タッチパネル対応で操作性もアップ
「Walkman史上最高音質」の実力とは? 新AシリーズをiPodと比較試聴
ソニーのポータブルオーディオプレーヤー「Walkman A860シリーズ」は、2010年発売のA850から約1年ぶりにリニューアルされたAシリーズの新モデルだ。フルデジタルアンプ「S-Master MX」などを搭載し「Walkman史上最高音質」を謳う新Aシリーズの音質と、タッチパネル操作に対応した新UIの使い勝手などをチェックした。
A860シリーズのラインナップは64GB/32GB/16GBの3種類。カラーバリエーションは各メモリーサイズごとにブラック/ホワイト/ピンクの3色が揃う。ソニーストア限定のカラーバリエーション“ラッシュバイオレット”の64GBモデルも同時期に発売される。
レギュラーモデルの価格はオープンだが、64GBモデルで35,000円前後になる見込み。16GBモデルは2万円前後からスタートするので、手頃な価格設定だと言えそうだ。参考までにアップルのiPod nanoは16GBモデルが16,800円(税込)。iPod touchになると8GBで20,900円、32GBが27,800円、64GBで36,800円(いずれも税込)になる。
■タッチパネル液晶を採用して操作性を高めた
液晶がタッチパネルになったことで、各機能の呼び出しやメニュー操作などがとても快適に行える。本体右側にはボリューム、再生コントロールとホールドボタンを装備。楽曲再生中は、タッチパネル上のアイコンやスライドバーをタップし、曲送りや頭出しなどの再生操作が行えるが、ボリューム操作は本体のハードウェアボタンでしか行えない。
音楽再生では豊富なイコライザー調整機能や「歌詞ピタ」と連携した歌詞データの表示機能、「おまかせチャンネル」など、音楽を聴きながら使ってみたくなる機能が多い。これもWalkmanならではのこだわりが感じられる部分だ。今秋発売のモデルでは、AシリーズからSシリーズまで全ラインナップに展開されたBluetoothワイヤレスリスニング機能も、音楽の楽しみ方をより広げてくれそうだ。
音楽再生中はカバーアートを表示したり、「アルバムスクロールボタン」から本体に保存した楽曲のカバーアートを呼び出し、指で上下にスライドして検索、タッチして選択・再生といった操作が可能になった。かんたんに言うと、iPod touchのカバーフローと同様の使い方ができるということだ。
音楽再生以外の機能もタッチパネルからかんたんに呼び出せるようになった。ノイズキャンセリングの調整やBluetooth機器のペアリング設定など、各設定メニューの画面にもアイコンをタップして階層を辿るだけでスムーズに辿り着ける。もともとWalkman Aシリーズの設定メニューはシンプルな構成なので、タッチパネルのポータブルプレーヤーを初めて使うという方でも、すぐに慣れ親しめるユーザーフレンドリーなUIに仕上がっている。
なお、これは以前からだが、ドラッグ&ドロップによる音楽転送にも対応している。本機で再生可能なファイル形式であれば、USBでPCにつなぎ、Walkmanの中の「MUSIC」「VIDEO」「PODCAST」などのフォルダにドラッグ&ドロップするだけだ。Macでも利用でき、今回のテストではMac OS X 10.7/10.6/10.5の環境でテストしてみたが、いずれもWalkmanをマウントしてファイルを転送・再生できた。iPod/iPhoneでは、1台のプレーヤーは1台のPCにインストールしたiTunesとしか同期できないが、Walkmanなら別々のPCで用意したファイルを、1台のWalkmanにまとめて保存できる。家と職場で複数のPCを使い分けている人などは特に重宝すると思う。
■新開発のデジタルアンプ「S-Master MX」などにより高音質化
高音質化への取り組みでは、ソニー独自のフルデジタルアンプ「S-Master」をモバイル機器用に進化させた、新しい「S-Master MX」の採用がポイントだ。音声信号をフルデジタル処理する際のプロセスをWalkmanのために最適化した。再生プロセスを単純化し、ノイズや歪みがより低減されたことで、ソニーでは「空気感までリアルに再現するような臨場感溢れる音楽再生を実現」したと説明している。
