コピー禁止が認められる可能性
4K/8K無料放送は「録画禁止」に? NexTV-F発表の規定が大きな波紋
4K/8K放送が今後本格化することをご存じの方は多いだろう。リオ五輪が開かれる今年2016年にはBSを使った4K/8K放送が開始。2018年にはBS/110度CSで実用放送を開始するロードマップが総務省から公表されている。
その次世代放送の早期実現のため、技術仕様の検討や検証、実用化のための試行や開発を行うのが、一般社団法人 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)。そのNexTV-Fが昨年末、12月25日に公開した技術資料が波紋を呼んでいる。
話題となっているのは「高度広帯域衛星デジタル放送運用規定」という資料で、NexTV-FのサイトにPDFで公開されている。
この資料は、前述の4K/8Kロードマップに示されたBS/CS放送に関して、放送の運用ルールや受信機の仕様などを定めたものだ。全部で1,137ページもある資料なので、一般の方がすべてに目を通すのは難しい。
■無料放送も「録画禁止」運用が可能になるかもしれない
注目したいのは、一つの図表中にさりげなく記載されている文字列だ。我々消費者にとって大変重要な事柄が書かれている。923ページの「コンテンツ保護に関する運用規定」と書かれた表である。
これまでデジタル放送では、月極め等有料放送やコンテンツ保護を伴う無料番組について、コピー禁止の運用を禁じていた。つまり上記の表の書き方に倣うと「運用不可」となっていた。
だが12月25日に発表された資料のバージョン1.0では、この部分が「T.B.D」となっている。T.B.Dとは「To Be Determined」、つまり未定ということである。
現在、WOWOWなど月極め有料放送や民放の無料放送で、録画できない番組は存在しない。そもそも、これまでは「コピー禁止=録画禁止」の運用が禁じられていたからだ。
この「T.B.D」が、もし今後の議論を経て「運用可」になると、月極め有料放送はおろか、無料放送ですら、録画禁止にすることが可能になってしまう。
業界関係者によると、今回この部分がT.B.Dとなっているのは、民放テレビ局各社の意向が強く働いた結果であるという。「仕様を決める過程で、コピー禁止を可能とすることに対して、在京民放5局すべてが賛同した」と関係者は語る。
録画禁止の運用が可能になったとしても、それが運用されなければ問題はないのでは、という考え方もあるだろう。だが、たった1つの番組でも録画禁止番組が存在すれば、消費者側からすると「なぜか録画できない番組があった」となり、混乱や動揺が広がるはずだ。
さらに録画禁止番組が増えてくれば「この番組は録画できる、この番組は録画できない」など、消費者が録画予約を行う際に都度チェックしなければならなくなり、利便性が大きく損なわれる。
さらに言うと、各放送局がこぞって、ほぼ全ての番組を録画禁止にすることも、可能性として考えられなくはない。そうなったらまさに悪夢である。
4Kや8K放送は、画質や音質を高めた高度な放送によって我々の生活を豊かにするため、総務省をはじめ国や企業が一体となって推し進めている一大プロジェクトだ。もちろん大量の税金も投入される。その次世代放送が、オンタイムでしか見られなくなるとしたら…。次世代どころの話ではない。一気に昭和30年代、40年代へと逆戻りになってしまう。
現在でもVODで見逃し番組配信が行われているのだから、見逃したらそちらで見れば良いと民放各社は主張するかもしれない。だが、せっかくの4K/8K放送を数インチの画面で見てもあまり意味は無い。なんのために画質を4Kや8Kにしたのか、なぜ次世代放送を進めるのかわからなくなってしまう。
■録画禁止は放送普及の観点からもマイナスだ
4K/8K放送の普及拡大を促進するという観点からも、「録画禁止が可能になる」ことは望ましくない。
レコーダーの国内市場規模は、およそ年間500〜600万台程度である。これが地上デジタル開始当初は約1,000万台に伸びた。なぜかというと、レコーダーを地デジのチューナーとして購入する方が続出したからである。日本では単体チューナーを買う文化がなく、レコーダーがその代わりになっている。消費者心理を考えたとき、「新しい放送も見られて、かつ録画もできる」というのが、多くの方にとってレコーダーを購入する大義名分となっていた。
もし録画ができないとなったら、ここがすっぽりと抜け落ちる。「録画はできません。見たければ単体チューナーを買ってください」と言われて、素直に従う消費者がどれだけいるだろうか。4K/8K放送の普及拡大にとって大きなマイナスであることは間違いない。
そもそも放送は、国が定めた事業者しか行えない許認可事業である。録画すらできない放送を、免許で守られた放送局が行うことを、果たして消費者は許すだろうか。
◇
テレビ離れが叫ばれるなか、少しでも視聴率を上げたい民放各社は、現行指標では視聴者数としてカウントされにくい録画を快く思っていないはずだ。
録画禁止という「カード」を持っておきたいという放送局の思いは理解できなくもないが、そのカードをどこかが使えば、かなり高い確率で他社も追随する。そうなれば消費者は混乱し、次世代放送への不満も噴出するだろう。冷静になって考えたら、録画を禁止することは自殺行為以外のなにものでもない。
