「アシンクロナス転送とは?」などネットオーディオの基本も解説
PCとオーディオの融合に実績を持つラトックシステムのものづくりとは
12月上旬、ラトックシステム(株)から、192kHz/24bit対応のヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「RAL-24192UT1」とUSBタイミングコレクター「RAL-HUB02」という意欲的な新製品がリリースされた。今回、岡村社長と営業の橘氏に「ジッター」や「クロック」などネットオーディオの基本について、そしてラトックシステムのものづくりについての考えを教えていただいた。
<お話を伺った方>
ラトックシステム(株)
代表取締役社長 岡村周善氏
営業部 橘 雅文氏
早くからPCとオーディオの融合に取り組んできたラトックシステム
−−−ヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「RAL-24192UT1」は、USBオーディオの高速規格である「USB Audio Class 2.0」に対応していて、USBから192kHz/24bitの信号出力ができるのが大きな特長ですね。こちらの製品は、どのくらい前から開発を始めたんでしょうか?
岡村氏:実際に基板の回路図を書いたのは8月の始めでした。プログラムを書き始めたのが10月始め頃。サンプルができたのは、10月の21日頃でしょうか。
−−−すごいスピード開発なんですね。
橘氏:元々ラトックはPC周辺機器の開発を行ってきたメーカーで、USBまわりなどデジタル回路の開発には実績があるんです。
岡村氏:USB関係の測定器だけでもこの10年で1億円くらいつぎ込んでいますし(笑)、開発のための小道具も、自分たちでいろいろ作ったりしていますしね。だから「RAL-24192UT1」の開発は本当にディテールの部分だけ…例えばボリュームを回したときにスムーズに聞こえるにはどうしたらいいかとか、そういうところだけ作れば良かったわけです。
−−−オーディオ分野に参入したきっかけは、社長の趣味とうかがっていますが。
岡村氏:30年近くいろいろやってきたので、もういいかげん好きなことやらせてもらおうかと(笑)。趣味みたいにやってきたんですが、最近は趣味の範囲を超えそうになってきたから、ちょっと困ったなあと思っているところです(笑)
−−−完全にお仕事になってしまったと(笑)。製品は、岡村社長が企画・開発・設計全てを担当されているんですよね?
岡村氏:製造も一部やってます(笑)。ラトックシステムは、2001年頃から、USBから出力した信号をワイヤレスで飛ばせる機器を作ったりしていましたし、そのほかにもPCの音楽をオーディオシステムで聴くためのアダプター「REX-Link2EX」(2007年発売)とか、2.4GHz帯で飛ばせるアンプ内蔵ワイヤレスオーディオシステム「RAL-Cettia1B」(2008年発売)とか、いろいろな製品を世に送り出してきたんですよ。
−−−かなり早くからPCを使ったオーディオスタイルに着目していたんですね。その頃、このジャンルに目を付けていたメーカーは他になかったのでは?
岡村氏:そんなことないですよ。今流行っているリンのDSのような製品は、アイ・オー・データ機器とかバッファローなんかが7年くらい前から作っていたんです。でもその当時は全く売れなかった。ピュアオーディオ方面の人たちがPCを活用した試聴スタイルに注目してくれるようになったのは、2009年にAyre Acoustic社が「QB-9」を出した頃あたりからでしょうか。我々も、ああいうアシンクロナス転送とか外部クロックとかを使った製品をいつか作ってやろうっていうアイディアだけはずっと持っていたんですけどね。
「アシンクロナス転送」ってどんなもの?
