- メーカーにしかできないことに挑戦して
新たな気づきを得る体験の場をつくる
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ハーマンインターナショナル株式会社
コンシューマーオーディオ事業部 事業部長
- 御子柴 正武
Masatake Mikoshiba
ハーマンインターナショナルにて昨年11月、コンシューマーオーディオ事業部長に就任した御子柴氏。以来お客様との接点づくりに精力的に取り組み、この夏新たに「ハーマンサウンドキャラバン」の展開を開始した。新たなお客様創造を喫緊の課題とし、さまざまな取り組みにチャレンジしていく御子柴氏が、力強く意気込みを語る。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長、押野由宇 ファイルウェブ編集部 写真/君嶋寛慶
独自の展開による
体験イベント発進
御社では昨今、お客様接点の新たな取り組みとして、「ハーマンサウンドキャラバン」と銘打った試聴イベントを推進されています。
御子柴我々が抱える多くのブランドや製品の魅力について知っていただく試聴体験イベントは、非常に重要だと考えています。日本オーディオ協会のOTOTENをはじめ、大阪ハイエンドオーディオショウ、オーディオフェスタ・イン・ナゴヤなど、毎年大きなオーディオショウが開催されており弊社も出展しています。また、全国各地で販売店様が主催する試聴会などにも弊社は積極的に参加させていただいておりますが、他社様と合同出展ですのでどうしてもスペースや試聴の時間に制約があり、せっかくご来場いただいたお客様に対して、我々の製品やブランドの魅力を伝えきれていないのではないかと常々考えていました。また会場まで来られないお客様もいらっしゃる。
私は1年前に営業本部長に就いた当初から何かできないかと考えてきて、我々が自ら製品をもって全国に出向き、地域に密着したお店でお客様に思う存分楽しんでいただく機会をご提供しようと思い至りました。これを営業のスタッフと共有し、イベントの企画としてアイディアを練り、「ハーマンサウンドキャラバン」と命名したのです。
どのような内容でしょうか。
御子柴制約があって弊社のブランドや製品の魅力を十分に知っていただくことができなかったことをやろう、多くの製品をお持ちしてお客様にゆっくりご体験いただこうと考えました。そこで、アナログプレーヤーが加わって音の入口から出口まで揃った「Mark Levinson(マークレビンソン)」のフルラインナップと、Mark Levinsonの魅力を余すところなく伝えるスピーカーである「REVEL(レベル)」の製品を、さまざまに組み合わせて聴いていただくこととしました。
音楽をたっぷり聴いていただくことはもちろん、それぞれのブランドを深く知っていただくための詳しい解説の時間も設けます。こうしたことを2時間ほどのコアタイムに実施し、それ以外の時間はフリーとします。だいたい週末の2日間を使って、販売店様の開店から閉店まで滞在して展開します。販売店様に話を致しましたところ、思った以上にご賛同をいただきました。すでに順次活動が始まっており、年末に向けてかなりの予定が入っております。
Mark LevinsonとREVELに特化した内容ですね。
御子柴ハーマンインターナショナルでは約5年前に、トッド・アイケンバウムという優秀なエンジニアをMark Levinsonのエンジニアリーダーとして迎え入れました。彼の主導のもと、従来培ってきた技術を継承しながら新世代のMark Levinson 500シリーズの開発が始まり、それからの5年間で8機種の商品を発売することができました。さらに昨年末はNo515というブランド初のレコードプレーヤーも発売し、Mark Levinsonブランドで音の入り口から出口まですべてのラインナップを揃えることができました。そんな500シリーズをフルにお聴かせする機会をぜひ全国で実現させたいと手ぐすね引いていました。