それではWalkman A860シリーズのサウンドをチェックしていこう。今回はWAV形式で用意したファイルをWalkman A860と、比較用に用意したiPod nano 6G、iPod touch 3Gとで聴き比べてみた。
イヤホンの組み合わせは、まずはじめに全プレーヤーで、記者が普段使っているJVCの「HA-FXT90」を使って同一条件で試聴。場合によってShureの「SE215」や「SE535」、Ultimate Ears「UE700」も使用した。その後Walkmanは、周囲の音を約98%カットできるというデジタルノイズキャンセリング機能が使える付属イヤホンに交換し、本機能は「オン」に、環境選択は「室内」に設定して音質を確認した。
なお、ウオークマンAシリーズのウリである高域補間技術「DSEE(Digital Sound Enhancement Engine)」「CLEAR STEREO」は、本体設定メニューの「音楽設定」に、それぞれのオン/オフが選べる項目が用意されている。今回は付属のイヤホンでの視聴時をメインに、はじめは「DSEE」「CLEAR STEREO」を「オフ」にして、続いて「オン」にした状態で聴き比べてみた。
キリンジ「KIRINJI 19982008 10th Anniversary disc_2 TH-SIDE」より『汗染みは淡いブルース』
他社製イヤホンで試聴すると、高域がクリアに聴こえる反面、サ行の余韻が少しきつく感じられる。中低域の音はあっさりとしていて、厚みが少し不足している印象。帯域のバランスも平坦なイメージで、iPodに比べて音の実体感が若干薄い印象だ。
だが付属イヤホンに付け替えると、低域に柔らかな厚みが乗ってきて、中域を中心に高域、低域とのつながりがキレイに整ってくる。また高域はキツさが無くなりまろやかになるが、肉付きはややあっさりとした傾向だ。
さらに「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにして聴くと、ボーカルの輪郭がいっそう明瞭に描かれるようになって、声の質感もよりリアルにイメージできるようになる。高域・中域の音のヌケがナチュラルで、ピアノや打ち込みのハンドクラップの音が立体感を増す。演奏全体の見晴らしがとても心地よくクリアに広がる。ベースやバスドラのアタック音もシャープにビシっと決まる。DSEEをオンにした時に、高域の伸びと艶がアップして、CLEAR STEREOをオンにすると、音楽の見晴らしが良くなり、密度も濃くなった印象だ。
Perfume「Game」より『Baby Cruising Love』
はじめに他社製イヤホンで聴く。各帯域がカッチリとまとまって聴こえてくるが、エネルギー感がやや物足りない。ベース音のアタックも穏やか。高域はキツくはないが、もとのエッセンスが若干省略されてしまう印象。iPodと比べると音のバランスは悪くないので、もう少し、音に芯と力強さが欲しいと感じる。
付属イヤホンに付け替えて聴くと、各帯域の音のつながりがより明確になって、全体の力強さもぐっと高まった。ベースは肉厚な手応えが感じられる。反面、空間の見通しが少し曖昧になって、こもりがちに感じられるパートもあった。
「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにしてみると、高さ方向に音がグンと伸びて、空間表現が驚くほどに高まった。ベースも肉厚さにタイトな締まりが加わって、演奏のスピード感が引き立ってくる。ボーカルは輪郭がピシっと定まって、シンセサイザーの音も一音ずつ出足がとてもきれいに整ってくる印象だ。
Anne Sofie Von Otter, Brad Mehldau「Love Songs」より『I'm Calling You』
本作は女性ボーカルとアコースティックピアノというシンプルなデュオの演奏。クールな女性の声、硬質なタッチのピアノによる冷たく澄み切った演奏が魅力的な作品。はじめに他社製イヤホンで聴いてみたところ、iPodと比べてピアノの音色にいっそうの暖かみがある。ボーカルの声もしっとりとしていて艶っぽい。
歌と伴奏が静まりかえる無音パートの見晴らしは、余韻の残響も含めてiPodの方がやや表現力が高いように感じられた。
だがWalkman付属のイヤホンで聴くと、楽曲のスケールがより広大に展開してくる。iPodは小〜中サイズの室内で、Walkmanは大きなホールで演奏しているような印象だ。
