サラウンドの世界を拡げる新潮流が登場・「Audyssey DSX」技術者インタビュー
マルチチャンネルサラウンドの世界が、また広がろうとしている。ヤマハの「シネマDSP HD3」、ドルビーの「Dolby Pro Logic IIz」、DTSの「Neo:X」(対応機未発表)、そしてAudysseyの「Audyssey DSX」など、「高さ」や「横幅」方向にスピーカーを新たに加える流れが誕生してきたのだ。
今回、Audyssey社CEOのMichael Solomon氏と、設立者のひとりであり最高技術責任者のChris Kyriakakis氏にインタビューする機会を得られた。Audysseyと言えば、デノンやオンキョー、マランツのAVアンプなどに搭載されていることでお馴染み。そして最近では、全世界のIMAXシアターにも同社技術の導入が決まったことが大きなトピックとなった。そこで、Audysseyの技術と最新技術「Audyssey DSX」について、そしてIMAXシアターに採用された経緯などのお話をうかがった。
■Audysseyとは?
まずはじめにAudyssey(オーディシー)について説明したい。同社はもともと南カリフォルニア大学(USC)のImmersive Audio Laboratoryが母体。USCの映画芸術学部の教授であり、THXの開発者であるTom Holman氏と、同大学の音響工学教授だったChris Kyriakakis氏が中心となって2002年に設立された若い会社だ。
社名である「Audyssey」は「ODYSSEY」(オデッセイ/長い冒険)と「Audio」を組み合わせた造語。「より良い音を目指す探究者」を意味しているという。
■Audysseyの特徴
_ Audysseyの技術について、具体的に教えてください。
Chris氏:始まりは2004年に発表した「MultEQ」でした。
MultEQはまず、最大8箇所で測定を行います。得られた測定結果は、他の多くの方式のように平均化して補正するのではありません。測定パターン別に3〜5つのグループに分け、それぞれの代表的な応答特性を総合した結果をもとに、補正フィルターを作成するのです。シアタールームでは、自分だけでなく皆で良い音を楽しみたいですよね。MultEQは、複数の場所に最適な音を提供できるというわけです。
_ 日本の製品では、デノンやオンキヨー、マランツのAVアンプ、東芝(CELL TVなど)やシャープのテレビに採用されていることでお馴染みですね。
Chris氏:そうですね。Audysseyの技術とノウハウを提供し、各メーカーさんでカスタマイズして使っていただいています。ホームシアター製品だけではなく、カーオーディオなどさまざまな分野でも採用されているんですよ。
さて、続いて生まれたのが「Dynamic EQ」です。ボリュームを小さくすると低音が痩せてしまうことが多いですが、この技術を使うことにより、最適なバランスを保ちながら再生することが可能です。
2007年には「BassXT」を、2009年には「ABX」を発表し、単純に低域を持ち上げるのではなく、低い周波数の再生帯域を拡張することが可能になりました。そして2008年には「Dynamic Volume」を発表しました。例えばテレビで映画を見ているとき、CMに入ると突然音が大きくなって驚いた経験をしたことがありますよね?Dynamic Volumeはコンテンツの音を常にモニタリングして、ダイナミックレンジを最適化することができます。
そして私達の最新の技術が「Audyssey DSX(Dynamic Surround Expansion)」です。
研究の結果、人間の空間認知力は後ろ方向よりも前方向の方が発達していることが分かりました。そこで既存の5.1ch/7.1chに、サラウンドバックではなくフロントにワイド(横幅方向)とハイト(高さ方向)に新たにスピーカーを加える方式としました。最大11.1chまで拡張が可能です。
ただ、現在はまだワイドとハイトを同時に出力できる製品がないので、どちらか一方を選択することになります。
_ ヤマハやドルビー、DTSの方式と比べた際のアドバンテージはどこなのでしょうか?
