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室井利夫

聴いて想像するからこそ面白い。だから私は、
オーディオはアクティブな趣味だと思うのです。
アクシス株式会社
代表取締役社長
室井 利夫
Toshio Fukuda

海外ハイエンドオーディオのさまざまなブランドを取り扱うアクシス。年末商戦に向け、新導入「FYNE AUDIO」の製品群を始め精力的な展開を図る。代表取締役社長の室井氏が、同社の30年の取り組みや自身の原点を振り返り、あらためて強い意気込みを語る。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集人  写真/柴田のりよし

オーディオ好きが原点
お客様を喜ばせたい

室井さんには本誌に初めてご登場いただきます。アクシスを設立されて30年ということですが、オーディオに対してどんな思いで携わって来られたのでしょうか。

室井まずオーディオが好きだということです。中学生の頃、年の離れた姉が置いていったコンソール型の、スピーカーとアンプがくっついたステレオシステムで音楽を聴いてみたんです。ラジオくらいしか聴いたことがなく、ステレオの音に驚いて感銘を受けた。それが原体験になったと思います。真空管の三極管などを使った出力も5Wほどのアンプとか、ミカン箱にユニットを入れたスピーカーを作って鳴らしたら、これまた思いもかけない音がして心を掴まれる。そういう風に引き込まれたんですね。それが高じてこういう仕事をしているのです。アクシスの前はBSRジャパンという会社で、輸出関係を含めオーディオの事業に携わっていました。

当時から海外の製品に触れる機会が多かったのでしょうか。

室井個人的に趣味としてやって来たオーディオは日本メーカーのものばかりでしたが、仕事で海外製品にも関係してきました。海外の製品は独特な個性を持っていて、万人に合うものではないと思います。しかしオーディオは趣味ですから十人十色の好みがあり、それぞれの好みの製品が求められます。それで私の好みに合うオーディオが、海外にあったということだと思います。そういうものを輸入したい思いがあって、オーディオの仕事を始めた。趣味の延長線上に仕事がある感じで、これほど幸せなことはありません。

どういう観点でブランドのお取り扱いを決められますか。

室井海外から製品を持ってくる時は、自分の好みがベース。自分で使いたいか、そしてお客様に喜んで使っていただけるか。日本に持って来るのが嬉しく、最終的にお客様に喜んでいただけるのが嬉しいのです。音はもちろん、外観も吟味します。何とか手軽な価格のものをと思いますが、いいものはやはり高くなってしまいますね。そういういいもののよさをお伝えするためにも、日々努力しています。

製品を探すのは、ヨーロッパのミュンヘン、ラスベガスのCESなど世界各国で開催されるハイエンドオーディオの見本市が基本。さらにアクシスを30年間続けさせていただいている中でできたつながりが大きく、国内や、特に海外の代理店さんを通じてブランドを紹介していただいき、情報をいただいた中で自分なりに判断していきます。いいものはもちろん、簡単には見つからないです。

アクシスを設立した時はラッキーでした。30年前ラスベガスのCESで、たまたまWADIA DIGITALと出会った。当時出始めていたDAコンバーターですね。アルミの削り出しで外観も非常に美しく、素晴らしいつくりで、音を聴く前に一目惚れでした。会社を設立したばかりで何かハンドリングするものが欲しかったですから、ぜひ扱わせて欲しいと申し出ました。それからFM ACOUSTICSも同じタイミングで取り扱いを始めました。国内の有名なアーティストを始めプロの方々が使って、素晴らしいアンプだと言っておられた。

こうして2ブランドの取り扱いを始めましたが、ご存じのとおり高価な製品です。けれども販売店の皆様にいいじゃないかと認めていただけた。2つのブランドがきっかけで、本当の意味で会社が始まったんですね。たまたま出会い、力強い存在になったのはありがたいことです。FM ACOUSTICSは今でも当社のメインプロダクトとして輸入販売をさせていただいています。

