■スピーカーシステムには何故沢山のユニットが必要なの?
エンクロージャーを家だとすれば、そこに住む住人はスピーカーユニットです。各ユニットが気持ちよくよい音で歌うことができるかどうかはエンクロージャーしだい。特に低音再生能力はハコで決まるといって過言ではありませんね。
さて、エンクロージャーのことがひととおり理解できたところで、今回は集中的にユニットについて解説しましょう。
スピーカーシステムにはなぜたくさんのユニットがついているのでしょうか?1つで済めばそれにこしたことはないけれど、それでは広いレンジをカバーすることは難しいからです。
ヒトの可聴帯域(聞こえる音の範囲)は、下は20Hzから、上は20kHz以上もあります。そこで帯域をいくつかに分け、それぞれに専用のユニットを受け持たせるようにしているのです。低音用と高音用なら2ウェイで、その間にもう1本中音用のユニットを追加したのが3ウェイシステムというわけです。
これらのユニット名は、低・中・高をそのままLF(ローフリケンシー)ユニット、ミッドレンジユニット、HF(ハイフリケンシー)ユニットなどと呼ぶこともありますが、これはちょっと味けがありませんね。そこでオーディオファンの間では古くから、動物や鳥の声になぞらえた愛称で呼んでいます。ウーファー(Woofer)、スコーカー(Squawker)、トゥイーター(Tweeter)がそれです。低音はオオカミや犬が低くうなる声に似ているので「ウーファー」、中音は鳥がギャーギャー鳴くことから「スコーカー」、高音は小鳥のチッチッというさえずりで「トゥイーター」というわけです。
さらに3ウェイにミッドバス(中低音域)を追加した4ウェイ、超高音域用のスーパートゥイーターを加えた5ウェイなども、一部の海外製品などで見かけることがあります。ここまでくるとずいぶん複雑で大がかりな構成になります。
ユニットを複数使うこれらのシステムを総称して、マルチウェイと呼びます。音の通り道がマルチに分かれているからです。これに対して、ユニット1発でシステムを構成するのがフルレンジ・シングルです。
図で両者の比較をみてみましょう。長所短所が対照的ですね。
フルレンジ(全域用スピーカー)の良さは、とにかく構成がシンプルなことです。帯域を分けるネットワークやユニット間のレベル調整なんて不要。レンジ少々ナロー(せまい)なカマボコ型であろうと、ユニットの個性がそのまま音に出るのが魅力でしょう。音源がひとつのため、点音源に近いこと。それによる定位のよさもポイントです。ダイヤトーンのP-610A、JBLのLE-8T、グッドマンのAXIOM80など、古くから名器として知られていますね。多くはシングルーコーンという形態ですが、高音を伸ばすためにサブのコーンをもち、ダブルコーンとしたタイプもあります。ここではAXIOM80がダブルコーン方式です。
一方マルチウェイの方は、区分された帯域ごとに専用のユニットを用いるもの。リレー競技でいえば、それぞれの区間を短距離、中距離、長距離選手が走るようなもの。一人の中距離ランナーがすべてを走るフルレンジスピーカーよりも、タイム(特性)がよいのは当然ですね。
受け持ち帯域に適した設計ができるため、ワイド&フラットな特性で歪みが少なく、大きな音にも耐える(耐入力が高い)のです。これをパワーハンドリングがよいといいます。
ここで口径の大小と再生周波数の関係を考えましょう。直感的に分かるのは、低音再生なら大口径のスピーカーの方が有利で、高音の再生は小口径ほど適しているということ。理由は何でしょうか。そう、空気を揺する量の違いです。25〜38cmという大口径のユニットは、ちょっと動いただけでも面積が広いためにたくさんの空気を揺することができますね。「ドスコイ、ドスコイ!」と、お相撲さんのようにパワーがあって押しに強い。つまりウーファー向きなのです。しかし、コーンが重いために速い動きは苦手。すばやく動くのは3cm程度の小口径で軽量なスピーカーで、これが高音用のトゥイーターに適しているのです。素早いパンチを繰り出す、フライ級ボクサーのような感じと言えますね。
両者の間にあるのが12〜20cm程度の中型スピーカーです。これは大型ウーファーのような重低音も得られませんし、トゥイーターのような繊細な高音も出ません。でも、ボーカル帯域を中心に、中音域がしっかり再生できるため、スコーカー用にぴったり。またフルレンジ・シングル用としても用いられるのです。
■コーン型、ドーム型、ホーン型の違いは?
