筆者が注目している“レコーダーテレビ(録画機能付薄型テレビ)”に、センセーショナルな新製品が加わった。東芝の“REGZA”シリーズがラインアップを一新し、新たに09年春夏モデルとなる“8000シリーズ”が発売される。新機種が登場するごとに新しい話題を提供してくれるREGZAシリーズだが、上位のZX8000/ZH8000/Z8000シリーズには、ついに2番組同時録画機能「おでかけW録」が搭載された。
“レコーダーテレビ”を使い込んでいくと、便利なだけについつい録画する機会が増え、気がつくと録画したい番組が重ったり、単体レコーダーへの割り当てを余儀なくされたりということが起こるようになる。「テレビだけで2番組同時録画ができたらどんなに便利か…」とため息をつくことも多かった。これは録画機能を搭載するREGZAを購入した多くのユーザーからも、メーカーに向けて寄せられていた“声”だったようで、今回東芝の開発者の方々も様々な苦労を経て、ようやく「おでかけW録」搭載機の製品化を実現したのだという。
既報の通り、新モデルは画質面でも大幅に進化しているが、レコーダーテレビにこだわり続ける筆者としては、あえて「おでかけW録」機能に焦点を絞り、今回東芝の開発者へインタビューを行った。
まず始めにREGZAの09年春夏モデルの商品企画に携わった、(株)東芝 デジタルメディアネットワーク社 テレビ事業部 グローバルマーケティング部 参事の本村裕史氏に最新“8000シリーズ”のコンセプトをうかがった。
本村氏:東芝のREGZAシリーズが録画機能搭載モデルを発表した背景には、“テレビに振り回されないライフスタイル”を訴求していきたいというコンセプトがありました。テレビ単体でも簡単に録画が楽しめることで、積極的にタイムシフト視聴を活用して、もっとテレビと効率よく付き合うことができるようになります。たとえば家族で食事をするときにはテレビを消して、会話を楽しみ、食後にゆっくりと録画した番組を楽しむ、といったようなゆとりある暮らしを提案したいと考えました。
━━09年春夏のREGZAには省エネ性能を前面に打ち出した製品もありますが、REGZAならではの省エネ技術はどんなところに特徴があるのでしょうか。
本村氏:今回、省エネモデルとしてH8000シリーズとC8000シリーズを発表しました。この2シリーズはバックライトを効率化した省エネ液晶パネルを採用しています。蛍光管の本数も削減したほか、「おまかせドンピシャ高画質」により画面を常に最適な明るさにして、無駄な電力を抑えることで、年間消費電力量については昨年春夏モデルのRH500シリーズより、42V型で26%もの省エネ性能を実現しました。
ただ、テレビは省エネ性能だけで選ぶものではなく、同時に高画質であるべきと考えています。H8000/C8000シリーズともに「倍速・モーションクリア」を搭載し、なめらかな動画表示を可能にしています。H8000シリーズについては録画機能を搭載したことで、効率よくテレビが視聴できるので、ムダにテレビをつけることも減り、家庭全体のエネルギー消費が抑えられると同時に、時間の有効活用にもつながるものと考えています。
振り返れば薄型テレビが世の中に登場した当初は“ブラウン管テレビよりも省エネ”というふれこみで、新しいライフスタイルが訴求されることも多かったが、薄型テレビの普及が進むと、今度はさらに薄型テレビ製品の中での「省エネ競争」「消費電力競争」がヒートアップしていく勢いをみせてきた。電化製品の省エネ化は歓迎すべきトレンドだが、一方で省エネ性能だけを競うようになると、画質・音質、先進的な機能などの“クオリティ”を軸としたAV機器の魅力は薄れてしまいがちになる。省エネ性能だけで競うのなら、「50型よりは42型、さらに小さい20型」と、消費者にとっては大画面を選びづらくなってしまうだろう。極端な見方をすれば、家に据え置きテレビなんていらないということになり、携帯電話のワンセグ視聴で十分ということにならないだろうか?これからの薄型テレビは省エネ性能が基本としてあり、そこに加えてさらに独自のプラスアルファが加わっていくことで、ユーザーが選ぶ価値を見いだしていくようになると筆者は感じている。さて、それでは本題の「おでかけW録」の機能について訊ねて行くことにしよう。今回はREGZA最新シリーズの録画機能の開発に携わった、同社テレビ事業部 TV設計第一部 第一担当の桑原一貴氏に詳しいお話をうかがった。
━━「おでかけW録」機能が開発された経緯を教えてください。
