テレビ、レコーダーともに2008年冬商戦のラインアップが出そろった。この冬の買い物に向けて、懐具合と相談して機種選びに余念のない方も多いことだろう。
最近の薄型テレビのトレンドは「極薄」と「高画質化」で、素晴らしい製品が揃ってきたと思う。しかし、録画マニアとしての目線で見比べてみると、正直、画質を極限まで追求するよりも録画機能を優先したいと感じる。ただディスプレイ部が薄いというだけで価格が跳ね上がることがあるとすれば、そんな製品は筆者にとってはなんの魅力もない。2008年冬モデルの中で、筆者が特に物欲をかき立てられた製品が1つあった。それがパナソニックのHDD搭載プラズマテレビ、ビエラ“PZR900シリーズ”だ。
筆者がこのPZR900シリーズにどれだけ“お熱”かということは、
前回のレポートを参照していただきたい。はじめに本機の特徴をおさらいすると、PZR900シリーズはパナソニック初の“HDD内蔵薄型テレビ”である。すでに発売済みの東芝のREGZAや日立のWoooシリーズのように、テレビ本体に録画機能がついている。ただこの2シリーズとPZR900シリーズとの大きな違いは、対応するBDレコーダーと接続して、テレビのHDDに録画したハイビジョン番組をBD(光ディスク)にアーカイブ保存できるという点だ。
そもそも“テレビに録画機能”が付くということは、メーカーにとっては諸刃の剣で、テレビの付加価値が上がる半面、レコーダーの売れ行きに影響が出かねない。ディーガというレコーダーの大看板も掲げるパナソニックが、現時点でPZ900シリーズのような製品を出してくると、筆者は思っていなかった。ただ長い目で見れば、録画機能付きテレビは“録画の楽しさを多くの人に伝える”大きな役割を担い、結果としてレコーダー市場を温める製品なのだ。パナソニックの大英断だと感じる。これで来年以降、他社も録画機能付テレビを発売しやすくなるのではないだろうか。
本体のセットアップが終わればすぐに録画ができる状態になる。テレビ録画は番組表を表示し、録画したい番組をリモコンで選ぶだけで予約が完了する。連ドラなどの予約を行う際には録画時にちょっとしたコツがある。毎回予約には2種類あり、「毎週予約する」を選ぶと同一週の同時刻の番組を繰り返して録画する。「★探して毎回予約する」は時間ではなく、番組名で予約する方法。これを使うと放送時間の変更があっても追跡するので録り逃しが激減する。
この「毎週予約する」と「★探して毎回予約する」の使い方を間違えると予約ミスにつながるので念を入れて説明しよう。例えば月曜21時から21時54分で放送されるフジテレビの「月9」が最終回だけ30分拡大放送した場合、「毎週予約する」だと延長分の30分は録画しないので見逃してしまう。しかし「★探して毎回予約する」を選んでおけば、拡大分や野球の延長放送による時間変更も追跡して録画を行う。
PZR900シリーズは毎日放送される帯ドラマなどの予約をする場合、詳細設定からの登録になり操作が面倒だった。「★探して毎回予約する」は同一タイトルを1日1回録画するので、月−金などの帯番組を録画する場合はこちらを使うといいだろう。ただし、スカパー!e2などの海外ドラマチャンネルで曜日を変えてドラマの「吹き替え版」と「字幕版」を放送する場合、「★探して毎回予約する」を使うとどちらも録画してしまう。このあたりは使い分けたい。
筆者はバラエティやドラマなどを見逃したくないのでバンバン「★探して毎回予約する」で予約した。ただし、この機能で一度に登録できる番組数は24本までとなるので注意したい。最近はレギュラー放送の時間変更が増え続けているので、対応番組数はより多い方が理想だと感じた。
PZR900シリーズは1TBのHDDを内蔵している。BSデジタルのハイビジョン放送を約86時間、地デジのハイビジョン放送なら約121時間も録画できる。BDレコーダーのハイエンドモデルに匹敵するサイズあので、家族で共有しても不足は感じないはずだ。
このPZR900シリーズには、実はとんでもない録画機能が備わっていた。ユーザーが任意に行う番組表からの録画予約だけでなく、キーワードやジャンルによる自動録画機能を搭載している。自動録画機能と言えば、ソニーのBDレコーダー“BDZシリーズ”や三菱電機の“リアルブルーレイシリーズ”が搭載しているが、それらとはひと味違う自動録画の方式がPZR900シリーズには採用されている。
PZR900シリーズの自動録画は、ユーザーによる任意の予約が入っていないときに、入力したキーワードやジャンルに関わる番組があれば、ドンドン録画する。BDレコーダーでも同じことが可能だが、BDレコーダーの場合は録画番組をHDD上に保存し続けるか、一定の時間分だけ上書しながら録画する。しかし、PZR900シリーズはHDDの容量がいっぱいになるまで録画し続ける。「それでは任意の番組を予約録画できなくなって不便」と思うだろうが、任意の録画は自動録画番組を上書きしながら録画する。この機能を活用してみたところ、自分が任意に予約した番組以外にも、自分の知らなかった面白い番組が発見できて楽しかった。以前ソニーが発売していた“CoCoon(コクーン)シリーズ”というHDDレコーダーを覚えている方もいるだろうか。PZR900シリーズの自動録画機能は、このCoCoonの使用感にやや似ているという印象を受けた。