以上は主にコーン型スピーカを中心に見てみたのですが、スピーカーユニットには他にもいくつか方式があり、得意とする再生帯域や音の特徴があります。
図はダイナミック型スピーカー3兄弟です。コーン型、ドーム型、ホーン型は、駆動方式としてはみんなダイナミック型スピーカーの仲間。ダイナミックスピーカーについては前々回のスピーカの仕組みのところで詳しく解説しましたね。マグネットとボイスコイルをもち、そこに流れる音声電流と磁界との間に生じる力(電磁力)を利用するものです。フレミングの左手の法則を思い出しましたか?
まずコーン型スピーカー。コーン(Cone)とは円錐の意味で、振動板がお椀のような形をしている最もポピュラーなタイプです。コーンの形状も色々で、コーンの浅いものや深いもの、ストレートコーンに逆カーブをしたものなどさまざまです。このように振動板を平らに(フラット)にしないのは強度をキープするための工夫。コーンの大きさを色々と変えることで、ウーファーからトゥイーター、フルレンジ型まであらゆるタイプに対応できるのが特徴です。特に大口径ウーファーはコーン型ならではのもので、他方式はほとんど見あたりませんね。
ドーム型はその名のとおり、ボイスコイルにドームをかぶせたような形状で中音以上の再生が得意。主にトゥイーターに用いられるタイプです。この型の最大の利点は、振動の仕方。ちょうどドームが膨らんだり萎んだりする、一種の呼吸運動に近くなることです。このために音が広がって指向性がよくなるというメリットがあるのです。弱みはその分能率が低めになりがちなこと。
音の傾向はドームの素材によって違います。布地を素材にしたソフトドーム型は柔らかくて繊細。アルミやベリリウムなどの金属をドーム状に加工したハードドーム型になると、シャープでくっきりした音調となるのです。
最後にホーン型です。ドーム型のユニットにラッパのようなホーン(horn)を組み合わせたのがホーン型スピーカーです。音を出すのはあくまでドライバーの部分(磁石、ボイスコイル、振動板)。ではホーンは何のためにあるのかといえば、音波になってからそれを空中に能率よく放射するための仕組みなのです。金属や樹脂でできており、ホーン自体は振動しません。
口の両側に手をあてて「ヤッホー!」と呼んだり、メガホンを使うと音が集まり遠くまで届きますね。これをオーディオ用語ではホーンロード(負荷)がかかるといいます。これによって、振動板の動きを空気中に有効に伝達できるほか、能率やトランジェント(過渡特性)が向上するのです。タイトで歯切れのよい音がホーン型の音の特徴です。
しかし、再生できる帯域が狭いためにトゥイーター、スコーカーなど帯域を限定して使います。スコーカーはかなりの大型ホーンとなりますね。指向性を広げるためにセクトラルホーン(仕切り板をつける)としたものもあります。
■リボン型とコンデンサー型
最後にリボン型とコンデンサー型の話をして締めくくりましょう。どちらも極めて薄い振動板を用い、高音域まで伸びた繊細な音を特徴とするスピーカーですが、発音メカ二ズムは全く違います。リボン型はその名のとおり、短冊状の金属リボンを磁界中に置き、これに音声電流を流して直接音を発生させる仕組み。基本的にはダイナミックタイプの仲間ですが、100kHzにも達する超高域再生を得意とします。海外の高級ブランド(ダリ、モニターオーディオなど)をはじめ、最近リボントゥイーターを搭載するケースが目立ちますね。SACDなどのワイドレンジ再生に対応したものでしょう。
コンデンサー型スピーカーは老舗メーカーのQUADが有名ですね。コンデンサーのように静電現象を利用することからこう呼ばれます。磁石は不要、でも数千ボルトの直流バイアス電源をもっています。2枚の電極をピンとはった状態にしてそこに信号を加えれば、電圧の変化が膜面の動きとなる仕組み。ポイントは面全体が発音体のため、フルレンジの平面スピーカーとして使えることや、クラシックファン好みのデリケートなサウンドでしょう。
これでスピーカーのユニットについてはお分かり頂けたでしょうか?次回は、音楽信号をこれらユニットに振り分ける働きを持つ「ネットワーク」について見ていきましょう。
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