Chris氏:そうですね、MultEQをベースにしているところだと思います。Dynamic EQやBassX、ABX、Audyssey DSXはすべて相互に補強し合っています。そして、私達の技術のコアであるMultEQと組み合わせることで、より一層効果を発揮するように設計されているのです。高品位な音場測定/補正技術であるMultEQで、9.1ch/11.1chなど多くのスピーカーを最適な特性に調整することができるのですから。
_ なるほど。「Audyssey DSX」を実際に聴いてみましたが、音の空間に包み込まれるような感じがしますね。ワイドを加えてBD「レッドクリフ」を視聴すると、曹操軍と劉備軍が対決するシーンでは、大軍を組む騎馬の地を蹴る蹄の音が左右に広い空間を描き出します。
そして特にハイトを加えると、今まで経験したことがないような立体的な音場を体験できるなと思いました。BD「小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ:幻想交響曲」は、ハイトを追加するとオーケストラの音の厚みがぐっと立体的になって、まるでホールにいるような感覚を味わえました。視聴ソースごとにワイドとハイトを切り換えて楽しむと面白いでしょうね。
■今後の展開について
_ 全世界のIMAXシアターで、2010年からMultEQが音場調整技術として採用されることが決まりましたね(関連ニュース)。IMAXシアターといえば、迫力ある映像を臨場感たっぷりに楽しめる映画館として日本のA&Vファンにとっても有名な存在です。
Michael氏:IMAXシアターのシステムがデジタル上映対応に切り替わる際、何か良いソリューションはないか、と直接話をいただいたのです。シアターで採用されたのは、コンシューマー機器に搭載されたMultEQと基本的には同じものなんですよ。IMAXには私達のタイムドメイン技術を高く評価していただきましたし、さまざまな場所でベストな音を聞ける、という特徴も、プラスに働いたと思います。それに、時間がかからないことも大きな要因になったと思います。これまでは1つの映画館に対して2日かかっていたところが、私達の技術だと数時間でできるのです。
_ AVアンプやテレビなどのホームシアターシステム、カーオーディオ、そして映画館とさまざまなところでAudysseyの技術が採用されていますが、今後はどのような製品に向けて展開していきたいと考えていますか?
Michael氏:そうですね、具体的にはまだ話せないのですが、もっと小さな製品 ー よりコンパクトで手軽にサラウンドを楽しめる製品に搭載できればと考えています。より多くの方に、簡単に良い音でサラウンドを楽しんでいただきたいですね。
_ ありがとうございました。
今回、Audyssey社CEOのMichael Solomon氏と、設立者のひとりであり最高技術責任者のChris Kyriakakis氏にインタビューする機会を得られた。Audysseyと言えば、デノンやオンキョー、マランツのAVアンプなどに搭載されていることでお馴染み。そして最近では、全世界のIMAXシアターにも同社技術の導入が決まったことが大きなトピックとなった。そこで、Audysseyの技術と最新技術「Audyssey DSX」について、そしてIMAXシアターに採用された経緯などのお話をうかがった。
■Audysseyとは?
まずはじめにAudyssey(オーディシー)について説明したい。同社はもともと南カリフォルニア大学(USC)のImmersive Audio Laboratoryが母体。USCの映画芸術学部の教授であり、THXの開発者であるTom Holman氏と、同大学の音響工学教授だったChris Kyriakakis氏が中心となって2002年に設立された若い会社だ。
社名である「Audyssey」は「ODYSSEY」(オデッセイ/長い冒険)と「Audio」を組み合わせた造語。「より良い音を目指す探究者」を意味しているという。
■Audysseyの特徴
_ Audysseyの技術について、具体的に教えてください。
Chris氏:始まりは2004年に発表した「MultEQ」でした。
MultEQはまず、最大8箇所で測定を行います。得られた測定結果は、他の多くの方式のように平均化して補正するのではありません。測定パターン別に3〜5つのグループに分け、それぞれの代表的な応答特性を総合した結果をもとに、補正フィルターを作成するのです。シアタールームでは、自分だけでなく皆で良い音を楽しみたいですよね。MultEQは、複数の場所に最適な音を提供できるというわけです。
