さあ今回は、アナログアンプとデジタルアンプの違いを学びましょう。ディスクで言えば、LPレコードがアナログで、CDやSACDは「0、1」のデジタル方式というのは常識ですね。アンプにもアナログアンプとデジタルアンプの区別があるのです。
昔からあるのがアナログアンプ。黙ってアンプといえば、アナログアンプを指すくらいポピュラーですね。音楽信号のアナログ波をそのままの波形で大きくしてスピーカーに送り込むものは、前回お話ししたA級もB級も、また一番多いAB級だってすべてアナログアンプなわけです。真空管アンプはもちろんアナログアンプの代表!
一方デジタルアンプはと言うと、音楽信号を「0、1」のパルス信号、つまりデジタル信号として扱います。でも最後はアナログ信号に戻してスピーカーを鳴らすのです(デジタルのままではスピーカーは働きませんからね)。「D」はデジタルの「D」と呼んでる人はそのままで良いでしょう。実際はアナログアンプのA級、B級よりさらにうんと深いカットオフ領域というエリアを使って、“0、1”信号をそのまま大きくしてスピーカーを動かすだけのエネルギーを得ているのです。
デジタルアンプの流れは、
入力信号をいったん0、1のパルス信号へ変換し、パルス信号のまま増幅して最後にアナログの音楽信号のみを取り出し、増幅された信号の再生を行う……というもの。デジタルアンプのカギを握るのは、スイッチングとD級アンプです。D級アンプそのものがスイッチングアンプで、その前に必ずデジタル信号に変換するためのPWMなんていう回路が入っているのが特徴。PWMはパルス幅変調で……なんていう難しい話は後回しにして、まずは簡単にデジタルアンプの長所、短所をまとめましょう。
デジタルアンプのメリットは高効率、低発熱、小消費電力なこと。結果としてアナログアンプよりずっと小型軽量になりスマートです。オーソドックスなアナログアンプではそうはいきません。アナログアンプは一般に効率が悪く、ムダになった電力がすべて熱に変わるのであんなに熱くなり、またボディ自体もヘビーで大きいのです。これはA級もB級も基本的にはそう変わりません。
イメージでいうと下の図がわかりやすいでしょう。アナログアンプは増幅素地のリニアな領域を使うために、そこできれいなサイン波の増幅が行われている以外の部分(図の斜線、またはアミがけ)では、すべて熱となって失われるのが欠点といわれています。「えっ、リニアだからこそきれいな増幅ができるんじゃないの?」。わっはっは。それは増幅の古典というもので、素子にはリニア(直線的)に働く動作と、もうひとつノンリニア(非直線)にはたらくスイッチング動作というふたつの“顔”があるのです。その代表が「D級動作」です。
上の図は“+V”が1、下の“−V”が0のレベルに対応しています。アナログの場合は増幅に使われていない領域が多いために効率がべらぼうに低い。これに比べてデジタルアンプの場合は、+Vと−Vをパチパチとスイッチングさせ切りかえて使うために、面積のほとんどをムダなく使いきっていますね。だから効率が良く、いつもクールで涼しい顔なのです。
とはいえ現在デジタルアンプと呼ばれているものは、まだまだデジタルアンプのスタートに立ったもの。やっとひとり立ちできるかどうかという感じですね。理想のデジタルアンプはと言うと、入力ソースそのものがデジタルになっている時代にふさわしく、CDもSACDもデジタル端子で入り、そのまま一気にフルデジタルで増幅して……まあ最後のスピーカーだけはアナログですが、そんな感じのアンプ動作なわけです。
それに比べると各社から発売されているデジタルアンプの定義はいまひとつあいまいなのですが、最低限共通なのは「出力段がD級動作」をする。この1点なのです。デジタルアンプとはすなわちD級アンプと見つけたり!
ここで現代デジタルアンプの一般的なブロック図を見てみましょう。入力部のPWM変調回路、続いてD級増幅のパルスアンプがきて、最後に元のアナログ信号をとりだすLPF(ローパスフィルター)がくるという、
「ホップ/ステップ/ジャンプ」の三段跳び動作。これがデジタルアンプの基礎と覚えましょう。
まずPWMです。アナログの信号のままだとその後のD級アンプの良さが活きないので、まずはアナログの元信号を0、1に変換してあげます。これがスイッチング動作です。スイッチングは単純に電源をON/OFFするためだけのスイッチ回路と考えてよいでしょう。スイッチは閉じるとONで最大の電力が供給され、開くと0となって電力消費はゼロ。「でもスイッチングしただけじゃ“0と1”になるだけじゃないか?」という疑問が湧くかもしれませんが、それだけじゃありません。実はONとOFFの時間(パルス幅)を信号の大きと対比させながら、変化させているのです。幅はWIDTH。MはMODULATIONで変調。これをPWM方式、パルス幅変調と呼んでいるのです。
このほかにもシャープが採用しているPDM(パルス密度変調)もありますが、その良さを発揮できるMOSという素子がまだまだ少ないために、大半のメーカーではPWM方式を採用しているのです。ソニーのS-MASTER、オンキヨーのVLデジタルも基本的にはPWM方式。おっと、ここから先は中級の内容ですから、このへんで切り上げましょう。
こうして得られたPWM波はいよいよD級アンプに入ります。ここからが巧妙です。D級アンプの出力はプラスの最大電圧である+Vか、マイナスの最大電圧である−1Vの2値しかとりませんね、2値とはデジタルそのもの。ではどうやって中間の細かいレベルのアナログ信号を表すのでしょうか。例えば出力0は、+Vと−Vとを短い周期で交互に出力します。出力を慣らしてみれば(これを平均化といいます)、+/−ゼロとなる。もうわかりましたね。+を出力したければ、ONの割合が多くなるようにする。また−の信号についても同様で、正負のスイッチングを小刻みにして出力をコントロールするのです。スイッチングといっても、手で入り切りするようなレベルではなく、数百キロからメガヘルツオーダーの神ワザ的な高速動作なのです。これがPWMの役目。このPWMパルス信号のままD級増幅するのがデジタルアンプの真髄といえるでしょう。
最後の関門が、+/−にちぎれたパルス状態の音楽情報をどうやって復元するのかです。DAコンバーターなんて使いません。D級アンプの後にくるのは、実は
スピーカーのネットワークのところでも学んだL(コイル〜とC(コンデンサ)のLPF(ローパスフィルター)だったのです。この回路は緩和作用みたいなもの。変化を慣らす働きがあるので、パルス幅の微細なところは「まあこんなもんでしょ」と出力をケチリ、パルス幅の広いゆっくりした動作のときに大きな出力として取り出す役目です。これできれいに増幅された元のアナログ波が得られますね。
デジタルアンプの内部を見た人は、巨大なコイルが出力段のところに入っているの覚えているでしょう。デジタルでいかにハイスピードな信号がつくられようとも、音質を握るのは出力部のコイルやコンデンサー。それに電源のでき不出来とスイッチングによる高周波ノイズにどう対処するかどうかにかかっています。アナログアンプ以上にパーツへの気配りや電源対策が必要なのです。
次回はアンプの端子の話とつなぎ方を学びましょう。
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