なぜ型番が“3300”ではなく“AZ2”になったのか
 本機は型番からわかるように、同社のフラグシップモデルDSP-AZ1(30万円) 直系の製品だ。18万円という価格帯は、昨年のラインナップ上でみると、DSP-AX3200(17万円) のあったポジションである。価格的にはその後継機といっていい本機が、なぜ、AZ2となったのか? 
 理由は2つある。まず、本機は、DSP-AZ1と同じく6.1チャンネルまでの全ての音声フォーマットに対応した上、ヤマハ独自の8ch(チャンネル)シネマDSP再生が可能なAVアンプであることが挙げられる。サラウンドバックを含めた6.1chに、さらにフロントエフェクト2chを加えたこの再生方式は、音場の高さや、左右、奥行方向の広がりを、より多彩に表現することが出来る。フロントエフェクトスピーカーからは音場成分だけが再生されるからフロントL/C/Rからの音は乱さずに、前方の音場を自由に広げることが可能なのだ。

 搭載している技術内容が、同社のフラグシップモデルDSP-AZ1に近いというのが次の理由だ。パワーアンプは8チャンネル分が内蔵されている。メイン6チャンネルの定格出力はAZ1と同じ130W。(6オーム/最大出力時測定時の歪率が0.005%違う)。フロントエフェクトの出力がAZ1の45W×2に比べ、25W×2と小さくなっているだけだ。スピーカーを駆動する能力を高めるための、徹底したローインピーダンス設計もDSP-AZ1に準じたものだ。電源トランスは低インピーダンス仕様で、8.9kgという重量級のものが使用され、電解コンデンサーには、22,000マイクロという大容量のものが2個使用されている。


フラグシップモデル「DSP-AZ1」に極めて近い実力を備える
 従来の倍70μm 厚の銅箔を使ったプリント基板、極太のジャンパーピン、銅製アースポイントなども、低インピーダンス化対策の一環である。これらは、すべてロスのない伝送、ロスのない駆動を実現するために威力を発揮する。オーディオDAC、電子ボリュウムなどパーツメーカーの違いはあるが、本機の内容は、DSP-AZ1のエッセンスを大幅に受け継いでいることがわかる。
 音質向上のためにとられた新しい工夫もある。少し専門的になるが、出力段のアイドル電流のドラフト(揺れ)を無調整化したことがそれに当たる。出力段の素子が安定して動作するためには、アイドル電流が正常であることが重要だ。従来は、放熱器の温度を検知して流す電流量を変えていたが、これだと、検知してから補正が完了するまでに時間がかかる。

本機では、出力トランジスタのベース電流を直接監視して補正するので、時間のずれがなく、常に正常な電流値が得られようになった。今まではじわじわと揺れながら収束したものが、瞬時に収束するので、その差は大きく音質に表れるのだ。
 ヤマハの最新のAVアンプは、サラウンド音声はもちろん、ステレオ再生時の音質についても、十分に検討されている。最近では、ピュアオーディオ専用のアンプが少なくなり、AVアンプでステレオ再生も行うユーザーが増えてきた。その場合には、2ch再生での音質がことさら重要になる。今回の視聴では、この点についても十分なチェックをおこなっている。


←フロントパネルを開けたところ。ヘッドホン端子やBASS/TREBLEの調整ダイヤル、REC OUTの切替などが可能(以下の写真はすべてクリックで拡大)
←本機の背面端子部。入力端子は2CHアナログ音声×11、6CHアナログ音声×1、光デジタル×5、同軸デジタル×2、ビデオ×6、S映像×6、RCA色差×2、D4端子×2。出力端子はアナログ音声REC OUT×4、光デジタル×2、ビデオ×2、S映像×2、モニターアウト(ビデオ)×1、S映像×1、RCA色差×1、D4端子×1

音の美しさはAVアンプの中でピカ一
 試聴はヤマハの試聴室で1回、自宅で1回行って万全を期した。
 まずCDで『アルジェのイタリア女』(アバド/グラモフォン盤)を聞く。ウエルバランスで、透明な美しいサウンドだというのが第一印象。オーケストラのテュッティ(全奏)の響きが活き活きと表現される。低音の沈み込みが深く、十分なスケール感が表出されている。バランスはフラットで、特定の音域の癖がないから、ごく自然な響きだ。アグネス・バルツァのメゾソプラノの歌唱はクリアそのもので、歌詞がはっきりと聞きとれる。

