電安法が本格施行間近 − 経済産業省の角井氏が「PSE問題」を語る

公開日 2006/03/09 21:13
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日本インターナショナルオーディオ協議会は9日、会員メンバー、ならびに一部の販売店やメディアを招待し、4月1日から本格施行される電気用品安全法の講習会を開催した。


経済産業省 角井和久氏
本会の講師には、経済産業省 商務情報政策局 消費経済部 生活安全課 課長補佐の角井和久氏が招かれた。角井氏ははじめに電気用品安全法の概要を説明した。

平成13年4月に施行された電気用品安全法(以下:電安法)は、昭和38年から施行された電気用品取締法(以下:電取法)が改正されたもの。電取法のコンセプトとしては関連製品の「事前規制」に重きが置かれており、国家が製造業者や製品に対する審査を広い範囲にわたって厳しく行い、関連製品の安全管理を消費者に渡る手前でコントロールしようとする色合いが濃いものだった。

電取法が改められ、電安法が新設された背景について角井氏は「時代の変化」があると説明する。具体的には製造事業者の技術力が向上したこと、民間検査機関が成長したこと、さらには事業者の生産活動について国が1から10まで関与すべきではなく、事業者の自主性をもっと重んじるべきであると判断したためであり、こうした社会的土壌を受けた故の法改正であったという。

今回の法律で規制の対象となったオーディオ・ビジュアル機器は「特定以外の電気用品」の中に含まれる。電気用品について、電取法から電安法へ移行するにあたって大きく変化した点は以下が挙げられる。

はじめに、規制対象製品の製造・輸入を行う事業者については「事業届出」が義務付けられることとなる。届け出る項目の主なものとしては、

「住所・氏名」
「事業開始の年月日」
「製造・輸入する電気用品がどのようなものか」
「製造・輸入する工場・事業所の名称と所在地」

等の項目を管轄の経済産業局等に届け出れば自動的に受理される。届け出るための資格・用件は設けられていない。

また製造・輸入する電気用品を法で定める技術基準に適合させることや、製品についての自主検査の実施、およびその記録作成と検査後3年間の保存がなどが義務づけられている。

これらの義務項目をクリアすることによって、届出事業者には自ら電気用品にPSEマークを付す権能が発生し、表示を行った後に製品を出荷・販売できるようになる。電安法の対象となる452品目のうち、体に直接触れて使用する電気用品や、長時間無監視状態で使うものについては「特定電気用品」に定められており、その112品目についてはさらに「登録検査機関の適合性試験」を受ける必要がある。

製品にPSEマークを付するまでの過程で、国家からの「許可・認可」を必要としなくなった点も、電取法から電安法への移行において大きなポイントだ。しかしながら電安法において、国のチェックが全くなくなったわけではない。電安法では事前のチェックについては各届出事業者の自主性を重んじているが、製品が販売された後の「事後規制」については国のチェックが強化されている。

市場に出荷・販売されている製品については、国が試し買いを行い、法律の安全基準に沿ったテストを実施している。また製造・輸入・販売事業者に対しての定期的な立ち入り検査も行われ、法の順守状況についての確認を実施している。

製品流通後、無表示品や技術基準に達していない製品が販売されていたり、その内容に対する改善命令が守られない場合には段階的に命令事項や罰則が適用される。罰則についても電取法から強化されたポイントであり、個人の行為者には1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が場合によっては併科も含めて課せられる。また行為者が法人に所属する場合は1億円以下の罰金が課せられることもある。

角井氏は法施行後にみられる実態について紹介し、「国としては買い取り検査、立ち入り検査で違反が確認された場合でも、その違反が発生した原因・経過などを事情聴取した上で、原因を特定し、それをどう改善して行くべきかを事業者とともに検討している」とした。またペナルティの現状については「再度の違反に至らないための再発防止策を評価し、軽いものであれば“口頭注意”を与え、少し重いものでも“文書注意”や“指導文書”で対応できる範囲で現状はとどまっており、大抵は各事業者の自主的な努力でフォローされている。行政命令や罰則適用、あるいは告発まで至った事例は今までにひとつもない」と述べた。


日本インターナショナルオーディオ協議会会長 安田耕太郎氏
本日のセミナーを主催した日本インターナショナルオーディオ協議会会長の安田耕太郎氏は、会議を締め括るにあたってコメントし「今回の電気安全法の制定は、私たちのビジネスを一概に妨げるものではなく、むしろこれまでの規制を緩和し促進するものであると理解している。今後は私たちのビジネスに知恵と良心が求められるとともに、大人としての対応が問われてくると感じている。法律の内容を正しく解釈し、それぞれの発展につなげることが大切である」とした。

