【新連載】話題のソフトを“Wooo”で観る − 第1回『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』
今月から始まった新連載「話題のソフトを“Wooo”で観る」。AV評論家・大橋伸太郎氏が旬のソフトの見どころや内容をご紹介するとともに、“Wooo”薄型テレビで視聴した際の映像調整のコツなどについてもお伝えします。DVDソフトに限らず、放送や次世代光ディスクなど、様々なコンテンツをご紹介していく予定です。第1回は、7月末に発売されたばかりの大作ファンタジー「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」をお届けします。
「ナルニア国物語」はジュブナイル・ファンタジーの代表格
長編ファンタジーの名作は数多いが、ジュブナイルの代表格がC・S・ルイス原作の『ナルニア国ものがたり』だろう。アイルランドに生まれた教育者にして研究者C・S・ルイスが、50歳を過ぎてオックスフォード大学勤務の傍ら書き綴った、全7章からなる小説である。
キリスト教詩人でもあるルイスが執筆した本書は、筋立てもシンプルで文章もやさしく、トールキンの『指輪物語』、グウィンの『ゲド戦記』より世界中のはるかに多くの子供たちに親しまれた。今回の映画化はウォルト・ディズニーの手になるが、『ナルニア国ものがたり』とディズニーの出会いは必然だったといえるだろう。
小説の作者には、作中人物や情景について具体的に細かく描写するタイプと、読者の想像力に委ねてしまうタイプがある。それではどちらのタイプの小説が映画にしやすいかというと、それぞれ難しさはあるのだが、後者のような原作を映画化した方がずっと成功を収めるのである。
理由の一つは、映画製作に取り組む人たち、プロデューサー、監督、美術、演技陣に至るまでの気持ちの盛り上がりの問題だろう。もう一つは観客がそれぞれの心の中にあるイメージを抱いて、期待に胸躍らせて劇場に詰めかけるからだろう。『ナルニア国ものがたり』(以後、映画タイトル『ナルニア国物語』と表記)も具体を読者の想像力に委ねるタイプの小説である。
ウォルト・ディズニー・プロダクションがアニメーションでなく実写の道を選んだ制作上の最初の決定については、DVDの特典映像で語られていない。想像するに最大の理由は、映像ジュブナイルの総本山として『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』シリーズの世界的成功に後押しされてのことだろう。日本市場は別にして、アニメより実写映画の方が観客人口はずっと多いはずだ。しかし、何より製作者のチャレンジがそこにあったと考えたい。
ファンタジーをリアルに映像化するための努力の数々
『ナルニア国物語』で製作総指揮を取ったアンドリュー・アダムソンは、映画『シュレック』で成功を収めたアニメ畑出身の監督で、子供時代、原作に魅せられた一人だという。アダムソンは自分の心の中に生き続けるイメージを手がかりに、世界中の読者に愛されてきた原作にふさわしい普遍性を持ったナルニア国にするために、4人の子役を始めとした俳優のオーディション、美術のコンセプト、キャラクターやクリーチャーの造形について自ら取り組みスタッフにイメージを伝えていった。そのあたりはDVDの特典にくわしく紹介されている。
