多くの皆さんに親しまれてきたオーディオの連載講座も、ひとまず終わりとなります。最終回の今回は、これまでの連載のまとめと各ジャンルでの新しいフィーチャーも加えながら、2年半を振り返ってみたいと思います。また、連載のなかで触れていなかった最近のトレンドであるデジタルミュージックや高音質CDの話題なども付記しましょう。(★連載の全内容は
こちら)
■スピーカー
まず、最終的な音の出口であるスピーカーです。低音を出すためのエンクロージャーの仕組み(バスレフ、密閉式)やユニットそのものの原理はほぼ完成されたものですが、最近の高音質ソースに対応すべく、さらなるワイドレンジ化が計られていますね。
100kHzの超高音域まで再生するリボントゥイーター搭載の製品が内外とも増え、例えばmhiの「Evidence MM01A」のような小型で手頃なモデルも登場。低音域への拡張では、サブウーファーが注目です。45センチユニット搭載のKEF「Model209」や、手頃なところではフォステクスの「CW200A」などがあり、手持ちのシステムにプラスするだけでリッチな低音域が楽しめます。導入を検討してみてはいかが?
フォステクスといえば、ユニークなフォルムのメタルコーンを用いた「GX102」や「GX103」などが人気ですが、モニターオーディオの「Platinum」シリーズやELACなど、世界的にもこうした金属系振動板がトレンドとなっていますね。
また音像の位置や位相を揃えることも音楽再生では欠かせません。そのためには同軸化したユニットが有利。KEFやTADなどのビシっとフォーカスの合ったサウンドを聴くと、なるほどと理解できますね。
■アンプ
スピーカーをドライブするアンプはどうでしょう。これも増幅やプログラムソースの選択、音量調節&各種のトーンコントロールといった基本の働きは変わりませんが、スピーカーの進化にマッチした、よりハイクオリティな製品が求められるのです。
マランツやデノン、ラックスマンといった主力のアンプメーカーから新しい世代のプリメインのシリーズが登場したり、音質重視のA級動作アンプではアキュフェーズのE-560、A-65パワーアンプなどが注目を集めました。日本製らしく丁寧かつ質実剛健なつくりで、正確にスピーカーをドライブしてくれますよ。
TADのマンモスモノパワーアンプ「TAD-M600」には驚かされました。TAD-R1を鳴らし切ると豪語するだけに、重量級の鋳鉄を脚部に用いて振動をシャットアウトしたり、回路方式も対称性にこだわったバランス駆動を投入したのです。ペアで約500万円の世界がどんなものか、私も試聴して「ああ、オーディオにはこうした夢のあるハイエンドな世界があるのだなあ」と感嘆した次第です。
その一方で、スリム&コンパクトにまとめられたNuForceやオンキヨーなどのデジタルアンプも素敵です。一般的なアナログアンプに比べ、効率がよく発熱が少ないのも魅力ですね。デジタルアンプの仕組みは
第15回に詳しく解説していますよ。
デバイス(増幅素子)でみるとトランジスタアンプ主力のなかで、オクターブの「V40SE」やトライオードの「TRV-88SE」のような真空管アンプも根強い人気があります。
■光ディスク(CD、SACD)
オーディオのメインソースは、CDプレーヤーです。システムの上流にあって好みの音楽CDを再生してくれます。
実際の製品でみると、上位のフォーマットであるSACDとCDの両方がかかる光ディスクプレーヤーが主流ですね。SACDはCDの5〜6倍の情報量で、音域とダイナミックレンジが広く、ふわっとした倍音成分や空気感まで味わうことができるのです。SACDソフトはいまほとんどが2層のハイブリッドディスクなので、一般のCDプレーヤーでもCD層の音声は楽しめますよ。
サンプリング周波数やビットレート、クロックなどの話は
第22回をご覧ください。CD/SACDプレーヤーには、ディスクに記録された音楽情報を正確にピックアップすべく、さまざまな技術が用いられているのです。
このところネットワークオーディオに押されぎみの光ディスクプレーヤーですが、オーディオファンにとってはまだまだメインのソース機器として、存在感を見せていますね。国産ではデノン、マランツ、ヤマハ、エソテリックなどの新顔が頑張っていますし、TADから超弩級フラグシップモデル「TAD-D600」も登場しましたね。海外ハイエンドも健在です。趣味性という面ではラックスマンのD-38uがビンテージ機器ともマッチングのよい木箱入りで、半導体と真空管の音が楽しめるモードを備えていますよ。デジタルミュージックのような新しい流れを受けてUSB端子を搭載したCDプレーヤーが出るなどの変化も遂げていますよ。