30年前は、オーディオの市場も今とは違いますね。

室井当時の市場は右肩上がりで、世界のいろいろな製品を吟味してお持ちすれば売れた時代でした。そのあとイギリスからACOUSTIC ENERGYも持って来ましたし、今とは比べ物にならないほどものが動いた。オーディオ好きのお客様がたくさんおられて、まだお若かった。当時私も36歳、ハイエンドのお客様は40代〜50代やその上の方々が中心、販売店の方も同年代でしたね。その頃はオーディオや車がひとつの趣味として確立されていて、憧れをもって欲しいと思われていました。今は多趣味の時代でオーディオだけに当時のような時間と労力、資金を費やすお客様は多くありません。しかし当時、おかげさまでそういうお客様に恵まれました。製品にも、そしてもちろん販売店にも恵まれました。そうでないとここまで続けては来られなかったです。

販売店、メーカーと
築き上げた信頼関係

室井利夫
製品をいいねといってお客様に紹介していただけるのは
販売店が当社を信じてくださっているからこそ

販売店さんとどんなお付き合いをされていますか。

室井販売店とのおつきあいはBSRの時代からありましたし、特約店様はほとんど当社の設立の頃からのおつきあいです。私と当社の何人かのメンバーで訪問し、お願いをさせていただいて商品をお取り扱いいただく。電話は毎日頂戴していますし、ビジネスだけに止まらない深いおつきあいの販売店もたくさんあります。

オーディオは生活の必需品ではありません。しかし人間は食べることだけでなく、趣味や遊びを持たないと生きていられないところもありますね。そういう趣味のものを販売するのには、人間的なおつきあいや互いの信頼が必要です。いいものを持ってきましたから聴いてください、と言って聴いていただける、いいねといってお客様に紹介していただける。それは当社を信じてくださっているからこそだと思います。

そういう中で商売は成り立つもの。信頼のお付き合いがなければ、どれほどいいものを持って来ても難しい。サービスもプロモーションも含めて信頼していただけない限りは、販売店で単純に扱っていただけるものではありません。日本にまだないものをご紹介する時、海のものとも山のものともしれないものを持って来てご販売店に買っていただくわけですから。そういう中で商売を長くやらせていただいている、それは我々にとって一番の宝だと思います。お客様にとってもしかり。アクシスが持って来たものだからと言ってくださるお客様もいらっしゃりありがたいことです。そこに至るには長い時間が必要で、サービスもプロモーションもきちんとやるのは当然のこと。お客様、販売店を大事にして適正な価格で導入販売する。その積み重ねがあっての今日だと思います。

まずいい製品を持って来て振り向いてもらい、またその後のプロモーションやアフターサービスの展開、ひとつひとつのことがすべて大事ですね。

室井我々はメーカーと販売店の間にいる存在ですから、その立場を理解した上でよりよいものをお客様にお届けするために動きます。日本での実績を活かして、メーカーに市場の動向をフィードバックし、日本市場向けの製品づくりをしてもらう努力もしています。日本のお客様は色々な意味で世界一厳しい存在。製品の仕上げも、取り扱い説明書もきちんとしていないと喜んではいただけない。我々からメーカーへのフィードバックも細かいところにまで至ります。

出荷されたもの、特に高額商品はすべて我々の社内で出荷前チェックします。そこで不具合が見つかればすべてメーカーにフィードバックして直す。メーカーは我々を「ディテクター(探知器)」と呼びますよ。「アクシスはスーパーディテクターだから、彼らに取り扱ってもらえば大丈夫だ」と。我々がOKと言えば世界に出しても大丈夫と思われているようですね。