以下に本日の会場で行われた質疑応答の模様を掲載する。

Q:今回の法律では該当する電気用品の個人売買は規制されるのか。安全性の確保されていないものが個人どうしで売買された場合、責任の所在はどこにあるのか。
A:電安法はあくまで「事業」を規制するためのもの。個人間売買で事故が発生した場合は民法で扱うものであり、損害賠償等については個人間で整理すべきと考えている。「電安法では個人間の売買にについて、なぜ安全確保を第一にした規制を行わないのか」という質問も多くある。もし今後皆様からそういう希望をいただくようであれば、法律の改正も有り得ないわけではない。しかしながら、現時点で経済産業省としては個人どうしのやり取りにまで国が規制を施すのはやりすぎではないかと考えている。PSEマークは製造・輸入事業者が法に基づいて販売している証としての表示義務であり、販売者はこれをチェックして欲しいというのがこの法律のコンセプトだ。

Q:現在、当販売店ではPSEマークのない製品は下取りをお断りしている。今後中古下取りのサービスも展開していきたいと考えているのだが。
A:個人から製品の下取りを申し出られた場合、販売業者としてはPSEマークの無い商品を「今後売ることができない、だから買えない」ということになるだろう。一方で個人が「店舗に場所を借りる」という考え方で委託依頼して、次の買い手が見つかるまでの展示スペースを提供してもらうという例がある。この場合は製品の所有権は「売り手」から「買い手」に移動するだけであり、販売事業者は「スペース代」と「手数料」を請求するという仕組みになり、これが合法か違法かを問われたら「合法である」とお答えしている。

Q:販売事業者が改造・修理サービスを行う行為は「製造」にあたるのか。また販売業者が製造事業者の届出を行って自らマークを付すことは可能か。
A:販売店が「改造」、または「修理」サービスを行っても良いのかという質問も多く寄せられる。「改造」を行った場合は電安法では「製造」行為にあたる。元の製造メーカーが独自の設計思想をもってつくった製品に変更を加えるのだから、これは「製造」の行為と考えるべき。一方で「修理」は「機能回復」を目的とした行為であり、製造メーカーの設計者が意図したところまでの回復を図る行為だ。電安法では、例え機能回復であってもその修理という行為において、「電気的な変更」を加える場合は改造の範疇であると捉えられるし、この場合は製造事業者として届出を行い、尚かつ義務を履行する必要がでてくる。

自ら販売する製品にPSEマークを付すため、販売事業者が製造事業者として登録することは可能だ。それぞれに定められた義務をクリアして頂ければ資格も不要。「費用」については、届出自体の手数料は無料。技術基準適合義務を果たすためにいくらかかるのかという問題については、確認の方法が様々であり一概に言えない。電安法の技術基準をチェックするためには、登録検査機関に製品を持ち込んで検査してもらうのもひとつの方法。ただしこの方法で検査を行う場合、対象製品を徹底的に検査するため検査後の製品を復元するのが難しくなるだろう。一点ものの商品を検査する場合などにはあまりおすすめできない方法だ。またあまりおすすめできないが第三者認証制度に従って認証を受けている製品であれば、当然技術基準をクリアしているだろうと判断する方法もある。技術基準適合義務については「こういった方法をもって確認しろ」という基準を設けていない。方法は定めていないし、その記録を残せとも決めていない。ただし、気を付けて欲しいのは、技術基準適合義務の内容は非常に重いものであり、軽く考えるべきではないということだ。ひとつの製品が寿命を終えるまで製造者は義務を負わねばならない。例えばある製品で事故が発生した場合、その原因究明を行い、結果として技術基準に不適合があった場合は、何年経っていようと違反は違反となる。そのリスクを負う責任を自らがどう判断するかというところでその適合基準は変わってくる。その場合の「費用」といった意味では、どのくらいかかるのかをひと言では言えない。

自主検査については3つの検査を行う必要がある。「外観の異常」「通電の異常」をチェックし、「絶縁耐力試験」を行わねばならず、最後の項目を試験するための絶縁耐力試験器が20〜50万円かかる。検査のための機器には安いものもあるが、おすすめはできない。またこれらの試験を実施した記録を保存する必要がある。自主検査については「自ら」がやるとなっているが、自らの責任において「他者に委託」することも可能だ。この場合は委託料もケースバイケースでかかってくるだろう。

PSEマークの表示については、検査記録を国に持ち込んだり、どこかから購入するものと認識している人が沢山いるが、マークはあくまで製造・輸入事業者が自分で付すもの。シール等でも良いが、容易に剥がれないものであることが必要だ。

