“コピーナイン”答申書きょう正式に提出 − D-pa「技術仕様を数ヶ月以内に策定」
総務省の諮問機関である情報通信審議会は2日、第17回総会を開催し、デジタル放送の著作権保護方式である「コピーワンス」の見直し案を答申として取りまとめ、総務大臣に提出した。
●コピーワンスに関する議論の経緯
「コピーワンス」の見直しに関する議論は、これまで学識経験者や消費者、産業界、権利者団体、放送・通信事業者などが参加して構成する情報通信審議会 情報通信政策部会内の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」において、2006年9月から全21回の審議を重ね議論されてきた。「コピーワンス」は現在デジタル放送における著作権保護仕様として採用され、デジタル録画機器に録画された番組はオリジナルを残したままで他のデジタル機器やメディアにコピーできない仕様となっている。
コピーワンスについて、ムーブの失敗で録画した大切なコンテンツが消失してしまうなど、使い勝手の悪さを指摘するユーザーの声が数多く寄せられており、2011年に控える放送の完全デジタル化への妨げとなることが懸念されていた。このような課題をクリアし、ユーザーの利便性を確保しながら、一方では放送局やクリエーターをはじめとするコンテンツホルダーの権利を脅かす、海賊版等の不正コピーの防止策も講じつつ、新たなコピー制御のルールを検討していくという難しい議論が、これまで同委員会の中で繰り返されてきた。
コピーワンスの改善に向けた具体策としては、一時期は特定の受信機に限って信号を再生できるように放送信号に暗号をかける「EPN(Encryption Plus Non-assertion)」方式での解決が有力視されたこともあったが、昨今では「関係者が互いにソフトランディングし得る案であり、コンテンツ保護と利便性の両立の観点からも妥当である」との見解が優勢を占め、審議会では「COG(Copy One Generation)+一定の制限」の方式を有力な選択肢とし、具体的な見直し案を検討してきた。
●COG+9回コピー=“コピーナイン”が検討会の結論に
本年7月12日に開催された第19回目の検討委員会では、上記方式での「一定の制限」にあたる箇所について、「9回までのコピーを可能にする」という方向性が打ち出された。デジタルチューナーとHDDなどを同一筐体に収めた機器で録画したCOGの放送番組について、同一筐体内のDVDや、i.Link接続されたDTCP対応の外部機器へ、またポータブル機器などにも、デジタル放送のコンテンツが無劣化のまま「9回まで」、オリジナルを残したままコピーが可能になるというものだ。なお、10回目のコピーについてはオリジナルのコンテンツが消去される「ムーブ」となる。
この「9回」という制限回数については「“1”(一人の視聴者が一つのデバイスに記録できるコンテンツの数)ד3”(一人の視聴者が持つデバイスの上限数)ד3”(ひとつの家庭における視聴者の平均数)」を想定したところから導き出されている。本方式の運用基準については「1回」のカウント方法も議論の焦点となった。結果としては、メディアなどへの「記録行為が開始された時点で1回とする、という考え方が最も厳しく、かつシンプルで最適な方法である」という見解が示されている。なお、デジタルコンテンツを録画機からメディアにコピーする際の書き込みエラーや操作ミスについては、「この“9回”という数字の中でカバー可能」とされている。また、当該のルールについては地上放送やその他の「無料放送」のみに関して想定されたものとなる。有料放送については、今後の議論で仕様が決定することになる。
なお、この「COG+9回コピー」という考え方には、まだ固有の名称は付けられていないが、便宜上、「コピーナイン」と表記することにする。
●コピーナインは年内など「早期実施を目指すべき」と提言
本審議会が開催された前日の1日には、第21回目の検討委員会が開催され、今回の新たな見直し案が具体的に「いつから」適用されるべきかについての議論も執り行われた。審議会では「今回のルールは、今後一定の時期以降に新しく販売される機器に関して実装される機能として検討すべきものであり、本年中を含め可能な限り早期に実行に移すよう関係者へ要請していく」という考えが示された。また既に発売された機器への対応については「各社の経営判断のもと、その技術的可能性を可能な限り早期に検討するなど、最大限の努力を行うように審議会として期待する」とした。
また今回の見直しが議論された背景については「善意の視聴者が私的にコンテンツを楽しむための改善策」であることを強調しつつ、複製されたデジタルコンテンツの無断頒布や無断販売等の違法行為への対策としては、「デジタル放送の各コンテンツにチャンネル表示などマークやロゴを表示し、違法コピーの判別に用いること」と、その周知を各関係者が協力して行っていくことが重要であるとした。
●コピーナインはあくまで“暫定措置”
また昨日の検討委員会では、今回提案される新しいルールについて「暫定的な性格を持つものである」ことも強調された。「デジタル時代のルールは、新たな技術やそれに関わる制度、市場の状況にフレキシブルに対応できるものであるべき」とし、必要があれば各関係者の意見を採り入れながら新たなルールの提案を行っていくべきという方針が示されている。
