「長く付き合える飽きのこないスピーカー」
ウィーンアコースティック「LISZT」を聴く − “インペリアル”シリーズ第1弾のセパレート/フロア型スピーカー
一音一音が豊かな表情をたたえる − 音楽ファンにお薦めしたい長く付き合えるスピーカー
1989年に音楽の発祥の地・オーストリア・ウィーンにて創設者であり開発設計の総責任者であるピーター・ガンシュテラーによって設立されたウィーンアコースティック。同社から最高峰に君臨するクリムトシリーズの思想を受け継ぐインペリアルシリーズが登場した。本機「LISZT」(リスト)はその第一弾として満を持して発表されたセパレート型フロア型スピーカーである。
<本機の位置付け>
■新シリーズの第一弾製品はセパレート型キャビネット
ウィーンアコースティックのトップレンジに君臨するクリムトシリーズにはフロア型の「TheMusic」を中心に同社のフラグシップ機が並んでいる。
その設計思想を受け継ぐインペリアルシリーズの第一弾として登場したLISZTは、TheMUSICを髣髴させるセパレート型キャビネットを採用したフロア型モデルである。中高域に同軸型フラットスパイダーコーンを採用する点も共通し、一見すると上位機種をそのままダウンサイジングしたように見えるが、実際はそこまで単純ではない。
<本機の概要を知る>
■新開発の中高域ユニットは水平方向に角度調整が可能
特徴的な中高域用ドライバーは17cmから15cm口径に変更され、完全な新開発ユニットを積む。約250Hzよりも上の非常に広い帯域をカバーするので、同軸型ならではの安定した定位が期待できそうだ。また、本機にはスーパートゥイーターはなく、TheMUSICよりも低音用キャビネットの設計は自由度が高いことが予想される。また、フラグシップ機と同様、中高域用キャビネットは水平方向に無段階で角度調整ができるが、垂直方向の調整機構は本機では省略されている。サイズとハンドリングの両面で、TheMUSICに比べるとかなり導入しやすくなった印象だ。
中高域を受け持つフラットスパイダーコーンの構造は上位機種をほぼ踏襲している。X3Pと呼ばれるポリオレフィン系樹脂をベースに数種類のポリマーとグラスファイバーを混入し、放射状リブで補強したミドルレンジコーンと、その内側に配置されたドームトゥイーターで構成される。
同ユニットの背面は小口径の磁気回路を採用することで十分な開放部を確保しており、スムーズでリニアな振幅を実現していることが特徴だ。
なお、中高域用キャビネットは中心部分で低音用キャビネットと連結されている。水平方向に微調整しながら音を聴き、適切な位置を決めた後にそのビスを締めることで角度が固定される仕組みだ。
<本機の音に触れる>
■スケール感を備えながら音色もきれいに澄みきる
今回は自宅試聴室で聴いたが、バッフル面を正面に向けた後、中高域ユニットを約5度ほど内側に向けて試聴を行った。本体の設置にはスパイクの調整を含めてそれなりの準備が必要だが、上部キャビネットの角度調整にそれほど手間はかからない。セッティング後に気付いたのだが、キャビネットの木目は上部と下部できれいに揃っており、横から見ても大変に美しい。ウィーンアコースティックのスピーカーは従来から仕上げの美しさに定評があるが、本機もその例外ではない。生産はオーストリア国内でハンドメイドで行われる。
ウィーンに縁のある作曲家の名を冠することはウィーンアコースティックの慣例で、今回はハンガリー生まれながらウィーンともつながりの深いリストが選ばれた。背面の銘板には一目でわかるリストの横顔が印刷されている。
3本のウーファーを独立したキャビネットに搭載した本機は、外見から想像できる通り、低音の量感とスケール感には十分な余裕がある。一方、トリプルウーファーとは思えないほど過剰なふくらみや付帯音がないので、低音の質そのものはクオリティが高く、音色も澄み切っている。オルガンの足鍵盤とコントラバスの音階を再生すれば、音圧と音色がきれいに揃って倍音の分布にも不自然な部分がないことがよくわかる。加藤訓子の『CANTUS』を聴くと、ヴィブラフォンやマリンバの低音を正確なピッチで再現し、その持続音の上でクロタルやベルの音が冴え冴えとした音色で響きわたる。演奏者があえて意図して作り出した低音のうなりも音像が膨張することなく、自然に収束し、余分な響きを残さない。