アダムソンの映画化に臨んでの最大の狙いは、ファンタジーの内側にはリアルな現実が内包されていて、ファンタジーの舞台に描かれる世界は(現実世界との)パラレルワールドなのだから、現実世界に引けをとらないくらい広大で生々しく驚異に富むものでなければいけない、ということだった。たとえば、4人の兄弟姉妹がナルニアに迷いこむ入り口は、原作では「衣装箪笥」としか描かれていないが、映画ではライオンや魔女が象嵌され第2話以降の内容も暗示した物語性に富んだ陰鬱で豪華な家具に造形されているし、終盤のナルニアを二分する勢力同士の合戦シーンも原作ではあっさりした描写だが、アダムソンは残酷シーンを避けながら現代の映画らしいリアルな描写を心がけ、CGを援用しながら、半人半獣の戦士たちや奇怪なクリーチャーたちでロケ地に選んだニュージーランド南島の原野を埋め尽くした。
音元出版刊行の『ホームシアターファイル』に何度か登場いただいた建築家の栗山礼子さんは、幼い子供たちと一緒に過ごすことのできる貴重な日はベッドで本を読んで聞かせたそうだ。その中で娘さんの特別お気に入りだった本が『ナルニア国ものがたり』で、全巻の筋をほとんど覚えてしまったという。今では娘さんも大学に行く年になり、ナルニアが映画化されたというので連れ立って見に行くと、このシーンの次はああなってこんな台詞が原作にあってと、娘さんがすべて諳んじていているのでお互いに驚き、懐かしくて楽しかったという。映画版『ナルニア国物語』はチャレンジに勝ったということだが、製作者の努力やこだわりがしっかり伝わるような、映画館に負けない映像で見ることが大切である。あなたの心の中のナルニアがそこにあるためにも。「話題の新作を日立プラズマテレビWoooで見るシリーズ」第一回のテーマはそこだ。
“Wooo”「W42P-HR9000」で『ナルニア国物語』を見る
DVD版『ナルニア国物語』(VWDS3191/¥3,990/7月26日レンタル&販売開始)をリアリティあるファンタジーとして再現するために選んだディスプレイは、日立の42型プラズマテレビ「W42P-HR9000」(製品データベース)。垂直方向でハイビジョン規格の1,080画素を持ち、画素変換せずにリアル表示することができるALIS方式パネルを中心に構築されたヒットシリーズの最新作だ。回路技術も最新のバージョンになり、映画で重要な階調表現や色再現の忠実など、映像の自然さ、なめらかさで前作から一段と進歩した最新のプラズマテレビである。放送ソースを視聴中そのまま録画できる250GBのハードディスクレコーダーを内蔵し、筆者が某量販店店頭で確認した売価はインチ1万円以内、コストパフォーマンスに優れた製品でもある。
ここで『ナルニア国物語』のストーリーを簡単に紹介しておこう。第二次大戦中、独軍の空襲にさらされるロンドンから田舎の邸宅に疎開した兄弟姉妹四人が偶然、別世界に紛れ込む。そこは邪悪な白い魔女の魔法で冬に閉ざされた世界である。アダムとイブの四人の子供の出現でその国ナルニアには春が帰ってくるという黙示録に導かれるように、建国者アスランと力を合わせての兄弟の冒険と活躍が始まるという物語である。筆者は劇場公開時、『ナルニア国物語』を残念なことに見逃がしてしまった。小学生の娘と行く約束をしていたのだが、あいにく子供のほうも忙しくて実現できなかった。DVDのサンプル品を入手して自宅のホームシアターで一度家族と一緒に見て、その後、最新のLCOS方式のプロジェクターの視聴で特定のシーンをあらためて確認した上で、自宅2階の仕事場にW42P-HR9000をセットし、日立のDV-DH1000DとHDMI接続して視聴を行った。
DVD版『ナルニア国物語』を家庭で再生するポイントは一口に言えば、原作の魂を持ちながらジュブナイル小説から具体映像へ転換する上で重要な、映画的リアリティやスケール感をきちんと表現することだ。華となるシーンは以下だ。
・末娘ルーシーが雪景色のナルニアに迷い込み、フォーンのトムナスと出会う冒頭のシーン
・次男エドモンドと白い魔女が出会い魔女の宮殿で対話するシーン
・雪上の四人とビーバー夫妻の逃避行と氷壁の崩落シーン
・緑の原野の本陣とアスラン出現シーン
・ナイトシーンでのアスランの自己犠牲