「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにすると、ボーカルのシルキーな質感がより一層きめ細かさを増す。ピアノのタッチはクールながらも、アコースティックで豊かな暖かみのある音を再現する。休符の静かなパートでも無駄なざわつきがなく、声とピアノの残響が心地よく広がった後に、きれいなグラデーションを描きながら静まりかえっていく印象だ。
東京事変「娯楽」より『OSCA』
他社製イヤホンで聴くと、バンドの全楽器の音が均等な速度とボリュームで迫ってくる。迫力は十分なのだが、強弱の抑揚がもう少し欲しい。スネアやハイハットの高域の音色は、スピード感はあるもののやや尖って聴こえる。
付属のイヤホンに付け替えて聴くと、高域の音に厚みが加わり、実体感が鮮やかになった。低域もどっしりと力強く再生される。他社製イヤホンで聴いた際の勢いやアタックの力強さはそのままに、演奏者のエネルギーが音に込められて迫ってくるような感覚だ。ただしアップテンポのロックを続けざまに聴いていると、若干そのパワーが持て余し気味に感じてきたので、もう少し上手くヌケてくれるとちょうど良いバランスになりそうだ。
「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにしてみる。ドラムスはハイハットやスネアの尖って聴こえていたパートはきれいに角が取れ、力強さを保ったままタイトにビシビシと決まり出す。ベースやバスドラの低域は腰がドッシリと落ち着いて、ボーカルを中心としたバンドの音のバランスも正確さを増す。演奏の立体感も一気に高まった。
Michael Jackson「This Is It」より『Wanna Be Startin' Somethin'』
まずは他社製イヤホンでの試聴から。どのパートも解像感が高く、パワーもある。全部のプレイヤーが気合いたっぷりに演奏しているイメージだが、張り出しがやや強く、ボーカルの声に楽器がオーバーラップして聴こえる所もあった。ブラスの煌びやかな音色も好印象。
続いて付属イヤホンで聴く。iPodで聴くと感じられる広大な音場、楽器が重なり合うパートでの細やかなレイヤーの表現が、付属イヤホンで再現されるかチェックした。
ボーカルはよりエネルギーが満ちて高域がスムーズに伸びてくる。ブラスのアタックも力強い。全部のパートの音がよりクッキリとしてくるので、音が積み重なる部分でもレイヤーは明瞭になるが、全体的に“濃い目”な演奏に聞こえる。
この曲も「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにして聴いてみる。マイケルのボーカルに腰が出て、ブレスの息づかいや細かなテクニックがよく見えてくるようになった。曲の中盤以降から音が複雑に重なり合うパートでは、それぞれの音が密集していた感じがすっきりとヌケてきて、楽器やコーラスのレイヤーが明瞭に描き分けられる。コーラスやブラスバンドの高域の伸びには清涼感が溢れている。
◇
「DSEE」と「CLEAR STEREO」の効果については、付属のノイズキャンセリング・イヤホンだけではなく、他社製のイヤホンに交換して聴いてみても、基本的な方向性は同じであり、「オン」を選択した際にはサウンドに実体感が加わり、感覚的な聴き心地もより高まったように思う。基本は「オン」で使いながら、好みに応じてイコライザーも併用すると良いだろう。
“Walkman”Aシリーズのもう一つの高音質技術である「CLEAR BASS」については、音楽再生時の設定メニューから「イコライザ」を選択して、「カスタム1/2」を選択した際に「0/+1/+2/+3」の範囲で効果が設定できる。こちらの機能については、楽曲ごとに低域のボリュームを加えたい場合など、好みで調整したい。
イヤホンの選択については、Walkman A860シリーズをより高音質で聴くためには、ノイズキャンセリング機能も使える付属イヤホンを使うのがベストだろう。音づくりについても付属イヤホンとの組み合わせを想定し、全体を仕上げていったという印象だ。他社製イヤホンとの組み合わせと比べ、付属イヤホンで聴くとどの曲も解像感が高まり、中低域の足腰がどっしりとする。
ノイズキャンセリングは「オン」と「オフ」のどちらを選んでも音のキャラクターは変わらないので、歩きながら音楽を楽しみたいときは「オフ」、周囲のノイズが多めのところで聴く時は「オン」と、リスニング環境に応じて使い分けることができそうだ。