■どの音源を聴いても伸び伸びと歌い上げる
風通しの良い低音で下から支えていることもあり、旋律の音域はどの音源を聴いても伸び伸びとした音色でよく歌う。ウィーンアコースティックのスピーカーはボーカル、ギター、ヴァイオリンなど中心的な旋律を潤い豊かな瑞々しい音色で再現することで知られ、そこに惹かれてこのブランドを選ぶ音楽ファンが少なくない。本機の良さもまさにそこにあり、しかもその持ち味はジャンルの壁を超えて味わうことができるのだ。
パット・メセニーの『KIN』は重層的なパーカッションの壁を通り越してサックスやギターが半歩ほど前に迫り出し、勢いのある音で聴き手の耳に浸透してきた。これだけ音数の多い演奏でも個々の音の粒立ちがクリアなので、本機で聴くと各パートの関係がすっきり整理され、混濁感が気にならないのだ。アコースティックな感触を重視した録音なので、奥行きの深さも半端ではない。ベースはかなりパルシブな音で入っているが、その切れの良さは特筆に値する。
レイチェル・ポッジャーが独奏を弾くバッハのヴァイオリン協奏曲からは爽快感のある響きを引き出し、ピリオド楽器ならではの鮮度の高い音色を堪能することができた。この曲でも独奏ヴァイオリンは弱音まで線が細くならず、一音一音が豊かな表情をたたえている。
聴いた瞬間の派手さをアピールするスピーカーはいろいろ思い浮かぶが、長時間聴き続けても飽きのこないスピーカーは実はそれほど多くない。本機は紛れもなく後者に属する。長く付き合えるスピーカーを探している音楽ファンにお薦めしたい。
【SPEC】
●形式:バスレフ3ウェイ5スピーカー ●ユニット:17.8cm×3Pスパイダーコーンウーファー×3、3.0ハンドクラフティド・ネオジウムシルクドームツイーター、15.0cmネオジウムフラットスパイダーコーンミッドウーファー ●周波数特性:26Hz〜25kHz ●感度:91.0dB ●インピーダンス:4Ω ●推奨アンプ出力:50〜400W ●サイズ:300W×435D×1,250Hmm ●質量:36.5kg(1台) ●取り扱い:(株)ナスペック
1989年に音楽の発祥の地・オーストリア・ウィーンにて創設者であり開発設計の総責任者であるピーター・ガンシュテラーによって設立されたウィーンアコースティック。同社から最高峰に君臨するクリムトシリーズの思想を受け継ぐインペリアルシリーズが登場した。本機「LISZT」(リスト)はその第一弾として満を持して発表されたセパレート型フロア型スピーカーである。
<本機の位置付け>
■新シリーズの第一弾製品はセパレート型キャビネット
ウィーンアコースティックのトップレンジに君臨するクリムトシリーズにはフロア型の「TheMusic」を中心に同社のフラグシップ機が並んでいる。
その設計思想を受け継ぐインペリアルシリーズの第一弾として登場したLISZTは、TheMUSICを髣髴させるセパレート型キャビネットを採用したフロア型モデルである。中高域に同軸型フラットスパイダーコーンを採用する点も共通し、一見すると上位機種をそのままダウンサイジングしたように見えるが、実際はそこまで単純ではない。
<本機の概要を知る>
■新開発の中高域ユニットは水平方向に角度調整が可能
特徴的な中高域用ドライバーは17cmから15cm口径に変更され、完全な新開発ユニットを積む。約250Hzよりも上の非常に広い帯域をカバーするので、同軸型ならではの安定した定位が期待できそうだ。また、本機にはスーパートゥイーターはなく、TheMUSICよりも低音用キャビネットの設計は自由度が高いことが予想される。また、フラグシップ機と同様、中高域用キャビネットは水平方向に無段階で角度調整ができるが、垂直方向の調整機構は本機では省略されている。サイズとハンドリングの両面で、TheMUSICに比べるとかなり導入しやすくなった印象だ。
中高域を受け持つフラットスパイダーコーンの構造は上位機種をほぼ踏襲している。X3Pと呼ばれるポリオレフィン系樹脂をベースに数種類のポリマーとグラスファイバーを混入し、放射状リブで補強したミドルレンジコーンと、その内側に配置されたドームトゥイーターで構成される。
