55V/42V型フルHD PDPを生み出したFHPが考える“プラズマテレビの今までとこれから”
一口に「薄型テレビ」と言っても、その方式はプラズマ、液晶、リアプロジェクションなど様々だ。使用する表示パネルの特性は、テレビとしての性能に直結する部分だけに、それぞれの方式は慎重に選択したいものだ。
今回は、WoooのPDPを製造している富士通日立プラズマディスプレイ株式会社(以下FHP)への取材を敢行。PDPの基本原理から、同社が製造するALISパネルの特徴まで、開発設計本部 技術調査部 部長の大塚晃氏にくわしく聞いた。
●プラズマパネルの構造と発光原理を知ろう
まず、大塚氏にPDPの構造と発光原理を説明してもらった。
PDPには、隔壁で区切られたセルと呼ばれる構造がある。このセルの1つ1つが画素になるわけだ。セルの中には、混合ガス(ネオンキセノン)を充填。これに電圧をかけて放電現象を起こし、紫外線を発生させる。この紫外線がRGB3原色の蛍光体を刺激し、各色ごとに発光させる仕組みだ。
PDPの明るさは、単位時間あたりの発光回数に比例する。これを利用し、RGBの発光回数を制御することで、フルカラー表示を可能にしている。
ただ単に色を表示するだけでは、文字や絵を表現することはできない。パターンを表示させるためには、どの画素を光らせるか、という位置決めが必要になる。PDPでは、まず光らせる場所を決める「アドレス放電」を行い、壁電荷を設ける。その後、表示放電を行うと、壁電荷が形成されている部分だけ表示が行われる。最後に壁電荷を消す操作を行い、もう一度はじめからアドレス放電が繰り返される。この一連の動作を超高速で行うことにより、文字や絵を表現することが可能になっている。この方式をACメモリー駆動と言い、FHPの前身の一つである富士通では初めからこの方式を採用し、他社に対して大きなアドバンテージを持っていた。
●プラズマ発展に貢献した富士通/FHPの様々な発明
さて、PDPの基本原理が一通り分かったところで、大塚氏にプラズマパネルの歴史を尋ねてみた。同氏によると、PDPは1964年、米イリノイ大で原理が発明されたという。富士通では、この発明を受け、1967年には早くもネオンオレンジ発光のPDPを開発開始。70年代から80年代にかけ、駅の券売機やディスペンサーなど、公衆表示・各種端末の装置を量産した。
1988年には21型3色カラーPDPの開発・製品化を独自技術で実現。1992年には、フルカラー駆動方式などを発明・開発して、21型フルカラーPDPの開発・製品化を成し遂げ、ニューヨーク証券取引所に納入、株価の表示に使用された。
1996年には、サイズを大型化し42V型カラーPDPの開発・量産を同社宮崎工場で開始。その後、開発は後継会社であるFHPに引き継がれ、2001年に32/37/42V型のALIS方式プラズマパネルを量産開始、2004年には55V型e-ALIS方式のプラズマパネルを量産開始した。
以上が、FHPが長年行ってきたPDP開発の歴史だが、この間、富士通/FHPが開発したPDP関連技術は非常に多岐にわたる。
まず、1984年に発明した3電極面放電。これは、従来使われていた対向放電型では、イオンが衝突することにより蛍光体が劣化し、寿命と安定性に問題があったものを、放電と蛍光体領域を分離する面放電型に改め、寿命・安定性とも飛躍的に高めた技術だ。現在、PDPの寿命や安定性は非常に高い水準にあるが、この基礎となったのがこの技術だ。
また、1988年にはセルの構造を透過型から反射型に変更。蛍光体の光を直視することになり、輝度が約4倍に高まった。1992年には蛍光体・隔壁のストライプ構造を発明。従来の隔壁は格子状で、構造が複雑であるほか、位置あわせの精度が厳しく、開口率が低かった。ストライプ状の隔壁では位置あわせが不要になり、歩留まりが高まったほか、開口率も大きく向上した。
パネルの製造方法にもFHPならではの工夫が盛り込まれている。詳細は省くが、前面パネルも背面パネルも、様々な電極や誘電体膜の形成方法が工夫され、少ない工程で効率的な製造が可能になっている。また、セルを区切るリブの形成には、砂を吹き付けるサンドブラスト法が用いられ、従来の印刷法にくらべて大幅な工程削減を実現した。
見てきたように、PDPに使われている技術の多くに、富士通/FHPの発明技術が搭載されている。これらの発明の積み重ね無しに、いまのPDPの隆盛はあり得なかったと言うことがわかるだろう。
●高輝度でHD解像度を実現したALISパネル