・最後の壮大な合戦シーン
『ナルニア国物語』は劇映画なのだから、個々のリアリティにごまかしがあってはダメなのだ。本作も現代の映画らしくCGが多用されているが、製作・監督のアンダーソンのこだわりが生かされて非常にナイーブな感性でCGが描画されている。
たとえば、王アスランはライオンの姿をしているが、CG担当者は動物園に手紙を書き、実際の雄ライオンのたてがみの一部を送ってもらったという。それは予想とは違い、猫の毛のようにしなやかなものでなく、ゴワゴワして硬いものだった。アスランが疾走するシーンはたてがみが美しく風になびくように描きたくなるがそうはせずに乱れるように描いたという。
また、ナルニアの住人たちはアスランの民もダークサイドも動物や半人半獣のすがたをまとっているが、CGに全面的に頼ることを嫌い、シーンによってはアニマトロニクスを使っている。石舞台上のアスラン処刑シーンがそれだ。こうしたこだわりが映像効果にあらわれてくればしめたものである。
暗いシーンの描写も楽々こなす“Wooo”の高い表現力
オーディオでも何でもそうだが、素性のいい製品はセットアップに時間がかからない。『ナルニア国物語』を視聴した日立のW42P-HR9000もそうした優れた製品の一つである。ポイントとして挙げたシーンの最初、冬に閉ざされたナルニアにルーシーが紛れ込むくだりは、異界との接触というファンタジーの本質が集約され、センス・オブ・ワンダーにあふれた魅力的な描写である。家庭のプラズマテレビで再生する上で最初の試金石といっていい。筆者は、W42P-HR9000の映像設定を下記に調整した。
・映像モード:シネマティック
・明るさ:マイナス15
・黒レベル:マイナス4
・色の濃さ:マイナス22
・色合い:プラス5
・画質:マイナス15
・色温度:中
・ディテール:切
・コントラスト:リニア
・黒補正:弱(注)
・CTI:切
・YNR:切
・CNR:切
色温度と色合いの調整は魔法にかかり冬に閉ざされたナルニアを感じるためだ。雪景色の中に街灯が出て、その周囲は赤っぽくなるが、それ以外は蒼白に凍りついていないと、人間界との対比やこの後のタムナス家の室内との対比が出てこない。ただし、兄や姉がナルニアにやって来てから黒レベルはプラス3〜5に上げた。スーザンの黒髪が潰れるからである(W42P-HR9000はプラス方向で黒レベルが明るい方向へ上がっていく)。
この最初の設定でほぼ全編を通して視聴することができる。ただし、家庭用ディスプレイ(テレビ)で『ナルニア国物語』を見る上で最大のポイントは、魔女と取引して幕営地を出たアスランを姉妹が追い、石舞台での処刑を目撃し、悲嘆のあまり夜明けまで石舞台にとどまる延々と続くナイトシーンである。ディズニーらしいダークサイドが発揮されたシーンであり、ファンタジーやジュブナイルが持つ恐怖と残酷が顕現するクライマックスだ。
ここはW42P-HR9000に限らず、固定画素方式のデジタルテレビにとっては難所である。先に書いたが、ハイエンドのLCOS 方式のプロジェクターでも階調が不足して映像が浮く。これは黒補正の設定で見やすくできる。また、視聴環境の照明の明るさとも関係がある。筆者の場合、天井照明は落として白熱スタンドの明かりを離して置いて観た。家庭用照度計では針がほとんど振れない暗さだったので、黒補正は「弱」のままで観たが、もっと明るいリビングで見る場合「切」にしたほうが見やすいと思う。
さて、W42P-HR9000なら最後の帰還シーンまでこの設定のまま『ナルニア国物語』を楽しんで観ることができる。ちなみに終盤のクライマックスの原野での合戦シーンは、高い画面解像度や優れた階調表現に増してピクチャーマスターHDや3次元デジタルカラーマネージメントの効果による自然で豊かな色彩で、広大な原野一杯に入り乱れて戦う半人半獣の戦士たちが生き生きとパノラミックに描きつくされた。W42P-HR9000のこの映像なら、初めて映画化された『ナルニア国物語』を家庭のDVDで見る「かつての子供」の夢を損なうことはゆめゆめないだろう。