なお、昨日の検討委員会では、検討委員からいくつか興味深い発言が寄せられた。権利者団体を代表して出席した、実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は、「COG+n化という結論が出たことは、権利者として尊重したい。新規格の機器が一刻も早く出ることを望んでいる」と述べ、「我々は決してコピー禁止の原理主義者ではない。検討を重ねるうちに、権利者の利益や海賊版への駆逐に対する理解を頂き、ほかの委員からEPNではなく、COG+nでも良いのではないかという意見が出たのは嬉しかった」と振り返った。
また、消費者団体を代表して出席した生活経済ジャーナリストの高橋伸子氏は、「本当にいいまとめができたのではないか。既存の機器の、新方式への対応は難しいのかもしれないが、検討だけはしてほしい」と要望した。
●コピーナインの技術仕様は今後数ヶ月で策定
今回、コピーナインという新たな方法が答申されたわけだが、消費者が最も関心を持っているのは、いつコピーナインがスタートするのか、また対応機器はいつ出るのか、という点だろう。昨日の検討会で地上デジタル放送推進協会(D-pa)の関 祥行氏は、「具体的になるべく早く、技術的な方法をメーカーとともに決めていきたい。また、有料放送と無料放送の区別なども決めていかなければならない。技術的な仕様は今後数ヶ月で詰めたい」とした。
また、日立製作所の田胡修一氏は、「コピーワンスが緩和したことに感謝したい。すでに各方面から『早く(製品を)作れ』というラブコールを頂いている。我々がD-paにお願いしたいのは、技術仕様を早く作って欲しいということと、“Xデー”はいつか決めて欲しい、ということだ。いずれにしても、これからデジタルコピーに関する告知活動はやり直しになる。包み隠さず、この場合はこうなるといった具合に、ケースごとに事実を伝えるという啓発活動が重要になるのではないか。いずれにしても、時間がないのでスピード感を持ってやっていきたい」と語った。
本日の審議会には検討委員会の主査を務める慶応義塾大学教授の村井純氏が出席した。村井氏は本議会に提出された意見について「オープンな環境のもと、様々な角度から意見が交わされてきたが、ようやくここまで形にすることができた。今後もいくつかの課題が出てくるものと思われるが、これまで議論されてきた内容を足場にして、建設的な方向で改善して行くことができるものという実感を得ている」とし、今回取りまとめられた内容を評価した。
委員会の検討案は本日の議会で承認を受け、情報通信審議会 会長の(株)日立製作所 取締役会長 庄山悦彦氏より、総務大臣の菅義偉氏に答申書として提出された。答申書を受け取った菅氏は「私が責任をもって今後の政策議論の中に盛り込んで行きたい」と語った。
(Phile-web編集部)
●コピーワンスに関する議論の経緯
「コピーワンス」の見直しに関する議論は、これまで学識経験者や消費者、産業界、権利者団体、放送・通信事業者などが参加して構成する情報通信審議会 情報通信政策部会内の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」において、2006年9月から全21回の審議を重ね議論されてきた。「コピーワンス」は現在デジタル放送における著作権保護仕様として採用され、デジタル録画機器に録画された番組はオリジナルを残したままで他のデジタル機器やメディアにコピーできない仕様となっている。
コピーワンスについて、ムーブの失敗で録画した大切なコンテンツが消失してしまうなど、使い勝手の悪さを指摘するユーザーの声が数多く寄せられており、2011年に控える放送の完全デジタル化への妨げとなることが懸念されていた。このような課題をクリアし、ユーザーの利便性を確保しながら、一方では放送局やクリエーターをはじめとするコンテンツホルダーの権利を脅かす、海賊版等の不正コピーの防止策も講じつつ、新たなコピー制御のルールを検討していくという難しい議論が、これまで同委員会の中で繰り返されてきた。
コピーワンスの改善に向けた具体策としては、一時期は特定の受信機に限って信号を再生できるように放送信号に暗号をかける「EPN(Encryption Plus Non-assertion)」方式での解決が有力視されたこともあったが、昨今では「関係者が互いにソフトランディングし得る案であり、コンテンツ保護と利便性の両立の観点からも妥当である」との見解が優勢を占め、審議会では「COG(Copy One Generation)+一定の制限」の方式を有力な選択肢とし、具体的な見直し案を検討してきた。
●COG+9回コピー=“コピーナイン”が検討会の結論に
本年7月12日に開催された第19回目の検討委員会では、上記方式での「一定の制限」にあたる箇所について、「9回までのコピーを可能にする」という方向性が打ち出された。デジタルチューナーとHDDなどを同一筐体に収めた機器で録画したCOGの放送番組について、同一筐体内のDVDや、i.Link接続されたDTCP対応の外部機器へ、またポータブル機器などにも、デジタル放送のコンテンツが無劣化のまま「9回まで」、オリジナルを残したままコピーが可能になるというものだ。なお、10回目のコピーについてはオリジナルのコンテンツが消去される「ムーブ」となる。
