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ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第105回

「Tポイント」と統合した新「Vポイント」、携帯4社の“経済圏”と互角に戦えるか

Gadget Gate
公開日 2024/04/25 10:33 佐野正弘
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市場の飽和や政府の料金引き下げ要請などにより、主力の携帯電話事業で売り上げを伸ばすのが困難になっている携帯電話会社。そこで現在携帯各社が売り上げを伸ばすために力を入れているのが、ポイントを軸として自社系列のサービスに顧客を囲い込む「経済圏ビジネス」である。

■経済圏ビジネスに“異”を唱える「Vポイント」



その経済圏ビジネスの中心となっているのが “ポイント” だ。NTTドコモは「dポイント」、楽天モバイルを有する楽天グループは「楽天ポイント」を持っている。KDDIは共通ポイントプログラムの「Ponta」と連携しており、Pontaの主要企業であるローソンの経営に参画するなどして関与を強めている。またソフトバンクも、傘下のPayPayが展開する「PayPayポイント」をポイントの主軸に据え、スマートフォン決済の「PayPay」を軸にポイントの強化を図っているようだ。

経済圏ビジネス拡大のために携帯各社は、ポイントを使える場所を広げる取り組みにとても力を入れている。以前に取り上げたNTTドコモとアマゾンジャパンとの協業で、Eコマースの「Amazon.co.jp」でdポイントを使ったり、貯めたりできるようにしたのも、NTTドコモが経済圏ビジネスを拡大する戦略の一環となるものだ。

だが一方で、その経済圏ビジネスに “異を唱える” 企業も出てきている。それが第5のポイント陣営とされる「Vポイント」だ。

Vポイントは、三井住友フィナンシャルグループ(三井住友FG)と、その傘下企業が展開していたポイントプログラム。「三井住友カード」が発行するクレジットカードでの決済などで貯めることができ、貯めたポイントを全国のVisa加盟店で使えるのが大きな特徴となる。大手都市銀行グループが力を入れるポイントプログラムとして注目されていたのだが、ここ最近非常に大きな動きを見せている。

それが「Tポイント」との統合だ。Tポイントは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が主導し、2003年から展開している共通ポイントプログラムの老舗。三井住友FG、三井住友カード、CCC、Tポイントを運営するCCCMKホールディングスの4社は、2022年10月に資本業務提携を締結すると発表した。2023年6月にはVポイントとTポイントを統合し、新しい「Vポイント」を開始することを明らかにしている。

そして今年4月22日、ついに新しいVポイントの提供が開始。これに伴って従来の「Tポイント」「Vポイント」はリニューアルが図られ、ロゴがTポイントのデザインを取り入れた新しいVポイントのものに切り替わっているほか、スマートフォン向けの「Tポイント」「Vポイント」アプリも、それぞれ「Vポイント」「VポイントPay」にリニューアルが図られている。

三井住友FG系の「Vポイント」は、CCC系の共通ポイントプログラム「Tポイント」と2024年4月22日に統合。Tポイントの青と黄色のデザインを取り入れた新しいロゴに変更されている

この統合によってVポイントは、従来の2600万IDに加え、Tポイントが持つ1億2800万IDが加わることで、1億5000万という非常に大きな規模を手に入れたこととなる。加えて新しいVポイントは、三井住友FG系列の決済サービスでポイントが貯まる・使えるという従来の軸はそのままに、新たに全国の15万点を超えるTポイント加盟店でカードをかざしてポイントが貯まる。これにより、ポイントの二重取りが可能となった。

Vポイントは1億2800万ものID数を持つTポイントの会員基盤が加わることで、競合に対抗できる会員基盤のスケールメリットを手にすることとなった

決済とカード提示でポイントを二重取りできる仕組みは、他のポイントプログラムでは一般的なもの。しかし、以前のVポイント・Tポイント陣営にはそれぞれ不足する要素があった。それだけに、双方の統合によって弱みを補えたことは、競合に対抗する上でも大きな意味を持つだろう。

Tポイントの統合で、Vポイントは従来のTポイント加盟店でカードをかざしてポイントを獲得できる仕組みも実現できるようになった

そして、新Vポイント陣営がアピールしているのが、特定の経済圏に属していないことだ。携帯各社のポイントは経済圏ビジネスに力を入れているだけあって、系列企業のサービスを利用するほどポイント付与率が高まる仕組みを導入することが多い。楽天グループの系列サービスを利用すると「楽天市場」でのポイント付与率が増える、「スーパーポイントアッププログラム(SPU)」がその象徴的な例といえるだろう。

だが、新Vポイント陣営はそうした仕組みを導入しておらず、あくまで決済に軸を置いたポイントプログラムとなっている。それだけに特定の経済圏に縛られることなく、全国のVisa加盟店でポイントを貯めたり使ったりできるなど、幅広い店舗での決済にポイントが利用できることをアピールポイントとしている。経済圏の “縛り” をストレスに感じる人を取り込んで、利用を拡大したい様子を見て取ることができる。

Vポイントは三井住友カードとの連携などはあるものの、あくまで決済時にポイントが貯まる、使えることに重点を置いている。系列のサービスと連携してポイント付与率が高まるなどの仕組みは提供されていない

なぜ新Vポイント陣営が、経済圏ビジネスから距離を置こうとしているのか。理由はいくつかあるのだが、とりわけTポイント陣営から見た場合、経済圏ビジネスへの依存がマイナスに働くことを身をもって経験したことが、大きく影響しているのではないかと考えられる。

実はTポイントも、かつては経済圏ビジネスを支えるポイントプログラムの1つとして君臨していた。実際Tポイント陣営は、2010年にヤフー(現・LINEヤフー)と提携して以降、ソフトバンクとの関係を深めており、長らくソフトバンクの経済圏ビジネスを支える存在となっていたのだ。

ソフトバンクはかつてTポイントを経済圏ビジネスの軸に据えていたが、PayPayの台頭によってPayPayポイントにその軸を移した結果、Tポイントとは距離を置くようになった

だが、ソフトバンクがスマートフォン決済のPayPayに力を入れ、最大手にまで育て上げたことで、経済圏ビジネスの軸をPayPayおよびPayPayポイントに置くよう戦略を転換。それに伴いTポイント陣営は有力なパートナーを失い、携帯各社の経済圏ビジネスが過熱する中にあって市場での存在感が急低下してしまった。

その後Tポイント陣営は、三井住友FGという新たなパートナーを獲得して息を吹き返した。だが、経済圏ビジネスへの依存がサービスの存続をも左右しかねない状況を生み出しただけに、経済圏ビジネスとは距離を置きたいというのが正直なところではないだろうか。

それだけに新たなVポイントは、経済圏ビジネスによる囲い込みに力を注ぐ携帯4社のポイントプログラムと比べると、利用者に対する縛りが弱く、継続利用に繋げづらい部分もある。いかに4陣営と共存しながらも利用を増やしていくかという、難しい舵取りが求められることになりそうだ。

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