iPodが比較的「素」に近い再生音としたら、付属イヤホンで聴くWalkman A860シリーズは、ロック系もアコースティック系も、全体の音楽の雰囲気を華やかにまとめ上げ、より楽しく聴かせるエンターテイナー的な魅力を備えている。
A860シリーズのラインナップは64GB/32GB/16GBの3種類。カラーバリエーションは各メモリーサイズごとにブラック/ホワイト/ピンクの3色が揃う。ソニーストア限定のカラーバリエーション“ラッシュバイオレット”の64GBモデルも同時期に発売される。
レギュラーモデルの価格はオープンだが、64GBモデルで35,000円前後になる見込み。16GBモデルは2万円前後からスタートするので、手頃な価格設定だと言えそうだ。参考までにアップルのiPod nanoは16GBモデルが16,800円(税込)。iPod touchになると8GBで20,900円、32GBが27,800円、64GBで36,800円(いずれも税込)になる。
■タッチパネル液晶を採用して操作性を高めた
液晶がタッチパネルになったことで、各機能の呼び出しやメニュー操作などがとても快適に行える。本体右側にはボリューム、再生コントロールとホールドボタンを装備。楽曲再生中は、タッチパネル上のアイコンやスライドバーをタップし、曲送りや頭出しなどの再生操作が行えるが、ボリューム操作は本体のハードウェアボタンでしか行えない。
音楽再生では豊富なイコライザー調整機能や「歌詞ピタ」と連携した歌詞データの表示機能、「おまかせチャンネル」など、音楽を聴きながら使ってみたくなる機能が多い。これもWalkmanならではのこだわりが感じられる部分だ。今秋発売のモデルでは、AシリーズからSシリーズまで全ラインナップに展開されたBluetoothワイヤレスリスニング機能も、音楽の楽しみ方をより広げてくれそうだ。
音楽再生中はカバーアートを表示したり、「アルバムスクロールボタン」から本体に保存した楽曲のカバーアートを呼び出し、指で上下にスライドして検索、タッチして選択・再生といった操作が可能になった。かんたんに言うと、iPod touchのカバーフローと同様の使い方ができるということだ。
音楽再生以外の機能もタッチパネルからかんたんに呼び出せるようになった。ノイズキャンセリングの調整やBluetooth機器のペアリング設定など、各設定メニューの画面にもアイコンをタップして階層を辿るだけでスムーズに辿り着ける。もともとWalkman Aシリーズの設定メニューはシンプルな構成なので、タッチパネルのポータブルプレーヤーを初めて使うという方でも、すぐに慣れ親しめるユーザーフレンドリーなUIに仕上がっている。
なお、これは以前からだが、ドラッグ&ドロップによる音楽転送にも対応している。本機で再生可能なファイル形式であれば、USBでPCにつなぎ、Walkmanの中の「MUSIC」「VIDEO」「PODCAST」などのフォルダにドラッグ&ドロップするだけだ。Macでも利用でき、今回のテストではMac OS X 10.7/10.6/10.5の環境でテストしてみたが、いずれもWalkmanをマウントしてファイルを転送・再生できた。iPod/iPhoneでは、1台のプレーヤーは1台のPCにインストールしたiTunesとしか同期できないが、Walkmanなら別々のPCで用意したファイルを、1台のWalkmanにまとめて保存できる。家と職場で複数のPCを使い分けている人などは特に重宝すると思う。
■新開発のデジタルアンプ「S-Master MX」などにより高音質化
高音質化への取り組みでは、ソニー独自のフルデジタルアンプ「S-Master」をモバイル機器用に進化させた、新しい「S-Master MX」の採用がポイントだ。音声信号をフルデジタル処理する際のプロセスをWalkmanのために最適化した。再生プロセスを単純化し、ノイズや歪みがより低減されたことで、ソニーでは「空気感までリアルに再現するような臨場感溢れる音楽再生を実現」したと説明している。
それではWalkman A860シリーズのサウンドをチェックしていこう。今回はWAV形式で用意したファイルをWalkman A860と、比較用に用意したiPod nano 6G、iPod touch 3Gとで聴き比べてみた。
