音楽配信サイトの
moraが10月17日からハイレゾ音源の配信をスタートさせた。約2ヶ月の間にタイトル数は着実に増え、12月11日現在、793タイトルのハイレゾ音源をオンラインで購入できる。全体のなかで占める割合はまだ小さいが、参入直後の数字としては健闘していると思うし、これから着実に増えていくはずなので、期待したい。
moraの強みは参加レーベル数が多く、多様なジャンルをカバーしていることだ。これまで国内でハイレゾ音源の配信を担ってきたe-onkyo musicやHQMはクラシックとジャズの比重が大きく、J-POPやロックなどの音源はごく限られていたうえ、旧譜が多数を占めていた。moraのラインナップはその空隙をかなりカバーしてくれそうなので、これまであまり関心のなかった音楽ファンをハイレゾ音源に引き寄せる効果が期待できそうだ。
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既存配信サイトには見られなかった独自のランキング結果
12月上旬にはハイレゾ音源化された中森明菜のベストアルムが全音源のなかでベスト1にランキングされ、年間のハイレゾ音源ランキングではいきものがかりが1位を獲得したほか、洋楽と邦楽のポップスやロックが大半を占める結果になった。これは既存の配信サイトには見られなかった傾向で、moraの独自性を表している。ちなみに同サイトでは直近24時間から年間まで複数の範囲でハイレゾ音源ランキングを曲単位とアルバム単位で公開しているので、人気作品がリアルタイムでわかり、興味深い。
パソコンに加えてハイレゾ対応ウォークマンやAndroid端末から直接ダウンロードできる点も利用者の拡大につながり、ハイレゾオーディオの認知度が上がる可能性が高い。パソコンを使わない音楽ファンも少なくないので、購入できる端末が増えるのは歓迎すべきことだ。ちなみにダウンロード用アプリを各OSごとに用意しており、Windowsパソコンならアルバム単位での一括ダウンロードにも対応している。ダウンロードの速度も十分に速く、データ量の大きいハイレゾ音源でもストレスを感じることはない。
音源によってサンプリング周波数は異なるが、ファイル形式はいずれもFLACを採用。ファイル名は数字で拡張子はflacだが、タグ情報に日本語を含めた詳細な曲情報と画像データを保存しているため、操作アプリやネットワークプレーヤーのディスプレイにはアーティスト名や曲名が正確に表示される。数社のNASで確認した範囲では、1台を除き、曲順も正確に表示された。まだアルバムを十数枚購入しただけだが、いまのところソニーのHAP-Z1ESはもちろん、リンのDSとNASの組み合わせでも基本動作に不安な点はない。
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検索機能、ダウンロード機能に改善の余地アリ
ここまでmoraの長所を紹介してきたが、実際に使ってみると、いくつか気になる点があったので指摘しておきたい。まずは曲の検索機能だが、ハイレゾ音源だけを対象にしたアーティスト一覧があるのは良いのだが、表示されるアーティスト名にアルファベットと日本語が混在し、検索の手間がかかる。たとえばユジャ・ワンや内田光子など、日本語で検索したときとアルファベットで検索したときに別の結果が出てくるし、サイト内の全音源(440万曲)からの検索機能を利用すると、なぜかハイレゾ音源が出てこない。また、ハイレゾ音源のなかでジャンル別の検索やレーベル別の検索機能が使えない点も、できれば改善して欲しい点の一つだ。
Macのブラウザから購入した場合、アルバムをまとめてダウンロードする機能が利用できず、1曲ずつダウンロードボタンを押さなければならない。Windows用に用意されているアプリと同様、Mac用にもダウンロード用アプリを提供して欲しい。
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ブックレットデータの配信を強く望みたい
検索とダウンロードについてはそれほど大きな問題ではなく、使う側が手間をかければなんとか我慢できるのだが、もう一点、ぜひ解決して欲しい点がある。
moraだけではなく、e-onkyo musicにも一部当てはまるのだが、音源のデータ以外にブックレットのデータを配信していない点には強い不満を感じざるを得ない。LinnRecordsやeClassicalなど、PDF形式でディスクと完全に同一のデータを提供しているサイトに比べると、商品としての価値は明らかに見劣りしてしまう。
先日moraから購入したベッリーニ《ノルマ》のハイレゾ音源は、通常はソプラノが演じるノルマ役にメゾソプラノのバルトリが挑戦するなど、重要な提案を含んだクリティカルエディションによる話題の演奏だ。CDに付属するタブレットでは、劇的表現力に歌手の音色がどう関わるかという重要な問題や、ピリオド楽器による演奏に取り組んだ理由などについて、バルトリ自身が重要な解説を行っている。この演奏を聴くうえで不可欠な情報なのだが、ダウンロード購入した場合はその解説を一切読むことができない。
このアルバムはe-onkyo musicでも配信が始まったが、やはりブックレットのデータはダウンロードできないようだ。ちなみにイギリスのLinnRecordsはこのアルバムをブックレット付きで配信しているが、日本からは購入できない状態が続いているため、どちらにしてもディスクを買わなければ前述の解説文を読むことはできない。CDを上回る音質を求めてハイレゾ音源を購入する熱心な音楽ファンを大切にするという意味でも、基本的なサービスが欠落したままにしておくのは良くないと思う。
ここで紹介した《ノルマ》だけではなく、moraはすべてのアルバムについて、音源以外のデータは一切配信していないのだという。ブックレットの解説以外にも、アーティストの詳細や録音日時のデータなど、最低限の情報も用意されていない。海外の配信サイトの大半に加え、国内ではHQMがサービス開始当初から実現しているのだから、技術的に不可能ということはないはずだ。早い時期に解決して欲しい最大の課題だと思う。