今回レポートするのは、ソニーから発売されているハイビジョンワイヤレスリンクセット“ロケフリ HomeHD”「LF-W1HD」だ。ロケフリと聞くと、家庭で受信したテレビ放送やレコーダーの映像をネットに乗せ、世界中で自宅のテレビ環境を楽しめるモデル「LF-PK20」などを思い出す。しかし、本機では屋内限定でワイヤレスリンクが使える仕様になっている。
本機は送信機と受信機をワンペアにして使う。送信機にはビデオレコーダーやCATVのセットトップボックス(STB)、各種チューナーなどを接続。一方のテレビ側に受信機を接続することで、送信機から送られてきた映像を離れた部屋で楽しめる。ワイヤレスには2.4GHz帯だけでなく、電波干渉や混信が少ない5GHz帯にも対応する。到達距離は見通し距離で30mになっているが、建物で使う場合は壁の素材により短くなる。部屋間でパソコンをワイヤレスで使える建物かどうかが利用の目安だろう。本体内には6本の指向性アンテナが内蔵されており、電子レンジの動作や障害物による妨害が発生しても感度の良いアンテナに切替えることで映像や音声を途切れづらくしているという。
送信機からの映像は1080iのハイビジョン映像をMPEG4 AVC形式に圧縮して転送する。受信機にはHDMI端子があるが、送信機の背面を見るとなぜかHDMI端子がなく、D端子とアナログ音声入力と出力だけがある。せっかく映像と音声を1本のケーブルで接続できるのになぜ?と思い、ソニー広報に問い合せたところ、「本製品はHDMIで採用されている著作権保護技術HDCPの規定に準じているので、HDMIからの入力はワイヤレス送信ができません」との回答だった。著作権保護の観点から、デジタル信号のままではワイヤレス送信できないので、アナログ信号のD端子で出力して、MPEG4 AVC形式に変換して伝送している。ワイヤレス化するにはデータを軽くできるMPEG4 AVC形式への変換は欠かせないので、画質上の劣化は致し方ないとしても、HDMIを使う接続の利便性は残して欲しかった。後述するが、本機は双方向で通信ができるので、HDMI接続が可能なら「VIERA Link」などHDMIコントロールも使えたのではないだろうか。これはHDMIの規格上の問題ないので製品の不都合ではないが、規格が著作権保護を重んじるあまりに、ユーザーが不便を被る一例だと筆者は感じた。
受信機には受光部があり、離れた部屋から付属リモコンを使うことで送信機に接続した機器の操作が行える。付属リモコンは、設定によりソニー製品だけでなく他社を含めた幅広い機器に対応している。この設定方法がとてもユニークだった。通常、複数のメーカーに対応するAVリモコンは、リモコン本体にリモコンコードを設定をするものだが、本機はそのコードを受信機側にあらかじめ登録している。そのためテレビ画面を見ながらリモコンの設定が可能だった。
設定はとても簡単だ。筆者の環境では送信機と受信機をそれぞれ接続して電源を入れれば、離れた部屋のテレビに映像が届いた。面倒な設定は一切ないので、AV機器が苦手な人でもマニュアルを見ながらなら設置できるだろう。
現在筆者は主力レコーダーとして、BDレコーダーにはソニーの「RDZ-X90」を、HD DVDレコーダーには東芝の「RD-A301」を使っている。ご存じのとおり、この2機種はH.264方式の録画に対応しているので、便利に使っているのだが…、ちょっとした問題があった。
これまではブラビアのルームリンク、レグザのネットワーク機能など、テレビが備えるDLNA準拠のネットワーク機能を使って、離れた部屋のレコーダーに録画した映像楽しんでいた。しかしこの機能では、H.264記録の映像が再生できないので不便に感じていたのだ。ところが、この「LF-W1HD」があれば、記録方式には関係なく、離れた部屋で録画番組を楽しめるので重宝している。
画質に関してはワイヤレスで伝送した映像の方が理論的には劣るが、レコーダーを直結した映像と並べて比べない限り気にならない。シーンチェンジのときにちょっとノイズが見られたが、画質よりも利便性を優先する商品と考えれば、十分だと感じた。
それよりも気になったのが付属リモコンを使ったときの操作感だ。受信機側にBDZ-X90を接続し、付属リモコンで操作したところ、リモコンのボタンを押してからBDZ-X90が反応するまで約3秒のタイムラグが発生する。これは受信機でリモコンコードを変換し、送信機がAVマウスを使ってリモコン信号を発信するまでに発生するタイムラグだが、まさに「二階から目薬」か「二人羽織」のような操作感で、ストレスを感じてしまう。CM飛ばしなどは、15秒単位のスキップボタンを使えばいいが、チャプターを入力するなどの編集にはまったく向かない。
これを回避する方法も用意されている。接続機器のリモコン信号をそのまま伝送するリモコンスルー機能だ。この機能を使えばタイムラグは0.5秒程度に収まり、不満無く操作できるようになった。本機を付属リモコンで使う場合は、細かな操作は行わず、ダラダラと“ながら見”するのに適しているようだ。
「LF-W1HD」を使っていると、筆者は“部屋またぎ”で使うだけではもったいない気がしてきた。今年はチューナーとテレビをワイヤレスで接続することで、テレビ本体をスリムにする薄型テレビがトレンドになりそうだが、そこに本機を使いこなすヒントがある。
このワイヤレス採用の薄型テレビは、チューナー側に場所をとるレコーダーやプレーヤーをまとめて接続して、テレビ本体を壁掛け化など、自由に設置できることにあるが、まだ選択できる製品は少ない。筆者は「LF-W1HD」とセレクターを組み合わせることを考え、送信機には1系統の入力端子しかないが、ここにセレクターを接続して複数の機器を接続して使ってみた。そうすれば手持ちのAV環境をワイヤレステレビのように利用できる。テレビラックに入りきらないAV機器をレイアウトしやすい場所に移動して、テレビまわりをスッキリとさせることもできる。これならテレビを薄型のチェストや出窓などに置けそうだ。
テレビとレコーダーなどを同室で使うならリモコンのタイムラグや登録数も気にしなくていい。もしホームシアターのように画質にとことんこだわるなら、プレーヤー1台をテレビ本体に直結して、その他の機器だけ別置きするのも一考だ。
これから引っ越しシーズンが始まるが、AV機器ファンにとって転居先でのレイアウトにはケーブルの取り回しで悩むことも多いだろう。同じように液晶プロジェクターの設置で、ケーブルを長く取り回したくない、ということもある。そんなとき「LF-W1HD」があれば便利に使えそうだ。“部屋またぎ”もいいが、ロケーションフリーよりも“レイアウトフリー”としてのニーズも多いと筆者は感じている。
筆者の調べによると「LF-W1HD」の実売価格は本稿執筆時点で約5万円だったが、もし専用リモコンとリモコンの双方向通信を省いて、同室用のワイヤレスユニットとして低価格版を発売したら、これは人気が出そうだと思うのだがいかがだろう。もちろんその際は本体をもっと小型化してくれればさらに歓迎だ。
「LF-W1HD」は少し値の張る機器だが、アイデア次第ではいろいろと活用できる便利なアイテムだ。スカパー!やCATVを導入済みで、かつ、複数の部屋でテレビを使っているならチェックすべきだろう。きっと一度使うと手放せなくなるはずだ。ぜひ、今後は複数のレコーダーを1台でコントロールできるセレクター付きタイプなど、バリエーションも増やして欲しいと思っている。
−次号の掲載は2月12日(火)を予定しています。どうぞお楽しみに!−