★高音質CDの話
ディスクの方はというと、ちょっとした新素材CDブームです。スペックはCDのまま、基板の素材を変えて高音質化をはかったもので、SHM-CD、HQCD、Blu-spec CDの3タイプがあります。そのままCDプレーヤーにかけることができますよ。
従来CDの基盤に使われてきたポリカーボネートよりも透明度の高い、液晶パネル用のポリカを用いたのが、一番手のSHM-CDです。これはユニバーサル・ミュージックと日本ビクターが開発しました。続いてHQCDは大手光ディスクメーカーのメモリーテックが開発。新種のポリカに加え、レーザーをはねかえす反射膜の金属材料に独自の銀合金を採用し、ダブルの効果をねらいます。最後がソニー・ミュージックエンタテインメントのBlu-spec CDで、これはブルーレイの製造ノウハウCDに応用したもの。素材もブルーレイと同じポリカを使っていますし、原盤のカッティングにまで溯って、より精密な信号ピットを刻もうというわけです。
この3方式はアプローチは異なりますが、目指すところはただひとつ。
マスター音源の情報を忠実に再生し、音楽の感動をリアルに伝えることにあります。ソフトも次々に発売され、懐かしい名演奏、名録音から、サイモン・ラトル/ベルリンフィルの「ブラームス全集」やMISIAなど、バリバリの新録ものまで新旧・ジャンル問わず豊富に並んでいますよ。
■デジタルミュージック(ネット配信、PCミュージック、iPodなど)
連載のなかでは詳しく触れませんでしたが、いま急速に盛り上がりを見せているのが、デジタルミュージックやネットワークオーディオと呼ばれる新ジャンルです。これは、PCなどを活用して音楽を便利かつ高品位に楽しもうとすること。例えば、CDのデータをロスレス(不可逆)コーデックでリッピングします。HDDやNASに保存したデータを、LINNのDSシリーズやUSB DACを活用して聴いたり、iPodに保存して持ち歩き、いつでもどこでも音楽を楽しんだりすることもできますよ。iTunesやWindows Media Playerを使えば、大量の楽曲の管理も簡単ですね。
USB DACとは、
第25回でも紹介しましたが、貧弱なPC内蔵DACの代わりにデジタルデータをアナログデータに変換してくれるもの。音質をグッと向上させてくれます。
iPodのドックコネクターからデジタル信号をそのまま取り出すことができる機器が続々と登場してきたのも、新しいムーブメントですね。先陣を切ったのはWadiaの「Wadia 170 iTransport」でした。その後発売されたオンキヨーの「ND-S1」は実売2万円という手頃な価格もあり、好評を博しています。パイオニアの「XW-NAS5」やヤマハの「MCR-140」などなど、デジタル入力対応ドックを搭載したコンポも増えてきました。
CDだけでなく、もちろんネットで配信されている音源のダウンロードもOK。インターネット経由ならばCDというフォーマットにとらわれないデータの配信が可能なため、CD(44.1kHz/14ビット)を凌ぐスーパーハイクオリティなサウンドも存在しているのです。
LINN Recordsやクリプトンの
HQM Store、オンキヨーの
e-onkyo musicでは、96kHz/24ビットやさらに上位の192kHz/24ビットという高品位なデータを配信していますよ。お気に入りの音楽を簡単に、高音質で楽しめる時代。これを始めない手はありませんね。
このようなデジタルミュージックはオーディオの進化として歓迎です。新素材CDやデジタルミュージックなど新しい楽しみを拡げてくれるフィーチャーが次々と登場してきますし、アンプやスピーカー、プレーヤーなどこれまでお馴染みのコンポーネントにも技術の進歩があります。オーディオはまだまだ深い、楽しい! 一生の趣味としたいものです。
長い間、ありがとうございました。
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「林 正儀のオーディオ講座」記事一覧はこちら
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