【ネタバレ注意!】日本版は5月4日発売
国内盤BD発売直前!『スター・ウォーズ フォースの覚醒』クオリティを北米盤で先行チェック
スター・ウォーズBD BOXをレビューした。
およそ四年半前のことだ(当時のレビュー)・・・。
その後、ルーカスフィルムがディズニーに買収されて新たな三部作の製作が決まり、昨年公開された『フォースの覚醒』は全世界で熱狂をもって迎えられた。そして今回のBD化である。
再びスター・ウォーズのBDをレビューできる幸運に感謝したい。
既にUltra HD Blu-ray(以下、UHD-BD)のタイトルが複数リリースされているタイミングで、BDだけがリリースされるという状況に、筆者も含めて少なからずがっかりしたファンもいることと思う。もっとも、先のBD BOXもBDのローンチからはかなり間を置いて、BD化に関する様々な技術が成熟したタイミングで登場したことを思えば、それはそれで仕方がないのかもしれない。
前回のBD BOXの時点で、特にエピソードIIIを見れば、BDの画質音質のクオリティは完全に成熟した感があった。ところがそれ以降も、喜ばしいことに、画質と音質の両面でBDのクオリティは進歩し続けた。その流れの中で登場した『フォースの覚醒』である。はたしてどんな画と音を家庭にもたらしてくれるのだろうか。
画について。
フルデジタル撮影に移行した前2作とは異なり、本作は基本的にフィルムで撮影されている。そのため、『エピソードIII』のような高S/N基調の画ではないし、デジタル撮影された最近の映画の多くとも異なっている。フィルムの質感を前面に押し出すためか、人によっては「ざらついている」と感じられるかもしれないくらいに粒状感もよく残っている。
とはいえ「フィルム」という言葉からなんとなく連想される、柔らかくどこかぼやけたイメージとは無縁であり、解像感や情報量は近作としても十分に優秀。時間軸的な前作に当たる『エピソードVI』のイメージを残した、硬質で力強い画となっている。
登場人物の表情の克明な描写や多種多様な機械類の質感、スター・ウォーズらしい「汚し」の表現など、全編通じてディテールが横溢する。砂にまみれた惑星ジャクーや金属光沢が支配するファースト・オーダーの基地など、環境による空気感の違いも見事に写し撮られている。
フィルムそのものの質感だけでなく、デジタルの領域で付加される膨大なエフェクトや、それに伴う色彩表現も鮮烈にして透明感に溢れ、画面を美しく彩る。
IMAX撮影のシーンでは、35mm撮影のシーンとは別格の画が現れる。膨大な情報量がありつつも輪郭描写は実に滑らか、さらに透徹した空気感まで豊潤に湛える圧巻の映像である。
もちろん暗部にノイズが出るとか、階調表現が破綻するとか、その手の映像圧縮に伴う弊害とは無縁。宇宙空間をはじめ、透き通った闇をあらゆる場面で目にすることができる。
総じて本作の画は、旧三部作(特にエピソードVI)の質感に新三部作を経て蓄積されたデジタル映像技術が組み合わさることで、今までにない「スター・ウォーズの画」として結実している。
ただし、正直なところシーンによって画質差が大きく、また『エピソードIII』ほどわかりやすい高画質とは言えそうにない。それでも画質的には間違いなくハイレベルであり、多くの人に高画質タイトルとして紹介できる水準は軽々とクリアしていると言える。筋金入りのスター・ウォーズファンが本作の画をどのように評価するかはわからないが、私としては大アリである。
なお、本作のマスターは4Kで製作されているとのことなので、気の早い話ではあるが、UHD-BDになった暁にはさらなる飛躍が見られることだろう。
音について。
