- 三本柱に肩を並べる“暮らしのIoT”に注力
地域に密着したサポート力が大きな強み
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イッツ・コミュニケーションズ株式会社
代表取締役社長
- 高秀 憲明
Noriaki Takahide
地域コミュニティとの強い結びつきを背景に、テレビ、インターネットなどによる情報発信、インフラ提供、さらには生活を便利にするスマートホームサービスまで、ますます高度化する多彩なサービスにより、地域に密着した安心快適なライフスタイルをお客様に提供するケーブルテレビ局。その意義が大きく進化し、注目度が高まる中、1987年に開局した「イッツコム」が2017年に開局30周年を迎えた。新たなステージを目指し、お客様の豊かな生活環境を創造する先進的な取り組みを提案するイッツコムの取り組みを高秀憲明社長に聞く。
インタビュアー/佐藤和俊 放送アナリスト、竹内 純 Senka21編集部長 写真/柴田のりよし
ケーブルテレビ事業の
成長を司る四本目の柱
コンテンツの視聴環境が大きく変化していま
す。スマートフォンの台頭によりネット動画の視聴が伸長、若者のテレビ離れが加速しています。ケーブルテレビの事業への影響をどのように見ていますか。
高秀イッツコムでも、テレビだけでなく、パソコンやスマートフォン、タブレットなどのマルチデバイスで、いつでもどこでも外出先でも見たい時に楽しめる「milplus(みるプラス)」という映像配信サービスを2017年5月のFTTH(光ファイバー)化を機に提供していますが、現在はまだ、お客様からの強いニーズを実感するには至りません。ただし、これからはテレビの番組表に束縛されることなく、いつでもどこでも見たい時に見るという流れがさらに強まっていくことは間違いありません。市場ニーズの変化を注視し、対応したサービスの拡充にも力を入れていきたいと思います。
2018年は平昌冬季五輪やW杯サッカーロシア大会などビッグイベントが控えています。
高秀スポーツというコンテンツが備える“リアルタイム”の臨場感・緊迫感は何者にも代え難い大きな魅力です。一方、スポーツのビッグイベントの効果で加入者が大幅に拡大するという話については一昔前のものとなりましたが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに関して言えば、「4K」という新たな切り口があり、ケーブルテレビにとっては大きなチャンスになると捉えています。
家電量販店のテレビ売り場をのぞくと、40V型以上の大型テレビのほとんどが4Kパネルを搭載しています。これから2011年、地デジ化の際にテレビを購入された方の買い替えのタイミングに入っていきます。買い替えるのであれば、後悔のない満足のいく買い物をしたい。そこで、よりきれいな映像が見られる高精細テレビ=4Kテレビが大勢を占めてくることが予想できます。
「同じコンテンツでも4Kテレビで見ると段違いにきれいに見られる」という驚き、さらには、4Kでしか見られないコンテンツがどんどん充実してくることになれば、勢いにもさらに拍車がかかります。その時に、「うちでも4Kを見たいのだけれど、どうやって見ればいいの?」というお客様の疑問に対し、ケーブルテレビ局が見られる環境を提供できる力強い存在でありたいと思います。東京オリンピック・パラリンピックが、4Kへの関心を急速に高める契機となることを大いに期待しています。
御社では「モバイル」「エナジー」などサービスを多様化され、特に「イッツコム スマート」のコンセプトで、暮らしのサポートサービスに注力されています。お客様の生活の中でのケーブルテレビの存在感、今後のケーブルテレビ事業の在り方をどのように見ておられますか。
高秀これまでケーブルテレビ会社は、「テレビ(多チャンネル)」「インターネット」「電話」の三本柱で事業を進めてきました。しかし、さらにエリアが拡大し、加入者が増加することが望みにくくなった今、会社を成長させていくドライバーとなる四本目、五本目の柱が必要です。私どもではそこに「スマートホーム事業」を位置づけ、2015年2月より、スマートフォンやタブレットを使って家の中を自由にコントロールできるIoTサービス「インテリジェントホーム」の提供をスタートしています。