では、そのFHPが開発し、現在では家庭用PDPのスタンダードの一つとなっているALIS方式パネルとはどのようなものなのだろう。
大塚氏によると、ALIS方式のパネルは、ハイビジョンの解像度と画質を低コストで可能にするという、市場の要求に応えるかたちで開発された。1998年に基本技術が開発されたもので、最大の技術的特徴は、従来発光に寄与していなかった放電セルの隙間にも表示すると言うことにある。ALIS方式では超高速で奇数/偶数ラインを発光させるので、人間の目にはまったくチラつきなどは知覚されない。これにより、512本の走査電極で1024ラインの表示が可能になり、高解像度化が実現した。さらに注目したいのは、セル構造を簡略化したことで開口率が従来の40%から65%に高まり、その結果、2倍程度の高輝度化を同時に達成したことだ。現在、65V型のフルHDプラズマテレビが登場しているが、32/37/42V型でフルHDレベルの垂直解像度を実現しているのはALISパネルだけで、しかもその量産を2001年から始めていたところからも、FHPの先進性が伺える。
ALIS方式の電極構造を採用し、より大型なパネルのために開発した技術がe-ALIS方式だ。リブ構造は格子状で、駆動電極数はALISと同様に半分の数でプログレッシブ駆動をJちうげんする。セル構造を見直し、開口率を従来比で1.4倍程度に高めたのが特徴で、大型ながら輝度が高い点が特徴になる。このパネルは、Woooの55V型モデルに搭載されている。
●55V型フルHDパネルも2006年夏に登場する
FHPは今年9月、55V型のサイズでフルHD(1920×1080)の解像度を持つPDPの開発を発表。その後、CEATECなどで試作機を展示した。
従来WXGA比2倍に相当する高密度セル(各セルのサイズ:0.21x0.63mm)のリブ・電極形状及び放電ガス組成を新たに設計することで、フルHD化に伴う輝度・発光効率の低下を改善。ピーク輝度は1000cd/m2に及ぶという。また、新開発の高コントラスト駆動(フルブラック駆動)技術により背景輝度を大幅に低減し、暗室コントラスト5000対1を実現しているというから、黒の締まりも期待できる。このPDPは2006年夏に供給を開始する予定だ。
またFHPでは、42V型のフルHD PDPの量産が2007年春に開始されることも発表した。フルHD解像度を実現するためにはPDPのセルを微細化する必要があるが、セルを小さくすると十分な輝度やコントラストの確保が難しくなる。画面サイズが小さくなればなるほどセルのサイズも小さくなるので、42V型程度のパネルサイズではフルHD化が難しいと言われていた。 今回の開発品では、同社が従来から採用しているALIS方式パネルを改良し、従来比約2/3(自社比)の薄さのスリムリブ構造を新開発することでフルHD化を実現。セルピッチは従来の0.3mmから0.16mmとなり、これはPDPとして最高レベルの高精細度となる。
開口度も61%と高い数値をキープし、さらに高速駆動処理などを採用したことなどにより、フルHDながら輝度1000cd/m2、コントラスト3000対1の表示性能を実現している。新開発の映像処理技術も搭載される見込み。「階調性と動画品質を改善し、映画に多い暗い場面など滑らかな階調表現が要求されるシーンや激しい動きのスポーツなどを美しく表現することができる」という。
地上デジタル放送の普及拡大などに伴い、今後フルHDの薄型テレビの需要はますます高まることが予想されるが、FHPは着実に将来へ向けた布石を打っていると言えそうだ。
●視野角、色再現性、動画応答性能などでアドバンテージを持つPDP
近ごろ話題になることが多い、PDPと液晶との比較について触れてみよう。PDPと液晶は、本来まったく異なる表示方式のものなので、その映像にも大きな違いがある。
PDPと液晶との差としてよく指摘されることに、視野角特性の違いが挙げられる。PDPは左右±80°程度までほぼコントラストが落ちないのに対し、液晶では、正面をピークとして明らかにコントラストが落ちていく。たとえばVA方式の液晶では、液晶にとって有利な明室コントラストでも、±20°を超えたあたりで半分程度に下がり、それ以上の角度になるとPDP以下になってしまう。また、液晶が苦手とする暗室コントラストでは、黒が浮いてしまうために非常に低いコントラストになってしまう。さらに、映像ではコントラスト以上に色調の変化が認識されるため、リビングで複数の人が見るテレビとして液晶は大きな課題を抱えている。また、液晶は暗室コントラストがPDPに比べて低く、暗い場所での試聴では黒が浮き気味になるほか、視野角によっては色調が変化することも知っておきたい。