イヤホンの組み合わせは、まずはじめに全プレーヤーで、記者が普段使っているJVCの「HA-FXT90」を使って同一条件で試聴。場合によってShureの「SE215」や「SE535」、Ultimate Ears「UE700」も使用した。その後Walkmanは、周囲の音を約98%カットできるというデジタルノイズキャンセリング機能が使える付属イヤホンに交換し、本機能は「オン」に、環境選択は「室内」に設定して音質を確認した。
なお、ウオークマンAシリーズのウリである高域補間技術「DSEE(Digital Sound Enhancement Engine)」「CLEAR STEREO」は、本体設定メニューの「音楽設定」に、それぞれのオン/オフが選べる項目が用意されている。今回は付属のイヤホンでの視聴時をメインに、はじめは「DSEE」「CLEAR STEREO」を「オフ」にして、続いて「オン」にした状態で聴き比べてみた。
キリンジ「KIRINJI 19982008 10th Anniversary disc_2 TH-SIDE」より『汗染みは淡いブルース』
他社製イヤホンで試聴すると、高域がクリアに聴こえる反面、サ行の余韻が少しきつく感じられる。中低域の音はあっさりとしていて、厚みが少し不足している印象。帯域のバランスも平坦なイメージで、iPodに比べて音の実体感が若干薄い印象だ。
だが付属イヤホンに付け替えると、低域に柔らかな厚みが乗ってきて、中域を中心に高域、低域とのつながりがキレイに整ってくる。また高域はキツさが無くなりまろやかになるが、肉付きはややあっさりとした傾向だ。
さらに「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにして聴くと、ボーカルの輪郭がいっそう明瞭に描かれるようになって、声の質感もよりリアルにイメージできるようになる。高域・中域の音のヌケがナチュラルで、ピアノや打ち込みのハンドクラップの音が立体感を増す。演奏全体の見晴らしがとても心地よくクリアに広がる。ベースやバスドラのアタック音もシャープにビシっと決まる。DSEEをオンにした時に、高域の伸びと艶がアップして、CLEAR STEREOをオンにすると、音楽の見晴らしが良くなり、密度も濃くなった印象だ。
Perfume「Game」より『Baby Cruising Love』
はじめに他社製イヤホンで聴く。各帯域がカッチリとまとまって聴こえてくるが、エネルギー感がやや物足りない。ベース音のアタックも穏やか。高域はキツくはないが、もとのエッセンスが若干省略されてしまう印象。iPodと比べると音のバランスは悪くないので、もう少し、音に芯と力強さが欲しいと感じる。
付属イヤホンに付け替えて聴くと、各帯域の音のつながりがより明確になって、全体の力強さもぐっと高まった。ベースは肉厚な手応えが感じられる。反面、空間の見通しが少し曖昧になって、こもりがちに感じられるパートもあった。
「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにしてみると、高さ方向に音がグンと伸びて、空間表現が驚くほどに高まった。ベースも肉厚さにタイトな締まりが加わって、演奏のスピード感が引き立ってくる。ボーカルは輪郭がピシっと定まって、シンセサイザーの音も一音ずつ出足がとてもきれいに整ってくる印象だ。
Anne Sofie Von Otter, Brad Mehldau「Love Songs」より『I'm Calling You』
本作は女性ボーカルとアコースティックピアノというシンプルなデュオの演奏。クールな女性の声、硬質なタッチのピアノによる冷たく澄み切った演奏が魅力的な作品。はじめに他社製イヤホンで聴いてみたところ、iPodと比べてピアノの音色にいっそうの暖かみがある。ボーカルの声もしっとりとしていて艶っぽい。
歌と伴奏が静まりかえる無音パートの見晴らしは、余韻の残響も含めてiPodの方がやや表現力が高いように感じられた。
だがWalkman付属のイヤホンで聴くと、楽曲のスケールがより広大に展開してくる。iPodは小〜中サイズの室内で、Walkmanは大きなホールで演奏しているような印象だ。
「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにすると、ボーカルのシルキーな質感がより一層きめ細かさを増す。ピアノのタッチはクールながらも、アコースティックで豊かな暖かみのある音を再現する。休符の静かなパートでも無駄なざわつきがなく、声とピアノの残響が心地よく広がった後に、きれいなグラデーションを描きながら静まりかえっていく印象だ。