REVELは、ハイエンドオーディオの雄・Mark Levinsonの音を再現するために自社で立ち上げたブランドです。タイミングが良く、今年の秋にREVELの新商品PERFORMA BeというPERFORMA 3シリーズの上位モデルを発売します。アメリカではフォードの高級車ブランドであるリンカーンに搭載されるなど成功を収めていますが、日本での知名度はまだまだ。この機会にぜひご体感いただき、皆様に知っていただきたいということです。我々が自信をもってお届けする2つのブランドの組み合わせです。
まずはこうした展開としましたが、今後お客様や販売店様の声をお聞きし、JBLのスピーカーを加えた展開も考えられるかもしれません。REVELの音を聴いたことがないお客様にとっては、聴き慣れたJBLの音と比較してより特性を実感したいといった思いもおありでしょう。お店にJBLスピーカーがあれば活用させていただきますし、今後はJBLをお持ちすることも含めて、柔軟にアレンジしていきたいと考えております。
たくさんの新しい情報に触れられそうですね。
御子柴この取り組みは我々一社で主催するものですから自由度も高い。この機会に移動用のトラックを仕立て、JBLのロゴを全面に配して目立たせたデザインをラッピングして日本全国を走ります。搬入でお店に横付けしている時に気に留めていただく、またトラックを見るためにお店に来ることにもつながればと期待しています。各地でこれを見かけた方と、SNSなどでコミュニケーションをとる手段も考えたいですね。いろいろとチャレンジして、今までにない面白さも追求できると思います。まずはお客様に良質な音、感動の音を体感していただくことが第一。ひとりでも多くの方に体験していただくことを基本に、さまざまな取り組みを繰り出したいと考えています。
市場創造とお客様創造を
責任を持ってやりぬく
製品のスペックを紹介するに止まらず
お客様がどう楽しむかをお伝えしていく
お店の方々の反応はいかがでしょうか。
御子柴5月に1店様で実施致しました。7月以降は順次8店様での実施が決定しており、今年末までほぼ毎週末のスケジュールが埋まっている状態です。我々の営業スタッフがご説明しているのですが、販売店様からこれほどご賛同いただけるのは驚きでした。販売店様からぜひにとお声掛けいただいており、お客様といろいろな形で接点を持つことの重要性を強く感じています。販売店様だけでは実現させることが難しい部分も、メーカーが主体になることでフォローさせていただけると思います。今後この取り組みが進むに連れて、さらにこうしてみたいとか、もう一度やりたいとか、そんなご要望が出てくることも期待しています。
何より大事なのはお客様目線。お客様に喜んでいただけることは何かということの追求です。売上げは我々の都合であって、そこが優先されるとお客様は喜んでくださいません。そしてお客様に対する我々の取り組みで、販売店様が間に入っていただけるのはありがたいこと。販売店様と一緒にやらせていただくことは非常に大事だと思います。またこれが他のメーカー様にも刺激になればと思います。我々一社だけでできることは限界がありますから、今後はいろいろなメーカー様と組んだ取り組みにもぜひチャレンジしたいですね。当社の製品と、他社様の製品を組み合わせるとか。ご賛同くださるメーカー様があれば、ぜひご一緒したいです。
いろいろな可能性が広がりそうです。
御子柴私は常々、メーカーは新しい商品を開発、発売して新しい市場を創造する責任があると考えていますし、特にハイエンドオーディオの市場では、お客様の創造も重要なことと認識しています。音楽を楽しむ方は今非常に多くいらっしゃって、聴き方もハードウェアに求められるものも多岐にわたります。昨今は楽曲のストリーミングサービスが充実してきましたし、レコードの売上げも復活しております。また、イヤホンではブルートゥースモデルが市場の50%を超えるなど、新しいものが次々に出て、マーケットが大きくなっています。そこに加えてお客様創造を我々も一緒にやっていく。「ハーマンサウンドキャラバン」は、その手段のひとつです。
メーカーとしては新製品を発売する際に、製品のスペック競争や他メーカーの製品との比較に止まってしまう危険性がおおいにありますが、それではいけない。その製品をどう使うか、どう楽しんでいただくか、お客様に気づきを持っていただくところまで踏み込むことが大事だと思っています。そして、我々の持つ製品でもまだまだお客様に伝えきれていない内容がたくさんあります。お客様と直接コミュニケーションをとる機会を数多く持てれば、ネットやカタログの情報に止まらない新たな気づきを得ていただけるかもしれない。そして我々もまたそうした取り組みを通じて、お客様との接し方や情報を伝える術をブラッシュアップしていけるのではと思います。
