても地方に出して失敗していますね。地方の人口の少ないところでは、この商売は成り立たないのです。私はそういうところには手を出しません。力があってお出しになる会社もありますが、当社にはそんな力はないのです。

また大商圏では、必ず商圏が切り取られます。かつて秋葉原は家電の大商圏で、まわりの電器屋は小さく、秋葉原に行けば品揃えが良いという評判でした。しかし地方に1000坪、2000坪の店ができますと、普通のものなら秋葉原まで行かなくても買えるので、人が集まらなくなってしまいました。そこにパソコンブームがきて、まだまわりの店で並べていないときは秋葉原に行けば品揃えが良いということになる。しかしこれも同じようにまわりの店も充実してくると、秋葉原は落ちてしまう。次はゲームで、これもブームがまわりに浸透しましたから、今やメイド喫茶ということになっています。

大商圏というのはそういう風に、常に新しいもの、地方にないものを売り続けなければ活路がないのです。私はそういうことは嫌いですし、できません。そういうのは終わりのある競争です。私のやろうとしているのは、終わりのない駅伝競走なのですから。

「あんしんパスポート」で
お客様視点のサービスを展開

―― 家電のエコポイント制度が継続されることとなり、住宅エコポイントというのも設定されることになりました。我々業界にとって大きな支援となります。

加藤加藤氏エコポイントは販売店が補填しているのでなく、国が補填しているもので、お客様にとってもチャンスなのです。そこをよく説明すれば、良い物を買ってくださいます。

消費者は結局お金を持っているのですから、きっかけがあれば物を買います。エコポイントはそのきっかけです。景気が悪い悪いと皆が口を揃えて言うから、消費者はお金を使うことが怖くなって我慢してしまうのです。もっと明るい話が出れば、物を買ってくれます。

家電業界にとって良いことは、エコポイントがあることによってお客様がより良い物を買うこと。テレビを買うにしても大きいもの、冷蔵庫を買うにしても省エネ性能の高いものを買ってくれます。これは業界にとって同じ1台でも価値が上積みされることになり、喜ぶべきことと思います。

テレビはこの先、さらにエコポイント対象商品の省エネ度が上がります。するとお客様はさらに良い物を買ってくださいます。日本人はもともと良い物が好きですし、良い傾向だと思います。今年の家電業界は明るい、ぜひ皆にそう言ってもらいたいですね。エコポイント制度は12月までとされていますが、そこまでに地デジへの買い替えは間に合いませんから、制度が終了してもテレビは売れ続けると思っています。

―― こういうときだからこそ、お客様も良い店と付き合いたいと思います。御社では「あんしんパスポート」も好評ですね。

加藤当社はもともとお客様に親切に、ということを徹底しています。「きびきびと、お客様に伝わる本当の親切を実行しよう」は、長く続く当社のスローガンです。これ以上いいものはないということで、変えようがないのです。ここ何年も同じスローガンですから、私も正月に考え直すことなく楽できます。これこそ手抜きのローコストオペレーションですね。

「あんしんパスポート」は、ネーミングも良いでしょう? 「カード」というとポイントを連想させるので私は使いたくなかったのですが、「パスポート」というと繰り返し使える、提示するという意味でも良いと考えました。スタートしたのは2008年の6月からです。年会費もかからない、クレジット機能も付いていない、ただお客様を認識するためのシステムです。

会員になったお客様が購入前にパスポートを提示していただくことで、3%値引きなどの会員特典がご利用いただけるようになっています。値引きというのは基本的に接客で行いますが、あんしんパスポートを通せば電池1個でも自動的に値引きになるのです。

また購入の履歴もすべてわかりますから、アフターサービスにも対応できます。当社では3年、5年、10年と無料保証制度を設けておりますが、その商品の保証書のあるなしに関わらず、あんしんパスポートの登録がされていればそれで補償することができます。だいたい保証書がなければ補償しないというのが一般的ですが、それはおかしいですね。保証書があることでなく、買ったかどうかということが肝心なのですから。

また商品を購入された後、たとえばプリンターのインクなどを買いたいという際、どのカートリッジかわからないというときでも、パスポートを提示していただくことで購入された機種がわかりますから、それに対応したカートリッジをその場でちゃんと購入していただくことができるのです。あんしんパスポートをもし失くされたとしても、これ自体はただの紙で、データはコンピューターに入っていますから、権利が失効することも無くすぐ再発行できます。

会員様は現時点で732万人になりました。使用率は、顧客数に対して50%といったところです。いずれすべてのお客様に持っていただけるようにしたいと思っています。

やるべきことを明確にすれば
頑張らずに成長できる

―― 「頑張らない経営」を、今こそ実践したいところです。

加藤加藤氏昨年はそれがすっかり有名になって、あちこちのマスコミにも取り上げていただきました。結局、頑張るというのは、できもしないことをやろうとしているということだと思います。頑張れ、頑張ります、というやりとりは、結局は事実を明らかにしていない。何をどうしましょう、と具体的にやりとりした方が問題を解決できるのです。