Q:海外から製品を輸入して、例えばコンデンサーだけを交換したという場合は、輸入業者+製造者としての届け出が必要か。輸入後にまた新たに検査を行って販売するという必要がでてくるのか。
A:輸入する製品にも技術基準の確認が必要。自主検査は海外の製造業者に検査を任せ、その記録を添付するかたちで行っている場合が多い。修理を行う場合は事前に製造事業者として届出て、義務を履行する必要がある。

修理はあくまで機能回復を図るものであり、その行為の中で電気的、機械的加工を行って機器の性質変更を行う場合、これは製造の範疇にあたる。

Q:自主検査については一製品ごとに行うのか。
A:自主検査は全数検査。一品ごとに行って頂きたい。

Q:PCは電安法の除外品目となっている。PCの定義が明確ではないのにPSEの除外品目なっているのはなぜか。
A:PCをどこまでと規定するかという質問は数多くいただいている。それを正確に判定するには、個別の製品の設計図や仕様書を私どもに提供いただいて判断を求めて頂きたいと思う。

Q:電取法表示のまま流通している在庫品について、本年4月1日以降も電取法で技術基準を満たしているとみなし、PSEマークを張り直すだけで取得済製品として販売することはできるのか。
A:電取法時代の基準をもって、届出を行った製造業者として「どう自主確認するか」という判断の問題。どのような確認行為をもって、自ら将来に渡って責任を負っていくのかを考えて欲しい。

Q:絶縁耐力試験では「1キロを負荷しろ」と言われているがこれは決まっているのか。
A:技術基準に定める方法である「1000ボルトで1分間」というメジャーに沿って、またはそれと同等の方法によって行うとされている。将来自主検査の内容を提示する時になって、違う方法を用いたとなると、その同等性を証明できなければならない。

Q:ユーザーが自分で組み立てるキットモデルは対象外となるのか。ビンテージモデルについて「こわれていても欲しい」というお客様に、キットモデル、あるいはジャンクとして販売することはできるのか。
A:キットモデルは完成品ではないと見なされ、対象外となる。ジャンク品と言われているものは、機能を果たさないとされている製品でも、購入者が少しいじって使えるようになるものであればやはり電気用品として扱わなければならない。或いは脱法的意図でジャンク品として販売されるケースも出てくることが考えられるので、個々の事例で判断してなくてはいけないだろう。

Q:4月1日以降も下取りを意図して個人から持ち込みがあった場合、販売店としての対処は、ひとつはオーソドックスにPSEマークを表示できるよう、製造事業者として届けてマークを表示する方法があると思う。もう一つは、「販売」にあたらない行為で、例えば「レンタルする、リースする」という方法が考えられるのでは。長期間にわたってリース代を個人からいただき、それが販売額と一致したときに所有権を放棄するという方法は認められるのか。
A:レンタルとリースは若干趣が異なる。レンタルは所有権・管理権ともにレンタルする側が持っているのが通常だ。リースの場合は故障対応や品質管理は借りた個人がそれを行うことが多い。契約のパターンも色々であり、リース期間終了後、または途中でも、譲渡予約権付きのものもある。また借りた製品を返却するか、買い取るかの選択権が発生する場合もある。いずれにおいても、所有権がどの時点で移動するかで判断される。ご質問の内容だと、レンタル契約者に対して、レンタル契約が終了するときに無償譲渡するとしても、途中対価を得るのであればこれは「販売」の行為として捉えられる。「譲渡」を行ったときに所有権が移転するので規制の対象となる。これはリースの場合も同様だ。レンタル期間が終わったら無償譲渡ということを契約書に組み込んだらこれはまさに脱法行為であると言える。ただし、契約者以外の「第三者」に譲渡する場合にはこれは販売とは見なさなれないと認識する。

Q:販売店が自らPSEマークを付していくとした場合、不幸にして事故が起きた場合、製品を一からつくった立場ではないのに販売店が責任を負うのか。あるいは元のメーカーに責任があるのか。PL法の観点からも考察していただきたい。
A:PL法については自分は専門ではないので詳しくご説明できないが、良くある質問なので確認した範囲の内容をお伝えしたい。電安法の限りでは損害賠償については何ら求められることはない。製造事業者としてPSEマークを貼った場合、電安法の範囲内での責任は発生するだろう。損害賠償が問題になった時点でPL法の範疇で処理される課題となり、修理の範囲や事故の原因について司法の判断にゆだねられることになるだろう。

Q:ビンテージは飾り物の用途としても販売ができなくなるのか。
A:ジャンク品の販売と同じ考え方になるだろう。飾り物として設置した場合でも、ユーザーが電源を入れたら動いてしまうようなものであれば、いくら販売業者が「私は飾り物として売った」と言い訳をしても通じない。電気用品としての機能を消滅させたかたちで販売しなければ法律に抵触するだろう。

【問い合わせ先】
経済産業省
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(Phile-web編集部)

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