−−−その「アシンクロナス転送」、新製品のUSB DAC「RAL-24192UT1」も採用していますよね。その言葉、よく見かけるようになりましたが、実際どういうものなのか良く分からない方が多いのではと思います。
岡村氏:アシンクロナス(Asynchronous)は元々通信用語で、送り側と受け側のデータクロックがそれぞれ独立していることを指します。
言ってみればUSBオーディオはもともとアシンクロナスなんですよ。送り側(USBオーディオ側)が受け側(再生機器側)に信号を送るでしょう、その信号を作るためにはデータクロックが必要です。USB経由でオーディオデータを送る場合、デジタルオーディオ信号の伝送方式でポピュラーなS/PDIFのようにデータにクロックが埋め込まれているわけではなく、USB上を伝送されるオーディオデータそのものにはクロック情報は含まれていませんので、送り側と受け側のクロックはそれぞれ独立していることになりますよね。つまり、両方は基本的には同期していないんです。
でも、クロック情報やbit数の情報がないと、また音楽データの始まりを両方で合わせないと音楽を正しく再生できないので、何らかの約束事(プロトコル)が必要です。
例えば再生ソフトのfoobar2000で、44.1kHz/88.2kHz/96kHzなど様々あるソースを選んだとします。foobarは選択されたソースの信号を送るわけですが、再生機器側は44.1kHzから96kHzまでどんなファイルが来るか分からないですよね。
そこで、アイソクロナス転送のアシンクロナスモードを使って、setCURリクエストとかで再生される音源のサンプリング周波数を教えてあげる。すると、再生機器側は内部回路を切り替えて対応ができるようになる、というわけです。
だからアシンクロナスモードなんて、実際にオーディオ聴くだけなら使わなくたってそんなに関係ないんですよね。他にもサンプリング周波数を知る方法はないことはないし、要は信号をきちんと漏らさずに受け取れて、それを正しく再生できてればいいわけだから。
−−−でも「アシンクロナス転送対応」というのは、いまやネットオーディオ製品のアピールポイントのひとつになっていますよね?
岡村氏:それは、Ayre Acousticが言い出したからでしょう。アシンクロナスモードがどんなものなのか知っている人は殆どいないのに、誰かが言うとそれが一人歩きしちゃうんです。
特に、アシンクロナスモードでフロー制御が行なわれているというように完全に誤解している人たちが大勢います。
サンプリング周波数やパケットサイズ、bit数の情報というのは、アシンクロナスモードを使用しなくとも「オーディオクラスデバイスディスクリプタ」や「エンドポイントディスクリプタ」で交換できます。
アシンクロナスモードであるかどうかに関係なくUSBオーディオクラスの伝送はアイソクロナス転送で実行されていますので、一旦転送が開始されると「まったなし」で一方的に1mS間隔で決まったサイズのパケットが送られてきます。1mS間隔、つまりSOF(Start of Frame) の間隔のことですが、これが狂ったり、来ない時があったり、途中でパケットの中身が壊れたりしてもエラー訂正や再送要求などは一切認められていません。どんどん一方的にパケットが送られてきます。
例えてみれば放送の受信やアナログレコードの再生に似たようなもので、デバイス側、DACなどの再生側からは「ちょっと待って」とかいうことは認められていません。アナログレコードの再生中にアンプから「データ量を減らして」とか「ちょっと待って」なんて要求すると、再生が止まって音が飛んでしまいますよね。そんな風にならないためにUSBオーディオではアイソクロナス転送を使用しているのです。くどいようですがフロー制御は行われていません。
「クロック」と「ジッター」が再生音に及ぼす影響とは?
−−−クロックについては、新製品の“オーディオ用”USBタイミングコレクター「RAL-HUB02」のところでも重視していますよね。こちらの製品の開発の経緯はどんなものだったんですか?
岡村氏:それがね、実はこれは開発というか…元々ワイヤレスUSBのハブだったんですよ。それが大量に売れ残っててね(笑)。処分するしかないかなと思ったんですけど、よくよく考えたらワイヤレスUSBハブは±5ppmという性能のよい発振器が付いてるんですよね。また、ワイヤレスという時間的にあんまりあてにならない伝送方法で送られてくるパケットを、タイミングにシビアな有線USBのパケットに組み立てなおす優秀な回路やファームウェアを内蔵しています。それで、それを使っていろんなオーディオ評論家さんとかに聴いてもらったら「劇的に音が変わる」と言っていただいたので、なら製品として出そうか、と。
−−−そんな経緯があったんですか(笑)クロックとともに、PCオーディオでよく言及されるのが「ジッター」ですが、これは実際、音にどういう影響を及ぼすんでしょうか?
