【特別企画】VGP2013 音響&ネットワーク大賞受賞モデル
進化し続けるAVアンプ・パイオニア「SC-LX86」を鴻池賢三が聴く
VGP2013「音響&ネットワーク大賞」に輝いたパイオニアの最高峰モデル「SC-LX86」。定評あるデジタルアンプのドライブ力に加え、他に先駆けて取り組んだアドバンテージが現れているネットワーク関連の機能の豊富さが評価された。本機の魅力を審査員・鴻池賢三氏がレポートする。
伝説のフラグシップのテイストを生かしたモデル
本機はパイオニアのAVアンプラインナップでハイエンドに位置する9.2 ch対応モデルである。デジタルアンプの採用により、内蔵する全9チャンネルのアンプを同時駆動してもパワーダウンはほとんどない。総合最大同時出力810Wを誇るハイパワー機だ。
音質面では、ClassDアンプの要となる素子に「Direct Power FET」を採用。伝説のフラグシップモデル「SC-LX90」をいくつもの点で上回ったと高評価を得た先代のSC-LX85をベースにしながら、素子の潜在能力をさらに引き出すアース設計やパターンおよび周辺部品の再検討を行って熟成を進めた点が注目に値する。
またパワーアンプは専用筺体に収めた上でメインシャーシに搭載するなど、ワンボディながらセパレートアンプを組み合わせたかのような電気的、機構的なアイソレーションが図られている。音の土台となる電源部も見直され、トランスは漏洩磁束を抑え映像・音声信号をピュアに伝送できるようにチューニングされた専用品。さらに、デジタル部とアナログ部に独立して電源供給するなどの取り組みも興味深い。
機能面では、iOSデバイスなどで直感的に操作が可能と好評の「iControlAV2012」ほか、AirPlay、DLNA準拠の192kHz/24bit音源対応ネットワーク再生機能はもちろん継続しつつ、新たにHDMIの携帯端末版とも呼べるMHL入力端子を前面に装備。Android系を含む近未来の幅広いデバイスへの備えも万全だ。
加えて特筆すべきはコンテンツ再生力のさらなる強化だ。AVアンプとしては世界で初めてUSBストレージに格納したDSD音源の再生、PC内のハイレゾ音源も直接再生できるUSB-DAC機能の搭載など、注目の最新機能が満載だ。オーディオの本分である音質に磨きを掛け、PCやスマホを受け入れる接続力、ハイレゾ音源をはじめとする多様なフォーマットの再生力など、ホームエンターテインメントの中心として必要な能力を結実させたのが本機と言って良いだろう。
デジタルアンプならではのドライブ力で高音質を実現
手始めにアンプの素性を探るべく、CDを同軸デジタルで送り込んだ。曲は筆者が新しくレファレンスとしているSHANTIのアルバム『BORN TO SING』より「Talking Low」を選択。日本プロ音楽録音賞優秀賞を獲得したナンバーだ。
ヴォーカルが生々しくクリアで、再生システムの特徴や能力が如実に表れる作品である。本機ではセンターにピタッと定位するのはもちろん、音像も適切な大きさで表現された。ボンヤリと大きく散漫にもならず、かといって萎縮せず、口の大きさと動きがつかめる。何より空中に浮かぶヴォーカルの高さも適切で、基本音質の高さがうかがえる。その他、低域の余裕ある押し出しによる空気感や余韻の美しさも心地良い。グランドの取り回し見直しによる中低域の厚み、中高域のS/N改善による透明感にもはやデジタル臭は感じられず、SC-LX85をベースにした「熟成」という形容がピッタリと当てはまる出来映えだ。
次にマルチチャンネルの実力を確認すべく、リア部分の成分も豊富な音楽ソフト、ロイ・オービソンの『Black&White Night』を試聴した。お馴染みのナンバー「Oh,Pretty Woman」は、冒頭の印象的なドラムがさらに印象的に。アタックの鋭さだけでなく、消え際の余韻のクリーンさ、収まりの良さが秀逸。大電流を取り出せる高効率なデジタルアンプならではのドライブ能力で、キレのある気持ち良い音を実現している。複数のサテライトスピーカーを大音量で同時駆動しても崩れる感は皆無で、ストレスのない豪快なサウンドが楽しめた。
