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【第39回】「画質・機能・先進性」 3拍子揃ったVIERA“PZR900”シリーズの魅力 − BDレコーダーへのi.Linkダビング機能に注目2008年 10月 9日 (木曜日)CEATEC JAPAN 2008も終了し、今年の年末から来夏までのデジタルAVのトレンドが見えてきたように思う。薄型テレビとレコーダーのラインアップを見る限り、各社は高画質化に注力してきたようだ。画質重視派の方は、さぞ興味をそそられた事だろう。
一方、録画機能重視の筆者としてはいまひとつ消費マインドが暖まらない展示内容だった。理由としては、録画機能付きテレビのジャンルに新しく加わったのがパナソニックのPZR900シリーズだけだったことと、20型クラスのモデルで録画&アクトビラビデオ・フル対応の製品が出てこなかったことが挙げられる。 筆者はこれまで本連載の中でも、これからの薄型テレビはおしなべて録画機能付きになるべきだと提案してきた。すでに発売済みの東芝“REGZAシリーズ”、日立の“Woooシリーズ”を使ってみて実感したことだが、録画機能付きテレビを1度使ってしまうと、もう普通のテレビには戻れないほど、録画ライフが劇的に変化する。両シリーズのレビューはそれぞれ過去の記事を参照して欲しい。 <日立“Woooシリーズ”のレビュー><東芝“REGZAシリーズ”のレビュー> 今回は最初に、録画機能付きテレビのメリットを3つ、簡単におさらいしておこう。 録画がカンタン 入力切り替えを行わず、テレビの番組表から直接録画できるので、AV機器の操作が苦手な人でも迷わずに使える。HDMI CEC機能を使えば、テレビのリモコンでレコーダーが操作できる製品も増えているが、後述するタイムシフトでの操作性が気になる所だ。HDMI CEC機能はテレビとレコーダーを同一メーカーで揃えるのが原則だが、ここで機器選択の範囲に制約ができる点がいまひとつ不便なところだ。 設置スペースやアンテナ線を節約できる 筆者のように複数のレコーダーを同時に使っていると、置き場所とアンテナ線の分配に困る。とくにアンテナ線の分配は深刻だ。録画機能付きテレビなら1台分のアンテナ線でテレビと録画機に電波を送れるのでアンテナ線の分配に余裕ができる。 タイムシフトしやすい レコーダの中には、ダビング中や録画中に番組を再生できない機種があるが、現在発売中の録画機能付テレビは、録画中でも録画済みタイトルが再生できる。アーカイブする番組はレコーダーで録画し、さっと視聴した後で消去するような番組はテレビで録画するという使い分けをすれば、効率よくテレビ視聴が可能だ。 録画機能付きテレビのメリットを、ざっと挙げてみた。では一方で、録画機能付きテレビを選ぶ上で注意すべき点、デメリットとなる点はどうだろう。以下は筆者が録画機能付きテレビの弱点と感じている部分だ。 まずはテレビのHDDに録画した番組は光ディスクにアーカイブできない。すでに何台ものレコーダーを使い倒してきた筆者からすると、HDDの保存性を信頼しすぎるのは禁物だと感じている。いつかは壊れるのがHDDの常で、長期保存には向いていない。メディア1GBあたりの単価を考えればDVDやBDメディアに保存しておきたい。 さらに録画機能付きテレビでは「2番組同時録画」ができない。録画機能付テレビには視聴用と録画用の2チューナーが搭載されている。録画に使えるチューナーは1系統しかないので、ある時間帯に録画したい番組が2つ重なってしまうと、1番組をあきらめることになる。これは放送時間の変更による番組の録り逃しの要因にもなるので、一日も早く録画用に2系統のチューナーを搭載した「トリプルチューナー機」の登場が待ち望まれる。 筆者は特に「光ディスクへのアーカイブ機能」の実装については急務だと感じていたが、このたびパナソニックから発売された新型プラズマテレビ“VIERA”PZR900シリーズが、いち早くその課題を解決してくれた。
1TBのHDDを本体に内蔵した録画機能付きテレビ、PZR900シリーズはi.Link端子を使って、同社の対応するBDレコーダー“DIGA”シリーズに接続し、テレビの録画番組をBDにアーカイブできる機能を備えている。これでテレビ側のHDDに保存したハイビジョン番組を“死蔵”しなくてもよくなったのだ。筆者は日ごろよく見る情報番組やバラエティーをテレビのHDDに録画して、見たらすぐに消している。アーカイブしたいドラマやアニメ、ドキュメンタリーは始めからレコーダーで録画している。でも、見たら消すつもりだった番組でも、見た後にどうしても残したくなる番組に出会うことがある。筆者の家族にいたってはレコーダーが使えないので、すべてテレビで録画している。テレビの場合だと簡単に録れるだけに、“消したくない番組”はテレビに蓄積して行き、HDDの残量は日に日に減るばかりだった。PZR900シリーズなら、必要な番組をレコーダーにムーブして、さらにBDにアーカイブできる。これこそ筆者が考えていた理想的な録画環境だ。 もちろん、東芝や日立の製品でも録画番組を他のメディアに保存できる。