オーディオ市場は
今も昔も変わらない

今のオーディオ市場をどうご覧になりますか。

室井オーディオは文化的な、ある意味分かる人にしか分からない趣味だと思います。音を聴いて何らかの感銘を得られなければこの趣味の領域には入らない。そこは、市場がどういう状況であっても変わらないと思います。音楽を聴くことは受け身の趣味と言われますね。しかし私は、オーディオは受け身ではなくアクティブな趣味だと思っています。音は見えない分、想像をかきたてます。色が見え、かたちが見え、ライブの情景が見え、あるいは昔のことを思い出したりもします。

イマジネーションができないと、オーディオの世界に入ってはいけない。また想像するからこそ面白い。いい音で聴きたい欲求も、想像の世界をより現実に近づけたいから。だから私は、オーディオはアクティブな趣味だと思うのです。音は見えないものであり忘れやすい、ゴールも見えない。だから明日もまた聴いてみようと思う。

そして同じ音楽でも、体調や精神状態で聴こえ方が違ってきます。そういう想像の世界に引き込んでくれるのがオーディオ。引き込んでくれる音にしたいと思うのが皆さんの思いじゃないでしょうか。さらにハイエンドオーディオは購入した時が始まりで、そこからこういう音にしたい、という思いに近づけながらいろいろと手を施す。その過程も楽しいわけです。そういう意味では昔も今も、オーディオは変わらない。マーケットは小さくなりましたが、そういうことをわかっておられる方が昔も今もオーディオをやっておられるのではないかと思います。

お客様は確実にいらっしゃる。

室井そうですね。そうでなければやってこられませんし、代理店やメーカーさんもたくさんおられる。価格を含めて、応えてくださる色々なお客様がいらっしゃるということだと思います。

新しいお客様の獲得は。

室井手の届きやすい価格帯の製品を展開するのは、新しいお客様に訴える手段の一つ。その一貫として今回新たな「FYNE AUDIO」の取り扱いを始めました。スコットランドで2017年に設立されたスピーカーメーカーで、エンジニアを含む主要スタッフが元TANNOY社のメンバーです。9月から導入しているF500シリーズは1本4万9000円からの価格帯で、オーディオの趣味を始めようとする方にもご購入いただけると思っておりますが、手頃な価格帯でもハイエンドの音であることが重要なのです。値段が高くてもハイエンドオーディオに相応しいとは限らない。しかしこのF500シリーズは外観も音もハイエンドオーディオに相応しく、その先の世界につながるスピーカーであるということです。

ただ9月から販売開始したものの本国での販売量が多く、出荷は10月からとなりご迷惑をおかけしております。ヨーロッパでも相当売れているということで、日本では店頭にもなかなか置かれていない状況です。初めてのお披露目は、東京インターナショナルショーのタイミング。その際はフルラインナップを揃えます。高級モデルF1シリーズやF700シリーズも日本で展開していき、上は300万円クラスからかなり低い価格帯まで揃いますので、ぜひお客様に聴いていただきたいですね。また今後の展開として、MSB TECHNOLOGYで既存のセレクトとリファレンスDACという高いグレードに加え、もう少し下の価格帯のDACも入ってきますので、ご期待いただきたいと思います。

製品ブランドの一方で、輸入代理店としてのアクシスのブランドについてどのようにお考えですか。

室井私どもは基本的に黒子であって、市場とメーカーの間に立ち前面には出ません。ただ輸入するということは、そこから100%責任を負うということ。売るだけではなく、サービス体制も重要です。何かあればオリジナルの純正パーツで直すのは基本。またメーカーの意に沿ってプロモーションする。その2つをしっかりと行う、それがアクシスのブランドをきちんと保つ秘訣だと思っています。

アクシスの取り扱いだから安心だとお客様も思います。

室井そう思っていただけると最高です。そうなるよう、これからも日々頑張って参ります。

◆PROFILE◆

室井 利夫 Toshio Muroi
1953年生まれ、福島県出身。1978年 BSRジャパン入社。1988年アクシス(株)を設立、海外オーディオの輸入代理店業務を展開し現在に至る。趣味はゴルフ。

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