 高音はハイエンドまでエネルギーが確保されているが、中高域の突っ張りがないのでとても滑らかだ。『ヒラリー・ハーン・デビュー』(ソニーミュージック盤)で聴く、ヴァイオリン・ソロは、高域の倍音がことさら美しい。演奏の骨格、音の芯もくっきり表出される。SACDで聴くジャシンタの『枯葉』では、彼女のニュアンシーな歌声が、自然に感受できる。本機のステレオの再生音は、ピュアオーディオアンプの中堅機種と、立派に競り合えるものだ。音の美しさにかけては、AVアンプの中ではピカ一的存在である。


←本機のリモコン。上位機種でもおなじみのもの ←本機に搭載されたDSPボード。フロントエフェクトLRを含む8chシネマDSPに対応する。本機では、Hi-Fi DSPプログラムを12、CINEMA DSPプログラムを10、DSP音場処理を行わないストレートデコードプログラムを13内蔵。合計サラウンドプログラム数は35となる

SACDやDVDオーディオの再生能力もバツグン
 SACDのマルチチャンネルでは、N&Fの2枚を聴いた。神谷郁代の『ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番』第二楽章では、弦楽器の厚いユニゾンが、濃密な響きを聞かせる。十分な量感がありながら、決して曖昧ではない好ましいサウンドだ。その響きの中から、研ぎ澄まされたピアノソロが立ち上がるさまは、まことに美しく、スリリングである。音場はごく自然にリスナーを取り囲む。秋山和慶/東京交響楽団の『惑星』では、『海王星』を聴いた。ピアニシモで奏されるチェレスタはまさに天上の音楽。すっきりと延びきった超高音の透明感が素晴らしい。同じく弱音で奏されるパイプオルガンの重低音のブルブルという振動がはっきりと聞こえたのにも驚く。真の重低音が含まれたこの音は、高級セパレートアンプにとっても完全に再生するのが難しい音源だ。

本機のfレンジはSACD、DVDオーディオが扱う帯域を十分にカバーしている。
 リンのSACD『プーランク/オルガンと弦楽とティンパニーのための協奏曲』は、マルチチャンネル再生の面白さを理屈抜きで会得できる優れたディスクだ。いきなり後方からオルガンの強奏が響く冒頭から、この演奏は強いインパクトで聴く者を引っ張っていく。前方の弦楽&ティンパニーと、後方のオルガンが織りなす音の波は、リスナーのいる空間で混ざり合い、時に衝突する。DSP-AZ2は、このけれんに満ちた曲と演奏の楽しさを、余すところなく伝えてくれた。各チャンネルのクォリティが均一かつ均質に整っているからこそ味わえる楽しさだ。


S/Nに優れ映画再生の実力も高い
 DVDビデオの映画ではまず、『パニック・ルーム』を視聴した。ドルビーデジタル5.1ch音声のみだが、最新のソフトの中でも、高音質のディスクである。豪華なアパートに越した当日、3人組の強盗に襲われた母と娘の恐怖が、リアルな効果音と、厚みのある重厚な音楽で表現された。恐怖を表現するのに、歪みのないサウンドがいかに有効かということが端的にわかる。
 『グラディエーター』はDTS6.1chの音声で視聴したが、久しぶりに接したこの映画が、とても新鮮に感じられた。思えば、この日、視聴した6.1chシステムは、このディスクが発売された当時のものと比べると、大幅に進化している。

スピーカーシステムが大型化したし、アンプの6.1chへの対応もより緻密になった。この映画では、私は、静かなシーンからスペクタクルへの移行、スペクタクルなシーンから静寂なシーンへの移行が好きだ。特に、冒頭、ゲルマンとの戦闘に至るまでの音楽と効果の表現、戦いの後で、皇帝が息子に殺されるシーンなどだ。S/Nに優れたDSP-AZ2で再生したこれらのシーンは、映画表現のしなやかさと、ダイナミックな迫力で、心を虜にした。サラウンドにセンターがあることで、音場が前後に等しく拡がり、音の定位、移動感が、よりパースペクティブになった効果が、はっきりと理解出来た。


同価格帯の製品の目標となるモデル
 フロントエフェクトスピーカーを加えた8ch再生では、台詞の定位をスクリーンの手前、中、奥というように、意図的に移動させることも出来るし、剣闘士が闘うコロシアムの群衆の嬌声や怒号が、高い位置からも響くようになるなど、高さ方向の表現を加えることが出来るようになった。

