ネットワークオーディオアレルギーを脱却したい! アラフィフの浦島太郎、新しい「時代」に再チャレンジ
ネットワークオーディオアレルギー、脱却なるか!?
その昔、ネットワークオーディオプレーヤーに未来を感じ取り組むも、別れを選ばれた方もいるのではないだろうか? 恥ずかしながら筆者もその1人だ。すると担当編集から「アイ・オー・データのSoundgenic Plusを貸すので、自宅で試してみてはどうだろう」との提案を受けた。浦島太郎は、今一度取り組んでみることにした。

話は2007年頃に遡る。USB入力を設けたDAコンバーターが登場し始め、PCオーディオという言葉が誌面を賑わせ始めていた。筆者はPCオーディオが扱うハイレゾファイルの音質的な優位性に魅力を覚えつつも、オーディオに儀式性を求めたい筆者は、PCを用いる音楽再生に違和感や味気無さを覚えていた。
その中でLINNから世界初のネットワークオーディオプレーヤー「KLIMAX DS」が登場した。NASに入れた音楽データをPCだけでなく、手元の小さなタブレット端末で選曲をするという作法に、デジタルプレーヤーの未来形はこれであると直感した。だが銘CDプレーヤーである「SONDEK CD12」と同じ280万円というプライスに諦めざるを得なかった。その後、廉価版が出たのだが、KLIMAX DSの音に触れた耳には納得できる音と表現力ではなかった。

数年後、LINNに追いつけ追い越せと各社からネットワークオーディオプレーヤーが出揃い始めた。価格的にも手ごろになり導入を決意した。CDとプレーヤーを売却して得た金を頭金にネットワークプレーヤー、NAS、WiFiルーター、そして操作用のiPadを買いそろえた。だが翌年には192kHz/24bitより上位のPCM形式やDSD形式のデジタルファイルに対応したプレーヤーが登場するなど、ローンを組んで購入した機械がスグに陳腐化する悲しさに涙も枯れ果てた。
とはいうものの手元のiPadに楽曲のアートワークが表示され、それをタップすると音が出るに感激した。だが、感激はつかの間だった。音が出ない/タブレットが反応しない/ネットワークプレーヤーがNASを認識しない、といったトラブルが続出したのだ。
取扱説明書やウェブ記事に答えを求めた。だがDHCPやレンダラー、IPアドレスといった専門用語に眩暈をおこした。それは「アジェンダ、コミット、アサイン」というカタカナ言葉が飛び交う意識高い系会議に出席した時と同質の嫌悪感で、体が拒絶した。結果、わからないということがわかっただけだ。
自分は音楽を愉しみたいのに、なぜ意味不明なトラブル対応に追われなければならないのだろう。ネットワークオーディオプレーヤーに未来を信じた自分は裏切られた気がした。気づけばネットワークオーディオアレルギーに罹患。全て売却した。
気づけば10年近い月日が流れていた。呑気にレコード屋でエサ箱をつっついている間に、新譜がデジタルシングルという配信でしか手に入らないのが当たり前の時代を迎えていた。それどころか毎月一定額を支払えば音楽が聴き放題と、HDD容量を気にしながらダウンロードやコピーをしていた時代すらも飛び越えていた。すっかり浦島太郎になっていたというわけだ。
小さな筐体に必要機能をすべて備えるSoundgenic
コンピューターの周辺機器を得意とするアイ・オー・データ機器が、NAS/サーバー機能を持つfidataを出したのは2015年のこと。高級感に溢れる銀箱に期待したが、緩慢で不安定な動作に心が離れたことを昨日のように思い出す。
スグにオーディオ業界から撤退すると思ったが、長い時間をかけて商品改良とアップデートを繰り返し製品の完成度と魅力度を高め、現在もオーディオ界で独自の魅力を放っている。2018年には廉価版といえるSoundgenicを世に送り出し、ネットワークオーディオの敷居を大きく下げた。Soundgenic Plusは2023年に発売となったその後継機である。
Soundgenic Plusは、168W×134D×43HmmとB5判にも満たない小さな筐体の中に、ネットワークオーディオに必要な機能を全て備えている。音楽ソースは本体内のハードディスクに収容した楽曲のほか、外部NAS、そしてAmazon Music Unlimitedと最近オーディオ界で話題を集めるフランス発祥のハイレゾ音楽ストリーミングサービスQobuzに対応する。

