アメリカ/日本/ベルギーのスタジオの共同作業で実現
ライブハウスのような臨場感を3Dオーディオで体験! ボブ・ジェームス・トリオ視聴会をレポート
■ボブ・ジェームスの3DオーディオをWOWOWのオムニクロススタジオで視聴
実演を聴くことで演奏の真価が伝わるのはよく経験するが、ライブではなく収録した映像と音でそれに近い体験ができるのは珍しい。WOWOWのオムニクロススタジオで観たボブ・ジェームスのピアノトリオ演奏はその貴重な体験の一つとして記憶に残りそうだ。
同スタジオはフォーマットを超えて理想の3Dオーディオ環境を提供する空間だ。今回の『Feel Lile Making Live!』はSACDやBlu-rayなど複数のメディアでリリースされたのだが、UHD-Blu-rayとBlu-rayに含まれる3Dオーディオの音声トラックをミキシングしたのが、まさにこのスタジオだという。
3Dオーディオのミキシングを担当したWOWOWの入交英雄氏によると、今回の音源はかなり複雑なプロセスを経て完成したとのこと。そもそもレコーディング、ミキシング、マスタリングはすべて異なる場所で行われた。トリオの演奏を収録したのはアメリカのスタジオで、そのマルチトラック音声と映像を東京のオムニクロススタジオの環境でミキシングし、ベースとなる3Dオーディオの音源を製作。さらにその音源データをベルギーのギャラクシースタジオに持ち込み、入交氏の立ち会いのもと、同スタジオ固有の響きを加えて再度ミキシングとマスタリングを行い、最終的なAuro-3Dのサウンドを仕上げたのだという。
ギャラクシースタジオのメインスタジオは、天井が高くオーケストラ収録にも使える広い空間だ。Auro-3Dをはじめとする3Dオーディオの収録に最適な音響特性をそなえ、複数のレイヤーにマイクを設置する収録環境が整っている。ボブ・ジェームス・トリオの音源を同スタジオ内でスピーカーで再生し、余韻を含むサウンドを11本のマイクで3D収録。水平方向だけでなく高さ方向にも広がる豊かな残響を加えることで、響きのある空間のなかで演奏しているような臨場感の創出を狙っているのだ。
空間の要素を録るためにベルギーまで足を運ぶというのはなんとも贅沢な話だが、ギャラクシースタジオでのマスタリング作業も含め、今回はその贅沢な取り組みが大きな成果を上げている。
■3Dオーディオによって、ライブハウスのような臨場感が生まれる
UHD BDのAuro-3D音声を、オムニクロススタジオでは7.2.4chシステムで再生した。スクリーン直近の最前列がミキシングコンソール正面に相当するとのことなので、早速特等席に陣取り、視聴を始める。エレクトリックピアノがメインの「アンジェラ」でスタート。
3曲めの「マプート」あたりから一気にピアノソロのキレが良くなり、3人のリズムの噛み合いが冴えてくる。ドラムのビリー・キルソンは終始クールだが単調さはなく、しなやかで絶妙なサポートが光る。若手のベース奏者マイケル・パラッツォーロは二人のベテランの間でやや緊張気味ながら、ボブ・ジェームスが刻む左手の音形にぴたりと寄り添い、ソロではテンションの高いプレイに挑む。
「アヴァラバップ」や「ナイル・ア・ヘッド」の洗練されたアレンジはボブ・ジェームスらしいが、シンプルなトリオでの演奏は冗長な要素がなく、緊張感と心地よさが不思議なバランスで両立している。楽器配置は左側にピアノ、中央にベース、右側にドラムが明瞭に定位し、曲によってはエレクトリックピアノやドラムの一部の楽器がハイトチャンネルにまわる。それとは別に豊かなアンビエンスがフロアとハイトの2つのレイヤーに広がるが、不自然に回り込むのではなく、リスナーを自然に包み込むような効果を発揮。
