AQUOS DS6ラインは、新しい映像エンジン「高画質マスターエンジン」が初めて搭載された記念碑的モデルだ。これまでも同社では様々な画質向上技術をブラッシュアップしてきたが、映像エンジンに名称を設けたのは初めてのこと。このことからも同社の並々ならぬ意欲がうかがえる。

具体的には、映像エンジンのコアとなるLSIを新たなものに変更し、さらにシャープ独自の映像処理アルゴリズムもさらに熟成を加えた。その中核となるのは「Wクリア倍速」「アクティブコンディショナー」「なめらか高画質」という3つのテクノロジーだ。「高画質マスターエンジン」がもたらす映像の進化を解き明かすため、それぞれのテクノロジーの詳細に迫ってみよう。

 
「高画質マスターエンジン」の基板   「高画質マスターエンジン」の概要。Wクリア倍速、アクティブコンディショナー、なめらか高画質の3要素で構成される


最初に紹介したい新技術は「Wクリア倍速」だ。これまでのAQUOSの倍速駆動処理は、基本的には60Hzの映像のフレーム間に補間フレームを挿入し、120Hzで駆動するというものだったが、今回、新たに元映像にまでさかのぼって高画質化処理を行うフローが追加された。従来の補間フレーム挿入に加えて、倍速処理する際に動画ぼやけを抑える。2つの処理を行うことでより鮮明な映像を実現することから「“W”クリア倍速」という名称が付けられた。

具体的には、入力された映像信号に対して、カメラ撮影時のパン(ここではカメラ移動全般を指している)により際に生じる映像のぼやけを、動きベクトルを検出により解析。ぼやけ部分に対して輪郭強調などの補正処理を行う。カメラを移動しながら撮影する際、映像のぼやけは避けられないが、このぼやけを除去するのは、単純な倍速駆動処理では及ばない領域だ。今回、動きのある映像を元の信号から補正することで、テレビ放送をよりクッキリとした映像で表示することが可能になった。

Wクリア倍速の概念図。カメラがパンした際に生じるぼやけを検出して補正する回路を新たに追加した

同時に動きベクトル検出を使った映像解析は「フィルム・デジャダー」と呼ばれる新機能にも活用されている。

映画のフィルム映像が24コマ/秒で撮影されていることは周知のことだと思うが、滑らかな映像表示が好みのユーザーにとって、映画特有のカクカクとした動き(ジャダー)が、ややクセのある表現して感じられることも確かである。24pの映像を120pに変換する際、途中に補間フレームを生成し、なめらかな映像表示を可能にするのが「フィルム・デジャダー」だ。メニュー画面では「フィルムモード」から設定できる。

ただし同種の機能の効果については、常に賛否両論があるのもご存じの通り。このため「しない(切)」設定も可能だ。さらに「アドバンス(強)」、「アドバンス(標準)」設定により、メニューから滑らかさの強さを選択することが出来、「標準」では3-2プルダウン処理映像の各コマの表示時間を等間隔で表示することができる。なお、この処理はパネルを駆動する直前で行われ、地上デジタル放送や衛星放送で映画を観る際も、逆3-2プルダウン処理によって元のソースが24pと判断されれば適用される。

フィルムモードの設定画面。補間の適用量をきめこまかく設定することができる

 

映像信号をどのように高画質化していくか、この決め手となるチューニングは「アクティブコンディショナー」という形で進化した。

AQUOSシリーズの高画質化チューニングの歴史を振り返ってみると、「亀山パネル搭載1号機」と呼ばれた時代は、アクティブガンマのみの調整処理のみが行われていた。暗いシーンではS字のガンマカーブを描いて持ち上げたり、明るいシーンはガンマを沈めて黒伸張するなどの処理が代表的なものだ。

次なる大きな進化は2008年のAQUOS GX5シリーズから採用されたもので、ガンマ調整以外に黒レベル、カラー、ゲインまで含めてコントロールする技術を追加している。例えば、映像全体でミニマムの輝度、マックスの輝度をパネルで再現可能な領域へと当てはめて調整することで映像再現のダイナミックレンジを改善、同時にカラーマネジメントも行う。このタイミングでAQUOSが飛躍的にコントラスト比を向上させたことは、まだ記憶に新しい。

映像調整メニューの「アクティブ設定」でアクティブコンディショナーの入/切設定が行える。各映像モードごとに設定を保存できるのは便利だ

「アクティブコンディショナー」では、これに加えて映像のコントラスト感を高める工夫を盛り込んでいる。例えば全体が暗所、あるいは明所に偏った映像でも、ピーク部から効果的にS字ガンマを描くことで巧みに立体感を作り出し、情報量と階調性豊かな映像を作り出す。同時に映像の動き量からノイズを検出する仕組みを取り入れ、暗部ノイズや色滲み、映像のザラ付きを適応的に除去するアクティブNRを搭載することで、映像の動き・明るさに応じて自在な映像表現を可能としたのだ。

 

 

AVシステム事業本部 要素技術開発センターの小池晃副参事にお話を伺った
テレビコントラスト15,000対1という数値、「なめらか高画質」によりスペックの値以上に進化を遂げている。シャープによるオリジナル技術の一つとして、バックライト制御と同時に液晶開口率操作も併用していることは意外と知られていない。実はこの機能の搭載は、高画質と省エネの両立というAQUOSシリーズらしい思想が隠れている。

液晶テレビで明るさをコントロールする際の手法として、映像の輝度に応じてバックライトの明るさを適応的に調整する機能は珍しくないが、同様の調整効果は液晶の開口率を制御することでも得る事ができる。

AQUOSの主要モデルは「なめらか高画質」という技術を搭載し、開口率制御を映像エンジン側に取り込み、映像信号処理と同時に液晶パネルの開口率をピクセル単位で直接制御することにより、トータルで画作りを行う。さらにAQUOS DS6ラインでは新たな映像分析を加えたことで、輝度が大幅に変化するシーンチェンジの際にも一瞬で対応することができるほか、締まった黒と輝き感のある高輝度部分を同時に再現することができる。

液晶の開口率制御は、当初はバックライト使用を抑えるための省エネが目的だったという。映像信号処理との併用により、結果として映像表現力も向上させた。エコ重視のモデルは特に画質面で不安を抱えるなかで、このような取り組みは高く評価したい。

ここまで「高画質マスターエンジン」の技術について見てきたが、これらの新たな取り組みによってDS6ラインの映像が驚くほどの進化を遂げたことを、取材時に確認することができた。後日、この特集ページ内で詳細な画質レビューをお届けする予定だ。