桑原氏:これまでに発売してきた録画機能搭載REGZAにもデジタルチューナーがダブルで搭載されていますが、これにより「2番組同時録画ができる」と、お客様にご理解いただいてしまったことがありました。これまでは2系統あるチューナーの1つを録画用に使い、もう1つを視聴用に使っていました。この仕様であれば録画中でもチャンネルの切り替えが可能になります。ただ、ユーザーからは2番組同時録画機能の要望が日増しに高まってきていたため、ご要望に応えたいと考えて、今回「おでかけW録」をZシリーズ全モデルに搭載しました。おでかけ中に録画したい番組が2つ重なっても、両方とも録画して楽しめるという魅力をアピールするため、「おでかけW録」というネーミングを採用しました。
「おでかけW録」では地上デジタル×2/BS・110度CSデジタル×2/アナログ×1のチューナーと内蔵HDD、USB HDDをフル活用して2番組を同時に録画します。録画番組の組み合わせは「地デジ×2」「地デジ+BS/CS」「BS/CS×2」が可能です。2系統あるチューナーの両方を録画に使うので、W録中は他のデジタル放送の番組視聴やワンセグ放送の同時録画はできなくなりますが、録画中の番組を“追っかけ再生”して楽しむことができます。
本体にもう一つ視聴専用のチューナーを搭載して、W録中にも自由にチャンネル切り替えができるようにはならないのだろうか?実はこれについてはARIB(電波産業会)が規定するデジタル放送の仕様も関係してくるため、すぐに実現するのは難しいようだ。またデジタルチューナーを3基搭載することによるコストアップも避けられないだろう。ただ、今回のREGZAでは、例えばBS/CSデジタルでの2番組録画を行っている最中には他のデジタル放送を見ることはできないが、桑原氏によれば、「デジタル放送の2番組録画中でも、実は地上アナログチューナーがフリーになっていますので、こちらでチャンネルを切り換えて任意の番組を視聴することが可能」であるという。
またW録中にデジタル放送のチャンネルが2局しか選べなくても、外部にレコーダーを繋いでいれば、レコーダーのデジタルチューナーを使ってチャンネル切り替えが可能だ。ひと手間かかるが、回避策にはなりそうだ。できればレコーダーを含めた「3チューナー操作」がHDMI CECの機能を使って自動的にできればベストだろう。例えば2番組録画中にチャンネルを切り換えようとした場合には、自動的にHDMI接続した同社のレコーダー“VARDIA”のチューナーが起動して、REGZAのリモコンでチャンネル切り替えができる…というような連携操作が実現すれば、格段に使いやすくなるだろう。新製品ごとに進化するREGZAに接していると、「這えば立て、立てば歩め…」と、つい次の成長を期待してしまう。
REGZAの便利な機能にワンセグ録画機能がある。地デジの番組を録画しながら、同時にワンセグでも同じ番組を録画し、その録画データをSDメモリーカードに書き出して、携帯電話や対応プレーヤーで再生できるという機能だ。これまではHDD内蔵の最上位モデル“ZH7000シリーズ”の46型以上でしか使えなかった機能だが、今回からZX8000/ZH8000シリーズに加え、Z8000シリーズの全モデルが対応した。ただし、「おでかけW録」中はワンセグ録画が機能しないので、うまく使いこなしたい。
細かなことだが、番組表の検索機能がさらに使いやすくなっている。ジャンル/キーワード/番組記号による条件を指定した絞り込み検索ができ、設定条件を登録して残すこともできる。たとえば「落語」で検索した場合、検索後「落語」に関する番組を集めた番組一覧が表示される。アニメ、サッカーなど特定のジャンルを追いかけて視聴したい人には重宝する機能だ。また「新(新番組)」、「S(ステレオ放送)」「二(二カ国語放送)」など、番組表で使われる記号からも検索できるので、これらを組み合わせて「“ドラマ”の”新番組”だけをピックアップした番組一覧」などが表示できる。残念ながらこの機能のキーワード検索の対象は番組タイトルのみであり、詳細な番組情報はカバーしていない。そのため出演者や監督などの人名での検索はできないが、レコーダーテレビとして、手軽に見たい番組、録画したい番組を捕まえて楽しむためには十分楽しめる機能だと感じた。開発を担当した桑原氏も、このように日々録画を行う際に便利と感じた機能を見つけた際に、積極的にREGZAの仕様に盛り込んで搭載しているという。REGZAの録画機能に関するさらなる進化については、今後のモデルで大いに期待したいところだ。
今回の取材では「REGZAの最新モデルを開発する際は、いつもお客様からいただいたご要望に立ち返り、さらにその期待値を上回る製品が出せるように、開発陣が一丸となって取り組んでいます」という、本村氏の言葉が印象に残った。まれにメーカーの考えを押しつけられているように感じてしまう製品に出会うとげんなりすることもあるが、一方でREGZAの新製品にはいつもユーザーを楽しませてくれるサプライズがある。新しい8000シリーズの実力は今後のテストでも明らかにして行きたいと思う。
(鈴木桂水)