ソニーPCL、BD-ROMソフト制作現場を公開 − 「イノセンス」37.5Mbps映像のデモも
ソニーPCL(株)は本日、マスコミ向けにBD-ROMソフトの制作現場を公開した。見学会では、同社オーサリングスタジオの概要や、実際の制作現場での説明、オーサリングした映像のデモ再生などが行われた。
また、ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメントが12月6日に発売するBD-ROMソフト『イノセンス』(¥8,190/VWBS1013)の仕様が明らかにされ、実際にオーサリングした映像や音声もデモ再生された。ソフトは2層ディスクで、映像には37.5MbpsのMPEG2が用いられる。音声には7.1chのリニアPCM、6.1chのドルビーデジタルEXなどが採用されている。BD-ROMの映像の最大ビットレートは約40Mbpsなので、その能力をほぼフルに使い切っていることになる。
同社社長の伊豆倉公一氏は、「弊社の前身は写真化学研究所という会社で、ソニー創業者の井深大氏が早稲田大学卒業後に入社した。その後映画会社に買収されたが、1951年に(株)PCLとして改めて出発した」と説明。1970年、UマチックVTRの開発に合わせ、ソニーが同社を100%出資の完全子会社とし、その後テレシネやポスプロ、映像制作、DVD オーサリングなどの業務を展開してきた。「フィルムや写真などの要素技術を基盤にして、そこにデジタルの楔を打ってきた」と伊豆倉氏は説明する。
現在はパッケージメディア制作を総合的に請け負うメディア事業、ポスプロを中心にしたデジタルプロダクション事業、イベントやプロモーションの企画・制作・運営などを手がけるクリエイティブ事業の3事業を行っている。
伊豆倉氏によると、先日75タイトルのBD-ROMソフトが発表されたが、国内で制作されているものはそのうち20タイトルとのこと。そのほぼすべてをソニーPCLで制作している。現在は月間10タイトルのオーサリングを進められる能力を持っているが、「引き合いが強くなることが予想され、年度内に20タイトルの体制を構築したい」とした。
BDオーサリングの流れやノウハウについては、同社技術開発部 統括部長の熊谷隆夫氏が説明した。同社では、映像エンコード、音声エンコード、写真・メニューデータ作成、そしてそれらのデータを関連づけるオーサリングを、同社が「BDオーサリングスタジオ」で行っている。エンコードとオーサリングにはそれぞれ専用室が設けられ、完成したコンテンツをプレビュールームで確認するという流れだ。
■エンコード
エンコードルームには、オリジナル映像を送り出すHDCAM-SRデッキと、ソニーが開発したHD-MPEG2 リアルタイムエンコーダー「BAE-VM700」を挿したエンコード用PC、業務用のBVMマスターモニター、家庭用テレビ「BRAVIA」が置かれ、マスターモニターと家庭用テレビの両方で映像を確認しながらエンコードが行われる。同社は「オリジナルマスターに忠実にエンコードすること」をポリシーにエンコードを行っており、「コンプレッショニスト」というエンコード専任の技術者が実際の作業を行う。
エンコードは、まず1度目の解析で映像の特性を判断し、そのあと特性に応じてビットレート割り当てを調整する「2バスエンコード」を採用。ここまでは自動的に行われるが、その後、コンプレッショニストによるカスタマイズ作業が行われる。具体的にはビットレートの配分や、シーンチェンジポイントの調整などが主な作業になる。
同社コンプレッショニストの村井正明氏は、「オリジナル映像との差異を注意深く見ながら、フィルムグレイン(フィルム特有の粒子状ノイズ)や暗いシーンの輪郭が消えていないかなどを確認する。暗いシーンはマスターモニターのブライトネスを持ち上げたりなどの工夫を行っている」という。なお、ここで使用しているエンコーダーでは、画面を2つに分け、左にオリジナル映像、右にエンコード映像を表示する機能もあり、映像の差異を見つけやすくしている。なお、エンコードには作品の長さの5〜6倍程度の時間がかかるという。
なお、MPEG4 AVC/H.264については、前述の熊谷氏が「圧縮効率が高く、期待できる新しいコーデックと認識している。ソニーがエンコーダーを開発しており、我々もその画質評価などに加わっている。近いうちに対応する予定だ」と説明した。ただし、熊谷氏は「AVCにはAVCの癖があり、最適化を行わなければならない。また、エンコード処理時間が長いことから、MPEG2に比べて生産性に劣る」と、MPEG4 AVC/H.264の課題も指摘。同社のMPEG2のノウハウ蓄積を強調し、「『イノセンス』のクリエーターからも、この画質なら文句はない、と言って頂いた。自信を持ってMPEG2で行く」と語った。