(大橋伸太郎)
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。
「ナルニア国物語」はジュブナイル・ファンタジーの代表格
長編ファンタジーの名作は数多いが、ジュブナイルの代表格がC・S・ルイス原作の『ナルニア国ものがたり』だろう。アイルランドに生まれた教育者にして研究者C・S・ルイスが、50歳を過ぎてオックスフォード大学勤務の傍ら書き綴った、全7章からなる小説である。
キリスト教詩人でもあるルイスが執筆した本書は、筋立てもシンプルで文章もやさしく、トールキンの『指輪物語』、グウィンの『ゲド戦記』より世界中のはるかに多くの子供たちに親しまれた。今回の映画化はウォルト・ディズニーの手になるが、『ナルニア国ものがたり』とディズニーの出会いは必然だったといえるだろう。
小説の作者には、作中人物や情景について具体的に細かく描写するタイプと、読者の想像力に委ねてしまうタイプがある。それではどちらのタイプの小説が映画にしやすいかというと、それぞれ難しさはあるのだが、後者のような原作を映画化した方がずっと成功を収めるのである。
理由の一つは、映画製作に取り組む人たち、プロデューサー、監督、美術、演技陣に至るまでの気持ちの盛り上がりの問題だろう。もう一つは観客がそれぞれの心の中にあるイメージを抱いて、期待に胸躍らせて劇場に詰めかけるからだろう。『ナルニア国ものがたり』(以後、映画タイトル『ナルニア国物語』と表記)も具体を読者の想像力に委ねるタイプの小説である。
ウォルト・ディズニー・プロダクションがアニメーションでなく実写の道を選んだ制作上の最初の決定については、DVDの特典映像で語られていない。想像するに最大の理由は、映像ジュブナイルの総本山として『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』シリーズの世界的成功に後押しされてのことだろう。日本市場は別にして、アニメより実写映画の方が観客人口はずっと多いはずだ。しかし、何より製作者のチャレンジがそこにあったと考えたい。
ファンタジーをリアルに映像化するための努力の数々
『ナルニア国物語』で製作総指揮を取ったアンドリュー・アダムソンは、映画『シュレック』で成功を収めたアニメ畑出身の監督で、子供時代、原作に魅せられた一人だという。アダムソンは自分の心の中に生き続けるイメージを手がかりに、世界中の読者に愛されてきた原作にふさわしい普遍性を持ったナルニア国にするために、4人の子役を始めとした俳優のオーディション、美術のコンセプト、キャラクターやクリーチャーの造形について自ら取り組みスタッフにイメージを伝えていった。そのあたりはDVDの特典にくわしく紹介されている。
アダムソンの映画化に臨んでの最大の狙いは、ファンタジーの内側にはリアルな現実が内包されていて、ファンタジーの舞台に描かれる世界は(現実世界との)パラレルワールドなのだから、現実世界に引けをとらないくらい広大で生々しく驚異に富むものでなければいけない、ということだった。たとえば、4人の兄弟姉妹がナルニアに迷いこむ入り口は、原作では「衣装箪笥」としか描かれていないが、映画ではライオンや魔女が象嵌され第2話以降の内容も暗示した物語性に富んだ陰鬱で豪華な家具に造形されているし、終盤のナルニアを二分する勢力同士の合戦シーンも原作ではあっさりした描写だが、アダムソンは残酷シーンを避けながら現代の映画らしいリアルな描写を心がけ、CGを援用しながら、半人半獣の戦士たちや奇怪なクリーチャーたちでロケ地に選んだニュージーランド南島の原野を埋め尽くした。