東京事変「娯楽」より『OSCA』
他社製イヤホンで聴くと、バンドの全楽器の音が均等な速度とボリュームで迫ってくる。迫力は十分なのだが、強弱の抑揚がもう少し欲しい。スネアやハイハットの高域の音色は、スピード感はあるもののやや尖って聴こえる。
付属のイヤホンに付け替えて聴くと、高域の音に厚みが加わり、実体感が鮮やかになった。低域もどっしりと力強く再生される。他社製イヤホンで聴いた際の勢いやアタックの力強さはそのままに、演奏者のエネルギーが音に込められて迫ってくるような感覚だ。ただしアップテンポのロックを続けざまに聴いていると、若干そのパワーが持て余し気味に感じてきたので、もう少し上手くヌケてくれるとちょうど良いバランスになりそうだ。
「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにしてみる。ドラムスはハイハットやスネアの尖って聴こえていたパートはきれいに角が取れ、力強さを保ったままタイトにビシビシと決まり出す。ベースやバスドラの低域は腰がドッシリと落ち着いて、ボーカルを中心としたバンドの音のバランスも正確さを増す。演奏の立体感も一気に高まった。
Michael Jackson「This Is It」より『Wanna Be Startin' Somethin'』
まずは他社製イヤホンでの試聴から。どのパートも解像感が高く、パワーもある。全部のプレイヤーが気合いたっぷりに演奏しているイメージだが、張り出しがやや強く、ボーカルの声に楽器がオーバーラップして聴こえる所もあった。ブラスの煌びやかな音色も好印象。
続いて付属イヤホンで聴く。iPodで聴くと感じられる広大な音場、楽器が重なり合うパートでの細やかなレイヤーの表現が、付属イヤホンで再現されるかチェックした。
ボーカルはよりエネルギーが満ちて高域がスムーズに伸びてくる。ブラスのアタックも力強い。全部のパートの音がよりクッキリとしてくるので、音が積み重なる部分でもレイヤーは明瞭になるが、全体的に“濃い目”な演奏に聞こえる。
この曲も「DSEE」「CLEAR STEREO」をオンにして聴いてみる。マイケルのボーカルに腰が出て、ブレスの息づかいや細かなテクニックがよく見えてくるようになった。曲の中盤以降から音が複雑に重なり合うパートでは、それぞれの音が密集していた感じがすっきりとヌケてきて、楽器やコーラスのレイヤーが明瞭に描き分けられる。コーラスやブラスバンドの高域の伸びには清涼感が溢れている。
「DSEE」と「CLEAR STEREO」の効果については、付属のノイズキャンセリング・イヤホンだけではなく、他社製のイヤホンに交換して聴いてみても、基本的な方向性は同じであり、「オン」を選択した際にはサウンドに実体感が加わり、感覚的な聴き心地もより高まったように思う。基本は「オン」で使いながら、好みに応じてイコライザーも併用すると良いだろう。
“Walkman”Aシリーズのもう一つの高音質技術である「CLEAR BASS」については、音楽再生時の設定メニューから「イコライザ」を選択して、「カスタム1/2」を選択した際に「0/+1/+2/+3」の範囲で効果が設定できる。こちらの機能については、楽曲ごとに低域のボリュームを加えたい場合など、好みで調整したい。
イヤホンの選択については、Walkman A860シリーズをより高音質で聴くためには、ノイズキャンセリング機能も使える付属イヤホンを使うのがベストだろう。音づくりについても付属イヤホンとの組み合わせを想定し、全体を仕上げていったという印象だ。他社製イヤホンとの組み合わせと比べ、付属イヤホンで聴くとどの曲も解像感が高まり、中低域の足腰がどっしりとする。
ノイズキャンセリングは「オン」と「オフ」のどちらを選んでも音のキャラクターは変わらないので、歩きながら音楽を楽しみたいときは「オフ」、周囲のノイズが多めのところで聴く時は「オン」と、リスニング環境に応じて使い分けることができそうだ。
iPodが比較的「素」に近い再生音としたら、付属イヤホンで聴くWalkman A860シリーズは、ロック系もアコースティック系も、全体の音楽の雰囲気を華やかにまとめ上げ、より楽しく聴かせるエンターテイナー的な魅力を備えている。