現在「T.B.D」となっている部分は、早急に「運用不可」とすべきだ。それが放送の普及や市場・業界の発展、何より消費者の利便性保護の観点から望ましい。
その次世代放送の早期実現のため、技術仕様の検討や検証、実用化のための試行や開発を行うのが、一般社団法人 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)。そのNexTV-Fが昨年末、12月25日に公開した技術資料が波紋を呼んでいる。
話題となっているのは「高度広帯域衛星デジタル放送運用規定」という資料で、NexTV-FのサイトにPDFで公開されている。
この資料は、前述の4K/8Kロードマップに示されたBS/CS放送に関して、放送の運用ルールや受信機の仕様などを定めたものだ。全部で1,137ページもある資料なので、一般の方がすべてに目を通すのは難しい。
■無料放送も「録画禁止」運用が可能になるかもしれない
注目したいのは、一つの図表中にさりげなく記載されている文字列だ。我々消費者にとって大変重要な事柄が書かれている。923ページの「コンテンツ保護に関する運用規定」と書かれた表である。
これまでデジタル放送では、月極め等有料放送やコンテンツ保護を伴う無料番組について、コピー禁止の運用を禁じていた。つまり上記の表の書き方に倣うと「運用不可」となっていた。
だが12月25日に発表された資料のバージョン1.0では、この部分が「T.B.D」となっている。T.B.Dとは「To Be Determined」、つまり未定ということである。
現在、WOWOWなど月極め有料放送や民放の無料放送で、録画できない番組は存在しない。そもそも、これまでは「コピー禁止=録画禁止」の運用が禁じられていたからだ。
この「T.B.D」が、もし今後の議論を経て「運用可」になると、月極め有料放送はおろか、無料放送ですら、録画禁止にすることが可能になってしまう。
業界関係者によると、今回この部分がT.B.Dとなっているのは、民放テレビ局各社の意向が強く働いた結果であるという。「仕様を決める過程で、コピー禁止を可能とすることに対して、在京民放5局すべてが賛同した」と関係者は語る。
録画禁止の運用が可能になったとしても、それが運用されなければ問題はないのでは、という考え方もあるだろう。だが、たった1つの番組でも録画禁止番組が存在すれば、消費者側からすると「なぜか録画できない番組があった」となり、混乱や動揺が広がるはずだ。
さらに録画禁止番組が増えてくれば「この番組は録画できる、この番組は録画できない」など、消費者が録画予約を行う際に都度チェックしなければならなくなり、利便性が大きく損なわれる。
さらに言うと、各放送局がこぞって、ほぼ全ての番組を録画禁止にすることも、可能性として考えられなくはない。そうなったらまさに悪夢である。
4Kや8K放送は、画質や音質を高めた高度な放送によって我々の生活を豊かにするため、総務省をはじめ国や企業が一体となって推し進めている一大プロジェクトだ。もちろん大量の税金も投入される。その次世代放送が、オンタイムでしか見られなくなるとしたら…。次世代どころの話ではない。一気に昭和30年代、40年代へと逆戻りになってしまう。
現在でもVODで見逃し番組配信が行われているのだから、見逃したらそちらで見れば良いと民放各社は主張するかもしれない。だが、せっかくの4K/8K放送を数インチの画面で見てもあまり意味は無い。なんのために画質を4Kや8Kにしたのか、なぜ次世代放送を進めるのかわからなくなってしまう。
■録画禁止は放送普及の観点からもマイナスだ
4K/8K放送の普及拡大を促進するという観点からも、「録画禁止が可能になる」ことは望ましくない。
レコーダーの国内市場規模は、およそ年間500〜600万台程度である。これが地上デジタル開始当初は約1,000万台に伸びた。なぜかというと、レコーダーを地デジのチューナーとして購入する方が続出したからである。日本では単体チューナーを買う文化がなく、レコーダーがその代わりになっている。消費者心理を考えたとき、「新しい放送も見られて、かつ録画もできる」というのが、多くの方にとってレコーダーを購入する大義名分となっていた。
もし録画ができないとなったら、ここがすっぽりと抜け落ちる。「録画はできません。見たければ単体チューナーを買ってください」と言われて、素直に従う消費者がどれだけいるだろうか。4K/8K放送の普及拡大にとって大きなマイナスであることは間違いない。
そもそも放送は、国が定めた事業者しか行えない許認可事業である。録画すらできない放送を、免許で守られた放送局が行うことを、果たして消費者は許すだろうか。
テレビ離れが叫ばれるなか、少しでも視聴率を上げたい民放各社は、現行指標では視聴者数としてカウントされにくい録画を快く思っていないはずだ。
録画禁止という「カード」を持っておきたいという放送局の思いは理解できなくもないが、そのカードをどこかが使えば、かなり高い確率で他社も追随する。そうなれば消費者は混乱し、次世代放送への不満も噴出するだろう。冷静になって考えたら、録画を禁止することは自殺行為以外のなにものでもない。
現在「T.B.D」となっている部分は、早急に「運用不可」とすべきだ。それが放送の普及や市場・業界の発展、何より消費者の利便性保護の観点から望ましい。