進化し続けるDSシリーズが目指すもの − 英リン社長ギラード氏・山之内氏特別対談
新しい時代の音楽の楽しみ方として注目を集める“ネットワークオーディオ”というジャンルの開拓者となったリン“DSシリーズ”。先日開かれたた“音展”でのイベント(関連ニュース)に際して来日した英リン・プロダクツ社長のギラード・ティーフェンブルン氏と、評論家の山之内 正氏が対談。イベントでは語りきれなかったDSシリーズについてお話をうかがった。
(11月14日 音元出版にて対談)
■ネットワークオーディオの浸透を肌で感じた“音展”のイベント
山之内氏:イベントご出演お疲れさまでした。来場者の反応に生で触れた感想はいかがですか。
ギラード氏:みなさんが音源の試聴に熱心に聞き入っている姿を見て、とても嬉しく感じました。あんなにも大勢の方がDSを聴きに集まってくださるなんて、2年前は考えられなかったことです。
2年前は「ネットワークオーディオとは何か」ということを、まずテクニカルな部分から説明しなければいけなかったのでとても苦心しました。技術面の説明は不可欠ですが、そこばかりフィーチャーすると、苦手意識を持っているユーザーさんは引いてしまいますから。
山之内氏:いまはユーザー側の環境も変化し、「ネットワークオーディオ」がどんなものかという知識を持っている方が増えましたね。
ギラード氏:そうですね。ですからまず音が良いとか使い勝手が良いとかいう部分から紹介していけるので嬉しいです。またDSの使い勝手が良くなったのでデモンストレーションもしやすくなり、私自身以前よりずっとリラックスして参加できるようになりました。
今回のイベントは若い方も多く参加されていましたよね。若い方は特に、技術は当然のものとして受け入れており、「音楽」のこと − 音質が良く音楽をより楽しめるとか、使い勝手が良いとかいうことを重要視していると思います。
■進化し続けるDSシリーズが目指すもの
山之内氏:発売から2年が経ち、DSは新しいステージにきているように思います。DSの魅力のひとつとして、アップデートによって機能の強化/拡張が可能で、長くつきあえる製品ということがありますよね。今年後半、最新ソフトウェア「CARA」の公開や、PC用の操作ソフト「KINSKY Desktop」のリリースなどによって大きな進化を遂げたのは記憶に新しいところです。CARAでは音も良くなったということですが、具体的にどういう部分が変わったのでしょうか?
ギラード氏:DAC以前の演算処理を35bitでできるようになり、24bit信号をより正確に取り出せるようになったことが理由です。DACに送り込む信号は同じ24bitでも、その前を35bitで演算した方が音が良い。演算精度の問題ですね。
2年前にDSを発売した際、ファームウェアのアップデートで音質が良くなる可能性がある旨のアナウンスはしていましたが、実際どうやったらその時点よりも音質を向上させられるかのアイディアはありませんでした。しかし2年間の研究の結果ついに実現し、ハードの構成を変化することなく音を良くすることができました。
山之内氏:それは素晴らしいですね。これまでのオーディオ機器は、性能を向上させようとしたらハード自体を換えないといけませんでしたから。
ギラード氏:特にパワーアンプを直接つなげる「MAJIK DS-I」「SEKRIT DS-I」や「MAJIK DS」、「SNEAKY DS」では、この演算処理によってアナログ出力だけでなくボリュームについても音質が良くなるので、二重の恩恵を受けられることになるんですよ。
山之内氏:今後のアップデートの方向性はどんな風になるのでしょうか?
ギラード氏:イベントでの質問にもありましたが、新しい音声フォーマットへの対応は必要だと思います。それと、ユーザビリティの向上というのもありますね。難しい使い方をしたい人にも、シンプルな使い方をしたい人の要望にも応えられるような機能が必要でしょう。また、いろいろなものと接続して機能を拡張できるプラグインの部分も進化させていきたいですね。
ただ、CARAのような大きなアップデートはしばらくないでしょう。CARAで今後の拡張の可能性を広げることができたので、連携性を活かしつつ小さなアップデートを重ねていきたいと思います。大きなアップデートでは、サードパーティを含む周辺ソフト全てを変更しなければなりません。大きなアップデートの頻度は、およそ18ヶ月に1回くらいになるのではないでしょうか。
山之内氏:「KINSKY Desktop」のMac OSへの対応や、プラグインソフトの準備状況はいかがですか?