また、ソフトのビットレートについては、「作品の長さや画質に対する要求の高低、オーディオの仕様、また片面か2層かなどで総合的に決定する」と説明。『イノセンス』の場合、本編は100分だが、初めから2層ディスクという要望があり、そこから37.5Mbpsというビットレートが決定したという。
■オーサリング
エンコードした映像・音声素材や写真・メニューを関連づけ、一つのコンテンツにまとめ上げるのがオーサリングだ。作業にはソニック・ソリューションズ社のソフト「SCENARIST 4.1」を用いている。担当者は「メニューを作る際も、Photoshopから書き出したデータを読み込ませると、自動的にBDの仕様に合ったボタンが生成されるので非常に効率が良くなった」と説明する。また、「DVDよりはるかに容量が大きいので、特典映像なども1枚に入る」とBlu-rayの利点を強調した。
■プレビュー
完成したコンテンツは、プレビュールームで再生し、その映像をチェックする。部屋にはBVMマスターモニターには最新の40V型“BRAVIA”「KDL-40X2500」、SXRDプロジェクター、100インチスクリーン、7.1chサラウンドシステムなどが置かれ、様々なディスプレイで映像や音声を確認できる。現在、BD-ROMの再生にはVAIOや北米向けのBDプレーヤー「BDP-S1」が用いられている。
また、同社ではデジタルシネマ用のスクリーニングルーム「シネラピスタ」も持ち、2K DLPシネマプロジェクターと230インチスクリーンで、コンテンツメーカーを交えた画質評価を行っている。
■5タイトルのエンコード映像をオリジナルと比較
説明会の中で、同社が実際にエンコードした映像のデモ再生も行われた。上映されたのは「ニュー・シネマ・パラダイス」、「ダ・ヴィンチ・コード」、「オープン・シーズン」、「クリック」、「イノセンス」の5タイトル。ビットレートはいずれもVBRの35Mbpsだった。ただし、これらは今回のデモ用に特別にエンコードしたもので、既に発売がアナウンスされている「ダ・ヴィンチ・コード」や「イノセンス」以外のタイトルのBD-ROM発売を意味しているわけではない。また、ビットレートや画質についても、パッケージソフトとは異なる。
デモ映像は左半分がオリジナルのマスター映像、右半分がエンコードした映像に分けられ、それぞれの画を確認することができた。子細に比較しても、フィルムグレインの粒状感や暗部の輪郭情報がほとんど失われておらず、エンコード品質が優秀であることが確認できた。
(Phile-web編集部)
また、ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメントが12月6日に発売するBD-ROMソフト『イノセンス』(¥8,190/VWBS1013)の仕様が明らかにされ、実際にオーサリングした映像や音声もデモ再生された。ソフトは2層ディスクで、映像には37.5MbpsのMPEG2が用いられる。音声には7.1chのリニアPCM、6.1chのドルビーデジタルEXなどが採用されている。BD-ROMの映像の最大ビットレートは約40Mbpsなので、その能力をほぼフルに使い切っていることになる。
同社社長の伊豆倉公一氏は、「弊社の前身は写真化学研究所という会社で、ソニー創業者の井深大氏が早稲田大学卒業後に入社した。その後映画会社に買収されたが、1951年に(株)PCLとして改めて出発した」と説明。1970年、UマチックVTRの開発に合わせ、ソニーが同社を100%出資の完全子会社とし、その後テレシネやポスプロ、映像制作、DVD オーサリングなどの業務を展開してきた。「フィルムや写真などの要素技術を基盤にして、そこにデジタルの楔を打ってきた」と伊豆倉氏は説明する。
現在はパッケージメディア制作を総合的に請け負うメディア事業、ポスプロを中心にしたデジタルプロダクション事業、イベントやプロモーションの企画・制作・運営などを手がけるクリエイティブ事業の3事業を行っている。
伊豆倉氏によると、先日75タイトルのBD-ROMソフトが発表されたが、国内で制作されているものはそのうち20タイトルとのこと。そのほぼすべてをソニーPCLで制作している。現在は月間10タイトルのオーサリングを進められる能力を持っているが、「引き合いが強くなることが予想され、年度内に20タイトルの体制を構築したい」とした。
BDオーサリングの流れやノウハウについては、同社技術開発部 統括部長の熊谷隆夫氏が説明した。同社では、映像エンコード、音声エンコード、写真・メニューデータ作成、そしてそれらのデータを関連づけるオーサリングを、同社が「BDオーサリングスタジオ」で行っている。エンコードとオーサリングにはそれぞれ専用室が設けられ、完成したコンテンツをプレビュールームで確認するという流れだ。