東芝の“REGZA”シリーズはこれまでHDDに録画した映像をディスクに移すことができなかったが、最新機種では同社のDTCP-IPに対応したDVDレコーダー“VARDIA”シリーズに、LAN経由でハイビジョン録画番組が転送できるようになった。このことは大きな進歩だが、残念なことにVARDIAではハイビジョン録画用のディスクにDVDしか使えないないので、HD Recを使ってハイビジョンで残すか、あるいはアナログ画質で残すしかない。HD RecではDVDにフルハイビジョン映像を記録できるが、放送の画質を圧縮して記録する方式なので、高画質は期待できない。またHD Recで記録したディスクの再生に対応するプレーヤーも限られており、環境に不安が残る。東芝といえば、あれだけプッシュしてきたHD DVD規格をバッサリと切り捨てた過去がある。せっせとHD Rec方式でハイビジョンコンテンツをアーカイブしてきたユーザーとしては、今後の使い勝手がどうしても心配になってしまうのだ。REGZAの利便性が群を抜いているだけに、VARDIAとの連携については悩ましい課題が残ってしまった。 日立はカートリッジ式のHDDである「iVDR-S」へハイビジョンコンテンツが保存できる。ただ、再生には専用のプレーヤーが必要なのでHD Recと同じく録画後に楽しめる環境が限られてくる。また最近では片面1層のBD-Rの価格が劇的に安くなってきているので、iVDR-Sの大容量に着目しつつも、ユーザーとしてはBDの価格のメリットも気になるところだ。 このような環境の中で、画期的な提案をぶつけてきたパナソニックのVIERA PZR900シリーズの実力を知るべく、今回同社にて実機の使い心地を体験してきた。そのスペックを見る限り、筆者は今冬買いのモデルの一番手だと感じているが、実際に操作性はどうなのだろうか?本機の開発コンセプトを含め、パナソニック(株)デジタルAVCマーケティング本部 広報チーム 山口耕平氏にお話を伺った。
■PZR900シリーズ「画質の魅力」 「ビエラシリーズは既発売のPZ800シリーズで“ハリウッド画質”を提案し、多くのユーザーにご好評いただいております。PZR900シリーズでは、テレビ本体に録画機能を搭載することで、新しいテレビの楽しみ方を提案したいと考えました」(山口氏) 画質については2008年4月発売のPZ800シリーズで完成の域に達しているという。本シリーズではハリウッドにあるPHL(パナソニックハリウッド研究所)で蓄積されたノウハウを積極的に取り入れたという。さらに今回ラインアップを一新したBDレコーダーのDIGAシリーズとも画質面でより積極的な連携をはかり、より美しい映像再現を可能にしている。 「BDレコーダー“DIGA”シリーズでは、映像の色信号を忠実に送り出すための高画質再生技術“ハリウッドクリアカラー”を搭載しました。DIGAから送り出された映像信号は、ハリウッドのカラーリストの技術を応用して開発された“ハリウッドカラーリマスター”搭載のVIERAシリーズで再現することにより、BDに記録された色信号を広色域化して表示します。この広色域化により、HDTVの色規格の色域面積比で約120%という鮮やかな発色でBDソフトを楽しむことができます。プラズマは液晶に比べてコントラスト比が高いのが特徴ですが、PZ800シリーズ、PZR900シリーズの暗所コントラスト比は30,000対1を実現しているので、漆黒からきらびやかな金色の輝きまで余すことなく表現します。コントラストだけでなく、動画解像度は900本以上あります。これらのスペックはプラズマだからこそ実現でるものです」(山口氏)
パナソニックでは広ダイナミックレンジで豊かな色数など、映像情報量の多いブルーレイシネマを描ききる今回のVIERAシリーズの映像について「シネマライブ画質」と称して、その魅力をアピールしている。発色についてはハリウッドのカラーリストによる監修を受けており、映像のプロからもお墨付きの画質になっているという。広色域化の効果は、金色の発色でとくに発揮されるとのことで、実際に今回見せてもらったデモ映像では、その違いがはっきりと確認できた。映像の比較はテレビのメニューから「カラーリマスター」のON/OFFを切り替えて行ったが、機能をONにして広色域で表示した金色は、すこし暖かい色味が乗り、より深みのある色表現となる。一方、機能をOFFにした従来の映像では、純金というよりは金メッキに近い、軽い輝きになっていた。
ハリウッド映画と言えば、インディージョーンズシリーズ、パイレーツ・オブ・カリビアンシリーズ、ハムナプトラシリーズなど、金銀財宝が物語の重要な要素として登場するが、それらをより美しく表示して楽しませる能力がテレビに求められるとすれば、VIERAの実現した機能の重要性は大きい。画質は総じてしっとりしており、解像感も十分。濁りのない発色はこのクラスのテレビの中ではズバ抜けて良いと感じた。 ■PZR900シリーズ「録画機能の魅力」 続いて筆者が最も注目している、PZR900シリーズの録画機能を見てみよう。内蔵するHDDはなんと「1TB」。BSデジタル放送なら約86時間、地デジの放送なら約121時間ものハイビジョン放送が録画できる。これならば家族でHDDを共有しても不足は感じないだろう。驚いたのはキーワードやジャンルによる「自動録画機能」を備えていること。入力した情報に関係する番組をHDDがいっぱいになるまで録画しまくるのだ。そして、HDDが録画番組でいっぱいになったら、古い番組を消して上書き録画をする。ユーザが任意で録画予約した番組があれば、そちらが優先され、古い番組を消去して録画を行う。要は1TBの容量を遊ばさない設計になっている。「番組表から見たい番組を探す」のではなく、「録画済み番組から見たい番組を探す」という使い方ができる。これはテレビ好きのユーザーにはたまらない使い勝手だ。 ただ録画するだけでなく「おまかせニュース」機能を使えば最大6時間分のニュース番組を録画する。常に新しいニュース番組に上書き更新されるので、いつでも最新の情報がチェックできる。
