【特別企画】音の入口から出口まで知り尽くした人気ブランド
RMEの開発者に訊く、USB-DACの“あるべき姿”とは?
パソコンを再生機器として活用するUSBオーディオというスタイルが確立されて以降、音楽ファンが使用するハードの傾向にも大きな変化が出てきている。レコーディングの現場で活用されるようないわゆるプロ機が、一般的な音楽ファン/オーディオファンから高い注目を集めるようになったのだ。
そもそも192kHz/24bitや96kHz/24bitなどのハイレゾ音源は「スタジオマスター」とも言われ、レコーディングスタジオそのままのスペックを持った音源を家庭で楽しむことができるということが大きな魅力となっている。これはCDという限られたスペックのメディアからの解放を実現する。このデータによる音楽信号のやりとりは、USBオーディオが普及するよりもっと前からレコーディング現場では一般化されていた。こうした経緯を考えると、「レコーディング現場と同じ環境で再生できる」という側面からプロ機が注目されたことは必然の流れだったといえるだろう。
さて、そんな状況にあるPCオーディオ/ネットワークオーディオ=ネットオーディオ市場だが、ドイツのレコーディング機器ブランド、RMEはUSBオーディオブームのきっかけとなったブランドのひとつであり、数あるプロオーディオ機器の中でも異例なほど一般音楽ファンの試聴環境に導入されているブランドである。実際のレコーディングや放送の現場で使用されているFireface UFX/UCX/UCや、プロに求められるクオリティを実現しながらも手のひらサイズほどのコンパクトな筐体としたBabyfaceは、その忠実な再生音で多くの音楽ファンを魅了したのだ。
今回は、音のプロと音楽ファン、いわば音楽に関わる全ての層から高い人気を集めるRMEが、いかにしてここまでの存在となったのか、開発者へのインタビューを通して紐解いてみたい。
DAコンバーターは「無色透明」であるべき
ネットオーディオが本格化するまでは、CDプレーヤーなどの一機能として“影の立役者”のような存在となっていたDAコンバーター。しかしいまでは、「オーディオの必須アイテムの代表格」といっても過言ではない。そもそもDAコンバーターの役割は、音声が記録されたデジタル信号をアナログ信号へと変換し、アンプへ送り込むことだ。RMEの機器はこのDAコンバーターのほかにマイクなどの入力に対応するAD(Analog to Digital)の機能も備えており、いわばデジタル信号の入口から出口までを扱っている。そんな同社が考えるDAコンバーターの理想とはどのようなものなのか?
「DAコンバーターは、元のデータに含まれる情報を忠実に再現する機器であるべきだと考えています。もちろん、音はリスナーの皆様によって好みは千差万別だと思いますし、ケーブルやアンプ、スピーカーによっても音のカラーは変わってきます。だからこそ、音の最上流に位置するDAコンバーターから出力される音は、全く色づけのない『無色透明』でなければならないのです」
この“無色透明であるべき”という考え方は、RMEのUSBオーディオインターフェイスを実によく表現している。RMEは前述のとおり、プロの現場で極めて高い信頼を勝ち得ているが、彼らにとって現場の音をできる限り忠実に記録するというのは当然のこと。色づけのないRMEのサウンドは、音の記録に対して何の影響も与えないという意味で、非常に大きな魅力となっているのだ。
また、RMEの開発チームにおける重要人物であるマティアス・カーステンズ氏は「RMEが目指しているのは、“良い音”ではありません。あくまで“正確な音”を追究しています。このことは、数値の揺らぎが許されない音響計測の現場でもRMEの製品が高い評価をもって愛用されているという事実からもお分かりいただけるでしょう」と語る。この“正確な音”こそが、RMEというブランドの核となっているのだ。
RMEのコアテクノロジー、FPGA
RMEのサウンドは、試聴のみならず徹底的に理論と数値を突き詰めたのちに生み出されているというが、そのコアテクノロジーとなるのがFPGA(Field Programmable Gate Array)だ。FPGAはCPUやLSIなどの同様の集積回路の一種であるが、大きな特徴として製品発売後でも動作設計や設定を自由に書き換えられることが挙げられる。つまりOSなどの環境の変化に柔軟に対応できることはRMEの大きなアドバンテージとなっているのだ。
