【レビュー】最高峰の音質と機能性を兼備したDirect Power FET採用の第2世代機 − パイオニアAVアンプ「SC-LX86」
最新型ダイレクトエナジー HDアンプによる9ch・810W同時出力やビット拡張処理Hi-bit 32 Audio processingによる高音質再生を追求した最上位モデル。192kHz/24bit対応のネットワーク再生、USB-DAC機能、DSD再生など最新機能も満載している本機を、大橋伸太郎が試聴した。
デジタルアンプを追求し、新たな高みへ到達
パイオニアのAVアンプのフラグシップにして、このクラス唯一のフルデジタルアンプ。SC-LX90をオリジンと考えた場合、本機はデジタル第6世代となる。マルチチャンネル・アンプでこれだけ継続的にデジタル方式に取り組み、高い評価を確立した例はない。前世代SC-LX85で初めて、ICEパワーに換えてIRによるDirect Power FETで増幅段を組んだが、本機はその第2世代になる。しかし、パーツは共通ながら出力基板のパターニングを一から全面刷新、レイアウトレベルではLX85とは全くの別物である。基盤上のパーツ配置がすっきり整理されている。
その理由は、LX85はICEパワーの経験に基づいた設計だったのに対し、今回は昨季から使用のIRでの経験に基づき新たなノウハウが投入されているからだ。グランドの取り方、使用パーツの選定など設計の細部にわたり見直しした結果、IRの特性をより引き出し低域の量感と中高域の純度が向上した。従来はシャーシ上を通ってアースポイントが走る箇所があったが、今回はパワーアンプ部を取り付けている筐体に大電流を流さないようにすることで、よりクリアな中高域再生を可能にした。
機能面では、ビット拡張処理で高音質再生を実現する「Hi-bit32 Audio Processing」を192kHz/32bitマルチch対応とし、フェイズコントロールプラスをオート化した。
特筆すべきはネットオーディオ関連機能の大幅な躍進。USB-DAC機能とDSD音源再生機能を新たに搭載した。前者はPCのUSB出力を本機リアパネルのUSB端子(タイプB)で接続することにより、ネットワーク不要で音楽信号の入力が可能だ。PC側クロックとの同期確立を行わず、本機のクロックで伝送を制御しジッターの発生を排除するアシンクロナス転送となる。後者のDSD音源(2チャンネルのみ対応、2.8MHz)は、USBメモリーを前面の端子に接続しアンプ内部でリニアPCMに変換してメインルームで再生する。ネットワーク再生も充実しており、FLAC、WAVは192kHz/24bitまでの再生に対応。アップデートでギャップレス再生とApple Lossless形式への対応もアナウンスされている(関連ニュース)。
映像面では4Kパススルーに初対応した。アップスケーラーは非搭載となっている。
2ch試聴
デジタルアンプを活かした豪快な再現性と瞬発力
CDで聴くオケのクレッシェンドの昂揚の迫力はいかにもデジタルアンプ。低域の描線は太く粘り気がある。豪快な再現性と瞬発力が魅力。ただしノイズはよく抑えられている。ソニー機に聴く清澄感はないが、一音一音に量感と力感がこもっている。ブラームスのピアノ曲は重厚な低域だが、倍音の伸びに透明感があり、その対比が官能的な暗い色彩感を放つ。ジャズの女声ボーカルをややマッシブに描写。よくできたアナログの清澄感には一歩及ばない。ベースの太く粘る輪郭と芯の鮮明な描写はデジタル第7世代、Direct Power FET(IR)第2世代だけあってデジタルをよく調教した印象だ。
マルチch視聴
力感と高揚感が豊かで、映画館の迫力を味わえる
サラウンドはどうか。『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』の背景音楽が厚く力強く鳴る。セリフは口跡が鮮明でリスニングポイントへ明瞭に飛んでくる。例えれば、ダビングステージを標榜するソニーの客観性に対し、本機は力感と高揚感が豊かで市中の一流映画館の迫力。
音質系機能
多彩な高音質機能をアプリから直感的に操作
バーチャルハイト/ワイドは有効。ただし、ワイドは音楽系ソフトでは過剰効果となって音が混濁する場合がある。ハイトは『S.F.交響楽団百周年』のS.Fシンフォニーホールの初期反射のディレイを再現、高い天井から生まれる独特の音場感を再現する。