「テレビとBDレコーダーでは録画用途には違いがあると考えています。タイムシフトやメモ代わりに、気軽に使えるのがテレビの録画機能ではないでしょうか。そう考えて、VIERA PZR900シリーズでは1TBのHDDに録画番組をたくさん貯めて、その中からユーザーが好みの番組を好きな時に見ていただけるようになっています。このような使い方により、ユーザーが思いもよらなかったような新しい番組を発見する楽しさも得られるものと思います。録画機のDIGAシリーズは、多彩な録画機能により、大事な番組を高画質に録って、BDやDVDにアーカイブする使い方に向いています。PZR900シリーズには、HDDに録画した番組をi.LinkでDIGAに転送して、BDにハイビジョンのまま保存できる機能を搭載していますが、ムーブには実時間がかかるため、ふだん頻繁に使うに用途には向いていません。ですので、それぞれの用途を踏まえた上で、BDに保存したい番組はDIGAで録って、見たら消す番組やタイムシフトにはPZR900の録画機能を活用するというように、両方の便利な製品を使い分けていただければ、快適なテレビライフが実現できるのではないでしょうか」(山口氏)
PZR900の録画機能には注目すべき点が3つある。まずは前述の大容量1TBのHDDを搭載した点。次にテレビ視聴と録画番組の再生を違和感なく操作できるインターフェイス画面。そして最後に、HDDに録画した番組をi.LinkでBDレコーダーに転送できる機能の3つだ。 操作性について説明しておこう。リモコンに配置された「ビエラメニュー(Vのマーク)」ボタンを押せば、画面上にアイコンが表示される。これまでのレコーダーのように、録画メニューに入ると視聴中の画面がメニュー画面に遷移してしまうのではなく、画面下部に6つのアイコンが並ぶ。こちらから「おまかせニュース」、「お好み録画一覧」など、メニューへカンタンにアクセスできるようになっている。このインターフェースがとても使いやすく、初心者でも使いやすい録画機能付きテレビの操作を、いっそう敷居の低いものにしていると感じた。
テレビのHDDからBDレコーダーへのムーブは、筆者がかねてから強く期待していた機能だが、ようやくパナソニックから搭載機が登場してほっとしている。テレビからレコーダーまでの転送に実時間がかかることを考えると、確かにあまり頻繁に使う機能ではないかもしれないが、録画コンテンツの将来性を考えても必ず役立つ機能である。この録画機能については近日中にしかりとチェックする予定だ。 ■PZR900シリーズ「ネット連携機能の魅力」 最後にVIERAのインターネットと連携した各機能を紹介しよう。PZR900はハイビジョンの映像配信サービス「アクトビラビデオ・フル」だけでなく、動画共有サービス「YouTube」との連携機能にも対応している。今回体験したデモでは、当然再生される映像はハイビジョンには及ばないものの、50インチの大画面でも意外に楽しめる画質だったのには驚いた。いつもはパーソナルな環境で楽しむことが多い動画投稿サイトの映像を、大画面で楽しめる体験は新鮮だった。テレビ番組の視聴に飽きた時などに重宝する便利な機能だ。
そのサービスがめまぐるしいスピードで進化しているアクトビラにも注目したい。アクトビラは12月1日からNHKが放送済みの番組を有料で配信する「NHKオンデマンド」にも対応する予定だ。本サービスを活用すれば、大河ドラマなどを見逃しても後から有料で放送が楽しめる。いまの所その利用料金は発表されていないが、これからのテレビ選びには欠かせない機能になりそうなので、今後の動向を注視したい。
パナソニックのAV機器といえば、コモディティな技術に包まれた優等生というイメージがあるかもしれない。しかし、実際には優秀な技術スタッフと開発力により、今回のVIERA PZR900シリーズような素晴らしい機能を盛りだくさんに備えた製品をいくつも世に送り出している。PZR900シリーズには「高画質」「録画」「リンク」「ネット連携」という、全ての機能面で、今後数年間で他社が搭載してくるであろう機能を真っ先に、しかも高いクオリティで搭載してきた。この先もいろいろと便利な機能を備えた薄型テレビが出てくるものと思われるが、PZR900シリーズの基本機能は、今後10年は使い続けられる革新性と実用性を兼ね備えていると言えるだろう。 (レポート/鈴木桂水) |
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