ガジェット 【連載】佐野正弘のITインサイト 第134回
消費者の携帯料金プラン選びに異変、あえて高額の“使い放題”を選ぶのはなぜか
菅義偉元首相の下、2020年から2021年にかけ政治主導で引き下げが進められた携帯電話料金。以前より大幅に安い料金プランが相次いて登場してそれらに乗り換える人が相次いだのだが、ここ最近の動向を見ると傾向が大きく変化しているようだ。
それは、今年11月に発表がなされた携帯大手3社の決算からも見えてくる。これまで携帯各社は、安価な料金プランを選ぶ人が増えて業績を大幅に悪化させていたが、最近各社の業績は回復傾向にある。その要因となっているのが、料金の高い使い放題プランを選ぶ、あるいはサブブランドであってもより料金の高いプランを選ぶ人の割合が増えていることだ。
NTTドコモを例に挙げると、同社は現在、「ギガホ」「ギガライト」などの古いプランから、使い放題の「eximo」や低価格の「irumo」、オンライン専用の「ahamo」といった新しいプランへの移行を進めているのだが、irumoの提供以降はそちらに乗り換える人が多く、それが業績を悪化させる要因となっていた。
だが、2024年度上期の決算ではその傾向に大きな変化が見られ、旧プランからeximoに移行する人の割合が60%にまで拡大。既にirumoへの移行を上回っている状況にあるというのだ。
それでも同社は、irumoの影響をまだ大きく受けているので、業績が完全に回復してはいないのだが、KDDIやソフトバンクは既に通信料収入が前年同期比でプラスに転じており、高額プランへの乗り換えが増え業績を回復させている。
それを示しているのが、サブブランドからメインブランドへ移行する人が増えていること。実際KDDIの場合、サブブランドの「UQ mobile」からメインブランドの「au」への移行数が、2024年度上期には前年対比で約2倍にまで拡大しているという。
ソフトバンクに至っては、従来メインブランドの「ソフトバンク」からサブブランドの「ワイモバイル」へ移行する件数の方が多いという状況が、2024年度上期には逆転。ワイモバイルからソフトバンクに移行する数の方が多くなっているそうだ。
なぜ、携帯電話料金が大幅に安くなったにもかかわらず、再び料金が高いプランへ乗り換える人が増えているのかといえば、ユーザーの利用動向が大きく変わったからためである。コロナ禍を経てスマートフォンでの動画視聴が定着・拡大するなど、大容量データ通信の需要が高まったことで、消費するデータ通信量は大幅に増加している。
それゆえ従来プランでは、データ通信量が足りないと判断したユーザーがメインブランドや使い放題プランに乗り換えたり、低価格プランの中でもより通信量が多いプランに移行したりする動きが加速しているようだ。その結果として、ARPU(一人当たりの平均売上額)が向上し、各社の業績回復へとつながっているわけだ。
加えて携帯3社の側も、メインブランドや上位プランへの移行をしやすくすることに力を入れている。そのことを象徴しているのが、ここ最近メインブランドを中心に増えている、金融・決済サービスと連動したNTTドコモの「eximoポイ活」やKDDIの「auマネ活プラン」、ソフトバンクの「ペイトク」といった料金プランの存在である。
これらプランは、月額料金自体は高額であるものの、各社の系列の金融・決済サービスを積極的に利用することで大幅なポイント還元が受けられるなどして、トータルで見ればかなりお得に利用できる。その仕組みで下位のプランやブランドから乗り換えるハードルを低くしているのではないだろうか。
それだけに、これらプランとの連携を強化したサービスを提供する動きも強まっている。実際NTTドコモは11月7日から、クレジットカード「dカード」の新ラインナップとして、最上位となる「dカード PLATINUM」を追加することを発表している。
これは年会費2万9,700円と、従来最上位とされてきた「dカード GOLD」(年会費1万1,000円)より年会費の高いクレジットカードなのだが、eximoポイ活での還元率が10%と、dカード GOLDの還元率(5%)の倍に設定されるなど、優位性がより高められている。