「プリンターやデジタルカメラといった多くのPC周辺機器と違い、オーディオインターフェイスは極めて小ロットでの生産となります。多くのPC周辺機器に搭載されているCPUやLSIは大量生産しなければコストが下がりませんし、そのため小ロットのオーディオインターフェイスのような製品に最適化したものを作るのは非常に難しいことになります。FPGAでは独自のプログラムを組むことになるので個体毎に設計を変えることができ、例え小ロットでも生産コストを抑えることができるというメリットがあります。
そしてなによりも、RMEはUSBやFireWireのドライバも汎用のチップではなく全てFPGA上に実装しているため、OSのアップデートなどによるPC側の仕様変更にも柔軟に対応できるということが大きなアドバンテージといえるでしょう。最近では、一部のオーディオ機器がUSB3.0のポートを持つパソコンと接続した時に動作しない、というトラブルがあったようですが、RMEではそのような問題は起きませんでした。万が一こうした問題が起きたとしても、RMEの製品ではFPGA上のプログラムをアップデートするだけで即座に解決させることができるんです。つまり多くPC周辺機器、あるいはPC周辺機器の延長として開発されたUSB-DACとは異なり、RMEの製品は何年にもわたる長い間“正確な音”をユーザーの皆様へ届けることができます」
ならば全てのUSB-DACがこのFPGAを採用すればいいのでは、と感じる方も多いかもしれないが、良いFPGAを組み上げるためには、デジタルおよびパソコンにまつわる豊富なノウハウに加え音に携わった長い経験こそがものをいう。つまり音と動作安定性に優れたFPGAを開発・搭載することは大変難しいことなのだ。
また、RMEはデジタルオーディオの高音質化の際に必ず話題にのぼるジッターについても高度なテクノロジーを誇っている。SteadyClockがその代表例だ。デジタル機器に採用されるクロック部は、外部信号を受信するアナログPLL、そして内部クロックを生成するいくつかの水晶発振器から構成されているが、SteadyClockは1基の水晶発振器でオーディオデータとは別の独立したキャリアデータのクロック信号のみを受信する。つまり、オーディオデータとキャリアデータの相互干渉の低下を抑制することができるのである。このSteadyClockはデジタルPLLとアナログフィルターで構成されているが、こうした高速かつ高精度な技術でさえもFPGA内で実現しているのである。
オーディオ機器としてのRMEとは?
RMEの製品を語る際はどうしてもその高度なデジタル部に目が行きがちだが、同社では“正確な音”の実現のためにアナログ部もおろそかにしていない。
「繰り返しになりますが、私たちがDAコンバーターについて最も重要視しているのは“良い音ではなく正確な音”です。USBオーディオインターフェイスでは非常にデリケートな信号を細かな基板上で取り扱うことになりますので、それらを電磁波からの悪影響から保護しなければなりません。そのためにはコンデンサーの配置や配線パターンをデザインするといったアナログ面を作り込むことが必要です。つまり“いかに音=信号をピュアな状態で、元のデータのままで再現できるか”をということを突き詰めると、必然としてアナログ回路の設計が大きな意味を持ってくるんです」
例えば、Fireface UCXでは同一サイズの前身モデルのFireface UCと比較して、300以上もの電子部品が追加され、さらにはDSPチップによる電気ノイズが電子部品に影響を与えるのを防ぐため50以上ものシールドを追加するなどしている。RMEのようなプロの現場で仕様される1U、ハーフラックサイズという制限されたサイズで高度なパフォーマンスを実現するためには、必然として繊細なアナログ技術が求められることは想像に難くない。
こうした細かな配慮があるからこそ、RMEのUSBオーディオインターフェイスは“USB-DACの定番モデル”としてプロ機としては異例といえるほど一般的な音楽ファン、オーディオファンへ浸透したのだろう。
RMEのUSBオーディオインターフェイスは、オーディオ機器としても高度な音と安定した信頼性を獲得した銘機なのだ。