東芝の西田社長による突然のHD DVD事業撤退宣言。詳細については
Phile-webの報道や
筆者のブログでご覧いただきたい。筆者を含め、あまりに突然の出来事に戸惑っているユーザーも多いはずだ。
ご存じのとおりAV家電としてのHD DVDプレーヤー&レコーダーは、ともに日本国内では東芝製品しか手に入らなかった。「ハイビジョン番組を永久保存版に」などという常套句にのって、せっせとHD DVDに保存したものの、録画機はもちろん、再生機も今後新製品は発売されない。HD DVDに保存した番組は期限付きの思い出になってしまったのだ。筆者もこの状況に嘆いているひとりで、日ごろから愛用しているRD-A301に録画した番組を今後どうすべきか迷っていた。
一番厄介なのが家族に頼まれて録画していた場合だ。たとえば家族が熱狂的なペ・ヨンジュンのファンだったとしよう。現在NHK BS-Hiでは、韓流ドラマの「太王四神記」が放送中だ。このドラマはペ・ヨンジュン主演の韓国版「ロード・オブ・ザ・リング」と呼ばれている人気ドラマ。CGをふんだんに使うことで、歴史とファンタジーを融合させている。韓国の映像技術を集大成した映像は、まさにハイビジョンでみるべき価値のあるドラマと言えるだろう。
もしこの番組を家族に頼まれて、RD-A301で録画していたらどうなるだろう。自分用の番組なら泣く泣くあきらめられるが、「規格争いなんて関係ない、私のヨン様〜」となっている人に、「HD DVDはなくなるからDVDで保存しよう」と言ったところで、納得してもらえるだろうか?ましてやHD DVDレコーダーを選んだのがアナタ自信だとしたら、小さな家族戦争は避けられない。もちろんHD DVDを使わなくてもDVDには保存できるが…、日ごろはHDとSDの区別がつかなくても、好きな俳優や女優が出ていれば、しっかりと画質の違いを指摘してくるのが熱狂的なファンというものだ。
ユーザーの中には「HDDに残しておけばいいだろう」と考えている方もいるだろうが、はっきり言ってレコーダーのHDDは驚くほど“ぶっ壊れる”のだ。これまで数々のメーカー、数々の機種を使ってきて、ほぼすべてのメーカーのHDDにトラブルが発生した。使っているうちに、レコーダーのHDDが壊れる原因がおぼろげながらにわかってきたが、それはまた別の機会にでも紹介しよう。とにかくレコーダーのHDDは信用できないというのが筆者の印象だ。
前述したように、HDDはいつかは壊れるので、より貴重な番組は安全性の高い光ディスクに保存するのが基本だ。HD DVDレコーダーはDVDメディアへの記録も可能だが、その場合はSD画質になってしまう。なんとかハイビジョン画質のままディスクに保存できないものだろうか?
大容量のハイビジョンアーカイブメディアといえば、選択肢はBDディスクしかない。そこでHD DVDレコーダーに保存した番組をBDディスクにアーカイブすべくテストを行った。HD DVDレコーダーのRD-A301と前モデルのRD-A600/A300にはi.Link端子がある。同じくi.Link端子付きのBDレコーダーを用意すれば無劣化でHD DVDレコーダーからBDレコーダーに録画番組を移動できるのではないだろうか?