この「9回」という制限回数については「“1”(一人の視聴者が一つのデバイスに記録できるコンテンツの数)ד3”(一人の視聴者が持つデバイスの上限数)ד3”(ひとつの家庭における視聴者の平均数)」を想定したところから導き出されている。本方式の運用基準については「1回」のカウント方法も議論の焦点となった。結果としては、メディアなどへの「記録行為が開始された時点で1回とする、という考え方が最も厳しく、かつシンプルで最適な方法である」という見解が示されている。なお、デジタルコンテンツを録画機からメディアにコピーする際の書き込みエラーや操作ミスについては、「この“9回”という数字の中でカバー可能」とされている。また、当該のルールについては地上放送やその他の「無料放送」のみに関して想定されたものとなる。有料放送については、今後の議論で仕様が決定することになる。
なお、この「COG+9回コピー」という考え方には、まだ固有の名称は付けられていないが、便宜上、「コピーナイン」と表記することにする。
●コピーナインは年内など「早期実施を目指すべき」と提言
本審議会が開催された前日の1日には、第21回目の検討委員会が開催され、今回の新たな見直し案が具体的に「いつから」適用されるべきかについての議論も執り行われた。審議会では「今回のルールは、今後一定の時期以降に新しく販売される機器に関して実装される機能として検討すべきものであり、本年中を含め可能な限り早期に実行に移すよう関係者へ要請していく」という考えが示された。また既に発売された機器への対応については「各社の経営判断のもと、その技術的可能性を可能な限り早期に検討するなど、最大限の努力を行うように審議会として期待する」とした。
また今回の見直しが議論された背景については「善意の視聴者が私的にコンテンツを楽しむための改善策」であることを強調しつつ、複製されたデジタルコンテンツの無断頒布や無断販売等の違法行為への対策としては、「デジタル放送の各コンテンツにチャンネル表示などマークやロゴを表示し、違法コピーの判別に用いること」と、その周知を各関係者が協力して行っていくことが重要であるとした。
●コピーナインはあくまで“暫定措置”
また昨日の検討委員会では、今回提案される新しいルールについて「暫定的な性格を持つものである」ことも強調された。「デジタル時代のルールは、新たな技術やそれに関わる制度、市場の状況にフレキシブルに対応できるものであるべき」とし、必要があれば各関係者の意見を採り入れながら新たなルールの提案を行っていくべきという方針が示されている。
なお、昨日の検討委員会では、検討委員からいくつか興味深い発言が寄せられた。権利者団体を代表して出席した、実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は、「COG+n化という結論が出たことは、権利者として尊重したい。新規格の機器が一刻も早く出ることを望んでいる」と述べ、「我々は決してコピー禁止の原理主義者ではない。検討を重ねるうちに、権利者の利益や海賊版への駆逐に対する理解を頂き、ほかの委員からEPNではなく、COG+nでも良いのではないかという意見が出たのは嬉しかった」と振り返った。
また、消費者団体を代表して出席した生活経済ジャーナリストの高橋伸子氏は、「本当にいいまとめができたのではないか。既存の機器の、新方式への対応は難しいのかもしれないが、検討だけはしてほしい」と要望した。
●コピーナインの技術仕様は今後数ヶ月で策定
今回、コピーナインという新たな方法が答申されたわけだが、消費者が最も関心を持っているのは、いつコピーナインがスタートするのか、また対応機器はいつ出るのか、という点だろう。昨日の検討会で地上デジタル放送推進協会(D-pa)の関 祥行氏は、「具体的になるべく早く、技術的な方法をメーカーとともに決めていきたい。また、有料放送と無料放送の区別なども決めていかなければならない。技術的な仕様は今後数ヶ月で詰めたい」とした。
また、日立製作所の田胡修一氏は、「コピーワンスが緩和したことに感謝したい。すでに各方面から『早く(製品を)作れ』というラブコールを頂いている。我々がD-paにお願いしたいのは、技術仕様を早く作って欲しいということと、“Xデー”はいつか決めて欲しい、ということだ。いずれにしても、これからデジタルコピーに関する告知活動はやり直しになる。包み隠さず、この場合はこうなるといった具合に、ケースごとに事実を伝えるという啓発活動が重要になるのではないか。いずれにしても、時間がないのでスピード感を持ってやっていきたい」と語った。
本日の審議会には検討委員会の主査を務める慶応義塾大学教授の村井純氏が出席した。村井氏は本議会に提出された意見について「オープンな環境のもと、様々な角度から意見が交わされてきたが、ようやくここまで形にすることができた。今後もいくつかの課題が出てくるものと思われるが、これまで議論されてきた内容を足場にして、建設的な方向で改善して行くことができるものという実感を得ている」とし、今回取りまとめられた内容を評価した。
委員会の検討案は本日の議会で承認を受け、情報通信審議会 会長の(株)日立製作所 取締役会長 庄山悦彦氏より、総務大臣の菅義偉氏に答申書として提出された。答申書を受け取った菅氏は「私が責任をもって今後の政策議論の中に盛り込んで行きたい」と語った。
(Phile-web編集部)