_ 日本の製品では、デノンやオンキヨー、マランツのAVアンプ、東芝(CELL TVなど)やシャープのテレビに採用されていることでお馴染みですね。
Chris氏:そうですね。Audysseyの技術とノウハウを提供し、各メーカーさんでカスタマイズして使っていただいています。ホームシアター製品だけではなく、カーオーディオなどさまざまな分野でも採用されているんですよ。
さて、続いて生まれたのが「Dynamic EQ」です。ボリュームを小さくすると低音が痩せてしまうことが多いですが、この技術を使うことにより、最適なバランスを保ちながら再生することが可能です。
2007年には「BassXT」を、2009年には「ABX」を発表し、単純に低域を持ち上げるのではなく、低い周波数の再生帯域を拡張することが可能になりました。そして2008年には「Dynamic Volume」を発表しました。例えばテレビで映画を見ているとき、CMに入ると突然音が大きくなって驚いた経験をしたことがありますよね?Dynamic Volumeはコンテンツの音を常にモニタリングして、ダイナミックレンジを最適化することができます。
そして私達の最新の技術が「Audyssey DSX(Dynamic Surround Expansion)」です。
研究の結果、人間の空間認知力は後ろ方向よりも前方向の方が発達していることが分かりました。そこで既存の5.1ch/7.1chに、サラウンドバックではなくフロントにワイド(横幅方向)とハイト(高さ方向)に新たにスピーカーを加える方式としました。最大11.1chまで拡張が可能です。
ただ、現在はまだワイドとハイトを同時に出力できる製品がないので、どちらか一方を選択することになります。
_ ヤマハやドルビー、DTSの方式と比べた際のアドバンテージはどこなのでしょうか?
Chris氏:そうですね、MultEQをベースにしているところだと思います。Dynamic EQやBassX、ABX、Audyssey DSXはすべて相互に補強し合っています。そして、私達の技術のコアであるMultEQと組み合わせることで、より一層効果を発揮するように設計されているのです。高品位な音場測定/補正技術であるMultEQで、9.1ch/11.1chなど多くのスピーカーを最適な特性に調整することができるのですから。
_ なるほど。「Audyssey DSX」を実際に聴いてみましたが、音の空間に包み込まれるような感じがしますね。ワイドを加えてBD「レッドクリフ」を視聴すると、曹操軍と劉備軍が対決するシーンでは、大軍を組む騎馬の地を蹴る蹄の音が左右に広い空間を描き出します。
そして特にハイトを加えると、今まで経験したことがないような立体的な音場を体験できるなと思いました。BD「小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ:幻想交響曲」は、ハイトを追加するとオーケストラの音の厚みがぐっと立体的になって、まるでホールにいるような感覚を味わえました。視聴ソースごとにワイドとハイトを切り換えて楽しむと面白いでしょうね。
■今後の展開について
_ 全世界のIMAXシアターで、2010年からMultEQが音場調整技術として採用されることが決まりましたね(関連ニュース)。IMAXシアターといえば、迫力ある映像を臨場感たっぷりに楽しめる映画館として日本のA&Vファンにとっても有名な存在です。
Michael氏:IMAXシアターのシステムがデジタル上映対応に切り替わる際、何か良いソリューションはないか、と直接話をいただいたのです。シアターで採用されたのは、コンシューマー機器に搭載されたMultEQと基本的には同じものなんですよ。IMAXには私達のタイムドメイン技術を高く評価していただきましたし、さまざまな場所でベストな音を聞ける、という特徴も、プラスに働いたと思います。それに、時間がかからないことも大きな要因になったと思います。これまでは1つの映画館に対して2日かかっていたところが、私達の技術だと数時間でできるのです。
_ AVアンプやテレビなどのホームシアターシステム、カーオーディオ、そして映画館とさまざまなところでAudysseyの技術が採用されていますが、今後はどのような製品に向けて展開していきたいと考えていますか?
Michael氏:そうですね、具体的にはまだ話せないのですが、もっと小さな製品 ー よりコンパクトで手軽にサラウンドを楽しめる製品に搭載できればと考えています。より多くの方に、簡単に良い音でサラウンドを楽しんでいただきたいですね。
_ ありがとうございました。