リアパネルを見ると小さなPCそのものだ。さっそく本機を自宅のWiFiルーターとLANケーブルで、オーディオ機器とは付属のUSBオーディオケーブル(USB→アナログRCA)でつなげた。電源はDC12V/2Aで、中央に変圧器を設けた付属の電源アダプターで給電する。こだわられる方は汎用のリニア電源や、メガネタイプの電源ケーブルを用意されることだろう。

無料の操作アプリ「fidata Music App」は、Apple(iOS)版とGoogle(Android)版がリリースされている。だがQobuzを利用できる端末はiOSのみ。スマートフォンのAndroid販売比率は年々上昇しているだけに、ここは改善してほしいところだ。なおタブレット端末の同時併用は不可だった。
まずは基本設定から
SACD/CDプレーヤーは、設置してディスクを入れれば音が出る。だがネットワークオーディオプレーヤーは、設置後にPCやアプリの設定をしなければ音は出ない。fidata Music Appのマニュアルは「詳しくはウェブで」という、実にSDGsなもの。インターネットが接続している状態で行った方が望ましいだろう。


Windows11版LAN DISK CONNECT。OS標準のファイル管理ソフトに組み込まれる
また拙宅では、当初Soundgenic Plusからインターネットの外部アクセスができずサブスクリプションサービスを利用できなかった。普通のPCではアクセスできるのに、なぜかSoundgenic Plusだけインターネットにつながらなかったのだ。
色々調べたところ原因はWiFiルーターに入っているファイアーウォール機能がブロックしていたと判明。このようにセットアップには、ある程度のPCやタブレットに関する知識が求められる。このあたりは、昔とあまり変わらない。だが動き始めれば、途中で固まって再起動をする、ということは一切なく、時代の流れを感じた。
Qobuz、Amazon等のストリーミングサービスとの連携も
ひととおり設置が終わり、筆者が慣れ親しんでいるAmazon Music Unlimitedにアクセス。今年の12月に発売50周年を迎える中島みゆきの代表曲「時代」を検索すると、ギター1本で歌い上げる1975年版は見つからなかったが、セルフカバーでデヴィッド・キャンベルがアレンジを手掛けた1993年版と、2010年頃のライブ版が掲出された。

個人的に普段Amazon Music Unlimitedを利用しているが、それはPC版。ネットワークプレーヤーで使うのは初めての経験で、その使い勝手や手元にリストがズラリと並ぶ様に「凄いな」と素直に感心した。


音にも感心した。優しい語り口で俯瞰的に人生を語る中島みゆきの歌声が、程よい温度感と柔らかな肌合いを伴なって聴き手の耳と心に染み入る。思わず歌詞と自分の人生を重なりあわせ、年甲斐もなく目頭が熱くなってしまった。
その上で、スケール感豊かな演奏をバックにダイナミックに歌いあげる1993年版と、原点に立ち返えりながらも深みを増した2012年版という各々の特質をSoundgenic Plusは描き出す。もちろんオーディオ的にこうなってほしい、という部分がないわけではない。だがストレートに出すことの重要性、ストレートに奏でるからこその説得力がある。
そのオーディオ的な不満を解消する道をSoundgenic Plusは用意している。手持ちのUSB-DAC「ZEN DAC3」をつなげて再び試聴した。ベールが何枚も剥がれ、歌声に力感と説得力が増す。音質が上がると音楽の感動が増すことを再認識した。ちなみにZEN DAC3は約4万円、Soundgenic Plusと併せても約10万円。オーディオにコストパフォーマンスという言葉は使いたくないが、それでもコスパの良さに驚かされる。ローンを組んでマトモに動かなかったのは、一体何だったのか……。

時代は薬師丸ひろ子や一青窈、浜崎あゆみ、徳永英明などの他のヴォーカリストたちにも歌い紡がれている。彼らは「時代」をどのように歌ったのだろうと聴きたくなる。もちろん中島みゆきの他の曲も知りたくなる。ひとつの音楽を深堀りし、聴こえなかった音を聴くのはオーディオの楽しみであることに異を唱えない。そのいっぽうで何かをキーワードに知らなかった楽曲を聴くのも、音楽鑑賞の楽しみだ。こうした出逢い、知的好奇心をSoundgenic Plusとサブスク配信サービスはもたらしてくれる。

ネットワークプレーヤーが誕生して約15年。夢にまで見たネットワークプレーヤーの本来のあるべき姿に、生まれ変わってめぐり逢えた気がした。ネットワークプレーヤーの動作が不安定だった時代があったねと、笑える日が来たことを実感。春からの新生活、ネットワークオーディオに取り組もうと真剣に考えている。