楽器の近さや余韻の広がりによってライブハウスで聴いているような臨場感が生まれ、演奏との距離が一気に近付くのだ。席を前後左右に移動すると、演奏会場で聴く場所を変えたときと同じように楽器との位置関係が変わるのが面白い。たとえば前列から後列に動くと、ステージよりも高い位置から聴いている雰囲気を実感することができるのだ。これも臨場感を生む重要な要素の一つだろう。
■演奏との距離の近さや臨場感は3Dオーディオが優位
UHD BDにはAuro-3Dのほかにドルビーアトモスとステレオの音声も収録している。自宅の再生環境で聴いたドルビーアトモスの音はハイトチャンネルとサラウンドの成分がAuro-3Dよりも強く感じたが、3Dオーディオならではの臨場感は十分に伝わってくる。一方、ステレオのミキシングは楽器の音像をタイトに配置した音作りで、デッド気味なスタジオならではのクリアなサウンドが楽しめる。
三者三様というより、ステレオと3Dオーディオの間の違いが非常に大きい。別パッケージのSACDハイブリッド盤でステレオと5.1chサラウンドも聴き比べてみたが、後者は3Dオーディオのようなアンビエンスではなく、やや距離を置いたバランスにミキシングされている。
同じ演奏なのに収録フォーマットによって印象がここまで変わるのは驚くべきことだ。個々のプレイヤーの演奏を客観的に聴きたいなら映像なしのステレオ再生がベストかもしれないが、演奏との距離の近さや同じ空間を共有する臨場感は3Dオーディオが明らかに優位に立つ。
これまでは教会で収録した声楽曲など、豊かな残響が重要な役割を演じる作品で3Dオーディオの意義を実感することが多かったが、ピアノトリオというシンプルな編成のジャズでここまで臨場感を引き出せるのは意外だった。しかも、演奏現場にはなかった空間情報をアコースティックな手法で加えたことに重要な意味がある。楽器を空間上に自由に配置する空間オーディオ技術が急速に発達しているが、ジャズの分野でここまでリアルな「空間」を感じさせる音源にはまだ出会ったことがない。
実演を聴くことで演奏の真価が伝わるのはよく経験するが、ライブではなく収録した映像と音でそれに近い体験ができるのは珍しい。WOWOWのオムニクロススタジオで観たボブ・ジェームスのピアノトリオ演奏はその貴重な体験の一つとして記憶に残りそうだ。
同スタジオはフォーマットを超えて理想の3Dオーディオ環境を提供する空間だ。今回の『Feel Lile Making Live!』はSACDやBlu-rayなど複数のメディアでリリースされたのだが、UHD-Blu-rayとBlu-rayに含まれる3Dオーディオの音声トラックをミキシングしたのが、まさにこのスタジオだという。
3Dオーディオのミキシングを担当したWOWOWの入交英雄氏によると、今回の音源はかなり複雑なプロセスを経て完成したとのこと。そもそもレコーディング、ミキシング、マスタリングはすべて異なる場所で行われた。トリオの演奏を収録したのはアメリカのスタジオで、そのマルチトラック音声と映像を東京のオムニクロススタジオの環境でミキシングし、ベースとなる3Dオーディオの音源を製作。さらにその音源データをベルギーのギャラクシースタジオに持ち込み、入交氏の立ち会いのもと、同スタジオ固有の響きを加えて再度ミキシングとマスタリングを行い、最終的なAuro-3Dのサウンドを仕上げたのだという。
ギャラクシースタジオのメインスタジオは、天井が高くオーケストラ収録にも使える広い空間だ。Auro-3Dをはじめとする3Dオーディオの収録に最適な音響特性をそなえ、複数のレイヤーにマイクを設置する収録環境が整っている。ボブ・ジェームス・トリオの音源を同スタジオ内でスピーカーで再生し、余韻を含むサウンドを11本のマイクで3D収録。水平方向だけでなく高さ方向にも広がる豊かな残響を加えることで、響きのある空間のなかで演奏しているような臨場感の創出を狙っているのだ。