今後、IoTは爆発的な普及が予想され、私どもでは“暮らしのIoT”を標榜し、その普及・推進に向けた取り組みの中核サービスとして「インテリジェントホーム」に取り組んでいます。いろいろなIoTサービスが世の中に出始めましたが、そつなく使いこなせるITリテラシーの高い方はほんの一握りに過ぎません。提供されるIoTサービスを使いこなし、享受するには、お客様に対するサポートが不可欠となります。工事力とサポート力を備えたケーブルテレビ事業者は、そこに一日の長がありますから、暮らしのIoTに適応した社会が進展していく中で、その流れを三本柱と肩を並べる太い四本目の柱にしていくことができると確信しています。
10月からは話題のスマートスピーカー Google Homeと連携したサービスもスタートされました。
高秀タブレットやスマホなどの操作に加え、より手軽に音声での操作が可能となりました。IoTはどんどん進化していきますが、現在、提供しているインテリジェントホームは、宅内のセンサーが反応したら、登録したスマートフォンにメールが来る不審者対策、お子さまが帰宅した時に玄関が開いたら写真を撮ってスマートフォンに映像や画像がメールで送られる見守りなど、防犯や見守り用途が中心です。今後は“便利”“楽しい”という面を含め、IoTの様々な可能性を進化させていきます。
サポート力やコミチャンのような、地域力で差別化できる新サービスとして活路をみいだしたい
家ナカ<Tービス強化へ
グループの中核を担う
サービスの多様化・高度化や4K放送などの高精細映像放送など、次世代サービス提供へ向け、全長3248qにおよぶエリア内のネットワークインフラを、現行のHFC(光同軸ハイブリッド)方式からFTTH(光ファイバー)方式へ移行することを2016年11月に発表されました。進捗状況をお聞かせください。
高秀2017年4月に着工し、2年間での完工を目指して工事は順調に進行しています。2018年12月には新4K8K衛星放送が始まります。そのタイミングにはサービスエリアのかなりの部分を光ファイバーでカバーする計画です。5月より、工事の完了したエリアから順次、「イッツコムひかり」としてご案内を進めています。
ただし、私どもがサービスを提供する約90万世帯のお客様のお宅すべてに、光ファイバーを利用したより高速で安定したサービスをお届けしていくまでにはもう少し時間がかかります。とりわけ、既存のマンションをはじめとする集合住宅の場合、宅内の配線や機器が未対応のままでは、ハイスペックなサービスをお届けできません。個別にご相談をしながら、進めて参ります。
大変手間暇はかかりますが、その一方、サービスが進化・多様化する中で、お客様に新しいサービスを説明する接点が創れる貴重なチャンスにもなります。
高秀例えば集合住宅で棟内すべてを光ファイバー対応へできなくても、いろいろな機器を交換することで、よりハイスペックなサービスを実現することができます。その際、お客様のお宅にお邪魔をして、テレビ端子を交換するといった作業も必要です。「インテリジェントホーム」をはじめとする新しいサービスをお伝えしていく機会として大切にしていきたいですね。
ケーブルテレビとお客様との距離感がぐっと縮まってくる印象がありますがいかがですか。
高秀われわれ東急グループの中でも、個人のお客様のお宅まで伺い、玄関を開けていただける商売をしている会社は数えるほどしかありません。セキュリティ会社の東急セキュリティや東急電鉄が手掛けるコンシェルジュサービス「東急ベル」などがありますが、事業規模や顧客数の面から、私どもイッツ・コミュニケーションズがグループの代表格と言える存在です。
東急グループではいろいろな商業施設を有し、さまざまな“街ナカ”サービスの事業を行っていますが、“家ナカ”サービスについてはまだこれから。今後、お客様の顔が見えるわれわれが窓口となり、他の事業と連携しながら取り組みをより強化して参ります。
地域密着≠ニいうキーワードから、ケーブルテレビの大きな特徴のひとつである「コミュニティチャンネル」の意義も見直されてくるのではないでしょうか。