また、BD視聴時はアップグレードされた「オートフェイズコントロールプラス」の効用が絶大だ。前モデルのSC-LX85でも評価が高かった「フェイズコントロールプラス」機能は本機でオート化されて「オートフェイズコントロールプラス」となり、定期的にLFE成分のズレを自動で最適化してくれる。空間の広がりやクリアなボーカルを安定して楽しめる好機能だ。
ハイレゾ音源の特徴を引き出せる能力を有する
ネットワーク経由のハイレゾ音源は元気が良い。ハイレゾらしくシャッキと仕立てられた音調はCDとは別の世界が味わえる。デジタルアンプならではの立ち上がりの良さ、熟成によって得たクリーンでレンジの広いパワーアンプが繰り出す音は、CDよりもコントラストの高いハイレゾ音源の特性を引き出す上で相性が良いようだ。
本機の特徴を語る上で外せないのが、iOSデバイスとAndroid端末用に用意されたアプリ「iControlAV2012」である。AVアンプ全体のトレンドとして、アプリによる操作は標準機能となりつつあるが、その中でもパイオニアはこのジャンルにいち早く着手したせいか、他社を上回る熟成度を持つ。
インターフェースは見た目の洗練感だけでなく、必要なボタンや表示が厳選され、また直感的に操作できるよう工夫されている。また機能面も充実しており、入力信号の状態や出力の状態が把握できたり、「フェイズコントロールプラス」を始めとする多彩な機能の切替もアプリであれば一覧性が高く現状の確認や操作もお手の物だ。一度アプリを使うと、リモコンには戻れない快適さだ。グラフィカルなインターフェースとタッチ操作を活かし、指先でなぞって設定するグライコなど、遊び心が詰まっているのも面白い。iPad版アプリなら、MCACCによる補正状況がグラフで詳細に確認でき、マニアの心に響くだろう。
その他、本機から新しく搭載された機能にも注目したい。DSD再生はいったんPCMに変換した後、DSPで最適化され、DAC(AK4480)に入力される。数曲聴いてみたが、PCMに変換されるとは言え、PCM音源とは違った濃密で滑らかな音調であることを確認した。WAVファイルとの比較試聴も楽しそうだ。
USB-DAC機能は、ネットワークの構築や関連する設定を必要とせず、パソコンに収録している音声ファイルをダイレクト、言い換えると高品位に再生できる。本機ではアシンクロナス伝送に対応し、パソコン側のクロックを断ち、本機側の高精度なクロックをベースにする事で、低ジッターを実現する。Windowsパソコンは専用のドライバーをインストールする必要があるが、難易度は低いので心配はない。本機能は192kHz/32bitまでのFLACとWAVファイルに対応するほか、MP3/MPEG4 AAC/WMA等も再生できるので、過去のライブラリーも活かせる。ハイレゾ再生も魅力だが、日常のBGM再生にも威力を発揮するだろう。
熟成された本機のデジタルアンプは、同クラスのアナログアンプでは成し得ない圧巻のドライブ能力を誇る。音質に加え、USB-DAC機能やMHLに対応しPCやスマホを受け入れる接続力、ハイレゾを含む幅広いコンテンツ再生力、アプリによる使い勝手の良さなど、全方位に抜かりない好モデルと言える。
PIONEER SC-LX86 ¥330,000
【SPEC】●パワーアンプ方式:ダイレクト エナジーHD ●多チャンネル同時駆動能力(1kHz、T.H.D.1.0%、8Ω):810W(9ch同時駆動時) ●実用最大出力(JEITA、4Ω、1ch駆動時):360W/ch(フロント、センター、サラウンド、サラウンドバック、フロントハイト/ワイド) ●HDMI入力端子数:8(MHL兼用、フロント1含む) ●HDMI出力端子数:3(ゾーン4含む) ●外形寸法:435W×185H×441Dmm ●質量:17.9kg ●問い合わせ先:パイオニア(株)0120-944-222
(鴻池賢三)