ギラード氏:Macへの対応は、システムの根本で2つほど書き換えないといけない部分がありますが現在作業を進めているところです。おそらくあと数ヶ月くらいでリリースできると思います。プラグインソフトについては、LINN RECORDSでは既に曲を選ぶと「KINSKY Desktop」に直結するようなプラグインを設けています。サードパーティにもプラグインをたくさん開発してもらえたら有り難いですね。
■オーディオに新たなジャンルを開拓したLINN
山之内氏:DSはオーディオに新たなジャンルを作る機器であると確信しています。
ギラード氏:ありがとうございます。デジタルミュージック時代に於いて、最高のクオリティを実現するためのベストなシステムとは何かということを再考する時期に来ていると思います。DSを開発しているとき、確かに音が良くなっているという事実があるのにも関わらず、それを受け入れない保守的な人々も一部いました。しかしDSは高音質再生をするための技術的な裏付けのある製品で、信頼に足るものだと自負しています。そういったことをもっとアピールしていきたいですね。
また、当初の予想よりもDSに追随するメーカーが出てこなかったのは意外でした。半年もすれば類似製品が沢山出てくると思っていたのものでしたから。HQMのような高音質音楽配信サイトもありますし、市場自体が変わっていっているという実感はあるのです。配信はもともとマスマーケット向けに発生したものなので、その形態でフォーマットに縛られない高音質なコンテンツが配信できるという利点が浸透すればいいですよね。
それから「ストリーミングでなくてもUSB-DACがあれば同じなのでは?」と言う方もいますが、それは違います。ひとつは音質面です。USBは、コンセプトとしてはCDと同じですよね。DACにデータを送り出す「プッシュ方式」です。一方DSは、ネットワークに接続してデータを引き出してくる「プル方式」なのです。
もうひとつは使い勝手の面です。USBは点と点をつなぐことしかできず、直接つながれた製品の先にある製品までは関与できませんが、ネットワーク経由ならどんな製品をつないだ場合も多くの可能性を持っているのです。
山之内氏:私達がリンの製品を愛している理由として、ものづくりの根底に流れる思想を愛しているからと言えると思います。
ギラード氏:リンの製品はアウトソーシングせず設計から生産まで自社で行います。自分たちがコントロールできる量のものだけを作っていきたい。この姿勢が、確固たる製品を生み出せる礎となるのです。
いまイギリスにある工場ではビジターセンターを作りました。ユーザーにリンの姿勢に触れてもらう機会をもっと増やしたいですね。
山之内氏:本日はありがとうございました。
(11月14日 音元出版にて対談)
■ネットワークオーディオの浸透を肌で感じた“音展”のイベント
山之内氏:イベントご出演お疲れさまでした。来場者の反応に生で触れた感想はいかがですか。
ギラード氏:みなさんが音源の試聴に熱心に聞き入っている姿を見て、とても嬉しく感じました。あんなにも大勢の方がDSを聴きに集まってくださるなんて、2年前は考えられなかったことです。
2年前は「ネットワークオーディオとは何か」ということを、まずテクニカルな部分から説明しなければいけなかったのでとても苦心しました。技術面の説明は不可欠ですが、そこばかりフィーチャーすると、苦手意識を持っているユーザーさんは引いてしまいますから。
山之内氏:いまはユーザー側の環境も変化し、「ネットワークオーディオ」がどんなものかという知識を持っている方が増えましたね。
ギラード氏:そうですね。ですからまず音が良いとか使い勝手が良いとかいう部分から紹介していけるので嬉しいです。またDSの使い勝手が良くなったのでデモンストレーションもしやすくなり、私自身以前よりずっとリラックスして参加できるようになりました。
今回のイベントは若い方も多く参加されていましたよね。若い方は特に、技術は当然のものとして受け入れており、「音楽」のこと − 音質が良く音楽をより楽しめるとか、使い勝手が良いとかいうことを重要視していると思います。
■進化し続けるDSシリーズが目指すもの
山之内氏:発売から2年が経ち、DSは新しいステージにきているように思います。DSの魅力のひとつとして、アップデートによって機能の強化/拡張が可能で、長くつきあえる製品ということがありますよね。今年後半、最新ソフトウェア「CARA」の公開や、PC用の操作ソフト「KINSKY Desktop」のリリースなどによって大きな進化を遂げたのは記憶に新しいところです。CARAでは音も良くなったということですが、具体的にどういう部分が変わったのでしょうか?