また「ハーマンサウンドキャラバン」は言わば我々の持ち込み企画ですから、弊社のホームページなどで告知致します。そのお店様の従来の顧客ではない、新しい方に足を運んでいただくことにもつながる可能性があります。新規顧客の開拓、獲得手段として販売店様にとってもメリットになると思います。
新しいお客様をつくるには、やはり仕掛けが必要です。特に若い方や女性に働きかけることが必要だと思います。「ハーマンサウンドキャラバン」はこのようなかたちでスタートしていますが、今後はたとえば食事をしながらとか、あるいは高級オーディオに囲まれたホテルでの宿泊とか、いろいろな仕掛けづくりにもチャレンジしていきたい。新しいお客様に楽しんでいただくきっかけをつくることを、メーカーの責任として取り組んでいきたいのです。たとえば商品のスペックなどには触れず、ワインを飲みながらいい音を聴くとか、いろいろなシチュエーションで音楽やオーディオに触れていただくようなキャラバンもいいですね。とにかく体験していただかなくては、感動が伝わりません。商品にフォーカスして行うのもいいですが、新しいお客様にとってはハードルが高いと思われる場合があります。とにかくまず体験していただくためにハードルを取り払うようなことをいろいろとチャレンジしていくことが大事だと思います。それはメーカーにしかできないことだと思うのです。
以前はオーディオ専門店や専門誌とかカタログくらいしか情報源がなく、お客様も貪欲に情報収集してくださいましたが、今はネットもあり、量販店様の店頭にもオーディオがあり、情報がたくさんあって取捨選択が難しい時代です。お客様とのコミュニケーションの方法も変えていかないと、興味を持ってくださった方にリーチする、それ以前にまず興味を持っていただくことが難しい。何をしたら新しいお客様をつくれるか、それはメーカー挙げて推進していかなければいけないことだと思います。
我々の思いをかたちにしたのがこの「ハーマンサウンドキャラバン」です。もちろんこれが絶対的な正解ではないですし、それはこの先もずっと追い続けるものだと思います。手を変え品を変え、お客様や販売店様のご意見をお聞きし、チャレンジし続けることが大切だと思います。
新たな提案には
新たな接点が必要
ラグジュアリーオーディオ以外の昨今のお取り組みは。
御子柴今年4月に首にかけて音楽を楽しむタイプの「サウンドギア」というスピーカーを投入したところ、これが今飛ぶように売れております。ブルートゥース対応で、キッチンで家事をしながらテレビの音を聴くとか、テレビの音響を耳元で聴きやすくするなどいろいろな使い方ができます。これは量販店様中心の販売ですが、各法人様も久しぶりに育ててみたいカテゴリーだと手応えを感じてくださっています。このような新しい商品は、使い方をどんどん提案して発信していかなければと思います。お客様接点の場となるのはやはり店頭ですから、週末にセールスが店頭に立って説明させていただく機会をいただいています。
体験していただくことがどれほど重要か、その鍵となるのはやはり人と人との接点。何であるかがわかるものはネットでも買えますが、新しい商品は見て、聴いて、触れるアクションがなければ購入していただけません。お客様と触れ合って、商品をわかっていただく場は何よりも大事です。我々がビジネスを展開するカテゴリーは、ラグジュアリーオーディオとポータブルオーディオの両輪。その双方でお客様接点を増やし、積極的に活動して参ります。
◆PROFILE◆
御子柴 正武 Masatake Mikoshiba
1992年 ソニー(株)入社、「ウォークマン」「サイバーショット」「VAIO」「ソニーtablet」など、主力製品のマーケティングを担当。2007年 会員サービスを一元化した「My Sony Club」立ち上げプロジェクトで陣頭指揮を執る。2014年5月 ハーマンインターナショナル(株)入社。マーケティング&オペレーション部門長、営業本部長を歴任し、2017年11月より現職。