SHUREは、業務用音響機器の世界では誰もが知る一大ブランドである。マイクやワイヤレスシステム、ミキサーなど、プロの現場に向けて種々の機材を提供している。
同社のイヤフォンもその出自は、ステージモニターというプロユースにさかのぼる。ミュージシャンがステージ上で自身の演奏や他のパートの音をモニタリングするために使われるイヤフォンだ。 プロユースでは、遮音性の高さと音の明瞭さが高いレベルで要求される。同社イヤフォンは当然、その要求を満たすものとして完成された。その結果、同社Eシリーズのイヤフォンは、屋外でも高音質を楽しみたいというオーディオファンの要求も満たすものとなった。折からのiPodブームも重なり、コンシューマー市場で好評を博したのは記憶に新しい。 その好評を受け、E Seriesの音質や装着感にさらに磨きを掛けたのが、今回紹介するSEシリーズというわけだ。今回はシリーズを代表してそのローエンドとトップエンド、SE110とSE530を紹介させていただく。 |
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SEシリーズのエントリーモデルであるSE110は、低価格を実現しつつも、骨子となる部分は上位モデルと共通。SE110の紹介は、シリーズ共通の主要素の紹介も兼ねることになる。
まず全体の形式はいわゆるカナル型。耳栓状のイヤープラグを耳の穴に挿入して装着するタイプだ。このカナル型という形式では、イヤープラグの形状や素材が、装着のしやすさや装着感、遮音性、そして音質にも大きく影響する。しかしEシリーズ付属のフォーム・イヤパッドは、遮音性は優れていたが、やや装着しにくく汚れが目立ちやすいなど、コンシューマ向けとしては改善の余地もあった。 そこで新たにソフト・フォーム・イヤパッドが用意された。形状を砲弾型にして装着しやすくし、表面をラテックス・コーティングして耐久性も向上。少し潰して耳に押し込むだけで、快適なフィット感と、本当に耳栓並みの遮音性を得られる。 同社イヤフォンのもうひとつの大きな特徴は、バランスド・アーマチュア方式のユニットを採用すること。同方式は、小さく薄い振動板をドライブピンを介して振動させることで発音する仕組み。一般的なダイナミック方式と比べると可動部の質量が軽いため、音声信号の変化に俊敏に反応でき、特に高域の再現性に大きな優位性を持つとされる。 より快適なフィット感とルックスのよさを目指したと思われるスタイリッシュな外装も、SEシリーズの特徴だ。SE110のハウジングは球体に近いシンプルな形状。ルックス的にも違和感がないし、前述のソフト・フォーム・イヤパッドと合わせてフィット感も高い。
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では、音を聴いてみよう。
上原ひろみ「BEYOND STANDARD」は、ロックの感触も強く感じられる、現代的なジャズ。多弦エレクトリック・ベースの音色は速さが際立つ。そして明瞭でタイト。特にアップテンポの曲でリズムをもたつかせず、むしろぐんぐん引っ張ってくれる。 バンドの中で最もロックを感じさせる演奏のドラムス。シンバルの細かなフレーズもその音色の芯を捉え、やはりリズムを立たせてくれる。スネアのハード・ヒットはバシッと荒っぽさを残したキレ味だ。ピアノが音を重ね空間を広げていく様、ギターの多彩な音色も丁寧に描き切る。 FAKiEの「To The Limit」はボーカルに注目して試聴。歌い上げながらさっぱりとした感触も残す、ナチュラルな女性ボーカル。その「さっぱり」の部分をうまく引き出していると感じた。詰まることのない伸びやかさにも満足。ボーカルとギターのみのシンプルな構成のバランスを崩さず、細かなニュアンスまで逃がさず。このソースとの相性は実に良好だ。 総じて、特に中高域の再現力は期待以上のレベル。この価格帯に求められる水準は軽くクリアしていると言えるだろう。シリーズの魅力を十分に伝えてくれるエントリーモデルである。 |
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SEシリーズのトップエンド。カナル型&バランスド・アーマチュア方式ユニットの組み合わせはシリーズ不動のものだが、加えて実に贅沢な仕様が盛り込まれている。
バランスド・アーマチュア方式は可動部分が軽量であるため、音声信号への反応・追従性に優れ、中高域の再現性が高い。しかし逆に言えば同方式は、低域の再現性、特に量感の表現はやや不得手。SE110でもその点は、全体のバランスを損なうほどではないものの、確かに感じられた。しかしSE530は、その弱点を完全に克服している。 それを実現したのはある種の力技だ。SE530は、高域用に1基、低域用に2基のユニットを搭載した、2ウェイ3ユニット構成を採用しているのだ。
複数ユニットを適切に搭載すれば、再生音域の拡大、音域内の再現性の向上を得られるというのは、スピーカーでおなじみの発想である。しかしそれをイヤフォンで実現できたのはバランスド・アーマチュア方式だからこそ。同方式のユニットは、サイズが極めて小さいのだ。同方式だからこそ、イヤフォンのサイズに複数のユニットと付随するクロスオーバー回路を搭載することが可能なのである。 ただし、極小サイズの加工・組み上げが必要な同方式のユニットは生産コストが高い。3ユニット構成は、トップエンドモデルだからこそ可能な選択である。 低音域の改善には独自の技術がもうひとつ投入されている。チューンド・ベースポートだ。ドライバーユニットの一部に空気孔を設け、ユニット周辺の空気の流れを整える。すると振動板の振動がよりスムースになり、低音域が豊かになるのだという。 デザイン的には、SE110よりもさらに有機的なラインを持ち、表面は金属的な光沢で仕上げられている。もちろんソフト・フォーム・イヤパッドが付属し、それと合わせての装着感は良好だ。
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SE110と同じく上原ひろみ「BEYOND STANDARD」から試聴。 ベースラインが明らかに太い。分厚いと言ってもよい。ドラムスの一打一打も重みを増している。しかもそれでいて、SE110と同様に、音に速さを感じる。バスドラムで言えば、「ドッスン」ではなく「ドンッ」と届く。これが心地よい。シンバルは、音の芯の強さはそのままに、そこから広がる音の粒子がより豊かだ。キレと同時に微妙なニュアンスも描き出す、その描写の精度の高さも素晴らしい。 ひとつひとつの音についても、音場全体についても、SE110から高低両域にレンジを広げつつ、重心をぐっと落として安定感を増した印象。さらに音場の密度も高まっている。窮屈という意味ではない。ベース・ソロの背景でピアノがアルペジオで音を重ねていく場面では、音場に音の粒子が溢れているという感覚にさせられた。 FAKiE「To The Limit」では、ギターの低音弦のミュート奏法がくっきりと力強い。アルペジオの粒立ちもよく、弦の一本一本を弾く指先を想像してしまうような生々しさがある。歌声はSE110同様のさっぱりとした手触りも残しつつ、深みや肉声感といったところでさらに上を行く描写。伸びやかさに厚みが伴い、迫力も増す。 発表時にその仕様を知ったときには「3ユニット搭載!」と驚かされたものだが、音の印象はさらに強烈。価格も強烈だが、その音にはそこを押し切るだけの説得力がある。イヤフォン・リスニングの可能性の高さを感じさせる逸品だ。 |
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・ヒビノ
SHURE製品情報ページ http://www.hibino.co.jp/proaudiosales/product/shure/ |
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