ただ高額プランへの移行が進む一方で、NTTドコモが「ahamo」を料金据え置きで30GBに増量するなど、中価格帯での料金競争もここ最近激しさを増しているようだ。しかしながらそうした安い価格帯での料金引き下げ競争に、異を唱える動きも出てきている。
実際ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、先日11月8日の決算説明会で、「売られた喧嘩は買うのが主義」と話し、実際ワイモバイルやオンライン専用の「LINEMO」でahamoへの対抗策を打ち出してはいる。ただ一方で、「行き過ぎた値下げは中長期の目線でいうと本当にいいのかと疑問を感じている」とも話しており、料金引き下げ競争には消極的な姿勢も見せている。
そこには、政府主導の料金引き下げで経営に大きなダメージを受けたことに加え、昨今の物価上昇が大きく影響しているのだろう。だがもう1つの要因として宮川氏は、今後顧客の流動性が大きくは高まらないことも挙げている。
金融・決済連動プランが示すように、携帯各社は携帯電話サービスの顧客基盤を生かして自社系列のサービスを多く利用してもらう、いわゆる「経済圏」ビジネスに力を入れている。それゆえ、携帯電話料金が安いからと言って他社に移ってしまうと、トータルで見れば損をしてしまう可能性が高まってきており、積極的に乗り換える人は減少傾向にあるのだ。
なのであれば、既存顧客によりお金を使ってもらう、具体的に言えば上位プランへの移行をより加速するためにコストをかけたいというのが宮川氏の考えであるようだ。NTTドコモがahamoの通信料を増量したのも、自社の顧客が流出しないよう引き留める狙いが強いだけに、既に多くの顧客を抱える大手3社は今後、料金を引き下げて無理に他社から顧客を奪うことより、周辺サービスとの連携で顧客を囲い込むことに力を入れてくるのではないかと考えられる。
ただ一方で、新規参入の楽天モバイルは顧客を増やさないと売り上げが伸びず、赤字を解消できないだけに、引き続き顧客獲得に向けたアグレッシブな手を打ってくることだろう。それが大手3社にどこまでの影響を与えられるかが、今後の料金競争には大きく影響してくるのではないだろうか。
■大手3社の決算から見える、携帯料金プラン選びの変化
それは、今年11月に発表がなされた携帯大手3社の決算からも見えてくる。これまで携帯各社は、安価な料金プランを選ぶ人が増えて業績を大幅に悪化させていたが、最近各社の業績は回復傾向にある。その要因となっているのが、料金の高い使い放題プランを選ぶ、あるいはサブブランドであってもより料金の高いプランを選ぶ人の割合が増えていることだ。
NTTドコモを例に挙げると、同社は現在、「ギガホ」「ギガライト」などの古いプランから、使い放題の「eximo」や低価格の「irumo」、オンライン専用の「ahamo」といった新しいプランへの移行を進めているのだが、irumoの提供以降はそちらに乗り換える人が多く、それが業績を悪化させる要因となっていた。
だが、2024年度上期の決算ではその傾向に大きな変化が見られ、旧プランからeximoに移行する人の割合が60%にまで拡大。既にirumoへの移行を上回っている状況にあるというのだ。
それでも同社は、irumoの影響をまだ大きく受けているので、業績が完全に回復してはいないのだが、KDDIやソフトバンクは既に通信料収入が前年同期比でプラスに転じており、高額プランへの乗り換えが増え業績を回復させている。
それを示しているのが、サブブランドからメインブランドへ移行する人が増えていること。実際KDDIの場合、サブブランドの「UQ mobile」からメインブランドの「au」への移行数が、2024年度上期には前年対比で約2倍にまで拡大しているという。
ソフトバンクに至っては、従来メインブランドの「ソフトバンク」からサブブランドの「ワイモバイル」へ移行する件数の方が多いという状況が、2024年度上期には逆転。ワイモバイルからソフトバンクに移行する数の方が多くなっているそうだ。