ネットオーディオ機能
ギャップレス再生にもアップデートで対応予定
DLNAでNAS内のファイルを再生する場合は192kHzまで対応する。前述のように、曲間ブランクをアルバム単位での曲間通り忠実に再現するギャップレス再生へのアップデート対応は朗報。192kHzの鮮度の高さはいうまでもなく、ネットワーク再生で弱点だった低域の伸びもCD、BD-ROMに遜色なく深く厚い。
使い勝手
スマホからの操作がメイン。アプリの完成度はダントツ
本機の場合、操作はリモコンではなく、アプリによるスマホやタブレットに重心を移した感がある。音量バランスなど使用頻度の高い項目だけでなく、オートフェーズコントロールプラス等の特徴的な機能もアプリから操作できる。操作画面も遊び心のある非常に美しいもので、先駆者らしいマンインターフェース研究のほどが伺える。
◇ ◇ ◇
岩井喬が聴いた「SC-LX86」
密度と細部表現のバランスが秀逸。セリフはややドライな傾向
音像の密度とディテール表現における粒立ちのバランスが取れており、明瞭度も十分だ。音の移動もキレ良くスムーズであるが、ボーカルやセリフはボトムをふっくらと表現し、ややドライな傾向となる。基本的にストレートですっきりとした音色となっており、サラウンドスピーカー側の空間表現にも密度感が伴い有機的な音場が生まれる。音楽モノのバンドサウンドはナチュラルな音伸びで、程良くキレも持っており、ボーカルの口元も滑らかなハリ艶を見せる。2ch音源においては自然な解像感を持った耳当たり良いサウンドでボーカルも肉付き良い。
鴻池賢三が聴いた「SC-LX86」
遠近感が正確に掴める音場表現。定位に優れ音がクリアだ
定位が良く音がクリアで前に張り出して来る印象。中高域の歪み特性も改善され、伸びやかで透明感が増した。デジタルアンプの弱点は見あたらず、逆に、低域のドライブ能力の高さには、同クラスのアナログアンプでは成し得ない良さが感じられる。マルチチャンネルの音質に関わる機能としては、「フェイズコントロールプラス」の効果が絶大。本機ではディレイタイムの設定がオートになり実用的に。同機能の効用は、部屋の狭さを感じさせず音場が広がる、音の遠近感が的確に掴める、ボーカルがクリアになるなど多岐にわたり、常に利用したい。
<この記事は「月刊AVレビュー 2012年11月号」から転載しています>
デジタルアンプを追求し、新たな高みへ到達
パイオニアのAVアンプのフラグシップにして、このクラス唯一のフルデジタルアンプ。SC-LX90をオリジンと考えた場合、本機はデジタル第6世代となる。マルチチャンネル・アンプでこれだけ継続的にデジタル方式に取り組み、高い評価を確立した例はない。前世代SC-LX85で初めて、ICEパワーに換えてIRによるDirect Power FETで増幅段を組んだが、本機はその第2世代になる。しかし、パーツは共通ながら出力基板のパターニングを一から全面刷新、レイアウトレベルではLX85とは全くの別物である。基盤上のパーツ配置がすっきり整理されている。
その理由は、LX85はICEパワーの経験に基づいた設計だったのに対し、今回は昨季から使用のIRでの経験に基づき新たなノウハウが投入されているからだ。グランドの取り方、使用パーツの選定など設計の細部にわたり見直しした結果、IRの特性をより引き出し低域の量感と中高域の純度が向上した。従来はシャーシ上を通ってアースポイントが走る箇所があったが、今回はパワーアンプ部を取り付けている筐体に大電流を流さないようにすることで、よりクリアな中高域再生を可能にした。
機能面では、ビット拡張処理で高音質再生を実現する「Hi-bit32 Audio Processing」を192kHz/32bitマルチch対応とし、フェイズコントロールプラスをオート化した。
特筆すべきはネットオーディオ関連機能の大幅な躍進。USB-DAC機能とDSD音源再生機能を新たに搭載した。前者はPCのUSB出力を本機リアパネルのUSB端子(タイプB)で接続することにより、ネットワーク不要で音楽信号の入力が可能だ。PC側クロックとの同期確立を行わず、本機のクロックで伝送を制御しジッターの発生を排除するアシンクロナス転送となる。後者のDSD音源(2チャンネルのみ対応、2.8MHz)は、USBメモリーを前面の端子に接続しアンプ内部でリニアPCMに変換してメインルームで再生する。ネットワーク再生も充実しており、FLAC、WAVは192kHz/24bitまでの再生に対応。アップデートでギャップレス再生とApple Lossless形式への対応もアナウンスされている(関連ニュース)。