岡村氏:ジッターっていうのは、要するにクロックのズレですね。クロックの中でいちばん音に影響を与えるのはLRクロック、別の言い方ではサンプリングクロックですが、そのLRクロックにジッターが起こって信号がぶれると、アナログレコードの回転数や回転軸がぶれたみたいに音が変わってしまうわけです。また、オーディオ信号のデジタル処理の方法によってはアナログレコードの引っかき傷のようなノイズに聞こえることもあります。
でも色々な製品を見てみると − 特にケーブル系はそうなんですが、「オーディオグレードのもの」と謳っていても、ジッター製造器みたいなものが沢山あるんですよね。でも音が良いと言われている。だから、ジッターが少ないから良い音…その人の好みの音だとは限らないんだなと思いました。扇風機でも、1/fゆらぎとか言うじゃないですか。コンスタントな風よりもちょっとぐらい揺らいでいるそよ風の方が、心地よく感じる人が多いのかも知れません。でも我々は、原音再生 −といっても録音されたマスター音源の再生ですが − のためにはジッターが少ない方がいいと考えています。
演奏家の個性まで表現できるような製品を作りたい
−−−今後はどんな製品の発売を考えていらっしゃいますか?
橘氏:お客様からは、やっぱりもっと外観も含めてオーディオライクなものを出して欲しいと言われますね。
岡村氏:自社ブランドからハイエンドDACを出したいですね。それと、HDMIを搭載したDACかな。SACDのDSD信号をHDMI経由で出力できる機器は既にあるわけだから、いま持っているオーディオシステムと組み合わせて使えるものを。ブルーレイで音楽ソフトを観ているけどAVアンプを買うのは抵抗がある…今持っている気に入った管球アンプで聞きたいというユーザーさんが、より満足して楽しめる環境を構築できるような製品ですね。これは既にOEM製品で発売しているんですが、自社ブランドからも出したいなと思っています。
基本として考えているのは、演奏家の個性もちゃんと表現できるような製品を作りたいなということ。例えばホールにあるピアノ、あれは色々な人が弾きますけど、出てくる音はみんな違いますよね。それは弾く人の技術の違いをピアノがちゃんと表現できているってことなんです。オーディオ機器もそれと同じことで、演奏家の違いがちゃんと出てこないのはダメだなと思います。
−−−今後の製品も楽しみにしています。有り難うございました。
<お話を伺った方>
ラトックシステム(株)
代表取締役社長 岡村周善氏
営業部 橘 雅文氏
<製品プロフィール> ■192kHz/24bit対応のヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「RAL-24192UT1」 USB 2.0のHi-Speedモード(480Mbps)でのデータ転送を正式にサポートしたUSBオーディオの最新規格「USB Audio Class 2.0」に対応し、従来のフルスピード(12Mbps)をベースとした「USB Audio Class 1.0」規格での最大値96kHz/24bitを越える、192kHz/24bitのオーディオストリーム伝送を可能にしている。 ■クロック内蔵でジッターを低減する“オーディオ用”のUSBタイミングコレクター「RAL-HUB02」 USBオーディオのSOF(Start Of Frame)のタイミング補正と、USBバスパワーの品位向上を図った、セルフパワータイプのUSBタイミングコレクター。内部に±5ppmという高精度なクロックを内蔵し、USB2.0のオーディオデータパケットからUSB1.1パケットを再構成することにより高精度な変換を行いAudio用クロック信号のジッターを抑えられるという。 |
早くからPCとオーディオの融合に取り組んできたラトックシステム
−−−ヘッドホンアンプ内蔵USB DAC「RAL-24192UT1」は、USBオーディオの高速規格である「USB Audio Class 2.0」に対応していて、USBから192kHz/24bitの信号出力ができるのが大きな特長ですね。こちらの製品は、どのくらい前から開発を始めたんでしょうか?
岡村氏:実際に基板の回路図を書いたのは8月の始めでした。プログラムを書き始めたのが10月始め頃。サンプルができたのは、10月の21日頃でしょうか。
−−−すごいスピード開発なんですね。
橘氏:元々ラトックはPC周辺機器の開発を行ってきたメーカーで、USBまわりなどデジタル回路の開発には実績があるんです。
岡村氏:USB関係の測定器だけでもこの10年で1億円くらいつぎ込んでいますし(笑)、開発のための小道具も、自分たちでいろいろ作ったりしていますしね。だから「RAL-24192UT1」の開発は本当にディテールの部分だけ…例えばボリュームを回したときにスムーズに聞こえるにはどうしたらいいかとか、そういうところだけ作れば良かったわけです。
−−−オーディオ分野に参入したきっかけは、社長の趣味とうかがっていますが。
岡村氏:30年近くいろいろやってきたので、もういいかげん好きなことやらせてもらおうかと(笑)。趣味みたいにやってきたんですが、最近は趣味の範囲を超えそうになってきたから、ちょっと困ったなあと思っているところです(笑)
−−−完全にお仕事になってしまったと(笑)。製品は、岡村社長が企画・開発・設計全てを担当されているんですよね?
