Netflix本社を取材
【集中連載】現地で見たNetflix “最強” の理由(1)ユーザーを1300のクラスタに分類するレコメンドエンジン
Netflixオリジナルコンテンツの最新作『アイアン・フィスト』の配信が3月17日から世界同時に始まった。この機会に合わせて米Netflixが本社ツアーを実施し、コンテンツの制作と配信のために投入する最新のテクノロジーを世界各国から集まったジャーナリストに公開した。
当サイトでは、本イベントに関連するドルビー・ラボラトリーズのツアーと、Netflix本社のツアーを全2回のレポートで紹介してきた。今回から短期集中連載として、Netflixのテクノロジーについて、より具体的な内容へと深く入り込んでみよう。
■ユーザーの「行動履歴」を反映した高精度なレコメンエンジンの開発
Netflixは現在、全世界190以上の国々でサービスを展開している。本稿公開時点で世界9,300万人を超えているNetflix会員は、オリジナルのものを含む膨大なコンテンツを、PCのほかスマートテレビ、BDレコーダーなどのAV家電、Apple TVやChromecastなど外付けストリーミング機器、スマホやタブレットなどのモバイル機器、またゲームコンソールなどで視聴できる。
これだけ多くのユーザー、多種多彩なデバイスが同時にアクセスするNetflix。それを安定的に、かつ快適に提供するため、Netflixが特に力を入れている技術が、今回の本社ツアーで説明された。本稿ではまず、ユーザーインターフェースやレコメンデーションエンジンを担当するVice President Product InnovationのTodd Yellin氏のセッションを紹介しよう。
「Netflixには日々、たくさんの数のコンテンツが追加されています。レコメンデーションや検索エンジンなどを含め、Netflixの視聴体験そのものを、世界のどの地域にお住まいの方々にも快適に味わってもらえるようプラットフォームを整備することが、私のチームのミッションです」とYellin氏は切り出した。
「Netflixでは常にユーザーフレンドリーな体験を追求しています。誰だって、エンターテインメントコンテンツはカウチでリラックスしながら楽しみたいですよね? Netflixのコンテンツは様々なデバイスで楽しむことができますが、どんなデバイスを使ってもユーザーインターフェイスが統一されていて、スムーズな操作性が実現されていることが理想です。新しい機能は既存の機能とA/Bパターン比較を丁寧に行いながら、最終的にはユーザーの要望が強く帰ってきたものを優先しながら実装していきます」。
Yellin氏からは直近で、スマートテレビ向けのインターフェースについて行われたアップデートの内容が紹介された。まず、作品ごとのトップページに表示されるイメージ画像。従来は数枚の静止画によるスライドショーだったものが、動画のプレビューに変更されている。現在は1シークエンスを3回ほどループする仕様だが、これもユーザーからの反響をみながら長さを調節していくという。
これまでパソコンのインターフェースをスマートテレビでもそのまま踏襲してきたが、スマートテレビの場合はより動画プレビューとの親和性が高いと判断したことが、改善を図るきっかけとなった。サービスのローンチ後も、ユーザーからの反響を見て細かなポイントまで迅速に改善を図るやり方が『Netflix流』とYellin氏は胸を張る。確かにスマートテレビ、スマホとも、一昨年秋の国内ローンチの頃から比べると、使い勝手はかなりチューンアップされている。
モバイルアプリについては、レーティング(作品評価)機能が従来の5段階での星取り評価から、よりシンプルなサムアップ&ダウンに切り替わる。「インド・日本・韓国をはじめとするアジア各地域では特に、Netflixをモバイルで視聴するユーザーが増えています。各地域のユーザーから集めた声が反映された格好です」とYellin氏は説明する。
レコメンデーション周辺の「パーソナライゼーション機能」のブラッシュアップもYellin氏のチームが担当する領域だ。Yellin氏は「Netflixの世界展開が拡大していくほどに、私たちが強く感じていることがあります。それは、アルゴリズムの構築にとって重要なクラスターの選別基準を、国籍や性別、年齢などの分類に分けることにあまり意味がなく、むしろ『行動履歴』をベースにしたアルゴリズムの方が、よりユーザーの好みを正確に把握できるという確信です」と説明する。
「Netflixでは行動履歴を基準にしたユーザーの好み(テイスト)を1,300以上の“テイストコミュニティ”と呼ぶクラスタに分類しています。“あなたにおすすめ”する内容については、ユーザーのある好みの傾向だけが強く結果に反映されてしまうと不便なものになってしまいます。より多様性に富んだ、思わず見たくなるようなおすすめリストをつくるためには、テイストコミュニティからの関連性を元にしたレコメンデーションの法則を上手に導き出すアルゴリズムがカギを握っています」。
おすすめタイトルとしてヒットした作品のページに入ると、トップに「パーセントマッチ」の数字が最低55%以上〜最大100%の値で表示される機能追加も実施する。もちろんその作品を視聴してみないことには、レコメンドが正しかったかどうかはわからないが、パーセンテージの高い作品はつい見てみたくなるという心理が働きそうだ。
この機能は日本でスマホを使ってチェックしてみたが、近いタイミングで世界各地域に向けてロールアウトされる予定。本稿執筆時点の3月21日にはまだ日本のサービスに追加されていないようだったので、機会を改めて精度をチェックしてみたい。