音元出版刊行の『ホームシアターファイル』に何度か登場いただいた建築家の栗山礼子さんは、幼い子供たちと一緒に過ごすことのできる貴重な日はベッドで本を読んで聞かせたそうだ。その中で娘さんの特別お気に入りだった本が『ナルニア国ものがたり』で、全巻の筋をほとんど覚えてしまったという。今では娘さんも大学に行く年になり、ナルニアが映画化されたというので連れ立って見に行くと、このシーンの次はああなってこんな台詞が原作にあってと、娘さんがすべて諳んじていているのでお互いに驚き、懐かしくて楽しかったという。映画版『ナルニア国物語』はチャレンジに勝ったということだが、製作者の努力やこだわりがしっかり伝わるような、映画館に負けない映像で見ることが大切である。あなたの心の中のナルニアがそこにあるためにも。「話題の新作を日立プラズマテレビWoooで見るシリーズ」第一回のテーマはそこだ。
“Wooo”「W42P-HR9000」で『ナルニア国物語』を見る
DVD版『ナルニア国物語』(VWDS3191/¥3,990/7月26日レンタル&販売開始)をリアリティあるファンタジーとして再現するために選んだディスプレイは、日立の42型プラズマテレビ「W42P-HR9000」(製品データベース)。垂直方向でハイビジョン規格の1,080画素を持ち、画素変換せずにリアル表示することができるALIS方式パネルを中心に構築されたヒットシリーズの最新作だ。回路技術も最新のバージョンになり、映画で重要な階調表現や色再現の忠実など、映像の自然さ、なめらかさで前作から一段と進歩した最新のプラズマテレビである。放送ソースを視聴中そのまま録画できる250GBのハードディスクレコーダーを内蔵し、筆者が某量販店店頭で確認した売価はインチ1万円以内、コストパフォーマンスに優れた製品でもある。
ここで『ナルニア国物語』のストーリーを簡単に紹介しておこう。第二次大戦中、独軍の空襲にさらされるロンドンから田舎の邸宅に疎開した兄弟姉妹四人が偶然、別世界に紛れ込む。そこは邪悪な白い魔女の魔法で冬に閉ざされた世界である。アダムとイブの四人の子供の出現でその国ナルニアには春が帰ってくるという黙示録に導かれるように、建国者アスランと力を合わせての兄弟の冒険と活躍が始まるという物語である。筆者は劇場公開時、『ナルニア国物語』を残念なことに見逃がしてしまった。小学生の娘と行く約束をしていたのだが、あいにく子供のほうも忙しくて実現できなかった。DVDのサンプル品を入手して自宅のホームシアターで一度家族と一緒に見て、その後、最新のLCOS方式のプロジェクターの視聴で特定のシーンをあらためて確認した上で、自宅2階の仕事場にW42P-HR9000をセットし、日立のDV-DH1000DとHDMI接続して視聴を行った。
DVD版『ナルニア国物語』を家庭で再生するポイントは一口に言えば、原作の魂を持ちながらジュブナイル小説から具体映像へ転換する上で重要な、映画的リアリティやスケール感をきちんと表現することだ。華となるシーンは以下だ。
・末娘ルーシーが雪景色のナルニアに迷い込み、フォーンのトムナスと出会う冒頭のシーン
・次男エドモンドと白い魔女が出会い魔女の宮殿で対話するシーン
・雪上の四人とビーバー夫妻の逃避行と氷壁の崩落シーン
・緑の原野の本陣とアスラン出現シーン
・ナイトシーンでのアスランの自己犠牲
・最後の壮大な合戦シーン
『ナルニア国物語』は劇映画なのだから、個々のリアリティにごまかしがあってはダメなのだ。本作も現代の映画らしくCGが多用されているが、製作・監督のアンダーソンのこだわりが生かされて非常にナイーブな感性でCGが描画されている。