岡村氏:製造も一部やってます(笑)。ラトックシステムは、2001年頃から、USBから出力した信号をワイヤレスで飛ばせる機器を作ったりしていましたし、そのほかにもPCの音楽をオーディオシステムで聴くためのアダプター「REX-Link2EX」(2007年発売)とか、2.4GHz帯で飛ばせるアンプ内蔵ワイヤレスオーディオシステム「RAL-Cettia1B」(2008年発売)とか、いろいろな製品を世に送り出してきたんですよ。
−−−かなり早くからPCを使ったオーディオスタイルに着目していたんですね。その頃、このジャンルに目を付けていたメーカーは他になかったのでは?
岡村氏:そんなことないですよ。今流行っているリンのDSのような製品は、アイ・オー・データ機器とかバッファローなんかが7年くらい前から作っていたんです。でもその当時は全く売れなかった。ピュアオーディオ方面の人たちがPCを活用した試聴スタイルに注目してくれるようになったのは、2009年にAyre Acoustic社が「QB-9」を出した頃あたりからでしょうか。我々も、ああいうアシンクロナス転送とか外部クロックとかを使った製品をいつか作ってやろうっていうアイディアだけはずっと持っていたんですけどね。
「アシンクロナス転送」ってどんなもの?
−−−その「アシンクロナス転送」、新製品のUSB DAC「RAL-24192UT1」も採用していますよね。その言葉、よく見かけるようになりましたが、実際どういうものなのか良く分からない方が多いのではと思います。
岡村氏:アシンクロナス(Asynchronous)は元々通信用語で、送り側と受け側のデータクロックがそれぞれ独立していることを指します。
言ってみればUSBオーディオはもともとアシンクロナスなんですよ。送り側(USBオーディオ側)が受け側(再生機器側)に信号を送るでしょう、その信号を作るためにはデータクロックが必要です。USB経由でオーディオデータを送る場合、デジタルオーディオ信号の伝送方式でポピュラーなS/PDIFのようにデータにクロックが埋め込まれているわけではなく、USB上を伝送されるオーディオデータそのものにはクロック情報は含まれていませんので、送り側と受け側のクロックはそれぞれ独立していることになりますよね。つまり、両方は基本的には同期していないんです。
でも、クロック情報やbit数の情報がないと、また音楽データの始まりを両方で合わせないと音楽を正しく再生できないので、何らかの約束事(プロトコル)が必要です。
例えば再生ソフトのfoobar2000で、44.1kHz/88.2kHz/96kHzなど様々あるソースを選んだとします。foobarは選択されたソースの信号を送るわけですが、再生機器側は44.1kHzから96kHzまでどんなファイルが来るか分からないですよね。
そこで、アイソクロナス転送のアシンクロナスモードを使って、setCURリクエストとかで再生される音源のサンプリング周波数を教えてあげる。すると、再生機器側は内部回路を切り替えて対応ができるようになる、というわけです。
だからアシンクロナスモードなんて、実際にオーディオ聴くだけなら使わなくたってそんなに関係ないんですよね。他にもサンプリング周波数を知る方法はないことはないし、要は信号をきちんと漏らさずに受け取れて、それを正しく再生できてればいいわけだから。
−−−でも「アシンクロナス転送対応」というのは、いまやネットオーディオ製品のアピールポイントのひとつになっていますよね?
