マランツ「11シリーズ」大ヒットの舞台裏(3)− 貝山知弘が語る、11S3の「パーフェクト」なサウンド
マランツから昨年7月に登場したSACDプレーヤー「SA-11S3」とプリメインアンプ「PM-11S3」、今年2月発売のUSB-DAC/ネットワークプレーヤー「NA-11S1」が驚異的な売上台数を記録しているという。その舞台裏を探る連続企画の第3回では、数々の優れた製品に触れてきたオーディオ評論家たちが、「11シリーズ」の持つ魅力を語る。
単なるアップグレードではなく
1ランク上のモデルへの転化とも言える「SA-11S3」
昨年発売されたマランツのNEW11シリーズのSACDプレーヤー「SA-11S3」とプリメインアンプ「PM-11S3」のコンビがユーザーから高い評価を得てロングセラーを続けていると聞いた。嬉しいことである。この2機種のうち「SA-11S3」については私自身が誌上で高く評価した製品だったからだ。評論家の立場から言えば、自らが薦めた製品が多くのユーザーに受け入れられるほど嬉しいことはない。
この製品は2007年に登場しロングセラーを続けた「SA-11S2」の後継モデルと位置付けされている。後継機では前作をアップグレードした箇所があるのは常識だが、本機の内容を調べるとその度合いが著しく高いことに気づいた。これはアップグレードというより1ランク上のモデルへの転化と取った方が判りやすい。同社のデジタルプレーヤーのフラグシップモデルは2006年に発表された受注生産モデル「SA-7S1」だったが、本機の内容はこの製品に限りなく近く、そのMK2バージョンと言ってもよい出来映えであった。その上、ある部分では新開発の回路やパーツを加えたことで、SA-7S1をさえ越える性能・音質が得られているのだ。
本機の改良点は12箇所に及ぶが、音質に大きく関わるのは次の5箇所だ。
(1)最新の高剛体回転メカ(第6世代)を採用し、ディスクが高速度で回転する時に起こるバイブレーションを徹底的に抑えた。
(2)DACのクロックに最新クリスタル・チップを採用し、超低位相雑音化を実現した。
(3)192kHz/24bit高出力電流DACの採用。DACはバーブラウンの「DSD1792A」を採用。DACには電圧出力型と電流出力型があるが純粋に高音質を望むなら大きな電流を取り出せる電流出力型チップの方が有利である。本機では電流出力型のバーブラウン「DSD1792A」を採用し、Bi-MOSタイプの高電流の出力バッファーアンプを加えている。このチップは24bitだが、総合的な音質に優れているという判断だ。
(4)オリジナルのDSP8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルターPEC777f3の採用。これはハイレゾ音源再生対応のためで、32/44.1/48/88.2/96/176.4/192KHzサンプリングに対応している。
(5)トロイダル電源トランスの容量を50VA(20A増)と大型化。この差が音の余裕につながっているのは明らかだ。
回路やパーツの随所でグレードアップが図られた
新フラグシッププリメイン「PM-11S3」
「SA-11S3」とコンビを組む「PM-11S3」は、同社プリメインアンプの新しいフラグシップモデルだ。前作PM-11S2と比較すると回路やパーツの随所でグレードアップが計られている。前作の完成度がかなり高かったのでSA-11S3ほどの大幅な改善とは言えないが、11項目を見直した結果は音質にはっきりと現れている。
最も大きな改善点はバワーアンプ、バッファー段のハイスピード化である。細かく言えば回路の面積を小さくすると同時にプリドライバーを強化している。パーツではボリュームをマイクロアナログシステムズ社のMAS6116に変更し、ノイズを低減し、左右チャンネルのセパレーションを向上させている。また金メッキを施した銅製の自社開発スピーカー端子を採用し、自然でしなやかなサウンドに結びつけている。〈パワーアンプ・ダイレクト・入力端子〉を新設し、本機をピュアなパワーアンプとして活用出来るようにしたこと、そして新しく設計されたリモコンでプレーヤーとアンプを1台で制御できるようになったことも便利だ。
音楽を聴くのにもっとも好ましい性格を持った製品
「パーフェクト」と言えるサウンド
SA-11S3とPM-11S3の音質については、回を重ねた試聴で充分に把握している。プレーヤー、アンプとも単独での試聴もしているし、両者を組み合わせた試聴も行なった。今回は両者の組み合わせで得られる音質について記述しておこう。
このコンビが生み出すサウンドに対しては自信をもって「パーフェクト」と言いたい。あらゆる意味でバランスが整い、ほとんどすべてのチェック項目で高得点が与えられる。具体的に言えばあらゆる周波数帯域でエネルギー・バランスが見事に整い、音場のクリアネスが高く、音像の定位が明確に表出できる。解像度は高く演奏細部の表現 − 微妙な音調や音色、テンポやリズムの微細な動きなど − をあますことなく聴くことができる。音の豊かさと力強さが両立し、パーフェクトにバランスしていることも特記していい。
総体的にごく自然な音調が支配しているが、テンションの張った中・高音域の表現でも刺激的にはならず、緊張感のエッセンスがピュアに伝わってくるし、唸るように重々しい低音域でもブーミーにはならず量感と力感が巧みにバランスしている。ここまで透徹した響きが聴けるのは、全体にノイズの抑制が効き、中・高音に付きまとう付帯音がなく、歪みも極小に抑えられているからだ。
マランツ11シリーズの製品は音楽を聴くのにもっとも好ましい性格を持った機器だ。試聴中に何度も「演奏の華」に出会えたというのがその実証である。
[連続企画]マランツ「11シリーズ」大ヒットの舞台裏 インデックスページはこちら>>
単なるアップグレードではなく
