アンプの性能を表す目安がカタログなどに記載されてるスペックです。アンプ編最終回の今回は、一般的なプリメインアンプを例にあげ、その中に出てくる用語や関連する内容についてまとめましょう。
まず上のスペック表を見てみます。アンプの出力は「AB級動作・定格90W+90W」などど、回路形式まで記載してある製品もありますね。これは標準的なパワーのアンプだなと分かりますが、最大実効出力との違いは何でしょう。そのほかアンプの基本性能である周波数特性や歪み、S/N比なども気になるところ。入力/出力では端子の数が多いほど、つなげる機器が多いということですが、端子の形にも後ほど述べるアンバランスのRCAとバランスタイプのXLRとがあります。トーンコントロールなどの機能も大切です。まとめて解説しましょう。
★出力回路形式(A級、B級、AB級、D級 動作など)(
→詳しく解説した回はこちら)
「○○級」というのはランクづけということではなく、アンプの動作状態を示すもの。増幅の際、増幅特性カーブのどの部分を使うかで、A、B、AB級などに分かれます。A級はきれいな直線部分を使うので音が良いけれど小出力。B級は大きな出力を得るために、曲線部分までいっぱい使用します。その間がAB級動作で最も多いタイプです。D級はデジタルアンプの場合の動作状態を示します。
★定格出力 Rated Output Power(W)
出力とはアンプが取り出せるパワー。これにも定格と実用最大出力とがあり、設定された歪み率以内で連続的に取り出せるのが定格出力です。つなぐスピーカーのインピーダンスによっても大きく変わるので、8Ω時、6Ω時、4Ω時などとあせて記載することがあり、一般にインピーダンスが小さいほど出力が大きくなる傾向です。
★実用最大出力 Maximum Output Power(W)
定格出力が連続して供給できる出力を表すのに対して、実用最大出力は音楽信号を想定して、瞬間的に定格出力を越えて供給できる出力のこと。定格出力よりもかなり大きな値になります。出力は測定条件によって変わるので、どちらによる表記なのか注意しましょう。
★全高調波歪率 T.H.D/Total Harmonic Distortion(%)
アンプは増幅する際、元の信号にはない歪み成分が混じって出力されます。色々な周波数成分を含む高調波ですね。これをトータルして歪み全体がどれだけあるかを示すのが全高調波歪み率。トータルハーモニックディストーション(T.H.D)ともいいます。当然小さい方が性能のよいアンプです。
★周波数特性 Frequency Response(Hz)
周波数レンジのこと。どれだけ広い帯域にわたってフラットな特性をキープするのかを示します。電気的な増幅のフラットさですから、スピーカーのような凹凸はなく、レンジもずっと広いですね。但し出力によって広さが変わり、大出力になるほど帯域が狭くなるのがアンプの特徴です。
★S/N Signal to Noise Ratio(dB)
アンプで増幅され大きくなる信号(シグナル:S)には、それ以外の雑音(ノイズ:N)が含まれます。その割合が信号対雑音比。S/N比というものです。Nが分母側にあるので、S/Nは大きい方がよいアンプです。
アンプのスペックにはこのほかにも、混変調歪みやパワーバンドウイズス(出力帯域幅)、ダンピングファクターなどがありますが、これはまた中級編の楽しみとしましょう。
■アンプについてのあれこれ(分類/パーツなど)編
スペックの見方がわかったところでもういちどアンプの基本に戻ります。増幅の意味やアンプにはどんな種類、タイプがあるのでしょうか。最近流行のデジタルアンプとアナログアンプの違いや、半導体アンプと真空管の違いなども、対比させながら知識を深めましょう。
★増幅(
→詳しく解説した回はこちら)
小さな信号を大きくすることを増幅といい、その働きをもったオーディオ機器がアンプリファイヤー。略して「アンプ」です。
★プリアンプ(
→詳しく解説した回はこちら)
CDプレーヤやチューナーなど、ソース機器からの微弱な音楽信号を増幅(電圧増幅)して、パワーアンプに送り届ける役目をするのがプリアンプです。プリとは前段の意味があり、川でいえば上流です。好みのソースを選ぶセレクト機能や、トーンコントロールなどの音質調整機能も備えています。
★パワーアンプ(
→詳しく解説した回はこちら)
こちらは川でいえば下流。スピーカーを直接駆動する力持ちのアンプがパワーアンプで、そのために電力増幅回路を持っています。大きな電源トランスを内蔵し、大きなボディで発熱も大きいなどが特徴。プリとパワーとが独立しているのでセパレートアンプと呼び、異なるメーカーのプリとパワーアンプを組み合わせるなど、より高度な楽しみ方ができますね。