高秀コミュニティチャンネルについては、都市部と比較して、ローカルのケーブルテレビ局さんの強さが目を引きます。地方ではコミュニティチャンネルを見たいからケーブルに加入しているお客様も数多く、他社さんへの乗り替えを薦められても、「コミュニティチャンネル見られなくなるから」と断られるケースも珍しくないと言います。
イッツコムのコミュニティチャンネルは、残念ながらまだまだ力不足。サービスエリアが東京、横浜、川崎の12行政区にまたがることもあり、広く薄い内容にせざるを得ない事情もあります。しかし、それを言い訳にすることはできませんし、地方に限らず、都市部でも強いところはあります。「コミチャンを見逃せない!」。お客様にそう言っていただけるよう、“コミチャン力”にもさらに磨きをかけていくことは、大事なテーマのひとつと考えています。
とりわけ、3・11以降、防災・減災に対する危機意識が高まっています。コミュニティチャンネルについても特に最近感じるのは、行政の見方が大きく変化してきていること。これまでは、「地域の祭りやイベントを紹介するメディア」という捉え方が一般的でしたが、それが、防災や災害発生時の情報伝達手段として存在がクローズアップされています。
私は前任地が「ケーブルテレビ品川」なのですが、そこは品川区も出資いただいていることもあり、一区一事業者というきれいなカタチができあがり、東日本大震災の際には、品川区長が防災服を来て、コミュニティチャンネルから市民にメッセージを発信しました。さすがに地上波のニュースでは「今、品川区では…」というわけにはいきませんから、そうした部分を補完するのがケーブルテレビの役割となります。
イッツコムでは2015年4月から、身近な地域情報を楽しめるだけではなく、利用者自らが日常の情報を動画で投稿したり、災害の際にも被災情報を写真で投稿して他の利用者と情報共有したりできるコンテンツアプリケーション「LiDi(リディ』」を提供しておりますが、大変好評です。「いざというときにケーブルテレビがないと困る」と地域の皆様に思っていただける存在でなければなりません。
家電量販店や地域電気店にとっても、今後さらに重要になる地域密着のテーマからも、強力な商材であり、また、力強いパートナーですね。
高秀ネットで物を買う消費行動がますます広がっています。説明商品でもある家電では「ショールーミング」という言葉も耳にするなど、リアル店舗の意義・役割が問われています。そこでの対抗手段、また、すでに生き残り、勝ち抜かれているところの強みとされているのが「サポート力」ではないでしょうか。
今後、サポート力を大きな強みとして前面に打ち出し、勝負していくケーブルテレビとは、一見ライバル関係のようにも思われますが、そうではなく、同じ街で商売を営む者同士、より強固に連携していくことでプラスαの強みを創造していけるのではないでしょうか。“暮らしのIoT”の普及・推進についても、電気店さんと連携した取り組みを進めていけるのではないかと思います。
もはや一年一年が真価を問われる勝負の年ですね。
高秀インターネットを使って全国を相手に商売をされるところと価格勝負をするのではなく、我々の持ち味であり、強みであるサポート力やコミチャンのような地域力で差別化していかなければ、今後、ケーブルテレビの活路は見いだせなくなる。そうした危機意識を強く持ち、取り組んで参ります。
本社受付横に設けられた「インテリジェントホーム」の体験スペースを説明する高秀社長。東急百貨店東横店(渋谷)西館2Fの「IoTスマートライフステージ」では、2018年3月29日までIoT体験イベントを開催。イッツコムスポット各店でも体験できる
◆PROFILE◆
高秀 憲明 Noriaki Takahide
1984年4月 東京急行電鉄株式会社入社、2005年4月 イッツ・コミュニケーションズ株式会社 経営統括室長、2007 年6月 執行役員 経営統括室長、2008年4月 東京急行電鉄株式会社 経営統括室経営企画部 統括部長、2011年7月 経営管理室経営企画部統括部長、2012 年7月 生活サービス事業本部事業推進部 統括部長、2013年4月 株式会社南東京ケーブルテレビ( 現 株式会社ケーブルテレビ品川) 代表取締役執行役員社長、2015年4月 イッツ・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長、現在に至る。