また、色再現性もPDPが得意とする分野だ。FHPが開示している参考データでは、NTSC比の色再選範囲では、PDPが0.95、CRTが0.71、液晶が0.69と、ほかを大きく引き離す色再現範囲を獲得している。ただし、最近では液晶もバックライトやフィルターの改善などで色再現範囲を拡大しており、最新モデルでの比較では上記のような数字にならない可能性もある。
一時、液晶=低消費電力という図式が喧伝されたことがあったが、最近のPDPはこの分野でも非常に技術が進化し、年間消費電力では、ほぼ液晶並みかそれ以下の消費電力を実現した製品が登場している。また、液晶は暗いシーンでもバックライトが点灯し続けるが、プラズマは暗いシーンでは発光回数が低下するため、映画などの鑑賞時ではPDPの消費電力が液晶を大きく下回ることにも注意したい。
最後に、FHPや松下電器産業、パイオニアなどPDP開発メーカー各社が参加する次世代PDP開発センターが、CEATECで興味深い展示を行っていたのでご紹介しよう。
次世代PDP開発センターでは、薄型テレビを視聴した際の視覚疲労に関する研究成果をパネル展示。大阪市立大学大学院の岡田明教授の研究では、被験者にプラズマテレビと液晶テレビを見せ、心理的な主観評価と瞬目率で計測した生理評価を実施。どちらの結果でも、液晶に比べてプラズマの方が疲れにくいという結果が出たと発表している。
また、大阪教育大学人間行動学の高橋誠教授は、被験者にプラズマテレビと液晶テレビを見せ、25分ごとにグレイティング視力の測定を実施。その結果、プラズマはほとんど視力が下がらないのに対し、液晶では時間が経過するのに合わせ、視力が次第に低下するという結果が報告された。
ここまでPDPの原理やALISパネルの優位点などを紹介してきたわけだが、もちろん現在のPDPが完璧というわけではない。2006年夏に投入される55型フルHDパネルを皮切りに、今後も注目すべき技術や製品が続々と登場し、さらにPDPは発展を遂げることだろう。
だが、現段階ですでに、PDPは黒の締まり、色再現性の高さ、広い視野角、高速な動画応答性能など、ほかのデバイスには無い利点を多く持っており、テレビセットの完成度は非常に高いレベルに達している。これから薄型テレビを購入される方は、表示パネルの特性を理解した上で、商品の選択をされることをおすすめしたい。
(Phile-web編集部)
今回は、WoooのPDPを製造している富士通日立プラズマディスプレイ株式会社(以下FHP)への取材を敢行。PDPの基本原理から、同社が製造するALISパネルの特徴まで、開発設計本部 技術調査部 部長の大塚晃氏にくわしく聞いた。
●プラズマパネルの構造と発光原理を知ろう
まず、大塚氏にPDPの構造と発光原理を説明してもらった。
PDPには、隔壁で区切られたセルと呼ばれる構造がある。このセルの1つ1つが画素になるわけだ。セルの中には、混合ガス(ネオンキセノン)を充填。これに電圧をかけて放電現象を起こし、紫外線を発生させる。この紫外線がRGB3原色の蛍光体を刺激し、各色ごとに発光させる仕組みだ。
PDPの明るさは、単位時間あたりの発光回数に比例する。これを利用し、RGBの発光回数を制御することで、フルカラー表示を可能にしている。
ただ単に色を表示するだけでは、文字や絵を表現することはできない。パターンを表示させるためには、どの画素を光らせるか、という位置決めが必要になる。PDPでは、まず光らせる場所を決める「アドレス放電」を行い、壁電荷を設ける。その後、表示放電を行うと、壁電荷が形成されている部分だけ表示が行われる。最後に壁電荷を消す操作を行い、もう一度はじめからアドレス放電が繰り返される。この一連の動作を超高速で行うことにより、文字や絵を表現することが可能になっている。この方式をACメモリー駆動と言い、FHPの前身の一つである富士通では初めからこの方式を採用し、他社に対して大きなアドバンテージを持っていた。
●プラズマ発展に貢献した富士通/FHPの様々な発明
さて、PDPの基本原理が一通り分かったところで、大塚氏にプラズマパネルの歴史を尋ねてみた。同氏によると、PDPは1964年、米イリノイ大で原理が発明されたという。富士通では、この発明を受け、1967年には早くもネオンオレンジ発光のPDPを開発開始。70年代から80年代にかけ、駅の券売機やディスペンサーなど、公衆表示・各種端末の装置を量産した。