ギラード氏:DAC以前の演算処理を35bitでできるようになり、24bit信号をより正確に取り出せるようになったことが理由です。DACに送り込む信号は同じ24bitでも、その前を35bitで演算した方が音が良い。演算精度の問題ですね。
2年前にDSを発売した際、ファームウェアのアップデートで音質が良くなる可能性がある旨のアナウンスはしていましたが、実際どうやったらその時点よりも音質を向上させられるかのアイディアはありませんでした。しかし2年間の研究の結果ついに実現し、ハードの構成を変化することなく音を良くすることができました。
山之内氏:それは素晴らしいですね。これまでのオーディオ機器は、性能を向上させようとしたらハード自体を換えないといけませんでしたから。
ギラード氏:特にパワーアンプを直接つなげる「MAJIK DS-I」「SEKRIT DS-I」や「MAJIK DS」、「SNEAKY DS」では、この演算処理によってアナログ出力だけでなくボリュームについても音質が良くなるので、二重の恩恵を受けられることになるんですよ。
山之内氏:今後のアップデートの方向性はどんな風になるのでしょうか?
ギラード氏:イベントでの質問にもありましたが、新しい音声フォーマットへの対応は必要だと思います。それと、ユーザビリティの向上というのもありますね。難しい使い方をしたい人にも、シンプルな使い方をしたい人の要望にも応えられるような機能が必要でしょう。また、いろいろなものと接続して機能を拡張できるプラグインの部分も進化させていきたいですね。
ただ、CARAのような大きなアップデートはしばらくないでしょう。CARAで今後の拡張の可能性を広げることができたので、連携性を活かしつつ小さなアップデートを重ねていきたいと思います。大きなアップデートでは、サードパーティを含む周辺ソフト全てを変更しなければなりません。大きなアップデートの頻度は、およそ18ヶ月に1回くらいになるのではないでしょうか。
山之内氏:「KINSKY Desktop」のMac OSへの対応や、プラグインソフトの準備状況はいかがですか?
ギラード氏:Macへの対応は、システムの根本で2つほど書き換えないといけない部分がありますが現在作業を進めているところです。おそらくあと数ヶ月くらいでリリースできると思います。プラグインソフトについては、LINN RECORDSでは既に曲を選ぶと「KINSKY Desktop」に直結するようなプラグインを設けています。サードパーティにもプラグインをたくさん開発してもらえたら有り難いですね。
■オーディオに新たなジャンルを開拓したLINN
山之内氏:DSはオーディオに新たなジャンルを作る機器であると確信しています。
ギラード氏:ありがとうございます。デジタルミュージック時代に於いて、最高のクオリティを実現するためのベストなシステムとは何かということを再考する時期に来ていると思います。DSを開発しているとき、確かに音が良くなっているという事実があるのにも関わらず、それを受け入れない保守的な人々も一部いました。しかしDSは高音質再生をするための技術的な裏付けのある製品で、信頼に足るものだと自負しています。そういったことをもっとアピールしていきたいですね。
また、当初の予想よりもDSに追随するメーカーが出てこなかったのは意外でした。半年もすれば類似製品が沢山出てくると思っていたのものでしたから。HQMのような高音質音楽配信サイトもありますし、市場自体が変わっていっているという実感はあるのです。配信はもともとマスマーケット向けに発生したものなので、その形態でフォーマットに縛られない高音質なコンテンツが配信できるという利点が浸透すればいいですよね。
それから「ストリーミングでなくてもUSB-DACがあれば同じなのでは?」と言う方もいますが、それは違います。ひとつは音質面です。USBは、コンセプトとしてはCDと同じですよね。DACにデータを送り出す「プッシュ方式」です。一方DSは、ネットワークに接続してデータを引き出してくる「プル方式」なのです。
もうひとつは使い勝手の面です。USBは点と点をつなぐことしかできず、直接つながれた製品の先にある製品までは関与できませんが、ネットワーク経由ならどんな製品をつないだ場合も多くの可能性を持っているのです。
山之内氏:私達がリンの製品を愛している理由として、ものづくりの根底に流れる思想を愛しているからと言えると思います。
ギラード氏:リンの製品はアウトソーシングせず設計から生産まで自社で行います。自分たちがコントロールできる量のものだけを作っていきたい。この姿勢が、確固たる製品を生み出せる礎となるのです。
いまイギリスにある工場ではビジターセンターを作りました。ユーザーにリンの姿勢に触れてもらう機会をもっと増やしたいですね。
山之内氏:本日はありがとうございました。