1ランク上のモデルへの転化とも言える「SA-11S3」
昨年発売されたマランツのNEW11シリーズのSACDプレーヤー「SA-11S3」とプリメインアンプ「PM-11S3」のコンビがユーザーから高い評価を得てロングセラーを続けていると聞いた。嬉しいことである。この2機種のうち「SA-11S3」については私自身が誌上で高く評価した製品だったからだ。評論家の立場から言えば、自らが薦めた製品が多くのユーザーに受け入れられるほど嬉しいことはない。
この製品は2007年に登場しロングセラーを続けた「SA-11S2」の後継モデルと位置付けされている。後継機では前作をアップグレードした箇所があるのは常識だが、本機の内容を調べるとその度合いが著しく高いことに気づいた。これはアップグレードというより1ランク上のモデルへの転化と取った方が判りやすい。同社のデジタルプレーヤーのフラグシップモデルは2006年に発表された受注生産モデル「SA-7S1」だったが、本機の内容はこの製品に限りなく近く、そのMK2バージョンと言ってもよい出来映えであった。その上、ある部分では新開発の回路やパーツを加えたことで、SA-7S1をさえ越える性能・音質が得られているのだ。
本機の改良点は12箇所に及ぶが、音質に大きく関わるのは次の5箇所だ。
(1)最新の高剛体回転メカ(第6世代)を採用し、ディスクが高速度で回転する時に起こるバイブレーションを徹底的に抑えた。
(2)DACのクロックに最新クリスタル・チップを採用し、超低位相雑音化を実現した。
(3)192kHz/24bit高出力電流DACの採用。DACはバーブラウンの「DSD1792A」を採用。DACには電圧出力型と電流出力型があるが純粋に高音質を望むなら大きな電流を取り出せる電流出力型チップの方が有利である。本機では電流出力型のバーブラウン「DSD1792A」を採用し、Bi-MOSタイプの高電流の出力バッファーアンプを加えている。このチップは24bitだが、総合的な音質に優れているという判断だ。
(4)オリジナルのDSP8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルターPEC777f3の採用。これはハイレゾ音源再生対応のためで、32/44.1/48/88.2/96/176.4/192KHzサンプリングに対応している。
(5)トロイダル電源トランスの容量を50VA(20A増)と大型化。この差が音の余裕につながっているのは明らかだ。
回路やパーツの随所でグレードアップが図られた
新フラグシッププリメイン「PM-11S3」
「SA-11S3」とコンビを組む「PM-11S3」は、同社プリメインアンプの新しいフラグシップモデルだ。前作PM-11S2と比較すると回路やパーツの随所でグレードアップが計られている。前作の完成度がかなり高かったのでSA-11S3ほどの大幅な改善とは言えないが、11項目を見直した結果は音質にはっきりと現れている。
最も大きな改善点はバワーアンプ、バッファー段のハイスピード化である。細かく言えば回路の面積を小さくすると同時にプリドライバーを強化している。パーツではボリュームをマイクロアナログシステムズ社のMAS6116に変更し、ノイズを低減し、左右チャンネルのセパレーションを向上させている。また金メッキを施した銅製の自社開発スピーカー端子を採用し、自然でしなやかなサウンドに結びつけている。〈パワーアンプ・ダイレクト・入力端子〉を新設し、本機をピュアなパワーアンプとして活用出来るようにしたこと、そして新しく設計されたリモコンでプレーヤーとアンプを1台で制御できるようになったことも便利だ。
音楽を聴くのにもっとも好ましい性格を持った製品
「パーフェクト」と言えるサウンド
SA-11S3とPM-11S3の音質については、回を重ねた試聴で充分に把握している。プレーヤー、アンプとも単独での試聴もしているし、両者を組み合わせた試聴も行なった。今回は両者の組み合わせで得られる音質について記述しておこう。
このコンビが生み出すサウンドに対しては自信をもって「パーフェクト」と言いたい。あらゆる意味でバランスが整い、ほとんどすべてのチェック項目で高得点が与えられる。具体的に言えばあらゆる周波数帯域でエネルギー・バランスが見事に整い、音場のクリアネスが高く、音像の定位が明確に表出できる。解像度は高く演奏細部の表現 − 微妙な音調や音色、テンポやリズムの微細な動きなど − をあますことなく聴くことができる。音の豊かさと力強さが両立し、パーフェクトにバランスしていることも特記していい。
総体的にごく自然な音調が支配しているが、テンションの張った中・高音域の表現でも刺激的にはならず、緊張感のエッセンスがピュアに伝わってくるし、唸るように重々しい低音域でもブーミーにはならず量感と力感が巧みにバランスしている。ここまで透徹した響きが聴けるのは、全体にノイズの抑制が効き、中・高音に付きまとう付帯音がなく、歪みも極小に抑えられているからだ。
マランツ11シリーズの製品は音楽を聴くのにもっとも好ましい性格を持った機器だ。試聴中に何度も「演奏の華」に出会えたというのがその実証である。
貝山知弘 Tomohiro Kaiyama 早稲田大学卒業後、東宝に入社。東宝とプロデュース契約を結び、13本の劇映画をプロデュースした。代表作は『狙撃』(1968)、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970)、『化石の森』(1973)、『雨のアムステルダム』(1975)、『はつ恋』(1975)。独立後、フジテレビ/学研製作の『南極物語』(1983)のチーフプロデューサー。映画製作の経験が批評眼として現れている。 |
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