ケーズデンキでは、やるべきことを明確にしましょう、としています。頑張れ、というと10くらいのことを手がけてしまうのですが、やるべきことを明確にすると2つくらいのことをやっておけば良いということになります。そうなると確実にでき、できるから業績が上がる。それが頑張らないということです。

労働環境においても、ケーズデンキではあまり遅くまで働かないということになっていまして、シフトを組んで残業があまり発生しないような仕組みになっているのです。頑張ると言うと、何でもいいからやってしまおうとなります。やらなくても良いことをやっていると、やるべきことが中途半端になってしまいます。

―― デンコードーさんなど、一緒になった他の会社にはどうやってこれを周知させているのでしょうか。

加藤デンコードーは、一緒になると発表したのが3年前、実際に統合してから2年9ヵ月ほどです。看板は全部「ケーズデンキ」としまして、社員も楽になっています。

たいがいの会社は頑張ってしまっていましたから、ケーズデンキになったことによって、これをやらなくて良い、あれをやらなくて良い、とやらないことが増え、労働時間が短くなっても成果が上がるのです。たいがいの会社は、真面目であればあるほどちょっとやり過ぎているのかもしれません。

―― 御社はメーカーなどの取引先からも評判が良いですね。大事にしてくれる、一緒に仕事をして良かった、という声をさまざまなメーカーから聞きます。

加藤ケーズデンキは、企業理念として一番大切なのは従業員、次いでお取引先、その次がお客様と考えています。従業員を大事にして、働きやすくのびのびした良い環境をつくると、従業員はお客様に親切にし、お客様を騙すようなこともしません。業績だけで社員を評価しようとしたら、社員はお客様を騙すようなことまでしなければならなくなるかもしれません。

その次に大事なお取引先、ここの関係を良くしなければいけません。余った商品ならいくらでも入れてくれるでしょうけど、ケーズデンキが気に入らなければ人気の商品を違うところに持っていかれるかもしれません。取引先との関係も良くしておくと、その結果お客様が良い商品を買ってくださって店が儲かる。そして最後に株主が儲かる。

先ごろ海外IRでアメリカに2週間行って来ましたが、アメリカの会社が株主を一番大事にするのは間違っていると、ケーズデンキは株主が最後だとちゃんと私は言って来ましたよ。ですからメーカーさんとの間でも、お互いが良いようにしましょうと言っています。

―― これは社員の皆さんにも、すべて徹底している考え方ですね。

加藤口で言うだけではだめで、社員を本当に大事にしなくてはなりません。ケーズデンキでは昔から社員に株を持たせましたし、そうでない場合は持ち株会に入ってもらったりしています。ストックオプションをここ10回くらい連続で出して、全部行使価格を上回って社員に儲けてもらっているのです。口ばかりでなく、社員の所得が増えなければ嘘ですよね。

―― 御社は今年度(2010年3月期)の上期も成長されています。価格の競合という要素で、昨年とは違いがあるようです。また在庫の圧縮も数字に反映されています。

加藤昨年度の上半期は、オリンピック需要で安売りし過ぎたというところがあります。そこで10月あたりから価格を軌道修正し、それから収益率が良くなってきました。今年度の上半期もその延長線上ですので良いわけです。

在庫の調整はあまり強力にはしていません。ケーズデンキは郊外に店がありますから、回転率は低く出るのです。都会の店は持ち帰りも少ないし、たくさん売れる。そんなに展示もできないから回転が良いわけです。ケーズデンキは郊外店ですから、持ち帰りも多く、在庫を用意しておく必要があるので回転が低く出るわけです。

ただその中で、自動発注などのしくみは以前からあって、商品本部が定数の制度のところも担当していました。しかし、仕入れは一生懸命やるけれど、一旦決めた定数のベースをタイムリーに見直すのは後手後手になっていたわけです。そこで、デンコードーさんなどと一緒になって商品担当者の人数も増えたので、定数だけを見直す係をつくったのです。

すると彼らの仕事はそこに集中できますから、自動発注の中身を見直して、これまで5あったものでも3で良いとか、10あったけれど8でも良いという風に定数を変えたのです。そうすると2個減らしたものでも300店分で600個減りますから、結果的に在庫が結構減ったのです。昨年より40店も増えているのに、在庫は減っている状況です。今迄いかに余分に持っていたかですね。

しかし私は、在庫は持っていて良いと思っています。回転が悪いとだめなのは、不良在庫ができるからです。しかし人気の品なら多いほど良いのです。メーカーが途中で切らしたりしても、たくさん持っていればしばらく売り続けることができます。ぎりぎりの数でやっていると、メーカーが切らした途端に売り損じが出てしまいます。

ケーズデンキでは、在庫が多くても、会社がちゃんと儲かっているなら良いのです。ちょっと暇になったら、そこをつめてみたらどうだろうかとやってみるのです。社員にはおおらかに考えさせています。