岡村氏:それは、Ayre Acousticが言い出したからでしょう。アシンクロナスモードがどんなものなのか知っている人は殆どいないのに、誰かが言うとそれが一人歩きしちゃうんです。
特に、アシンクロナスモードでフロー制御が行なわれているというように完全に誤解している人たちが大勢います。
サンプリング周波数やパケットサイズ、bit数の情報というのは、アシンクロナスモードを使用しなくとも「オーディオクラスデバイスディスクリプタ」や「エンドポイントディスクリプタ」で交換できます。
アシンクロナスモードであるかどうかに関係なくUSBオーディオクラスの伝送はアイソクロナス転送で実行されていますので、一旦転送が開始されると「まったなし」で一方的に1mS間隔で決まったサイズのパケットが送られてきます。1mS間隔、つまりSOF(Start of Frame) の間隔のことですが、これが狂ったり、来ない時があったり、途中でパケットの中身が壊れたりしてもエラー訂正や再送要求などは一切認められていません。どんどん一方的にパケットが送られてきます。
例えてみれば放送の受信やアナログレコードの再生に似たようなもので、デバイス側、DACなどの再生側からは「ちょっと待って」とかいうことは認められていません。アナログレコードの再生中にアンプから「データ量を減らして」とか「ちょっと待って」なんて要求すると、再生が止まって音が飛んでしまいますよね。そんな風にならないためにUSBオーディオではアイソクロナス転送を使用しているのです。くどいようですがフロー制御は行われていません。
「クロック」と「ジッター」が再生音に及ぼす影響とは?
−−−クロックについては、新製品の“オーディオ用”USBタイミングコレクター「RAL-HUB02」のところでも重視していますよね。こちらの製品の開発の経緯はどんなものだったんですか?
岡村氏:それがね、実はこれは開発というか…元々ワイヤレスUSBのハブだったんですよ。それが大量に売れ残っててね(笑)。処分するしかないかなと思ったんですけど、よくよく考えたらワイヤレスUSBハブは±5ppmという性能のよい発振器が付いてるんですよね。また、ワイヤレスという時間的にあんまりあてにならない伝送方法で送られてくるパケットを、タイミングにシビアな有線USBのパケットに組み立てなおす優秀な回路やファームウェアを内蔵しています。それで、それを使っていろんなオーディオ評論家さんとかに聴いてもらったら「劇的に音が変わる」と言っていただいたので、なら製品として出そうか、と。
−−−そんな経緯があったんですか(笑)クロックとともに、PCオーディオでよく言及されるのが「ジッター」ですが、これは実際、音にどういう影響を及ぼすんでしょうか?
岡村氏:ジッターっていうのは、要するにクロックのズレですね。クロックの中でいちばん音に影響を与えるのはLRクロック、別の言い方ではサンプリングクロックですが、そのLRクロックにジッターが起こって信号がぶれると、アナログレコードの回転数や回転軸がぶれたみたいに音が変わってしまうわけです。また、オーディオ信号のデジタル処理の方法によってはアナログレコードの引っかき傷のようなノイズに聞こえることもあります。
でも色々な製品を見てみると − 特にケーブル系はそうなんですが、「オーディオグレードのもの」と謳っていても、ジッター製造器みたいなものが沢山あるんですよね。でも音が良いと言われている。だから、ジッターが少ないから良い音…その人の好みの音だとは限らないんだなと思いました。扇風機でも、1/fゆらぎとか言うじゃないですか。コンスタントな風よりもちょっとぐらい揺らいでいるそよ風の方が、心地よく感じる人が多いのかも知れません。でも我々は、原音再生 −といっても録音されたマスター音源の再生ですが − のためにはジッターが少ない方がいいと考えています。
演奏家の個性まで表現できるような製品を作りたい
−−−今後はどんな製品の発売を考えていらっしゃいますか?
橘氏:お客様からは、やっぱりもっと外観も含めてオーディオライクなものを出して欲しいと言われますね。
岡村氏:自社ブランドからハイエンドDACを出したいですね。それと、HDMIを搭載したDACかな。SACDのDSD信号をHDMI経由で出力できる機器は既にあるわけだから、いま持っているオーディオシステムと組み合わせて使えるものを。ブルーレイで音楽ソフトを観ているけどAVアンプを買うのは抵抗がある…今持っている気に入った管球アンプで聞きたいというユーザーさんが、より満足して楽しめる環境を構築できるような製品ですね。これは既にOEM製品で発売しているんですが、自社ブランドからも出したいなと思っています。
基本として考えているのは、演奏家の個性もちゃんと表現できるような製品を作りたいなということ。例えばホールにあるピアノ、あれは色々な人が弾きますけど、出てくる音はみんな違いますよね。それは弾く人の技術の違いをピアノがちゃんと表現できているってことなんです。オーディオ機器もそれと同じことで、演奏家の違いがちゃんと出てこないのはダメだなと思います。
−−−今後の製品も楽しみにしています。有り難うございました。