小島正彦氏

“撮る”だけではない写真の楽しさ、大切さ
その啓発と再構築で店頭活性化へ邁進する
富士フイルム(株)
コンシューマー営業本部 本部長
小島正彦氏
Masahiko Kojima

“デジタル一眼レフを凌ぐ高画質”を実現した「FinePix X100」の大ヒットで市場を活気づける富士フイルム。写真メーカーならではの強みを活かした入口から出口までの商品展開で、イメージング市場の活性化を力強くリードする。写真を撮るだけでなく、見ること、残すことの大切さが改めて注目される中で、6月に本部長に就任された小島氏に、市場創造へ向けての意気込みを聞く。

 

常に“カメラとプリント”という
流れの中で商品開発を行っています

市場活性化への
2つのタスク

── 本部長にご就任されました。改めて、現在のイメージング市場をどのように捉えているか。また、どのような点を課題として捉え、臨まれていくのか、お聞かせください。

小島 私には大きな2つのタスクがあると考えています。デジタル化を背景に、ショット数が格段と増える一方、写真にすることがめっきり少なくなってきています。ここに歯止めをかけ、もう一回反転させること。それが1つめのタスクになります。

写真は「撮る」「見る」「残す」という3つの要素、本能的な見方をすれば、「撮りたい」「見せたい」「残したい」という要素で成り立っています。写真というのは本能そのもので、人が感動をしたり、美しいものを見たりすると、思わずシャッターを切る。しかし、いつの間にか撮りたい≠セけになってしまい、旅行に行った思い出を喜びの輪の中で「見せたい」とか、家族や自分の人生の歴史をしっかりと「残しておきたい」というところが後退してしまっています。

プリントするお客様が減ってきたことから、写真店の数も年々減少していますが、ここを元気にしていくのが2つめのタスクです。そのためには色々な施策を打って、お客様にお店へ足を運んでいただくことが必要です。その施策こそが、魅力ある商品であり、キャンペーンであり、今後、さらに力を入れていきたいと思います。

── イメージング市場において、入口から出口までを有する写真メーカーとして、流通からの大きな期待も寄せられています。

小島 この秋・冬に向けては、「思い出を、カタチに。富士フイルム」をキャンペーンスローガンに掲げました。「カタチに」というのは、「プリントにして残しませんか」というメッセージです。堀北真希さんを起用したポスターも用意していますので、例えば、写真館でしたら家族写真のピーアールに、写真店さんなら店頭からより多くの方にメッセージを伝えるなど、ご活用いただければと思います。

このたびの東日本大震災で、私ども富士フイルムでは「写真救済プロジェクト」を立ち上げました。銀塩プリントは水に強く、洗うことができますので、自衛隊や消防の方ががれきの中から探し出された数々の貴重な写真を、私どもで洗ってキレイにして、アルバムにして、持ち主にお戻しするという活動で、今も続けています。

そうしてお届けできた写真を、何よりの宝物と喜んでいただくと、写真のビジネスとはなんとやりがいのあることか、また、これまで携わってき本当によかったと、改めて感じた次第です。

写真は、その場で見て盛り上がることはもちろんですが、時間が経てば経つほど価値が出てくるものです。3月11日の東日本大震災により、世の中の様々な面において仕組みが大きく変わりましたが、写真に対する取り組みについても、そうしたことを踏まえながら、秋冬商戦でも写真の大切さを伝えていきたいと思います。

来店頻度を高める
写真への多彩な接点

── 秋から冬にかけては様々な切り口からの販促プロモーションをご用意されているようですね。

小島 まず、大きなビジネスになるのが年賀状です。「一番の笑顔を年の初めに送りませんか」というメッセージを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。年賀状で笑顔の輪を広げていただくために、家族でお楽しみいただける10万円分の旅行券などが抽選で当たる「ハッピースマイルキャンペーン」を併せて開催します。

フォトブックにも新商品を投入します。プリントする楽しさを伝えるために、これまでのLサイズプリントに加え、フォトブックの展開に力を入れていますが、10月から新たに、上製本・単行本スタイルのハードカバータイプ「フォトブックハードカバー」を導入し、大々的に展開していきます。

同時に、フォトブックでは、つくっている途中に挫折してしまうケースが多いことが課題のひとつとなっていることから、今回は、お客様には写真を選んでいただくだけで、後はレイアウトから編集までお任せできる、フォトブックを簡単につくれる仕掛けも導入していきます。

新しい試みになるのが「アルバムカフェ」です。主に子育てのお母様を対象に、お茶を飲む感覚で皆さんに集まっていただき、写真や文字を切ったり貼ったりしてつくるアルバムづくりの楽しさを体験いただこうというものです。すでに、伊勢丹さんやワシントンホテルさんにもそうした場所をご提供いただくなど、写真やアルバムの価値を認知いただくための積極的な活動をスタートさせています。

また、これまであまりきちんとアピールできていなかった、たくさんの画像をランダムに1枚にまとめて楽しめる「シャッフルプリント」を、「今年1年間の思い出を1枚のプリントにまとめてみませんか」という切り口から訴求していきます。

