さて、前回は今最も旬であるブランド、B&Wについてお話しましたが、もう一つ語らねばならないブランドがあります。それがKEFです。英国の名門ではありますが、タンノイほど古くはない。なぜいま語らねばならないかといいますと、それはかつて、ブランドとしてのピークを体験したこと、そしていま再び旬を迎えつつあるメーカーだということからです。
KEFの創業者はレイモンド・クックさんという方で、元々は、タンノイに次ぐ名門である「ワーフェデール」の技術の責任者もつとめたことのあるスピーカーの専門家です。BBCのエンジニアも勤めています。その頃英国では、BBCのモニター規格のスピーカーが全盛を極めており、様々なブランドがその規格を採用したスピーカーを作っていました。その中でも、1961年にレイモンド・クックさんの創業したKEFが中心であったといってもいいでしょうね。LS3/5Aとうい、BBCモニターの規格型番(BBCの規格であり、各メーカーの製品型番)が特に有名なモデルです。
KEFは時代の先端を行く、先進的なスピーカーユニットを開発し、スピーカーブランドとしての注目を集めました、その後ピークを極め、名声を高めました。しかし不幸なことに、ピークは長く続きませんでした。それはレイモンド・クックさんが亡くなったことがきっかけだったと思います。
私の企業観からしますと、キーとなる人が亡くなったとしても、企業は存続できなければならないと考えています。個人の存在の如何が、大きく作用しないようにするのが企業だと思うのです。しかし残念ながらKEFの場合は、創業者が亡くなってからその事業が変質していき、結局は中国人のオーナーの傘下に入ることになります。
ところがKEFにとって幸せなことが起こりました。そのオーナーが、KEFというブランドの特性を十分に、理解し、敬意を払い経営を実行したことです。
それからのKEFは、非常にしっかりとブランドとしての個性をまとめ、スピーカー専業メーカーとしての本分を築き、順調に推移しています。これは一つの新しい経営のあり方だと思います。ワーフェデールやクォードなど英国の名門ブランドは様々な問題を抱えていました。それがこのKEFのようにうまくいけば、ファンとしてはこれほどすばらしいことはありませんね。新しい体制になって、そのブランドの古いモデルだけを作るのではなくて、アクティブな新しいモデルに挑戦し、しかもその中にしっかりとした伝統を盛り込んでいるのが、いまのKEFの素晴らしいところではないでしょうか。
KEFにとって興味深い好対照があります。それは先ほど例にとりました、クォードです。このブランドもオーナーが移動し新しい体制になっているところは共通します。クォードといえばESL=エレクトロスタティックラウドスピーカー=静電型スピーカー。このイメージはあまりにも強烈に、ファンの胸に刻み込まれています。ですからクォードの新しいオーナーサイドは、この伝統を尊重して、ESLを復活させ、いまなお中核小品として販売しています。反面、ファンの刷り込みが強いので、そのイメージを損なうことのない新しい方向性も模索しています。KEFは、伝統のモデルを復刻するということではなく、かといって、ブランドとしてクオードに負けるものではありません。
さて、その二つのブランドと並び称されるのが、これもまた名門のワーフェデールです。このブランドは私にとっても、特に思い入れのあるブランドといえます。その理由については次回申し上げます。
以下、第31回に続く
(菅野沖彦・談 / 聞き手・ピュアオーディオ本部・岩出和美)
(撮影・奥富信吾)