映像面では4Kパススルーに初対応した。アップスケーラーは非搭載となっている。
SC-LX86 ここがポイント! ●唯一無比のダイレクトエナジーHDでパワー落ちのない全9チャンネル同時フル出力を達成。 |
2ch試聴
デジタルアンプを活かした豪快な再現性と瞬発力
CDで聴くオケのクレッシェンドの昂揚の迫力はいかにもデジタルアンプ。低域の描線は太く粘り気がある。豪快な再現性と瞬発力が魅力。ただしノイズはよく抑えられている。ソニー機に聴く清澄感はないが、一音一音に量感と力感がこもっている。ブラームスのピアノ曲は重厚な低域だが、倍音の伸びに透明感があり、その対比が官能的な暗い色彩感を放つ。ジャズの女声ボーカルをややマッシブに描写。よくできたアナログの清澄感には一歩及ばない。ベースの太く粘る輪郭と芯の鮮明な描写はデジタル第7世代、Direct Power FET(IR)第2世代だけあってデジタルをよく調教した印象だ。
マルチch視聴
力感と高揚感が豊かで、映画館の迫力を味わえる
サラウンドはどうか。『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』の背景音楽が厚く力強く鳴る。セリフは口跡が鮮明でリスニングポイントへ明瞭に飛んでくる。例えれば、ダビングステージを標榜するソニーの客観性に対し、本機は力感と高揚感が豊かで市中の一流映画館の迫力。
音質系機能
多彩な高音質機能をアプリから直感的に操作
バーチャルハイト/ワイドは有効。ただし、ワイドは音楽系ソフトでは過剰効果となって音が混濁する場合がある。ハイトは『S.F.交響楽団百周年』のS.Fシンフォニーホールの初期反射のディレイを再現、高い天井から生まれる独特の音場感を再現する。
ネットオーディオ機能
ギャップレス再生にもアップデートで対応予定
DLNAでNAS内のファイルを再生する場合は192kHzまで対応する。前述のように、曲間ブランクをアルバム単位での曲間通り忠実に再現するギャップレス再生へのアップデート対応は朗報。192kHzの鮮度の高さはいうまでもなく、ネットワーク再生で弱点だった低域の伸びもCD、BD-ROMに遜色なく深く厚い。
使い勝手
スマホからの操作がメイン。アプリの完成度はダントツ
本機の場合、操作はリモコンではなく、アプリによるスマホやタブレットに重心を移した感がある。音量バランスなど使用頻度の高い項目だけでなく、オートフェーズコントロールプラス等の特徴的な機能もアプリから操作できる。操作画面も遊び心のある非常に美しいもので、先駆者らしいマンインターフェース研究のほどが伺える。
岩井喬が聴いた「SC-LX86」
密度と細部表現のバランスが秀逸。セリフはややドライな傾向
音像の密度とディテール表現における粒立ちのバランスが取れており、明瞭度も十分だ。音の移動もキレ良くスムーズであるが、ボーカルやセリフはボトムをふっくらと表現し、ややドライな傾向となる。基本的にストレートですっきりとした音色となっており、サラウンドスピーカー側の空間表現にも密度感が伴い有機的な音場が生まれる。音楽モノのバンドサウンドはナチュラルな音伸びで、程良くキレも持っており、ボーカルの口元も滑らかなハリ艶を見せる。2ch音源においては自然な解像感を持った耳当たり良いサウンドでボーカルも肉付き良い。
鴻池賢三が聴いた「SC-LX86」
遠近感が正確に掴める音場表現。定位に優れ音がクリアだ
定位が良く音がクリアで前に張り出して来る印象。中高域の歪み特性も改善され、伸びやかで透明感が増した。デジタルアンプの弱点は見あたらず、逆に、低域のドライブ能力の高さには、同クラスのアナログアンプでは成し得ない良さが感じられる。マルチチャンネルの音質に関わる機能としては、「フェイズコントロールプラス」の効果が絶大。本機ではディレイタイムの設定がオートになり実用的に。同機能の効用は、部屋の狭さを感じさせず音場が広がる、音の遠近感が的確に掴める、ボーカルがクリアになるなど多岐にわたり、常に利用したい。
<この記事は「月刊AVレビュー 2012年11月号」から転載しています>