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我々ミュージシャンにとって、ゼンハイザーといえば、まずはマイクロフォンである。“クジラ”と呼ばれる黒と銀の四角っぽいやつ、MD−421は、どこのレコーディング・スタジオにもあるし、エンジニアによっては中〜低音域の楽器に多用する。最もポピュラーなのは、ドラムのタムタム類(バス・ドラムに使うエンジニアも少なくない)。ギター・アンプ、ベース・アンプ。もちろん、ヴォーカル録りに使うことだってある。
昔からずっとそうだ。私は1981年に初めてレコードとして発売するための音源をスタジオで録音したのだけれど、最初のレコーディングから“クジラ”はスタジオにいた。海外のミュージシャンのレコーディング風景にも頻繁に写っているマイクだから、私はそれがゼンハイザーの名機だとすでに知っていたのだが、そういうことをいつ、誰に教わったのかは記憶にない。 この原稿を書くにあたって、ここ数年、私のレコーディングをやってくれているエンジニアのW君に電話取材した。すると“クジラ”の初期型は白くて、白の時代のモデルでも10パターンぐらいあるそうだ。「ごく初期の型はゼンハイザーの文字が筆記体。“白クジラ”はエンジニア界では世界的に人気なんスよ」とのこと。「チョー欲しい」そうだ。 近年の有名なユーザーは、スウェーデンのプロデューサー/エンジニア、トーレ・ヨハンセン。原田知代やボニー・ピンクもその独特なサウンドを求めてスウェーデンまで出掛けているぐらいだから、日本でもすっかり有名な人だが、W君によれば、カーディガンズの女性シンガー、ニナのヴォーカルはほとんど“クジラ”で録っているそう。なるほど、あの“オールディーズ風”は中域がぐっと持ち上がる“クジラ”の特性を利用しての成果だったんだな、と私は納得した。 |
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スタジオでよく使うのは「HD600」などだが、ゼンハイザーのヘッドホンは総じてボリュームが小さめだから、私のように声がデカく、爆音でモニターしたい、というシンガーの「録り」には向かない。そのかわり、全体の楽器のバランスをシビアにチェックしなければならないミックス・ダウンのときには、音の粒立ちがいいゼンハイザーが大活躍してくれるのである。 新製品のダイナミックヘッドホン「HD238」「HD228」は非常にリーズナブルな価格だが、「小さい音でもバランスよく聴け、ボリュームを上げていってもそのバランスが崩れない」というゼンハイザーのヘッドホンの持ち味は、まったく失われていない。
私はオープン・エア・タイプの「HD238」の方がよりゼンハイザーらしいと感じたが、iPodユーザーには密閉型を好む人も多いから、「HD228」は安価でゼンハイザーの音を楽しんでもらおうという試みなのかもしれない(HD228の方がSマークが大きいのも、若者たちに「おっ、ゼンハイザーじゃん!」と思わせるための仕掛けか?)。
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