Yellin氏は、今後も様々なデバイスでNetflixの視聴体験を最適化するために、UIやレコメンデーションの改善を積極的に推し進めていくと力強く語った。レコメンドの精度をより高くしていく一方で、Facebookやツイッターなど他社のソーシャルサービスと連携し、友だちなど他者からのオススメをレコメンド結果に反映していくことについては否定的だったのが印象的だった。
(山本 敦)
当サイトでは、本イベントに関連するドルビー・ラボラトリーズのツアーと、Netflix本社のツアーを全2回のレポートで紹介してきた。今回から短期集中連載として、Netflixのテクノロジーについて、より具体的な内容へと深く入り込んでみよう。
■ユーザーの「行動履歴」を反映した高精度なレコメンエンジンの開発
Netflixは現在、全世界190以上の国々でサービスを展開している。本稿公開時点で世界9,300万人を超えているNetflix会員は、オリジナルのものを含む膨大なコンテンツを、PCのほかスマートテレビ、BDレコーダーなどのAV家電、Apple TVやChromecastなど外付けストリーミング機器、スマホやタブレットなどのモバイル機器、またゲームコンソールなどで視聴できる。
これだけ多くのユーザー、多種多彩なデバイスが同時にアクセスするNetflix。それを安定的に、かつ快適に提供するため、Netflixが特に力を入れている技術が、今回の本社ツアーで説明された。本稿ではまず、ユーザーインターフェースやレコメンデーションエンジンを担当するVice President Product InnovationのTodd Yellin氏のセッションを紹介しよう。
「Netflixには日々、たくさんの数のコンテンツが追加されています。レコメンデーションや検索エンジンなどを含め、Netflixの視聴体験そのものを、世界のどの地域にお住まいの方々にも快適に味わってもらえるようプラットフォームを整備することが、私のチームのミッションです」とYellin氏は切り出した。
「Netflixでは常にユーザーフレンドリーな体験を追求しています。誰だって、エンターテインメントコンテンツはカウチでリラックスしながら楽しみたいですよね? Netflixのコンテンツは様々なデバイスで楽しむことができますが、どんなデバイスを使ってもユーザーインターフェイスが統一されていて、スムーズな操作性が実現されていることが理想です。新しい機能は既存の機能とA/Bパターン比較を丁寧に行いながら、最終的にはユーザーの要望が強く帰ってきたものを優先しながら実装していきます」。
Yellin氏からは直近で、スマートテレビ向けのインターフェースについて行われたアップデートの内容が紹介された。まず、作品ごとのトップページに表示されるイメージ画像。従来は数枚の静止画によるスライドショーだったものが、動画のプレビューに変更されている。現在は1シークエンスを3回ほどループする仕様だが、これもユーザーからの反響をみながら長さを調節していくという。
これまでパソコンのインターフェースをスマートテレビでもそのまま踏襲してきたが、スマートテレビの場合はより動画プレビューとの親和性が高いと判断したことが、改善を図るきっかけとなった。サービスのローンチ後も、ユーザーからの反響を見て細かなポイントまで迅速に改善を図るやり方が『Netflix流』とYellin氏は胸を張る。確かにスマートテレビ、スマホとも、一昨年秋の国内ローンチの頃から比べると、使い勝手はかなりチューンアップされている。
モバイルアプリについては、レーティング(作品評価)機能が従来の5段階での星取り評価から、よりシンプルなサムアップ&ダウンに切り替わる。「インド・日本・韓国をはじめとするアジア各地域では特に、Netflixをモバイルで視聴するユーザーが増えています。各地域のユーザーから集めた声が反映された格好です」とYellin氏は説明する。
レコメンデーション周辺の「パーソナライゼーション機能」のブラッシュアップもYellin氏のチームが担当する領域だ。Yellin氏は「Netflixの世界展開が拡大していくほどに、私たちが強く感じていることがあります。それは、アルゴリズムの構築にとって重要なクラスターの選別基準を、国籍や性別、年齢などの分類に分けることにあまり意味がなく、むしろ『行動履歴』をベースにしたアルゴリズムの方が、よりユーザーの好みを正確に把握できるという確信です」と説明する。
「Netflixでは行動履歴を基準にしたユーザーの好み(テイスト)を1,300以上の“テイストコミュニティ”と呼ぶクラスタに分類しています。“あなたにおすすめ”する内容については、ユーザーのある好みの傾向だけが強く結果に反映されてしまうと不便なものになってしまいます。より多様性に富んだ、思わず見たくなるようなおすすめリストをつくるためには、テイストコミュニティからの関連性を元にしたレコメンデーションの法則を上手に導き出すアルゴリズムがカギを握っています」。
おすすめタイトルとしてヒットした作品のページに入ると、トップに「パーセントマッチ」の数字が最低55%以上〜最大100%の値で表示される機能追加も実施する。もちろんその作品を視聴してみないことには、レコメンドが正しかったかどうかはわからないが、パーセンテージの高い作品はつい見てみたくなるという心理が働きそうだ。
この機能は日本でスマホを使ってチェックしてみたが、近いタイミングで世界各地域に向けてロールアウトされる予定。本稿執筆時点の3月21日にはまだ日本のサービスに追加されていないようだったので、機会を改めて精度をチェックしてみたい。
Yellin氏は、今後も様々なデバイスでNetflixの視聴体験を最適化するために、UIやレコメンデーションの改善を積極的に推し進めていくと力強く語った。レコメンドの精度をより高くしていく一方で、Facebookやツイッターなど他社のソーシャルサービスと連携し、友だちなど他者からのオススメをレコメンド結果に反映していくことについては否定的だったのが印象的だった。
(山本 敦)