1988年には21型3色カラーPDPの開発・製品化を独自技術で実現。1992年には、フルカラー駆動方式などを発明・開発して、21型フルカラーPDPの開発・製品化を成し遂げ、ニューヨーク証券取引所に納入、株価の表示に使用された。
1996年には、サイズを大型化し42V型カラーPDPの開発・量産を同社宮崎工場で開始。その後、開発は後継会社であるFHPに引き継がれ、2001年に32/37/42V型のALIS方式プラズマパネルを量産開始、2004年には55V型e-ALIS方式のプラズマパネルを量産開始した。
以上が、FHPが長年行ってきたPDP開発の歴史だが、この間、富士通/FHPが開発したPDP関連技術は非常に多岐にわたる。
まず、1984年に発明した3電極面放電。これは、従来使われていた対向放電型では、イオンが衝突することにより蛍光体が劣化し、寿命と安定性に問題があったものを、放電と蛍光体領域を分離する面放電型に改め、寿命・安定性とも飛躍的に高めた技術だ。現在、PDPの寿命や安定性は非常に高い水準にあるが、この基礎となったのがこの技術だ。
また、1988年にはセルの構造を透過型から反射型に変更。蛍光体の光を直視することになり、輝度が約4倍に高まった。1992年には蛍光体・隔壁のストライプ構造を発明。従来の隔壁は格子状で、構造が複雑であるほか、位置あわせの精度が厳しく、開口率が低かった。ストライプ状の隔壁では位置あわせが不要になり、歩留まりが高まったほか、開口率も大きく向上した。
パネルの製造方法にもFHPならではの工夫が盛り込まれている。詳細は省くが、前面パネルも背面パネルも、様々な電極や誘電体膜の形成方法が工夫され、少ない工程で効率的な製造が可能になっている。また、セルを区切るリブの形成には、砂を吹き付けるサンドブラスト法が用いられ、従来の印刷法にくらべて大幅な工程削減を実現した。
見てきたように、PDPに使われている技術の多くに、富士通/FHPの発明技術が搭載されている。これらの発明の積み重ね無しに、いまのPDPの隆盛はあり得なかったと言うことがわかるだろう。
●高輝度でHD解像度を実現したALISパネル
では、そのFHPが開発し、現在では家庭用PDPのスタンダードの一つとなっているALIS方式パネルとはどのようなものなのだろう。
大塚氏によると、ALIS方式のパネルは、ハイビジョンの解像度と画質を低コストで可能にするという、市場の要求に応えるかたちで開発された。1998年に基本技術が開発されたもので、最大の技術的特徴は、従来発光に寄与していなかった放電セルの隙間にも表示すると言うことにある。ALIS方式では超高速で奇数/偶数ラインを発光させるので、人間の目にはまったくチラつきなどは知覚されない。これにより、512本の走査電極で1024ラインの表示が可能になり、高解像度化が実現した。さらに注目したいのは、セル構造を簡略化したことで開口率が従来の40%から65%に高まり、その結果、2倍程度の高輝度化を同時に達成したことだ。現在、65V型のフルHDプラズマテレビが登場しているが、32/37/42V型でフルHDレベルの垂直解像度を実現しているのはALISパネルだけで、しかもその量産を2001年から始めていたところからも、FHPの先進性が伺える。
ALIS方式の電極構造を採用し、より大型なパネルのために開発した技術がe-ALIS方式だ。リブ構造は格子状で、駆動電極数はALISと同様に半分の数でプログレッシブ駆動をJちうげんする。セル構造を見直し、開口率を従来比で1.4倍程度に高めたのが特徴で、大型ながら輝度が高い点が特徴になる。このパネルは、Woooの55V型モデルに搭載されている。
●55V型フルHDパネルも2006年夏に登場する
FHPは今年9月、55V型のサイズでフルHD(1920×1080)の解像度を持つPDPの開発を発表。その後、CEATECなどで試作機を展示した。
従来WXGA比2倍に相当する高密度セル(各セルのサイズ:0.21x0.63mm)のリブ・電極形状及び放電ガス組成を新たに設計することで、フルHD化に伴う輝度・発光効率の低下を改善。ピーク輝度は1000cd/m2に及ぶという。また、新開発の高コントラスト駆動(フルブラック駆動)技術により背景輝度を大幅に低減し、暗室コントラスト5000対1を実現しているというから、黒の締まりも期待できる。このPDPは2006年夏に供給を開始する予定だ。