★プリメインアンプ(インテグレーテッドアンプ)(
→詳しく解説した回はこちら)
プリアンプとパワーアンプを合体させた一体型のアンプ。アンプとして最もポピュラーなスタイルで、操作もやさしく入門者から中級クラスむけといえます。さらにCDプレーヤーやチューナーを内蔵したプリメインアンプはCDレシーバーと呼びますね。
★真空管アンプ(
→詳しく解説した回はこちら)
真空管素子を用いたアンプ。管球式、あるいはバルブタイプとも呼び、ずっと古くからあるものですが、半導体式アンプ全盛になった現在でも根強い人気があります。原理はフィラメントで熱して電子を飛ばす仕組み。取扱いの際は振動に弱いことや、タマに直に触れない(熱いのでやけどします!)などの注意が必要です。最近はただのノスタルジーではない、新しい設計の真空管アンプも登場していますね。
★半導体アンプ(
→詳しく解説した回はこちら)
トランジスタやFET(電解効果トランジスタ)などの半導体デバイスを用いたアンプです。普通にアンプといえば半導体アンプを指しますね。出力段に用いるパワートランジスタは発熱が大きく、熱を効果的に逃がす放熱板にとりつけてあります。
★アナログアンプ(
→詳しく解説した回はこちら)
増幅素子の直線性を利用したアンプを総称してアナログアンプといいます。入力信号の大きさに比例した出力を得るという仕組みで、動作形式としてA級、B級、AB級などがありますが、これはすべてアナログ方式のアンプです。
★デジタルアンプ(
→詳しく解説した回はこちら)
入力を一旦0、1のパルス信号に変換し、パルス信号のまま増幅して、最後にアナログ信号のみを取り出すアンプ方式です。鍵を握るのはスイッチング動作とD級アンプ。デジタルアンプのメリットは高効率、低発熱、小消費電力なことです。反応が早くハイスピードなサウンドが人気ですね。最近各社でも力を入れはじめています。
★シングル動作(
→詳しく解説した回はこちら)
1個の素子だけで増幅動作をさせること。A級のシングル動作がポピュラーです。リニアー(直線)な特性の部分のみを使うので、回路はシンプル。出力は小さいながら、歪みの少ない上質なサウンドが得られます。
★プッシュプル動作(
→詳しく解説した回はこちら)
PUSHは押す、PULLは引く。2個の素子を正負(+/−)のサイクルによって、お互いにカバーしあうように動作させる増幅方式です。+の波形と−の波形をつなぎあわせるめ、シングル動作に比べ4倍近い大出力が得られるのが特徴です。
★ライン入力(
→詳しく解説した回はこちら)
ラインレベル(1V程度)のソース機器をつなぐための入力端子で、主にフォノ入力に対して使う用語です。アナログレコード再生用のフォノ入力は数mVの微弱な信号を扱うため注意が必要ですが、ライン系のCDプレーヤーやチューナーなどであれば、それほど神経を使うことはありませんね。
★アンバランス端子(RCA)(
→詳しく解説した回はこちら)
信号を送るには+と−のラインが必要ですね。普通は−側をアース回路と共通にしたアンバランス伝送と呼ぶ方式で伝送しています。そのための端子がアンバランス端子で、RCA端子を用います。
★バランス端子(XLR)(
→詳しく解説した回はこちら)
バランス伝送とは+側、−側とともに専用のラインを設け、アース回路から独立させて伝送する方式です。そこに用いるのが+、−、アースの3つをもったバランス端子で、通常XLRのキャノンコネクターを用います。ノイズに強くケーブルを長く引き延ばせるのが特徴です。
★トーンコントロール(
→詳しく解説した回はこちら)
アンプで低域や高域を増強、または低減するための回路です。バス(低域)/トレブル(高域)と独立したつまみによって、好みの音質に調整することができます。
★ラウドネスコントロール(
→詳しく解説した回はこちら)
人間の耳は音量が小さくなるほど低音が不足し、高音域も聞こえにくくなる性質があります。これを補正するのがラウドネスコントロールです。夜間などにこのスイッチをONにすると、低音と高音がほどよくブーストされ、バランスのよい音で聞くことができます。
★ソースダイレクト(
→詳しく解説した回はこちら)
トーンコントロールなどの音質調整回路をジャンプさせて、最短経路で信号を通すための機能。音の劣化のないピュアな再生音が得られます。
これでアンプ編は終わり。次回からは、いよいよ光ディスク(CD/SACDなど)編が始まります。お楽しみに!
>>
「林 正儀のオーディオ講座」記事一覧はこちら
http://www.phileweb.com/magazine/audio-course/archives/summary.html