── お客様の知らない色々な写真の楽しみ方があります。デジタルカメラだけでなく、それも同時にお伝えしていかなければなりませんね。

小島  富士フイルムの写真ビジネスの中で、エポックメイキングな商品がいくつかあります。そのひとつ、「写ルンです」が誕生してから25周年を迎えました。デジタルカメラの登場で総需要は確かに減少していますが、海外旅行やイベント会場などではいまだに根強い人気があります。まさに、写真の楽しさの原点のような商品で、25周年を記念したキャンペーンで改めて注目度を高めていきます。人気ファッション誌とコラボした「写ルンです」で撮った写真で応募するフォトコンテストでは、入賞者が1日読者モデルになれるなど、若い世代にも写真で残す大切さに注目してもらいたいと思います。

一方、登場から13年目を迎えたインスタントカメラ「チェキ」は、かつて大きなブームをつくりましたが、現在も世界で唯一、撮ったその場ですぐ写真ができる商品となります。その魅力を改めて訴えていきます。カードサイズのプリントに文字を書き込むことができ、実は、さきほどの「アルバムカフェ」で対象としたお母さんは、10年以上前にチェキを楽しんでいた世代で、写真をとても身近に楽しんできた世代なんですね。

お客様をお店に誘導するのが私どもの役割。来年へ向けて、より使い勝手のいいインスタント写真・チェキの商品化も計画していますし、フォトブックの申し込みも、さらに簡便なものを次々にやっていきたいと思います。

ステージを押し上げた
X100の大ヒット

小島正彦氏── 入力に当るデジタルカメラの展開をお聞かせください。

小島 お陰様で今年に入ってから大変好調です。その大きな要因がX100の大ヒットです。35oの固定焦点レンズとAPS-Cサイズのセンサーを一体開発することで、デジタル一眼レフを凌ぐ高画質を実現しました。X100が大変高い評価を獲得したことで、「富士フイルムのデジタルカメラは高画質である」というシャワー効果も出て、F550EXRもヒットしました。その後継機になるF600EXRとスタイリッシュなZ950EXRの2つの新商品を中心に、この秋は展開していきます。10月以降にはX100に続く、Xシリーズをシリーズ化する新商品を計画しています。

── すでに海外でX10として発表され、大きな注目を集めていますね。

小島 国内では10月に入ってから正式発表し、10月中の発売を予定しています。X100に対してはお客様にもいろいろな声をいただき、中でも、「ズームレンズを付けてほしい」というご要望を数多くいただきました。あくまでも基本的な考え方は、固定焦点で一体となったセンサー開発による高画質なのですが、そうした声にもお応えした商品化ということで、X10として投入して参ります。

独自の強みを前面に
市場の期待に応える

── 冒頭におっしゃった「見せたい」「残したい」を、デジカメ世代の若い人を中心に、一人でも多くの人に知っていただきたいですね。

小島 写真店の数は年々減っていますが、反対に、「どこに行ったらプリントしてくれますか」という問い合わせも増えています。これまでは、プリントといえば写真店でしたが、最近では、家電量販店さんに足を運ばれるお客様が圧倒的に多いですから、足を運んだついでに、入口横やエスカレーター横などで手軽にプリントできる端末機の導入にも力を入れています。

── 大切な画像データを保管できる「マイフォトボックス フォトプレミアムサービス」を新たにスタートされました。

小島 大切な画像データをお預かりすることももちろん大事なのですが、月額390円の利用料金で、1年ごとに、新たにアップロードされた画像データを書き込んだDVDをお届けしたり、「フォトブック」のクーポン券を半年ごとにお届けするなど、最終的にはプリントして残すということを普及させたい。そうした仕掛けをしたクラウドのサービスになります。

── 市場ではスマートファンも勢力を拡大してきました。

小島 国内の年間ショット数は1億を超えるとも言われていますが、思わず写真を撮るという行為では、スマートフォンの普及はまた大きな意義があります。さらに、「よりキレイな写真で撮りたい」という願望は誰にでもありますから、ステップアップしようしたときに、それをキャッチアップできるデジタルカメラとはどういうものなのか。そうした商品の開発、提案が大事になると思います。

デジタルカメラに対しては、お客様が今、どういうニーズをお持ちかを、常に、商品を出した後にフィードバックし、改善するべきところは改善しています。また、時代とともにニーズはどんどん変化していますから、やるべきことはまだまだあります。さらなる画期的な商品開発ができると思います。

富士フイルムのデジタルカメラは、プリントしたときの高画質というのが最大の特徴のひとつです。デジタルカメラに搭載された液晶画面やテレビにつないで見るなど、写真には様々な楽しみ方がありますが、プリントで見た時に一番差が出ます。その厳しい条件の中で、最高画質を出していくのが他社とは違うところ。常にカメラとプリントという流れの中で、商品開発を行ってきています。

レンズも自社開発、CCDやCMOSのセンサーも自社開発、その間に入る画像処理技術も自社開発と、一貫して自社で開発できるカメラメーカーも限られていますが、富士フイルムはそのなかの数少ないメーカーのひとつでもあります。

今後も、市場の期待にお応えできるよう頑張って参りますので、入力から出力まで、わたしども富士フイルムのビジネスにご期待いただき、商売につなげていただきたいと思います。

◆PROFILE◆

小島正彦氏 Masahiko Kojima
1951年生まれ、東京都出身。1974年慶応義塾大学卒。1974年富士写真フイルム株式会社入社。光機部、札幌営業所、宣伝部課長、プロフェッショナル写真部業務課長を経て、2002年札幌営業所所長、2004年富士フイルムイメージング北海道支社支社長を経て、2011年6月、富士フイルム株式会社コンシューマー営業本部本部長に就任。趣味は写真撮影、音楽鑑賞、ゴルフ。

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