「ゼンハイザー」を知らないプロミュージシャンはいない。そう断言できるくらいゼンハイザーのマイクロフォン、ヘッドホンはプロフェッショナルの現場で圧倒的な支持を獲得している。ミュージシャンであり音楽評論家としても幅広く活躍する和久井光司氏に憧れのゼンハイザーブランド、そして伝統のゼンハイザーサウンドを受け継いだ新製品のヘッドホン「HD238」「HD228」について素直な想いを語ってもらった。


我々ミュージシャンにとって、ゼンハイザーといえば、まずはマイクロフォンである。“クジラ”と呼ばれる黒と銀の四角っぽいやつ、MD−421は、どこのレコーディング・スタジオにもあるし、エンジニアによっては中〜低音域の楽器に多用する。最もポピュラーなのは、ドラムのタムタム類(バス・ドラムに使うエンジニアも少なくない)。ギター・アンプ、ベース・アンプ。もちろん、ヴォーカル録りに使うことだってある。

MD421の音質を引き継いだゼンハイザーのマイクロフォン「 MD 421 II」。その外観からミュージシャンやエンジニアには“クジラマイク”と呼ばれている

昔からずっとそうだ。私は1981年に初めてレコードとして発売するための音源をスタジオで録音したのだけれど、最初のレコーディングから“クジラ”はスタジオにいた。海外のミュージシャンのレコーディング風景にも頻繁に写っているマイクだから、私はそれがゼンハイザーの名機だとすでに知っていたのだが、そういうことをいつ、誰に教わったのかは記憶にない。

この原稿を書くにあたって、ここ数年、私のレコーディングをやってくれているエンジニアのW君に電話取材した。すると“クジラ”の初期型は白くて、白の時代のモデルでも10パターンぐらいあるそうだ。「ごく初期の型はゼンハイザーの文字が筆記体。“白クジラ”はエンジニア界では世界的に人気なんスよ」とのこと。「チョー欲しい」そうだ。

近年の有名なユーザーは、スウェーデンのプロデューサー/エンジニア、トーレ・ヨハンセン。原田知代やボニー・ピンクもその独特なサウンドを求めてスウェーデンまで出掛けているぐらいだから、日本でもすっかり有名な人だが、W君によれば、カーディガンズの女性シンガー、ニナのヴォーカルはほとんど“クジラ”で録っているそう。なるほど、あの“オールディーズ風”は中域がぐっと持ち上がる“クジラ”の特性を利用しての成果だったんだな、と私は納得した。

 

「HD228」を試聴する和久井氏
“クジラ”の次にポピュラーなのが、ヘッドフォンだ。レコーディングでは演者がモニターするのはヘッドフォンと相場が決まっているから、スタジオには名器がごろごろしているもので、曲によってヘッドフォンを変えたり、使い分けたりもする。だから常にゼンハイザーということはないのだが、オープンエアータイプの名器を好むエンジニアやミュージシャンは非常に多い。

スタジオでよく使うのは「HD600」などだが、ゼンハイザーのヘッドホンは総じてボリュームが小さめだから、私のように声がデカく、爆音でモニターしたい、というシンガーの「録り」には向かない。そのかわり、全体の楽器のバランスをシビアにチェックしなければならないミックス・ダウンのときには、音の粒立ちがいいゼンハイザーが大活躍してくれるのである。

新製品のダイナミックヘッドホン「HD238」「HD228」は非常にリーズナブルな価格だが、「小さい音でもバランスよく聴け、ボリュームを上げていってもそのバランスが崩れない」というゼンハイザーのヘッドホンの持ち味は、まったく失われていない。

ダイナミックヘッドホン「HD238」
ダイナミックヘッドホン「HD228」

私はオープン・エア・タイプの「HD238」の方がよりゼンハイザーらしいと感じたが、iPodユーザーには密閉型を好む人も多いから、「HD228」は安価でゼンハイザーの音を楽しんでもらおうという試みなのかもしれない(HD228の方がSマークが大きいのも、若者たちに「おっ、ゼンハイザーじゃん!」と思わせるための仕掛けか?)。

ゼンハイザーのSマークがカッコいい「HD228」。音漏れを抑え電車の中でも気軽に使用できる密閉型を採用しており、カジュアルにゼンハイザーサウンドを楽しむことができる


デジタルオーディオプレーヤーの出現で音楽が携帯されるようになってからは、中音域ばかりがどーんと出たり、出力で勝負というヘッドフォンが少なくなくなった。しかし、本来ヘッドフォンに求められるのは、「全体のバランスのよさ」であるべきだ。私は、ゼンハイザーはトレンドに流されることなく「ヘッドフォンの役目とは何か」を追求してきたメーカーだ、と常々感じてきたのだけれど、それが「HD238」「HD228」のような低価格のモデルでも揺らがないのだから嬉しい。「この頑固さがドイツだな」と、思わずニンマリさせられた。

「HD238」は軽量コンパクトな設計だが、ゼンハイザー独自のオープンエアー技術を活かし音質にもこだわりをみせる
「HD238」「HD228」ともプラグ部は3.5mmストレート型を採用。ケーブルの長さは1.4m

 



オープン型ヘッドホン
HD238

¥OPEN(予想実売価格10,000円前後)

●型式:ダイナミック・オープン型 ●周波数特性:16Hz〜23kHz ●インピーダンス:32Ω ●感度:114dB ●質量:107g(ケーブル除く)

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密閉型ヘッドホン
HD228

¥OPEN(予想実売価格7,000円前後)

●型式:ダイナミック・密閉型 ●周波数特性:18Hz〜22kHz ●インピーダンス:24Ω ●感度:110dB ●質量:96g(ケーブル除く)

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