空間の要素を録るためにベルギーまで足を運ぶというのはなんとも贅沢な話だが、ギャラクシースタジオでのマスタリング作業も含め、今回はその贅沢な取り組みが大きな成果を上げている。
■3Dオーディオによって、ライブハウスのような臨場感が生まれる
UHD BDのAuro-3D音声を、オムニクロススタジオでは7.2.4chシステムで再生した。スクリーン直近の最前列がミキシングコンソール正面に相当するとのことなので、早速特等席に陣取り、視聴を始める。エレクトリックピアノがメインの「アンジェラ」でスタート。
3曲めの「マプート」あたりから一気にピアノソロのキレが良くなり、3人のリズムの噛み合いが冴えてくる。ドラムのビリー・キルソンは終始クールだが単調さはなく、しなやかで絶妙なサポートが光る。若手のベース奏者マイケル・パラッツォーロは二人のベテランの間でやや緊張気味ながら、ボブ・ジェームスが刻む左手の音形にぴたりと寄り添い、ソロではテンションの高いプレイに挑む。
「アヴァラバップ」や「ナイル・ア・ヘッド」の洗練されたアレンジはボブ・ジェームスらしいが、シンプルなトリオでの演奏は冗長な要素がなく、緊張感と心地よさが不思議なバランスで両立している。楽器配置は左側にピアノ、中央にベース、右側にドラムが明瞭に定位し、曲によってはエレクトリックピアノやドラムの一部の楽器がハイトチャンネルにまわる。それとは別に豊かなアンビエンスがフロアとハイトの2つのレイヤーに広がるが、不自然に回り込むのではなく、リスナーを自然に包み込むような効果を発揮。
楽器の近さや余韻の広がりによってライブハウスで聴いているような臨場感が生まれ、演奏との距離が一気に近付くのだ。席を前後左右に移動すると、演奏会場で聴く場所を変えたときと同じように楽器との位置関係が変わるのが面白い。たとえば前列から後列に動くと、ステージよりも高い位置から聴いている雰囲気を実感することができるのだ。これも臨場感を生む重要な要素の一つだろう。
■演奏との距離の近さや臨場感は3Dオーディオが優位
UHD BDにはAuro-3Dのほかにドルビーアトモスとステレオの音声も収録している。自宅の再生環境で聴いたドルビーアトモスの音はハイトチャンネルとサラウンドの成分がAuro-3Dよりも強く感じたが、3Dオーディオならではの臨場感は十分に伝わってくる。一方、ステレオのミキシングは楽器の音像をタイトに配置した音作りで、デッド気味なスタジオならではのクリアなサウンドが楽しめる。
三者三様というより、ステレオと3Dオーディオの間の違いが非常に大きい。別パッケージのSACDハイブリッド盤でステレオと5.1chサラウンドも聴き比べてみたが、後者は3Dオーディオのようなアンビエンスではなく、やや距離を置いたバランスにミキシングされている。
同じ演奏なのに収録フォーマットによって印象がここまで変わるのは驚くべきことだ。個々のプレイヤーの演奏を客観的に聴きたいなら映像なしのステレオ再生がベストかもしれないが、演奏との距離の近さや同じ空間を共有する臨場感は3Dオーディオが明らかに優位に立つ。
これまでは教会で収録した声楽曲など、豊かな残響が重要な役割を演じる作品で3Dオーディオの意義を実感することが多かったが、ピアノトリオというシンプルな編成のジャズでここまで臨場感を引き出せるのは意外だった。しかも、演奏現場にはなかった空間情報をアコースティックな手法で加えたことに重要な意味がある。楽器を空間上に自由に配置する空間オーディオ技術が急速に発達しているが、ジャズの分野でここまでリアルな「空間」を感じさせる音源にはまだ出会ったことがない。