■エンコード
エンコードルームには、オリジナル映像を送り出すHDCAM-SRデッキと、ソニーが開発したHD-MPEG2 リアルタイムエンコーダー「BAE-VM700」を挿したエンコード用PC、業務用のBVMマスターモニター、家庭用テレビ「BRAVIA」が置かれ、マスターモニターと家庭用テレビの両方で映像を確認しながらエンコードが行われる。同社は「オリジナルマスターに忠実にエンコードすること」をポリシーにエンコードを行っており、「コンプレッショニスト」というエンコード専任の技術者が実際の作業を行う。
エンコードは、まず1度目の解析で映像の特性を判断し、そのあと特性に応じてビットレート割り当てを調整する「2バスエンコード」を採用。ここまでは自動的に行われるが、その後、コンプレッショニストによるカスタマイズ作業が行われる。具体的にはビットレートの配分や、シーンチェンジポイントの調整などが主な作業になる。
同社コンプレッショニストの村井正明氏は、「オリジナル映像との差異を注意深く見ながら、フィルムグレイン(フィルム特有の粒子状ノイズ)や暗いシーンの輪郭が消えていないかなどを確認する。暗いシーンはマスターモニターのブライトネスを持ち上げたりなどの工夫を行っている」という。なお、ここで使用しているエンコーダーでは、画面を2つに分け、左にオリジナル映像、右にエンコード映像を表示する機能もあり、映像の差異を見つけやすくしている。なお、エンコードには作品の長さの5〜6倍程度の時間がかかるという。
なお、MPEG4 AVC/H.264については、前述の熊谷氏が「圧縮効率が高く、期待できる新しいコーデックと認識している。ソニーがエンコーダーを開発しており、我々もその画質評価などに加わっている。近いうちに対応する予定だ」と説明した。ただし、熊谷氏は「AVCにはAVCの癖があり、最適化を行わなければならない。また、エンコード処理時間が長いことから、MPEG2に比べて生産性に劣る」と、MPEG4 AVC/H.264の課題も指摘。同社のMPEG2のノウハウ蓄積を強調し、「『イノセンス』のクリエーターからも、この画質なら文句はない、と言って頂いた。自信を持ってMPEG2で行く」と語った。
また、ソフトのビットレートについては、「作品の長さや画質に対する要求の高低、オーディオの仕様、また片面か2層かなどで総合的に決定する」と説明。『イノセンス』の場合、本編は100分だが、初めから2層ディスクという要望があり、そこから37.5Mbpsというビットレートが決定したという。
■オーサリング
エンコードした映像・音声素材や写真・メニューを関連づけ、一つのコンテンツにまとめ上げるのがオーサリングだ。作業にはソニック・ソリューションズ社のソフト「SCENARIST 4.1」を用いている。担当者は「メニューを作る際も、Photoshopから書き出したデータを読み込ませると、自動的にBDの仕様に合ったボタンが生成されるので非常に効率が良くなった」と説明する。また、「DVDよりはるかに容量が大きいので、特典映像なども1枚に入る」とBlu-rayの利点を強調した。
■プレビュー
完成したコンテンツは、プレビュールームで再生し、その映像をチェックする。部屋にはBVMマスターモニターには最新の40V型“BRAVIA”「KDL-40X2500」、SXRDプロジェクター、100インチスクリーン、7.1chサラウンドシステムなどが置かれ、様々なディスプレイで映像や音声を確認できる。現在、BD-ROMの再生にはVAIOや北米向けのBDプレーヤー「BDP-S1」が用いられている。
また、同社ではデジタルシネマ用のスクリーニングルーム「シネラピスタ」も持ち、2K DLPシネマプロジェクターと230インチスクリーンで、コンテンツメーカーを交えた画質評価を行っている。
■5タイトルのエンコード映像をオリジナルと比較
説明会の中で、同社が実際にエンコードした映像のデモ再生も行われた。上映されたのは「ニュー・シネマ・パラダイス」、「ダ・ヴィンチ・コード」、「オープン・シーズン」、「クリック」、「イノセンス」の5タイトル。ビットレートはいずれもVBRの35Mbpsだった。ただし、これらは今回のデモ用に特別にエンコードしたもので、既に発売がアナウンスされている「ダ・ヴィンチ・コード」や「イノセンス」以外のタイトルのBD-ROM発売を意味しているわけではない。また、ビットレートや画質についても、パッケージソフトとは異なる。
デモ映像は左半分がオリジナルのマスター映像、右半分がエンコードした映像に分けられ、それぞれの画を確認することができた。子細に比較しても、フィルムグレインの粒状感や暗部の輪郭情報がほとんど失われておらず、エンコード品質が優秀であることが確認できた。
(Phile-web編集部)