■3ウェイネットワークの仕組み
前回の2ウェイネットワークでは、信号をハイとローに分ければよかったのですが、3ウェイシステムの場合はもうひとつスコーカー用のバンドパスフィルター(BPF)が必要になり、ちょっと複雑な構成になります。
バンドパスとは帯域通過、つまり目的の帯域のみを通すフィルターということ。図1のように、上下をカットしたカマボコ型の特性をしていますね。どうやってこの特性を得るかというと、ふたつのフィルターを重ね合わせるのです。ここでは500Hzと7kHzでクロスさせる、3ウェイシステムを例に解説しましょう。
BPFの部分をぬき出してみます。図は12dB/oct.型の回路で、CとL、LとCの4つのパーツから成り立っていますね。入力された全域の音楽信号は、まず前段の500Hzから上のみを通すHPFによって、500Hzから下をカット。次に7kHzから下を通すLPFによって7kHz上をカットされますから、ふたつのフィルターを通過することによって、500Hz〜7kHzの音楽信号だけがぬき出されたミッドレンジの音がスコーカーに加えられるのです。
この音域はオペラやボーカルなどの人の声の成分が多く含まれるだけに、とても重要な帯域といえますね。スコーカーの受け持ち帯域を狭めたり広げたりするのも、クロスオーバー周波数の選び方次第。ちょっとオーディオのわかる人なら「低域側が500Hzになっているなあ。相当下の方でクロスさせてるから、これはウーファーが38cmクラスの大型なんだろう」とわかりますね。その分、スコーカーにはかなり下の音までカバーしてもらわねばなりません。30cm級なら800〜1.5kHzくらいです。
じゃあ20cmならどうだ。20cmウーファーで3ウェイというのは珍しく、この位の口径のウーファーであれば、かなり中域までカバーするので2ウェイが一般的とみてよいでしょう。口径の大小でウーファーの受け持ち音域の見当がつけば、ちょっとしたオーディオ通ですね。
では2.5ウェイ、3.5ウェイとはどんな構成なのでしょうか。この0.5というのは便宜上つけられたもので、例えば2ウェイシステムの場合、ウーファとトゥイーターだけだとちょっと高域がもの足りない。だったら、そこにもうひとつスーパートゥイータをプラスすればいいじゃないか。というわけで、それまでのトゥイーターの高域はカットせずそのままスーパートゥイータと一緒に鳴らすようなシステム。そのほかにも、ダブルウーファーでウーファーを2本使いながら、同じカットオフとせずにクロスをずらしたような使い方をする……などさまざま。スピーカーの世界はとても深いのです。
■ユニットのレベルを調整するアッテネーター
次はネットワークの補佐役として、アッテネーター(ATT)について学びましょう。ネットワークはあくまで、音の道案内をするもの。低音はこちら、高音はこちらと振り分けてはくれますが、そのレベルまで面倒をみてはくれません。
ところがユニットにはそれぞれがもつ音の能率(一種の感度、レベル)がありますから、そのままネットワークにつなぐだけだと、ユニット間のレベル差がモロに出てしまいますね。普通はウーファーに対して、スコーカーやトゥイーターは能率を高めに設計しているのです。「なんだか音がカンカン、シャリシャリするなあ。中〜高域が耳につく」という感じに聞こえたらまず能率差、レベル差とみて間違いありません。特性的にも中〜高域の勝ったハイ上がりのサウンド。スピーカーは音響変換器(トランスデューサー)とも呼ばれますが、その変換能率が高いか低いかでこうした違いが生まれるわけです。
そのユニット間のレベル差を埋めて、特性をフラットにするのがアッテネーター(ATT)の役目です。普通はスコーカーやトゥイーター側にレベル調整器として、アッテネーターを入れますね。
図3を見ましょう。アッテネーター(ATT)とは抵抗減衰器。一種のボリュームのようなもので、そのつまみを右、左と回すことによって音のレベル(強さ)が+/−と変化します。連続可変だったり、デシベル目盛りのステップ式だったりします。いずれにせよ、+といっても元のユニットの音より大きくなることはなく、あくまで音を絞る(減衰させる)もの。便宜上、レベルの差をそう表現しているだけなのです。
ユニット間のレベルがぴたっと揃い、バランスのとれたサウンドは気持ちのよいものですが、レベルがフラットであれば音がよいかというと、それは別問題。部屋の条件や音楽ジャンルによっても、好みのレベルに調整したいものです。なおアッテネーターはキャビネットの前やリアに付けることが多いのですが、最近は省いてしまうケースが多いようですね。これは内部に固定で組み込まれ、ネットワーク回路と一緒になって音のチューンがなされているからでしょう。
■スピーカ端子の違い〜シングルワイヤーとバイワイヤー
スピーカー端子をみて、ふたつタイプがあることに気がつきませんか。そう、シングルワイヤー端子とバイワイヤー端子です。シングルワイヤーは、普通に+/−のスピーカー端子を1系統備えたタイプ。一方バイワイヤーまたはバイワイヤリング対応と呼ばれるスピーカーでは、図4(b)のようにハイとロー、2系統の端子をもっていますね。
ハイ側はトゥイーター用、ロー側はウーファー用というのはわかりますが、わざわざなぜ分けるのでしょうか。しかもアンプとは2本のケーブルを使って結線をする。詳しくは次の「スピーカーのつなぎ方」の回で解説しますが、簡単にいえばウーファー内で発生する逆起電力を、なるべく遠回りさせてトゥイーターにいくまでに弱体化させようとする仕組み。それだけ音が良くなるのですが、これは入門者というよりある程度の熟練をつんだオーディオファン向けの装備といえるでしょう。通常はジャンパー線でハイとローがつながれていますから、バイワイヤーのことを知らなくてもシングルワイヤー感覚で使えるようになっています。
■アクティブ型のマルチチャンネルシステム
これまでお話してきたネットワークによるスピーカーは、パッシブ(受動的)なシステムです。あくまでアンプは1台で、パワーアンプを出たあとにLC素子によって帯域分割を行っていました。これに対して先に帯域分割を行い、そのあと低音、中音、高音とそれぞれのユニットごとに専用のパワーアンプを設けてドライブする方法があります。これがマニア垂涎のマルチチャンネルシステムです。
マルチチャンネルというと、5.1chサラウンドなどをイメージしがちですが、そうではなくあくまで帯域分割をどこでやるかということ。チャンネルデバイダー(略してチャンデバ)という電子回路(トランジスタなどのアクティブ素子で構成される)で、より精密に帯域分割を行ったのち、それぞれの駆動アンプへと音声信号を送るのです。
マルチチャンネルスピーカーシステムにも、2チャンネルから3チャンネル、さらに4チャンネルとありますが、全体に大がかりで高価なシステムとなります。使いこなしにもそれなりの経験を必要とするのです。いずれはマルチチャンネルを、と夢見るのも楽しいではありませんか。
最後にアンプ内蔵型のスピーカーのお話をしましょう。スタジオなどプロ現場のスピーカーはほとんどがアンプやチャンデバを内蔵したアクティブスピーカーですね。アンプ込みで音の管理やメンテナンスが行えることがメリット。私たちの使うコンシューマー製品にも一部アクティブタイプがあるので、注意してみましょう。
いい例がサブウーファーです。かつてはスーパーウーファーと呼んでいましたが、システムの低域をカバーする縁の下の力持ちです。ウーファー専用のユニットとフィルター、駆動アンプが同居し、100〜150HZから下の超低音成分を再生するのです。
さて次回は、今までおさらいしたスピーカーのしくみを踏まえながら、スピーカーの繋ぎ方について考えていきましょう。
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