同ユニットの背面は小口径の磁気回路を採用することで十分な開放部を確保しており、スムーズでリニアな振幅を実現していることが特徴だ。
なお、中高域用キャビネットは中心部分で低音用キャビネットと連結されている。水平方向に微調整しながら音を聴き、適切な位置を決めた後にそのビスを締めることで角度が固定される仕組みだ。
<本機の音に触れる>
■スケール感を備えながら音色もきれいに澄みきる
今回は自宅試聴室で聴いたが、バッフル面を正面に向けた後、中高域ユニットを約5度ほど内側に向けて試聴を行った。本体の設置にはスパイクの調整を含めてそれなりの準備が必要だが、上部キャビネットの角度調整にそれほど手間はかからない。セッティング後に気付いたのだが、キャビネットの木目は上部と下部できれいに揃っており、横から見ても大変に美しい。ウィーンアコースティックのスピーカーは従来から仕上げの美しさに定評があるが、本機もその例外ではない。生産はオーストリア国内でハンドメイドで行われる。
ウィーンに縁のある作曲家の名を冠することはウィーンアコースティックの慣例で、今回はハンガリー生まれながらウィーンともつながりの深いリストが選ばれた。背面の銘板には一目でわかるリストの横顔が印刷されている。
3本のウーファーを独立したキャビネットに搭載した本機は、外見から想像できる通り、低音の量感とスケール感には十分な余裕がある。一方、トリプルウーファーとは思えないほど過剰なふくらみや付帯音がないので、低音の質そのものはクオリティが高く、音色も澄み切っている。オルガンの足鍵盤とコントラバスの音階を再生すれば、音圧と音色がきれいに揃って倍音の分布にも不自然な部分がないことがよくわかる。加藤訓子の『CANTUS』を聴くと、ヴィブラフォンやマリンバの低音を正確なピッチで再現し、その持続音の上でクロタルやベルの音が冴え冴えとした音色で響きわたる。演奏者があえて意図して作り出した低音のうなりも音像が膨張することなく、自然に収束し、余分な響きを残さない。
■どの音源を聴いても伸び伸びと歌い上げる
風通しの良い低音で下から支えていることもあり、旋律の音域はどの音源を聴いても伸び伸びとした音色でよく歌う。ウィーンアコースティックのスピーカーはボーカル、ギター、ヴァイオリンなど中心的な旋律を潤い豊かな瑞々しい音色で再現することで知られ、そこに惹かれてこのブランドを選ぶ音楽ファンが少なくない。本機の良さもまさにそこにあり、しかもその持ち味はジャンルの壁を超えて味わうことができるのだ。
パット・メセニーの『KIN』は重層的なパーカッションの壁を通り越してサックスやギターが半歩ほど前に迫り出し、勢いのある音で聴き手の耳に浸透してきた。これだけ音数の多い演奏でも個々の音の粒立ちがクリアなので、本機で聴くと各パートの関係がすっきり整理され、混濁感が気にならないのだ。アコースティックな感触を重視した録音なので、奥行きの深さも半端ではない。ベースはかなりパルシブな音で入っているが、その切れの良さは特筆に値する。
レイチェル・ポッジャーが独奏を弾くバッハのヴァイオリン協奏曲からは爽快感のある響きを引き出し、ピリオド楽器ならではの鮮度の高い音色を堪能することができた。この曲でも独奏ヴァイオリンは弱音まで線が細くならず、一音一音が豊かな表情をたたえている。
聴いた瞬間の派手さをアピールするスピーカーはいろいろ思い浮かぶが、長時間聴き続けても飽きのこないスピーカーは実はそれほど多くない。本機は紛れもなく後者に属する。長く付き合えるスピーカーを探している音楽ファンにお薦めしたい。
【SPEC】
●形式:バスレフ3ウェイ5スピーカー ●ユニット:17.8cm×3Pスパイダーコーンウーファー×3、3.0ハンドクラフティド・ネオジウムシルクドームツイーター、15.0cmネオジウムフラットスパイダーコーンミッドウーファー ●周波数特性:26Hz〜25kHz ●感度:91.0dB ●インピーダンス:4Ω ●推奨アンプ出力:50〜400W ●サイズ:300W×435D×1,250Hmm ●質量:36.5kg(1台) ●取り扱い:(株)ナスペック