この方式は、改めて脚光を浴びることになりそうだ。
 DSP-AZ2は、18万円という価格からは考えられぬクォリティを示した。この製品は、これからこの価格帯に登場する新製品の新たな目標となるに違いない。


DSP-AZ2とDSP-AX3200の違い

一部では「単なるモデルチェンジで性能はほとんど変わらない」という声もあるDSP-AZ2だが、その実力はAX3200と比べてはるかに進化している。くわしい比較は下の表をご参照いただきたいが、なんといっても圧倒的な違いは、内蔵アンプの数だろう。DSP-AZ2は8ch、DSP-AX3200は6ch。新たに追加された2chはフロントエフェクトに使う。以前からヤマハはフロントエフェクトSPの活用を提案しているが、本機では8chをフルに使ったワンランク上のサラウンドを実現できることになる。
 また、新たなサラウンドフォーマット「DTS96/24」への対応も見逃せないポイントだ。まだ対応ソフトは少ないとは言え、現段階で最高峰の高音質フォーマットを再生できる意味は大きい。
 さらに、「6-4ダウンミックス」という機能も新たに追加された。これは、6chで入力したソースのうち、センター成分とLFE成分をダウンミックスする機能。ピュアオーディオファンの中には、センタースピーカーやサブウーファーの設置をためらう方も少なくない。この機能を使えば、センターやサブウーファー無しでもSACDマルチやDVDオーディオを高音質で再現できる。
 また、上記の貝山氏の文章にもあるように、さらなる音質の向上を目指すべく、パーツや仕様の見直しが数多く行われている。
 これだけ多くの性能向上を実現したからこそ、本機はフラグシップ機と同じ「AZ」の型番を冠せられたのだ。

新旧AVアンプ比較表
項目
DSP-AZ2

DSP-AX3200
プリアウトch数(うちSWch数) 9(モノラル×2) 7(モノラル×2)
内蔵パワーアンプch数 8 6
リアセンター出力 ●(アンプ内蔵) ●(アンプ内蔵)
DTS96/24 -
AAC6.1/AAC5.1
DTS-ES ディスクリート6.1
ドルビーデジタルEX
DTS Neo:6、ドルビープロロジックII
DDマトリックス6.1、DTS-ESマトリックス6.1
シネマDSP LSI YSS-938 YSS-938
サラウンドプログラム数 35 34
バーチャルシネマDSP ●(21プログラム) ●(21プログラム)
サイレントシアター ●(31プログラム) ●(30プログラム)
6-4ダウンミックス(6chインプット) -
デジタルfs対応 96kHz(スルー、ダウンサンプリング) 96kHz(スルーのみ)
デジタル入力(光/同軸) 5*/2* 5*/2*
コンポーネント同軸/D4映像入力 2/2(HDTV対応) 2/2
コンポジットRCA・S映像入力 6/6 6/6
ビデオコンバージョン(S←→RCA) -
オンスクリーン(コンポーネント) -
定格出力 130W×6、25W×2 120W×6
外形寸法 435W×191H×453Dmm 435W×191H×468Dmm
質量 22.0kg 21.0kg
リモコン マクロ/ラーニング/プリセット マクロ/ラーニング/プリセット

DSP-AZ2 主要スペック】

●実用最大出力:180W×6(メインLR/センター/リアLR/リアセンター)、40W+40W(フロントLR)いずれも6Ω、1kHz、10% THD) 
●入力端子:2CHアナログ音声11、6CHアナログ音声1、光デジタル5、同軸デジタル2、ビデオ6、S映像6、RCA色差2、D4端子2 
●出力端子:アナログ音声REC OUT 4、光デジタル2、ビデオ2、S映像2、モニターアウト(ビデオ)1、S映像1、RCA色差1、D4端子1
●消費電力:430W 
●外形寸法:435W×191H×453Dmm 
●質量:22.0kg

■ヤマハAV ホームページ:http://www.yamaha.co.jp/audio/
■製品の詳細:http://www.yamaha.co.jp/news/2002/02091301.html
■Phile-webニュース【ヤマハ、8chアンプ搭載・DTS96/24対応のAVアンプ「DSP-AZ2」を発売】:http://www.phileweb.com/news/d-av/200209/13/5644.html


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