たとえば、王アスランはライオンの姿をしているが、CG担当者は動物園に手紙を書き、実際の雄ライオンのたてがみの一部を送ってもらったという。それは予想とは違い、猫の毛のようにしなやかなものでなく、ゴワゴワして硬いものだった。アスランが疾走するシーンはたてがみが美しく風になびくように描きたくなるがそうはせずに乱れるように描いたという。
また、ナルニアの住人たちはアスランの民もダークサイドも動物や半人半獣のすがたをまとっているが、CGに全面的に頼ることを嫌い、シーンによってはアニマトロニクスを使っている。石舞台上のアスラン処刑シーンがそれだ。こうしたこだわりが映像効果にあらわれてくればしめたものである。
暗いシーンの描写も楽々こなす“Wooo”の高い表現力
オーディオでも何でもそうだが、素性のいい製品はセットアップに時間がかからない。『ナルニア国物語』を視聴した日立のW42P-HR9000もそうした優れた製品の一つである。ポイントとして挙げたシーンの最初、冬に閉ざされたナルニアにルーシーが紛れ込むくだりは、異界との接触というファンタジーの本質が集約され、センス・オブ・ワンダーにあふれた魅力的な描写である。家庭のプラズマテレビで再生する上で最初の試金石といっていい。筆者は、W42P-HR9000の映像設定を下記に調整した。
・映像モード:シネマティック
・明るさ:マイナス15
・黒レベル:マイナス4
・色の濃さ:マイナス22
・色合い:プラス5
・画質:マイナス15
・色温度:中
・ディテール:切
・コントラスト:リニア
・黒補正:弱(注)
・CTI:切
・YNR:切
・CNR:切
色温度と色合いの調整は魔法にかかり冬に閉ざされたナルニアを感じるためだ。雪景色の中に街灯が出て、その周囲は赤っぽくなるが、それ以外は蒼白に凍りついていないと、人間界との対比やこの後のタムナス家の室内との対比が出てこない。ただし、兄や姉がナルニアにやって来てから黒レベルはプラス3〜5に上げた。スーザンの黒髪が潰れるからである(W42P-HR9000はプラス方向で黒レベルが明るい方向へ上がっていく)。
この最初の設定でほぼ全編を通して視聴することができる。ただし、家庭用ディスプレイ(テレビ)で『ナルニア国物語』を見る上で最大のポイントは、魔女と取引して幕営地を出たアスランを姉妹が追い、石舞台での処刑を目撃し、悲嘆のあまり夜明けまで石舞台にとどまる延々と続くナイトシーンである。ディズニーらしいダークサイドが発揮されたシーンであり、ファンタジーやジュブナイルが持つ恐怖と残酷が顕現するクライマックスだ。
ここはW42P-HR9000に限らず、固定画素方式のデジタルテレビにとっては難所である。先に書いたが、ハイエンドのLCOS 方式のプロジェクターでも階調が不足して映像が浮く。これは黒補正の設定で見やすくできる。また、視聴環境の照明の明るさとも関係がある。筆者の場合、天井照明は落として白熱スタンドの明かりを離して置いて観た。家庭用照度計では針がほとんど振れない暗さだったので、黒補正は「弱」のままで観たが、もっと明るいリビングで見る場合「切」にしたほうが見やすいと思う。
さて、W42P-HR9000なら最後の帰還シーンまでこの設定のまま『ナルニア国物語』を楽しんで観ることができる。ちなみに終盤のクライマックスの原野での合戦シーンは、高い画面解像度や優れた階調表現に増してピクチャーマスターHDや3次元デジタルカラーマネージメントの効果による自然で豊かな色彩で、広大な原野一杯に入り乱れて戦う半人半獣の戦士たちが生き生きとパノラミックに描きつくされた。W42P-HR9000のこの映像なら、初めて映画化された『ナルニア国物語』を家庭のDVDで見る「かつての子供」の夢を損なうことはゆめゆめないだろう。
(大橋伸太郎)
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。