またFHPでは、42V型のフルHD PDPの量産が2007年春に開始されることも発表した。フルHD解像度を実現するためにはPDPのセルを微細化する必要があるが、セルを小さくすると十分な輝度やコントラストの確保が難しくなる。画面サイズが小さくなればなるほどセルのサイズも小さくなるので、42V型程度のパネルサイズではフルHD化が難しいと言われていた。 今回の開発品では、同社が従来から採用しているALIS方式パネルを改良し、従来比約2/3(自社比)の薄さのスリムリブ構造を新開発することでフルHD化を実現。セルピッチは従来の0.3mmから0.16mmとなり、これはPDPとして最高レベルの高精細度となる。
開口度も61%と高い数値をキープし、さらに高速駆動処理などを採用したことなどにより、フルHDながら輝度1000cd/m2、コントラスト3000対1の表示性能を実現している。新開発の映像処理技術も搭載される見込み。「階調性と動画品質を改善し、映画に多い暗い場面など滑らかな階調表現が要求されるシーンや激しい動きのスポーツなどを美しく表現することができる」という。
地上デジタル放送の普及拡大などに伴い、今後フルHDの薄型テレビの需要はますます高まることが予想されるが、FHPは着実に将来へ向けた布石を打っていると言えそうだ。
●視野角、色再現性、動画応答性能などでアドバンテージを持つPDP
近ごろ話題になることが多い、PDPと液晶との比較について触れてみよう。PDPと液晶は、本来まったく異なる表示方式のものなので、その映像にも大きな違いがある。
PDPと液晶との差としてよく指摘されることに、視野角特性の違いが挙げられる。PDPは左右±80°程度までほぼコントラストが落ちないのに対し、液晶では、正面をピークとして明らかにコントラストが落ちていく。たとえばVA方式の液晶では、液晶にとって有利な明室コントラストでも、±20°を超えたあたりで半分程度に下がり、それ以上の角度になるとPDP以下になってしまう。また、液晶が苦手とする暗室コントラストでは、黒が浮いてしまうために非常に低いコントラストになってしまう。さらに、映像ではコントラスト以上に色調の変化が認識されるため、リビングで複数の人が見るテレビとして液晶は大きな課題を抱えている。また、液晶は暗室コントラストがPDPに比べて低く、暗い場所での試聴では黒が浮き気味になるほか、視野角によっては色調が変化することも知っておきたい。
また、色再現性もPDPが得意とする分野だ。FHPが開示している参考データでは、NTSC比の色再選範囲では、PDPが0.95、CRTが0.71、液晶が0.69と、ほかを大きく引き離す色再現範囲を獲得している。ただし、最近では液晶もバックライトやフィルターの改善などで色再現範囲を拡大しており、最新モデルでの比較では上記のような数字にならない可能性もある。
一時、液晶=低消費電力という図式が喧伝されたことがあったが、最近のPDPはこの分野でも非常に技術が進化し、年間消費電力では、ほぼ液晶並みかそれ以下の消費電力を実現した製品が登場している。また、液晶は暗いシーンでもバックライトが点灯し続けるが、プラズマは暗いシーンでは発光回数が低下するため、映画などの鑑賞時ではPDPの消費電力が液晶を大きく下回ることにも注意したい。
最後に、FHPや松下電器産業、パイオニアなどPDP開発メーカー各社が参加する次世代PDP開発センターが、CEATECで興味深い展示を行っていたのでご紹介しよう。
次世代PDP開発センターでは、薄型テレビを視聴した際の視覚疲労に関する研究成果をパネル展示。大阪市立大学大学院の岡田明教授の研究では、被験者にプラズマテレビと液晶テレビを見せ、心理的な主観評価と瞬目率で計測した生理評価を実施。どちらの結果でも、液晶に比べてプラズマの方が疲れにくいという結果が出たと発表している。
また、大阪教育大学人間行動学の高橋誠教授は、被験者にプラズマテレビと液晶テレビを見せ、25分ごとにグレイティング視力の測定を実施。その結果、プラズマはほとんど視力が下がらないのに対し、液晶では時間が経過するのに合わせ、視力が次第に低下するという結果が報告された。
ここまでPDPの原理やALISパネルの優位点などを紹介してきたわけだが、もちろん現在のPDPが完璧というわけではない。2006年夏に投入される55型フルHDパネルを皮切りに、今後も注目すべき技術や製品が続々と登場し、さらにPDPは発展を遂げることだろう。
だが、現段階ですでに、PDPは黒の締まり、色再現性の高さ、広い視野角、高速な動画応答性能など、ほかのデバイスには無い利点を多く持っており、テレビセットの完成度は非常に高いレベルに達している。これから薄型テレビを購入される方は、表示パネルの特性を理解した上で、商品の選択をされることをおすすめしたい。
(Phile-web編集部)