全体的には新三部作同様の穏やかさを基調としており、ダイアローグや劇伴は明瞭にして、常に繊細さを保つ。そのうえで、必要な時に、必要な音が、こちらの期待以上の威力で提示される。終始爆音を撒き散らす一辺倒なものではなく、シーンに応じた最適な音作りが成されているという印象だ。特にブラスターの発射音や爆発音などに旧三部作的な荒々しさが加わったことで、アクションシーンの迫力が俄然高まっているのが嬉しい。
音響構築の精度は新三部作を発展的に継承しており、さすがの一言である。前作までの6.1chから7.1chになったことで、さらに広大になった空間にありとあらゆる音が満ち溢れ、力強く鮮やかな軌跡を描く。包囲感、定位感、移動感など、マルチチャンネル・サラウンドに求められるすべての要素が極めて高いレベルにあり、「これぞ現代の映画音響!」と快哉を叫びたくなる。
あらゆるシーンが聴きどころと言えるが、その中でも白眉のシーンを2つ紹介する。
1つ目は、レイとフィンとBB-8がミレニアム・ファルコンに乗り込み、彼らを狙うTIEファイターと追跡劇を繰り広げるシーン。
豪快なエンジン音を響かせるミレニアム・ファルコンと追いすがるTIEファイターが、目まぐるしいカメラワークを伴って縦横無尽に画面を駆け抜け、惑星ジャクーの空気を轟然と切り裂く。そこにレーザーキャノンの砲火の応酬やレイとフィンの緊迫した会話、そして心躍る劇伴が加わることで、まさに「息をもつかせぬ」興奮、比類なき没入感がもたらされる。ミレニアム・ファルコンとTIEファイターのレーザーキャノンの音の違いによる威力差の表現など、大音量の中で細やかな描写にも事欠かない。IMAX撮影による凄まじい高画質とあわせ、全編通じてのハイライトとも言えるシーンである。
また、サブウーファーを含むすべてのスピーカーが大活躍するシーンでもあり、なぜスピーカーを何本も部屋に置く必要があるのか、という疑問に対する明確な答えにもなり得る。
2つ目は、作品のクライマックスとも言えるカイロ・レンとの戦闘シーン。新三部作においては音響的にテンションが下がる一方だった感のあるライトセーバーだが、ここでは『エピソードI』のダースモール戦をも越える、シリーズ最高に壮烈な音を味わうことができる。
迸る青と赤の光刃が唸りを上げ、激突して火花を散らす様は、シリーズ中でかつて聴いたことがないほどの重さと激しさを備えている。ライトセーバーの存在感が音響面においても大いに増したことは、ライトセーバー同士の戦いこそスター・ウォーズシリーズ最大の見どころだと思っている筆者にとって、心震えるものがあった。
音楽を主体とした美しく精緻な新三部作の音とアクション映画的なダイナミズムに満ちた旧三部作の音、まさに両者の美点が合わさったことで、本作の音は懐かしくも新しい「スター・ウォーズの音」となった。
音声がDolby AtmosやDTS:Xで収録されていないことだけが心残りだが、それでもなお、本作の音は広大にして精緻な空間情報を持ち、なんら不満を感じさせない。むしろ、将来オブジェクト音声を収録した際にどれだけの向上を果たすのか、今から楽しみで仕方がない。
総じて画も音も「新たなスター・ウォーズ」を感じさせる素晴らしいもので、映像メディアとして、あえてBDを選択する人々の期待に応える仕上がりとなっている。
良い作品、大好きな作品、愛してやまない作品とは、どのような環境で見ようが、ただそれだけで素晴らしい。
一方で、「作品をもっと楽しみたい」と思うからこそ、より良い画質と音質を求めてBDを買うのだし、視聴環境を向上させようという気も起きるのである。そして『スター・ウォーズ フォースの覚醒』は、そう思わせるだけの力を持つ作品だということに疑いはない。
良い画、良い音は映像鑑賞の楽しみを最大化する。
多くのファンがこのBDで、また可能な限り再生環境にこだわることで、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』からより深い楽しみや感動を引き出すことを願って止まない。
(逆木 一)