もし自動録画で思わぬ“お宝番組”が録画できた場合は、そのコンテンツにプロテクトがかけられるので、長期保存もできる。また本レポートの後編で詳しい実験結果をお伝えするディーガへのダビング機能を使って、BDなどの光ディスクに保存することも可能だ。もちろん自動録画機能が不要ならオフにすることもできる。
その他にも録画で便利なのが「おまかせニュース」機能だ。この機能は指定したチャンネルの定時・総合ニュースを最大6時間まで録画する機能だ。最大録画時間を超えると上書き録画されるので、いつでも最新のニュースが視聴できる。帰宅直後に放送中のテレビ番組に興味がないときなどに重宝する。本機は2番組同時録画ができないので、任意の予約が入っている場合はそちらが優先され、ニュース録画は行わない。自動録画に関しては設定により、どちらを優先するか指定できる。
本機能は東芝のREGZAが搭載している「いますぐニュース」と似た感覚の機能だが、録画した番組を再生する際はPZR900シリーズの方が操作ステップが多い。メニューボタンでメニューを表示させ、そこから「おまかせニュース」のアイコンを選び、再生したい番組を選ぶという手順になる。できれば東芝のようにリモコンにニュース専用ボタンを用意して直近のニュースを瞬時に再生できるようにもなっていればベターだった。
録画機能に関してはかなり作り込まれており、「おまかせニュース」や自動録画機能など、同社BDレコーダーのデイーガよりも使いやすい印象を受けた。
読者の方々はデジタルレコーダーに録画した番組を再生する際、どのリモコンボタンをもっとも頻繁に使うだろうか?多くの方はCMなどを見飛ばす「スキップ」ボタンを活用していると思う。スキップボタンとは1回押すだけで30秒ほど見飛ばせる機能だ。再生中にCMや見たくないシーンになったら、簡単に見飛ばせるので、時短視聴には欠かせない。本機に付属するリモコンにもCMのスキップに便利な「30秒スキップ」ボタンが付いている。
番組間のCMタイムは通常1分から1分30秒なので、CMを見飛ばすにはスキップボタンを2〜3回押すことになる。ただ1度押すごとに内容を確認するので、CMが終了したところよりも数秒本編が始まって再生されることが多い。本機ではこのとき、30秒スキップボタンを3秒以上長押しすることで、15秒戻すことができる。これが「スキップバック」機能だ。本編が始まる直前のCMの、終了間際に戻って再生ができるのでとても便利だ。
これからのテレビを考えるときに、録画機能の搭載は不可欠に思えてならない。とくにテレビとレコーダーが一体となることにより、録画の所作がカンタンになる部分のメリットは大きいだろう。アナログ停波に向け、これまで以上に薄型テレビの普及に拍車がかかる。そうなれば、デジタル機器に詳しくない人でも、買い替え動機につながる“目新しい機能”がテレビに求められるはずだ。簡単かつわかりやすい録画機能内蔵こそが、次世代のデジタルテレビが必要とされる機能だと筆者は感じている。
2009年も薄型テレビのトレンドはズバリ録画機能だと、筆者の妄想込みで予言したい。それも大型モデルだけでなく20〜27型クラスの小型モデルでも録画機能付きテレビが発売されれば、大いにヒットするはずだ。その予兆とも言えるのがシャープのBDレコーダー内蔵AQUOSの登場だ。シャープはかつて小型テレビにVHSビデオ機能を搭載したテレビデオを発売し、とにかく操作がカンタンで、当時もヒット商品になった。主な購入層は単身者やAV機器の操作が苦手な人たちだったと記憶している。しかし、テレビよりVHS部分が先に壊れてしまい「ビデオを修理するとテレビが見られない」という、悲しいトラブルが発生した。これはシャープ製品の品質が悪かったためではなく、メカ駆動部分が主要になるVHSデッキがテレビよりも先に壊れる宿命だったのだ。とにかく、AV機器が苦手な人にとって「テレビデオ→ビデオが壊れる→テレビが見られない」という不幸連鎖が植え付けられてしまい、その後この手の商品はあまり見かけなくなってしまった。ただ、この手の商品が便利なことは確かなので、シャープとしてはテレビデオのヒットをいまいちど、ということでAQUOSにBDを搭載したのだと筆者は読んでいる。
ラインアップは52型から26V型まで揃えた。このあたりにシャープの本気を感じる。17万円前後で手に入る26V型のLC-26DX1が市場で検討しそうだ。「12万前後の薄型テレビを買うなら、あと少し予算を足せば録画機能付」という価格帯は、フレッシャーズ商戦で台風の目になるはずだ。壊れやすいBDドライブ部は、故障時にはユニットを取り外して交換が可能という配慮を忘れていない点も万全だ。
しかし筆者のような録画好きとしては、記録媒体がBDだけだと物欲は思うほどに騒がない。HDDで録るだけ録って、必要な番組をBDに保存という使い方が理想だからだ。その使い勝手を一足先に実現したのがパナソニックのPZR900シリーズだ。実際に使ってみて録画好きの心を満足させる製品だった。次回は筆者が惚れた、PZR900シリーズの「録画機能テレビからBDレコーダーへの連携機能」をテストする。乞うご期待!
(レポート/鈴木桂水)