現在もっとも入手しやすいi.Link付きのBDレコーダーはパナソニックのDMR-BW900/BW800/BW700だ。今回はDMR-BW800を使ってテストを行った。他にもi.Link付きの製品があるだろうが、i.Linkは機器間での相性があり、すべての機器が簡単に接続できるわけではない。保証の限りではないが、DMR-BW800で成功すれば同じ世代のDMR-BW900/BW700でも同様に操作できるはずだ。
まずテスト結果からお伝えしよう。テストは“成功”した。結果の詳細は下表にまとめたので参考にしていただきたい。
DMR-BW800/BW900とRD-A301/A600/A300をi.Linkで接続した場合 |
| コピーワンス番組 | コピーフリーHD映像 ※ |
HD DVD | × | ○ |
HDD | ○ | ○ |
RDシリーズに保存したハイビジョン番組はHDD上にあるならBDレコーダーに移動できる。デジタル放送の番組をHD DVDに保存した場合は、残念ながら移動方法はない。 ※コピーガード導入前にBS-Hiのハイビジョン番組をD-VHS等に録画しており、それをHD DVDメディアに保存していた場合。 |
HD DVDレコーダーの“HDD(ハードディスク)”に番組を保存してある場合は無事に救出できた。ハイビジョン画質のまま無劣化で、BDメディアに保存可能だった。しかし、DVDにハイビジョン録画が可能という「HD Rec」で保存した番組は、転送はできてもパナソニックのレコーダーで再生することはできない。パナソニックのレコーダーAVCRECという、MPEG-4 AVC/H.264方式に対応し、DVDメディアへのハイビジョン記録ができる機能が備わっているが、相互に互換性はなかった。
デジタル放送をHD DVDに記録した場合はコピーガードがかかっているので、合法的な方法では他のメディアへの変換はできない。手持ちのHD DVDレコーダーやプレーヤーが修理不能になった時点で、そのメディアの再生は難しくなることは覚悟しておこう。しかしコピーガードのかかっていないHDコンテンツならHD DVDとHDD間で何度でもダビングができるので、HDD経由でi.Link接続を使いBD化ができる。
一手間かかるのがアナログ放送だ。アナログ放送はコピーガードがかかっていないので、i.Link接続を使ってそのままBDレコーダーにダビングができそうだが、実はできない。i.Linkでのムーブはデジタル放送のTS(DR)に限られており、それ以外の動画の移動やダビングには使えないのだ。
アナログ放送やムービーなどの画像は、DVD-RAMかVRモードでフォーマットしたDVD-RWに記録して、ディスク経由でBDレコーダーに移動することになる。今回使用したDMR-BW800はDVD-RAMから無劣化でHDDに録画内容をダビングできた。しかし機種によっては再エンコードが発生して画質が劣化する場合があるのであらかじめ仕様を確認しておきたい。
HD DVDレコーダーを持っていて、BDレコーダーを今すぐもう一台購入するのは予算的に難しいだろう。ただ確実に消えてゆくHD DVDメディアに番組を保存するのは不安もある。そこでいま持っているHD DVDレコーダーはHDDをメインで使い、低画質で保存してもいい番組はDVDに記録、どうしても残したい番組はHDDに温存して、予算ができたらi.Link付きのBDレコーダーを購入して移すのが現実的だろう。この方法ならi.Link出力付きのHDD&DVDレコーダー“RDシリーズ”にも応用できそうだと筆者は予想している。
今回のテストをしていて、気づいた点があった。まず、レコーダー間で番組を移動(ムーブ)している最中に、移動を中止すると、番組は移動を中止した部分で強制的に分割される。それだけでなく、前後に数秒欠損する場合があるので、移動をはじめたら終了するまで操作はしない方がいい。テスト時には確認できなかったが、どちらかの留守録がスタートしても同様の状態になると思われるので、そのあたりも十分に確認しておきたい。
もう一つ気に掛けたいことがある。移動する前と移動したあとでは、番組の先頭が約1秒削られていた。これはi.Linkの特性のようで、改善策はないと思われる。もしキッチリと編集してBDに記録したいと考えるなら、編集は移動後に行うのがベストだ。またi.Linkの性質上、機器を認識したり、しなかったりすることがあった点も気になった。
最後に今回のテストでは無事に成功したが、機器のバージョンなどによって同じように動作しない場合もある。また今回ご紹介したHD DVDからBDへのダビングやムーブは、どちらのメーカーもサポートしていない使い方と思われるので、ご自身で試される場合は自己責任で行っていただきたい。
いろいろあったが、なんとかHD DVDレコーダーに保存した番組をBDメディアに保存できてほっとした。繰り言になるが、HD DVD規格の終息を考えるたび、泣かされるのはいつも消費者ばかりだと痛感している。
−次号の掲載は3月11日(火)を予定しています。どうぞお楽しみに!−