社員は大切にされているから
気持ち良く仕事ができる

―― 社員に提示する仕事の範囲をできるだけ単機能化させていますね。

加藤それが「明確にする」ということです。先程お話ししましたように、これまで商品部が仕入れをして定数を決め、見直しまでしていました。仕入れをして定数を決めるまではできても、メーカーさんはどんどん商談に来るし、見直しは後回しになってしまったわけです。しかし見直す係だけ別にしたら、その人はそれしか仕事がないのですから放っといてもやります。それが良い結果になったということです。単純でしょう。

―― 頑張らない経営のポイントはやるべきことを明確にすることだとわかりました。しかしそうは言っても、どうやって優先順位をつけ、やるべきこととそうでないことを分けていくか、これが実は難しいことなのでは。

加藤それは私や上司たちが、普段遊んでいて仕事をしないでいると見えてくることなのです。一生懸命忙しく仕事をしていたら、見る暇がないのです。私はほとんど、海外を含めたIRや、こんな風にインタビューを受けるくらいしか仕事がありません。ですから一般のお客様と同じ視点で、店へ行って、商品を選びにくい、買いにくいなど気付いたことを指示したりはします。

先程の在庫の話にしても、仕事の流れを見て、やることを新しく指示したりといったことをするのは私の役目です。できなくても良いけど、人数に余裕があるからやってみたら、と。そういう余裕が必要なわけですね。

しかし店頭に問題があったとしても、現場では私は絶対に指示しません。こういうチェーンオペレーションの店では、現場で指示してはいけないのです。その店だけ直ったとしても、他の299店は直らないのですから。しかもチェーンオペレーションですから、1ヵ所でだめだとしたら他も全部だめなはずなのです。

もし店頭で問題があっても、営業本部に行って「こうだったんだけど」としか言いません。「こうしろ」とは言わないのです。「こうだったんだけど」というと、相手が勝手に直してくれます。営業本部が直すわけですから、全体に直ります。これは私にとって手抜きで良いでしょう。

―― テレビ番組のインタビューで加藤社長が出演されたとき、お店のある販売員がお客様をレジに誘導して持ち場を離れたら、別の持ち場の販売員が走ってきてすぐそちらへフォローにまわる、担当者が戻って来たら元の持ち場へ帰るということを紹介していました。

加藤ああいうのは、私は指示していません。現場が勝手に考えてやってくれているのです。私もテレビを見て初めてわかったくらいです。ちゃんとやっていてくれるな、ありがたいな、と思います。

人は、言われない方が考えるのだと思います。私は日頃から、社員に細かいことは言っていません。お客様の言い分をよく聞いて対応しなさいと、そしてその場で儲からなくても良いと言っています。お客様が店のファンになってくだされば、いずれどこかで儲けさせてもらえます。

テレビ番組にも出るようになったのは、サブプライムローン問題があって以降、いろいろな企業が減益だというのにケーズデンキだけが増収増益ということで目立ってしまったからですね。出演したことでずいぶん宣伝効果もありました。だから安定成長というのはそういう意味でも役立っているのです。

―― ケーズデンキでは社是として「感謝・健康・親切と愛情・専門店の誇り・生産性の向上」ということを掲げられています。

加藤あれは父である名誉会長のつくった言葉です。あそこにすべてが凝縮されていますので、私らはそれを実行しているだけです。

―― ケーズデンキの強さは、会社の考え方が文化として社員全体に伝わり、根付いていることにあると思います。しかし成長し、新しい人材が入ったり、ほかの企業と統合したりすることで、ともするとそれが乱れてしまいがちだと思うのですが。

加藤そういうときに、考え方を一緒にするということをやっているのです。だから成長もゆっくりにしています。急に成長させ、先輩が育たないうちに後輩が来てしまうと、知らない人の下に後輩が付いてしまいますから考え方が途切れてしまうのです。

だから私は、つながる速度でなければ走らないということを実践しています。会社の規模の拡大に伴って25%成長を15%に落とし、10%に落とすというのも、つながる速度ということです。

社員に親切にするというテーマに対して、私はすべての店を回ってはいけませんから、ある方に頼んでそれを代わりにやっていただいたりしています。そうすることで、私が言わなくても伝わります。

記事でもいつも、ケーズデンキは社員を大切にしますと言っています。そうしないと社員は話を聞いてくれません。しかも口だけではだめで、社員のために私も実際いろいろとやっているわけです。

そしてこうして話して記事になったものを、社員に読んでもらうということもやっています。記事を社員に配ると直接しゃべらなくともすみますから、手抜きができます。

そうすると社員が勝手に働きますから、社長は何もしなくてもすむのです。売り場に行ってここを直せとか、私はやっていません。人の仕事を取ることになってしまいますからね。やっぱり社長の方が普通の社員より給料は高いですから、現場のことは社員がやって欲しいですね。

いろいろ言われると、現場は考えなくなってしまい、どうしたらいいんですか、と聞かれますよ。すると考えない癖が付いてしまいます。当社の場合は、社長は何もわからないから何とかしなくちゃ、と皆がしっかりやってくれます。ありがたいことだといつも思っています。

◆PROFILE◆

加藤修一氏 shuichi kato
1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。01年4月からは日本電気大型店協会(NEBA)の副会長を4年間務めた。“人”を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「頑張らない経営」で安定的な成長を続ける。