なぜ、携帯電話料金が大幅に安くなったにもかかわらず、再び料金が高いプランへ乗り換える人が増えているのかといえば、ユーザーの利用動向が大きく変わったからためである。コロナ禍を経てスマートフォンでの動画視聴が定着・拡大するなど、大容量データ通信の需要が高まったことで、消費するデータ通信量は大幅に増加している。
それゆえ従来プランでは、データ通信量が足りないと判断したユーザーがメインブランドや使い放題プランに乗り換えたり、低価格プランの中でもより通信量が多いプランに移行したりする動きが加速しているようだ。その結果として、ARPU(一人当たりの平均売上額)が向上し、各社の業績回復へとつながっているわけだ。
加えて携帯3社の側も、メインブランドや上位プランへの移行をしやすくすることに力を入れている。そのことを象徴しているのが、ここ最近メインブランドを中心に増えている、金融・決済サービスと連動したNTTドコモの「eximoポイ活」やKDDIの「auマネ活プラン」、ソフトバンクの「ペイトク」といった料金プランの存在である。
これらプランは、月額料金自体は高額であるものの、各社の系列の金融・決済サービスを積極的に利用することで大幅なポイント還元が受けられるなどして、トータルで見ればかなりお得に利用できる。その仕組みで下位のプランやブランドから乗り換えるハードルを低くしているのではないだろうか。
それだけに、これらプランとの連携を強化したサービスを提供する動きも強まっている。実際NTTドコモは11月7日から、クレジットカード「dカード」の新ラインナップとして、最上位となる「dカード PLATINUM」を追加することを発表している。
これは年会費2万9,700円と、従来最上位とされてきた「dカード GOLD」(年会費1万1,000円)より年会費の高いクレジットカードなのだが、eximoポイ活での還元率が10%と、dカード GOLDの還元率(5%)の倍に設定されるなど、優位性がより高められている。
ただ高額プランへの移行が進む一方で、NTTドコモが「ahamo」を料金据え置きで30GBに増量するなど、中価格帯での料金競争もここ最近激しさを増しているようだ。しかしながらそうした安い価格帯での料金引き下げ競争に、異を唱える動きも出てきている。
実際ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、先日11月8日の決算説明会で、「売られた喧嘩は買うのが主義」と話し、実際ワイモバイルやオンライン専用の「LINEMO」でahamoへの対抗策を打ち出してはいる。ただ一方で、「行き過ぎた値下げは中長期の目線でいうと本当にいいのかと疑問を感じている」とも話しており、料金引き下げ競争には消極的な姿勢も見せている。
そこには、政府主導の料金引き下げで経営に大きなダメージを受けたことに加え、昨今の物価上昇が大きく影響しているのだろう。だがもう1つの要因として宮川氏は、今後顧客の流動性が大きくは高まらないことも挙げている。
金融・決済連動プランが示すように、携帯各社は携帯電話サービスの顧客基盤を生かして自社系列のサービスを多く利用してもらう、いわゆる「経済圏」ビジネスに力を入れている。それゆえ、携帯電話料金が安いからと言って他社に移ってしまうと、トータルで見れば損をしてしまう可能性が高まってきており、積極的に乗り換える人は減少傾向にあるのだ。
なのであれば、既存顧客によりお金を使ってもらう、具体的に言えば上位プランへの移行をより加速するためにコストをかけたいというのが宮川氏の考えであるようだ。NTTドコモがahamoの通信料を増量したのも、自社の顧客が流出しないよう引き留める狙いが強いだけに、既に多くの顧客を抱える大手3社は今後、料金を引き下げて無理に他社から顧客を奪うことより、周辺サービスとの連携で顧客を囲い込むことに力を入れてくるのではないかと考えられる。
ただ一方で、新規参入の楽天モバイルは顧客を増やさないと売り上げが伸びず、赤字を解消できないだけに、引き続き顧客獲得に向けたアグレッシブな手を打ってくることだろう。それが大手3社にどこまでの影響を与えられるかが、今後の料金競争には大きく影響してくるのではないだろうか。